料理次元−キュイジーヌディメンション−   作:濡れせんべい

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先付②−白ご飯−

「おはよ〜シェフ」

 

 朝食の準備が終わる少し前に、ウィッチが食堂に現れた。

 

「ああ…朝早くから申し訳ないが、報告がある」

 

 自分は隣にいる白い服の少女の肩に手を置く。

 

「白米を炊いたら新しいのが生まれてしまった」

 

「し、白ご飯です。よろしくお願いします」

 

 

 

 ウィッチと玉子焼きに白ご飯を加え、今日の朝の食卓は4人で迎えることになった。

 

「ウィッチ、質問がある」

 

 食卓に並んだ料理を見渡して、自分は質問を投げかけた。

 

「白ご飯、味噌汁、焼き鮭、だし巻き玉子、きんぴらごぼう。これだけの料理を作ったが、キュイになったのは白ご飯だけだった。なぜだ?」

 

「それが分からないから私も困ってるのよ〜。私がいくら料理を作ってもキュイは生まれなかったんだから」

 

「…………」

 

 ウイッチの作るものは料理ではないから当たり前だ、という言葉を自分は飲み込んだ。

 

 ともかく、料理を作るとキュイが生まれる"こともある"と解釈しておけばいいだろう。

 

「もうひとつ質問がある。食材はどこから仕入れ……いや。どこから手に入れているんだ?」

 

 この家には様々な食材が用意されていた。肉や卵、野菜のような生鮮食品も含めてだ。

 

「ああ、それはユウちゃんに頼んでるの〜。今日もそろそろ来るんじゃない?」

 

「ユウちゃん?」

 

「ユウちゃんは次元を旅する郵便屋さん。人間界から食材を仕入れてキュイディメに届けてくれるの」

 

 ウィッチはユウちゃんと言う人物についてそう説明してくれる。ともかく、その内来ると言うのであれば、詳しい話は本人に聞いてみよう。

 

「まあ、それでは朝食にしよう。玉子焼き、白ご飯。味噌汁を運ぶのを手伝ってくれるか?」

 

『はいっ!』

 

 二人の声がそろった。二人は声がそろったことに驚き、お互いに顔を見合わせ、そして笑いだした。

 

 先程初めて出会ったはずだが、二人はもう仲の良い友達に見えた。

 

 玉子焼きと白ご飯は料理として相性のいい組み合わせではあるが、キュイになっても同じことが言えるのだろうか。

 

 キュイについてはまだまだ分からないことが多かった。

 

 

 

 話にあった『ユウちゃん』がこの家を訪れたのは、朝食の時間が終わって後片付けをしている最中のことだった。

 

「はじめましてシェフ。私はユウ。次元を旅する普通の郵便屋です」

 

 玄関から入ってきた小柄な少女は、自分を見つけるなり自己紹介してくる。

 

「あ、ユウちゃん! おはよ〜」

 

 ユウの姿を見て、ウィッチはこちらに駆け寄ってくる。

 

「ほら! シェフが来てくれたよ! シェフが!」

 

「……見ればわかる」

 

 ユウはそう言うとため息をついた。

 

「ほら、ユウちゃん。私に何か言うことはないの?」

 

「……別に、何も」

 

「え〜。あんな料理を人間界に送ってもシェフが食べてくれるはずがない。もし食べたとしてもキュイディメに到着する前に死ぬ。って、散々言ってくれたよね?」

 

 ウィッチは勝ち誇ったようにそう告げる。

 

「……シェフがキュイディメに来た今でも、その言葉を撤回する気はない」

 

「ひど〜い! ねえ、シェフも何か言ってやってよ!」

 

「えっ」

 

 突然話を振られて自分は返答に困る。心情としてはユウの味方をしたいが、そうすると話が更に揉めそうだった。

 

「えーと、ユウ……さん。朝ご飯がまだなら、ここで食べていかないか?」

 

「……え」

 

 自分の提案が予想外だったのだろう、ユウはしばらく考え込む素振りを見せた。

 

「迷惑でなければ、私は断る理由はありません」

 

 

 

「……ご馳走様でした」

 

 ユウは用意した食事を、一言も声を発さないまま食べ終え、最後に頭を下げた。

 

「シェフはこの世界に残るつもりですか?」

 

「……そのつもりだ」

 

 自分は少し間を置いてから、そう告げた。まだ気持ちに整理はついていないが、少なくとも今は、元の世界に帰ろうとは思っていない。

 

「私の『郵便船』ならシェフを人間界に運ぶこともできます。必要があれば、今日の朝ご飯のお礼に、無料で送迎しましょう」

 

「……ああ。ありがとう」

 

 ユウの心づかいに、自分は感謝の言葉を述べる。

 

「私は料理評論家ではありませんが、とても温かい、料理への深い愛情が感じられる朝ご飯でした。あなたなら、ダークキュイを浄化できるキュイを生み出せる……私はそう思います」

 

「ダークキュイ?」

 

 初めて聞く単語を耳にして、自分は疑問の声をあげる。するとユウの顔が一気に歪んだ。

 

「ウィッチ。もしかしてあなた、まだ説明してないの?」

 

「これからしようと思ってたの〜!」

 

 ユウと一緒になぜか2回目の朝ご飯を食べていたウィッチが、声をあげる。

 

「全く……この馬鹿は、キュイディメやキュイについては説明しましたか?」

 

「バカじゃない〜! それはちゃんと昨日説明して、今日これからダークキュイについて説明するつもりだったの〜!」

 

「はいはい。ダークキュイは一言で言うと正常に生まれなかったキュイのことです」

 

「だから私が説明するの〜!」

 

 静かな朝食の時間が、一転して騒がしくなった。

 

「え〜と……ウィッチ。説明してくれるか」

 

 とりあえず場を収めるために自分はそう提案する。

 

「うん!」

 

 ウィッチは笑顔になり、ユウの軽い舌打ちが聞こえた。

 

 

 

「人間界で料理をすると厨力がキュイディメに届き、キュイが生まれる。ここまでは昨日説明したよ〜」

 

 昨日に引き続き、ウィッチの解説が始まった。

 

「ただし料理を粗末に扱ったり廃棄したりすると、厨力は汚れてしまって、キュイが生まれなくなる。そして、その汚れた厨力からは……ダークキュイが生まれるの」

 

 先程ユウの口から聞いたダークキュイと言う単語が、今度はウィッチから発せられた。

 

「ダークキュイは汚れた厨力……負の厨力から生まれるキュイ。でも玉子焼きちゃんや白ご飯ちゃんのように会話をすることはできない、魂を持たないキュイなの」

 

「魂を持たないと言うのは……どう言うことだ?」

 

「感情を持たず、唯一キュイに攻撃するという意思だけを持っている感じ。ロボットみたいなものかな」 

 

「そんな危険な存在が……この世界にいるのか?」

 

 不安になって、自分は思わず玉子焼きと白ご飯の姿を確認した。

 

 2人は朝ご飯の後、奥の部屋で何かをして遊んでいるようだった。こちらの視線に気付くと、手を振って答えてくれる。

 

「今はまだダークキュイの数は少ない。でも、日に日にダークキュイは増えていて、逆にキュイの数は段々と減っている。このままではいずれ、キュイディメはダークキュイの世界になってしまうかもしれない」

 

「そんな……」

 

 玉子焼きや白ご飯から感じていたキュイディメへの暖かな印象は、その言葉で一気に吹き飛んだ。

 

「どうにかできないのか?」

 

 自分がそう尋ねると、ウィッチは口元を少し歪めた。

 

「人間界の人たちが、昔のように料理に敬意を持ってくれればいいんだけどね〜」

 

「あ、ああ。すまない」

 

 キュイディメの変質の原因は人間界の食文化の変質によるもの。ウィッチから説明があったとおりだ。

 

 この場で唯一人間界の住人である自分は、そう言われると平謝りするしかない。

 

「シェフは悪くないよ! むしろシェフは、そのキュイディメを救ってくれるかもしれない人なんだから!」

 

 ウィッチが慌てて首を振る。

 

「救う……」

 

「そう。負の厨力から生まれるダークキュイは、それ以上に強い愛のこもった正の厨力から生まれるキュイの力で、浄化することができるの」

 

「……あの玉子焼きや白ご飯にそんな力があるのか?」

 

 そう尋ねると、ウィッチは深く頷いた。

 

「どのキュイにもその力はあるの。ただ、遠い人間界から届いた厨力で生まれたキュイよりも、シェフがキュイディメで直接生み出したキュイの方が、間違いなく強い力を持っている」 

 

「……そうなのか」

 

 自分はもう一度玉子焼きと白ご飯に目を向ける。すると二人はまたこちらの視線に気付き、先程と同じく手を振ってきた。

 

 浄化とは具体的に何をするのか分からないが、あの二人にそんな力があるようには思えない。

 

「ウィッチ。ともかくシェフには一度、キュイディメの現在の姿を見てもらった方がいい」

 

 黙って話を聞いていたユウが、口を開いた。

 

「うん。シェフ、今日はこれからエウロパ大陸に行きましょう」

 

 続けてウィッチがそう提案する。

 

「エウロパ?」

 

「キュイディメは人間界から流れた厨力で生まれた世界。だから人間界と似た形をしているの。エウロパは、人間界の西欧諸国から流れてきた厨力が主に集まる場所」

 

「つまり……西洋料理のキュイが住んでいる地区。ってことでいいのか?」

 

 自分がそう尋ねるとウィッチは深く頷いた。

 

「そのと~り。この次元ハウスから一番近い大陸だから、召喚陣を使えばすぐに行けるよ。玉子焼き〜、白ご飯〜、出かけるよ〜」

 

『は〜い』

 

 2人は元気よく返事をすると、こちらに駆け寄ってきた。

 

「それでは、私はおいとまします。シェフ、改めてご馳走様でした」

 

 ユウは最後に改めて頭を下げると、立ち上がった。

 

「ユウちゃんも一緒に行かない?」

 

「私はただの郵便屋。キュイディメに深く関わるつもりはない。何度も言っているでしょう」

 

 ウィッチの提案を、ユウはあっさりと断った。そしてそのまま、家の外に出ていく。

 

「相変わらず冷たい〜。まあ、それじゃシェフさん、行こう〜」

 

 ウィッチはそう言うと、自分の左手をつかんで引っ張った。

 

「行きましょう〜」

 

 玉子焼きもそれを真似して、自分の右手をつかみ引っ張ってくる。

 

「え、えっと……行きましょう?」

 

 最後に白ご飯が、少し考え込んだ後に、シャツの裾の部分を少しつまんで、引っ張る仕草をした。

 

「あ、ああ。分かった」

 

 3人に促され、ともかく自分はエウロパ大陸と呼ばれた場所に向かうことになった。

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