いつだってそうだよね。ちれい殿にきてわたしをどこかに連れて行くのも、正ぎかんから、騒ぎを大きくしてめんどうなことにするのも、そしてじぶんの心に嘘をついてまでわたしにかかわろうとするのも、いつも星熊だった。
それが星熊という鬼のせいかくってことはわかってるけど、それでもわたしは分からないの。かのじょの心がわからない。もちろん、傷だらけでボロボロなわたしの第三の目でも、彼女の心はよめるよ。でも、わからない。わたしをおそれ、嫌悪し、生けにえのひつじになったときですら、拒絶感という膜がこころにかぶっていたかのじょが、なんで“しんぱい”という感情をわたしにむけてくるのか、分からなかったの。
「なあ、古明地。おまえ、変だよ」
ちれい殿からでて、ふよふよと心当たりのないばしょへとてをひっぱって、連れて行かれているときに、星熊がふとそう言ったの。
「どうしたんだよ。おかしいぞ、おまえ」
「わたしはいつだっておかしいじゃん」
「そうだけどな」
じょうだんだったんだけど、星熊はあっさりそうみとめたんだ。
「そうだけど、いつも敬語をつかってただろ。それに、星熊だなんて呼んでなかったじゃねえか。やっぱり、酔ってんのか?」
“酔っていてくれ”
かのじょはそうねがってたんだ。でも、ざんねん。
「よってないよ。シラフってやつだね。これがわたしの素だよ」
「素って、おまえ。変わりすぎだろ」
なぜか星熊はいやそうな顔をしたんだ。つらそうなっていったほうがいいかも。おかしいよね。あれほどわたしのことを嫌っていたのに、なんでいざかわったらそんなはんのうをするんだろう。
「それに、お前のサードアイ、なんか変じゃないか」
「へん?」
「そうだ。血の気が引いているし、目ん玉だって真っ赤に腫れ上がってるじゃないか。いったい何があったんだよ」
「なにがって」
そんなの、決まってるよね。
「わたしが食べちゃったみたいなんだ」
「食べた? それは何かの暗喩か?」
「ちがうよ。ふつうに、くちのなかに入れてかんだってことだよ。でも、ざんねんながら死ねなかったみたいだけどね」
「どういうことだよ。マムシにでもかまれたのか?」
「まむし?」
いきなりへびのはなしをするなんてへんだよね。わたしよりへん!
そしたらね、「いや、マムシにかまれたら毒をすうだろ」てはなをならしてきたの。ごうまんだよね。しねばいいのに。
「私は大丈夫だけどな、人間とかだとかまれた箇所を切断したりするらしいぞ。たいへんだな」
「なんで?」
「そりゃ、死ぬよりかはましだからだろ」
びっくりだよね。死んだほうがましにきまってるのに。
「常識的に考えろよ。腕一本なくなるのと死ぬのだったら腕の方がましだろ? ほら、まえ八雲紫もいってたんだけどよ」
「だれそれ」
「十ひく一は九。一を切って九が助かるのは合理的よ、って言ってたんだよ。つまりはそういうことだろ」
「わたしもごうりてきだったよ。それに、まむしにはかまれてない」
ほら、とわたしのサードアイを近づけると、星熊はくちをおさえはじめたの。やっぱり、星熊もこの目を食べたくなったのかな。てのすきまからはよだれがあふれていて、うえっ、てえづいていた。なみだ目でね。らしくもなく、からだをちぢこめている。
「なんだよそれ、気持ち悪りぃ」
「わたしが気持ち悪いのはいつもでしょ?」
「そうじゃねえ、そのサードアイだよ!」
“なんでそんなに傷ついてるんだよ”
星熊のこころはね、めまぐるしくぐるぐるしてたんだ。おどろきと、きょうふと、こんらんと、嫌悪感でいっぱいいっぱいになってた。
「遠目で見ただけならまだしも、近くで見ると大分エグいぞ、それ」
「えー。鬼って、いつももっとえぐいじゃん。ほかの妖怪を食べたり」
「それよりも酷い」
あの星熊がまさかここまできょうふを顔に出すなんてね。びっくりだよ。わたしのそばにいるとき、いつも内心でおそれていたくせに、まったくかおにださなかったのにね。どうしてだろう。
「やっぱり、変だ。古明地。おまえどこか悪いのか? 知り合いに治療が上手い奴がいるから、もしそうなら紹介するぞ」
「えー、なんでさ」
「なんでって」
「星熊は、わたしなんて死ねばいいって思ってるんでしょ? なのに、どうしてそんなことをするの?」
「そんなこと」
思ったことなんてない。そう口にしようとして、すぐに星熊はおしだまったんだ。そりゃそうだよね。鬼は嘘を吐かないんだから。そんなこと、言えないもんね。
「まあいいでしょ、わたしのことは。どうせきらわれてることにかわりはないんだし」
「……よくない」
「それより、いまどこにむかっているの?」
「よくないって言っただろ。私にとって、お前は!」
「うるさいなあ」
どこからか声が聞こえて、そのせいで星熊はおしだまった。いったいだれだろうってきょろきょろしてもね、どこにもすがたがなかったんだ。そして、こころもよめなかったの。だから、また八雲紫かなって、うざいなって思ったんだけど、違ったんだ。
それは、わたしのこえだったの。
「わたしなんて、もう死んじゃったほうがいいんでしょ? みんなそうおもってるじゃん。なのに、わたしをちりょうなんてしちゃったら、星熊もきらわれちゃうかもよ。ああ、それはないか。星熊はみんなにしたわれてるもんね。わたしとちがって」
「落ち着けよ、古明地」
「わたしはいつだってれいせいだよ。れいせいすぎて、からだが凍っちゃうくらいね。ちのいけじごくにおとされてもだいじょうぶなくらい! どうせしぬならまっとうに! かきごおりだって食べられやしないんだもん。もう羊にすらなれなかったんだけどね、わたしは。なら、あとはなにになれるかな。ねえ、星熊。わたしに何になってほしい? やっぱり、じわじわとなぶりごろしがいいのかな?」
「いい加減にしてくれよ!」
いきなり星熊はそうさけんだんだ。こわいよね。いい加減ってなんのはなしだろうね。おふろかな?
「それにね、わたしと仲良くしてもいみないよ。地上にはあがれないのさ。わたしにはそんなけんげんはないの。だから、ちじょうにいきたくてわたしとお話ししても、ぜんぶみずのあわになっちゃうんだよ。あんなにくろうしたのに。ざんねんだったね。どうじょうするよ」
「違う」
「ちがう? おー。おにじゃなくなった。せかいがかわるんだね。おめでとう」
「違うんだよ。違う。私はな、私は!」
おもいっきり星熊がさけんだせいで、ずばーってしょうげきが走った。わたしのひんじゃくな体じゃたえられなくて、ごろごろってじめんをころがちゃったの。いたかったなー。ボールの気持ちが分かったよ。これからはぼーるをもっとやさしくあつかおう。ま、それでもわたしのほうがぼーるよりひどいめにあうんだけどね。わたしはしっているんだ。
「いいか、古明地。私はな。確かにお前のことが嫌いだ。嫌悪しているし、癪だが恐怖感も抱いている。確かに死ねばいいと思ったことも、一度や二度じゃない。打算的な考えがあったのも事実だ。だがな! だが!」
星熊は、鬼らしくまっすぐな言葉をなげつけてくる。きっと、鬼がつくるおにぎりは、ぼうみたいにまっすぐなんだね。
「だが、それだけじゃなかったんだよ。私はお前が嫌いだ。大嫌いだ。けどな、けど! 尊敬もしてるし、好んでもいるんだよ。おまえ、心が読めるんだろ? なら分かるんじゃないのかよ。私はな、お前に少し憧れていたんだ。そうじゃなきゃ、地霊殿の主なんて任せてねえよ。仮にも私たちのトップなんだぞ。そう認めてるって事なんだぞ。こんな糞みたいな地底に閉じ込められても、陰湿で嫌みなことしか言わないおまえだけどな、どこか楽しそうなお前に、私は憧れていたんだ。たとえ陰険で薄気味悪くて気持ち悪い奴でもな、関わってもいいかなってそう思うほどには見上げてたんだよ。分かるだろ。なあ。分かってくれよ!」
星熊はおこっていた。 だれに? じぶんに。そのせいで、かのじょがしゃべるたびにしょうげきはでちていがゆさぶられる。そんなことにも、かのじょはきづいていなかったの。ばかだよね。おろかだよね。しねばいいのに。
「古明地。さっき、おまえ、何になってほしいか、って私に訊いたよな」
「そうだっけ」
なんで覚えてないんだよ、と泣き笑いのようなかおになった星熊は、やさしくわたしのあたまをなでてきた。うざったいよね。さわらないでほしいよ。
「私はな、元のお前に戻って欲しいよ。あの、私の大嫌いな古明地に、戻って欲しいんだ。今のお前は見てられないんだよ。もし戻ってきたら、私の嫌悪感を思い切り拳でぶつけてやるから、頼むよ」
「それって」
わたしは、星熊のむねにとびこんで、わらった。
「それって、死ねってこと?」
「え?」
「そうだよね。ちていはわたしにしんでほしいんだもんね。星熊になぐられたら、こっぱみじんになっちゃうもんね」
「違うって」
「でも、別にいいんだよ。らくにしねるのなら、なぐってよ。ほんのうだよほんのう!」
「止めてくれ、もういいだろ」
やわらかくて、あたたかい彼女の体がわたしをつつみこむ。わたしがこんなに近くにいるのに、星熊はいやがるそぶりをみせなかった。ちがうか。かくしていたのか。
なにをいまさら。どういうわけか、こんなことばがうかんだの。うすらさむいにもほどがある。星熊のきもちなんて、わかっていたよ。だってこころがよめるんだから。でもね。
そんなことをいっても、けんおかんのほうがつよいんだもんね。
「ねえ、星熊」
わたしがよびかけても、かのじょはへんじをしなかった。ひどいよね。むしだなんて、むしがよすぎるよね
「しっているかわかんないんだけど、いちどこわれたものはもとにはもどらないんだよ。もどらなかったんだ。かなしいよね。わらえるよね。しにたくなるよね」
星熊の、わたしにまわすてのちからがつよくなる。あれだね。このままくびをへしおってくれればいいのにね。
「星熊がうそをつくなんてめずらしいよ。わたしをそんけいしていた? そんなわけないじゃん。じぶんのこころにうそついちゃだめだよ。だったら、なんで八雲紫にわたしがかったとき、がっかりしてたのさ。どうしてキスメがけがしたとき、わたしがはんにんだって、あんなでたらめなうそをうけいれたのかな。なぜぺっとにきらわれたときも、たすけてくれなかったの。ねえ、おしえてよ。あれ? 鬼ってなかまをたいせつにするんじゃなかったっけ? りふじんなことは許せないんじゃなかったっけ? ああ、そうだよね。なかまじゃないもんね」
「心を読めば分かるだろ」
「そういえば、おにってまめがきらいなんだっけ。じゃあわたしはまめだね。たべてもおいしくないけど。しってる? さとりようかいはたべてもおいしくないんだよ?」
「お、おい」
「あーあー。でも、おにをたおすのにたくさんまめがいるのか。もったいないね。たべたほうがぜったいいいよ。そうしないと、しょくりょうぶそくになっちゃうよ。そしたらきらわれるんだ。だれが? わたしが! ふしぎだね。おもしろいね。わらえるね」
「本当に。本当にどうしたんだよ古明地」
「星熊もそうおもうでしょ? こんなことになったのはだれのせい? わたしのせい? そうだよね。そうなのか。しらなかった、はつみみだ! はつみみってへんだよね。しんぞうかみみかどっちかわからないよう」
さいあくなかんじだったよ。なにが? わかんないけど、たぶんぜんぶかな。
「むいしきだよむいしき。星熊はむいしきからわたしを、いや、星熊っていうのはかわいそうだね。ちていは、むいしきでわたしをきらっているの。それはもうしょうがないことなの。だから、わたしは。わたしはね。わたしなんだよ」
「意味が分からないって」
「きぐうだね。わたしも」
わたしがそういうとね、かのじょはわたしをだいたまま、いきおいよくとんだんだ。びゅーーって。すごかったよ。こんなはやくとべるんだったら、いろんなことができるんだろうな。なのに、なんでやらないんだろう。こんなつよいなら、わたしをたすけることもできたのに。いや、むりか。だってわたしはわたしだから。ちれいでんの主だから。
そうしているとね。上からみずがたれてきたの。ふしぎだよね。こんなにはやくとんでるのに。しかも、ちていなのに。あめがふらないちていなのに。どうしてだろう。
「なあ、古明地。色々いいたいことがあるが」
「あるが?」
「もう、そんなことは言わないでくれ」
そんなことってどんなことだろう。わからなかったけど、とりあえずうなづいた。
「わかったよ」
「そうか」
「そのかわり、ころしてほしいな」
「だから、そういうことを言うなって言ってるんだ」
ことばはつよかったけどね、星熊らしくもなく、なんかよわよわしい声だったの。なんでだろ。ふしぎだね。おどろくほどにきょうみもないけど。
「いいか、古明地。いくら鬼だってな、意味も無く殺したりしないんだよ。ちゃんといつも理由がある」
「またりゆう?」
「そう。理由だ」星熊はおおきくくびをたてにぶんってふった。
「お前だって知ってるだろ。わたしたち鬼は二対一で相手をいたぶったりとか、そういうことはまずしないんだ」
「そんなことなかったじゃん」
「普通はやらないんだよ。いくら鬼だからと言って、意味なく相手を殺したりしない。例えば、そいつが仲間を裏切っただとか、嘘を吐いたとか、そういうことをしないと殺さないよ。意味のある殺ししかしない」
「わたし、星熊がすきなんだ」
そううそをいったのに、星熊はころしてくれなかった。星熊もうそつきだね。
「だから、わたしは古明地を殺すことはできねえんだよ」
「やっぱりしぬときはできしがいいのかな」
「それに、言うだろ? 本当に嫌いな奴は殺しちゃいけないって」
「もえるのはつらいからいやだな。あのにんげんはどうやってしんだのかな」
きけよって星熊はふるえるこえでいってきたの。きいてたのに。きいてないと、こうしてにっきにかけないもんね。ま、ほんとうにいってたかはおぼえてないんだけど。だいたいでいいよねだいたいで。どうせしぬし。
「だから、私はお前を殺さねえよ。殺すとしたら、敵になったときだけだ」
「わたしは星熊のてきだよ」
「敵だって言ったからといって敵になるわけじゃねえよ」
「じゃあどうしたらてきになるの?」
そこで星熊はなぜかふんってはなをならしたんだ。
「そうだな。まあ殺意をむけてきたら敵だとみなすな」
「さつい?」
「殺してやるって気持ちだよ。『鬼め! その首をとってやるからな』ってやつだ」
「『まむしにかまれろこのゴミが』ってやつだね」
「なんでそれが殺意になるんだよ」
星熊はわらおうとしたおかくちをおおきくひらいたんだ。だけど、うまくいかなかったみたいですぐとじちゃったの。ばかみたいだね。
「なあ、古明地。お前がこんな風になっちゃったのって。あれが原因なのか?」
「こわれたのはもともとだよ。おいしいごはんはこわれやすいの」
「意味分かんねえよ」
ほんとうにね。
「この前の、八雲紫との決闘が原因なのか?」
八雲紫とのけっとう。おもいだそうとすると、むねがいたくなる。おもいださないといけないことを、おもいだしちゃいそうになる。いやだな。いやだ、おもいだしたくない。もういやなんだ。わたしはだめなんだ。もうおわったんだ。おわりたい。せかいはまわらない。もうおわりなんだよ。ほら。みて。にっきもわたしをきらっているんだ。なにもかもがわたしをきらっているんだ。わらいごえがきこえるの。だれの? わたしの。おもしろいね。
ああ。星熊のはなしをかかなきゃ。
えっと。「お前はなんでまだ死なないんだ?」っていったんだっけ。ちがう? ちがうな。これはもうちょっとあとだっけ。そもそもいわれてなかったっけ。あれ? わかんないや。
おかしいな。きょうあったことなのにかけないや。なんでだろう。おもいだせない。もういいか。でも、にっきはかかなきゃだめだっていわれたもんね。
どうしよう。あ、そうそう。おくうのはなしをしたんだった。えっと。そうそう。
「お前のペットの話なんだけど」って言ってきたんだ。そうだったそうだった。なぜか星熊はないてたけど、そのりゆうはおぼえてないや。
「なんか、最近ようすが変だったってことを言おうとしたんだけど」
「だけど?」
「お前の方が変だったよ」
ひどくない? しつれいしちゃうよね。でも、なんでなみだながらにそれをいってくるのかはわからなかった。びっくりだよね。
「霊烏路空。灼熱地獄で働いているのはいいんだけどよ、物騒なこと言ってたんだ」
「ぶっそう? おにがそれをいうの?」
「なんか、力が溢れる! 地上も灼熱地獄にしてやるって」
そう! ちじょうだよちじょう。あのお空がちじょうをもやそうとしてるんだって。びっくりだよね。どうせならわたしをもやしてくれればいいのに。
「本気かどうかは分からないけどさ、一応伝えといた方がいいかと思って」
「なんで? いっしょにもやしてくれるかもしれないから?」
「地底と地上の争いは避けたいって言ってたじゃねえか」
「しらないよ」
ちていとちじょうがけんかしたらどうなるかな。たぶんみんなしんじゃうね。でも、それでもいいのかな。わたしがしねるのなら、それで。
せっかくだし霊烏路空にあいに行こうかな。とくにいみはないけど。そうおもったんだけどね、すぐにそれがむりってことがわかったんだ。すごいいきおいでとんでいた星熊がきゅうにとまったの。
どうしたのかなっておもってみあげたんだけど、すぐわかったよ。もくてきちについたんだね。さいあくだよ。なんでこんなとこに。
「ついたぞ。旧都だ」
ついたぞっていわれてもこまるよね。きたくないばしょにごういんにつれてこられるだなんて。あ。でもそうか。そもそも、ここにいる奴らはちていにきたくないのに、むりやりつれてこられたやつらばっかだもんね。はきだめだよ。はきだめ。きたない。
「なんでこんなとこに? こんなくだらない場所に? こんな。どうして連れてきたの?」
「待ち合わせだよ」
「まちあわせ」
まちあわせ。わたしをまってくれるようなやつなんているわけないのに。あ、そうか。星熊をまっているのか。だとしたらさいあくだね。わたしなんかつれてきちゃったら、ぜったいいやがられるよ。わたしもいやだもん。さとりようかいなんてきもちわるいやつがきたら。
そうかんがえてたらね、奥からひとりの妖怪がでてきたんだ。ああっていっちゃたよ。おもわずね。
「橋姫じゃん! あいたくなかったよ」
「ええ、わたしもよ。というか、橋姫ってなに」
「さあ」
しったこっちゃないよね。このときのわたしはびっくりしてたんだ。なんで? なんでだっけ。覚えてないや。
「ねえ、星熊。はなしが違うじゃん?」
「はなし?」
私がそう言うとね、星熊はほんとうにわからないってかんじでくびをひねったの。まあ、ほんとうにわかってないことくらいわたしにもわかったんだけどね。
「ほら。さっきいってたじゃん」
「いってたって、なんて」
「にたいいちてあいてをいたぶったりしないって、いってたじゃん」
別にいたぶらねえよって、わらった星熊は、ほんとうにかなしいかおをしたんだ。
なんでだろうね。
勇儀も紫もパルスィも、底抜けに優しいんですよ。だからこそ、あなたはこんなことをしたのですね。