Komeiji's Diary《完結》   作:ptagoon

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─あなたは、一体どうしてこんなことまで─

 やっぱり、しっかりしてるほうの古明地とよばれているだけはあるね。霊烏路空のたすけをきいて、地霊殿からとびだしてきたのかな。よくもまあそんなとおくのこころのこえがきこえるね。

 

 そんなかのじょは、すぐにどっかにいっちゃったんだ。ま、どこにいったのかは、こころをよめなくてもわかったんだけどね。霊烏路空をいりょうしつにはこんでいったんだよ。

 

 すごいはやさだった。きっと、いむしつにいるぺっとたちはびっくりするだろうね。だけど、しょうがないかな。

 

 血の池地獄にひとりのこされたわたしはね、どうしようかなってかんがえてたんだ。でもね、かんがえているうちに、じかんがたってたみたいで、ねちゃったんだよ。それで、めがさめたら、いつのまにか、あの子がかえってきてたの。

 

「ねえ、どうして」

 

 なんでかな。あの子はないてたんだ。じめんによこたわるわたしをみて、なぜかないてたの。みっつのめからなみだがぼろぼろこぼれてたね。血の池地獄の血なんかより、わたしにはそっちの涙のほうがよっぽどきつかったよ。

 

「どうしてお空にあんなことをしてたの? ねえ、どうして」

「どうしてっていわれてもなー」

 

 わたしはね、ひょいってたちあがったんだ。げんきにね。ぜんぜんげんきじゃなかったけど、げんきにたちあがったの。てんしんらんまんに。まるでわたしがたのしんでいるかのように。

 

「霊烏路空をころすためにきまってるじゃん」

「だから、どうして」

「だって、ちじょうをせめるっていってたんだよ! せっとくもむりだったの。だったら、ころすしかないよね」

「なんで」

 

 かのじょはとてもかなしんでたの。なんでここまでかなしんでるだろうね。

 

「ねえ、10-1ってなんだとおもう?」

 

 わたしのこえは、なんでかしらないけど、すごいたのしそうだった。

 

「こたえてよ」

「え?」

「はやく」

 

 こんなかんたんなもんだいなのにね、こたえてくれなかったんだ。ただ、うつむいくだけで。ぜんぜんしっかりしてないじゃん。そんなんじゃ、しんぱいだよ。

 

「こたえは9! かんたんでしょ」

「ねえ、どうして」

「ああそうそう。にんげんって、マムシに噛まれたら死んじゃうんだって。だから、うでをかまれたらそれをきっちゃうんだよ。しぬよりましだからって」

「なんでこんなことを」

「霊烏路空がうでだったからだよ!」

 

 わたしはおおごえをだしたの。そんなつもりはなかったんだけどね。なぜかおおごえだったんだ。どうしてかな。ごまかしたかったのかな。なにを?

 

 さあ。なんだろうね。

 

「だって、霊烏路空はちじょうをせめるきだったんだよ。こわいね。おそろしいね。そんなことをしたら、せんそうになっちゃうかもしれないじゃん。あのおにたちが、だまってるはずないじゃん。八雲紫が、なにもしないわけないじゃん」

「ねえ、答えてよ」

「せんそうになったら、たくさんしんじゃうかもね。しなないかもしれないけど、それでもちていはたいへんだよ。ちじょうもね。だったら、しょうがないじゃん」

 

 そう。しょうがない。

 

「しぬよりはうでがなくなるほうがましなんだよ。ならさ、ちていがなくなるよりは、霊烏路空がいなくなったほうがいいでしょ?」

「そんな子じゃなかったじゃん。あなたは、もっと」

「10-1は9なんだよ! 1をきって9がたすかるのはごうりてきなんだって! ほら、これでいいじゃん。霊烏路空をころせば、みんなたすかるんだよ! だったらころすしかないんだよ」

 

 そもそも、ころさなくてもだれもしなないかもしれないでしょ。そういいたいのがね、わかったんだ。そんなの、わたしだってわかってるよ。けど。

 

「これはね、意味のある殺しなんだよ。なかまをうらぎったりきずつけたりするやつはころしてもいいんだって。だから、しょうがないんだよ」

「お空は、べつに裏切ってないじゃん。傷つけてないよ」

 

 なきながら、そううったえてきたの。みじかいかみを、ばさってゆらしながらね。血の池地獄にいるからか、そのかみの色がいつもより濃くなっているようなきがしたの。おこってるからかもしれないけどね。

 

「たしかにお空のようすは変だったよ。凄い力を持っているのもそうだった。だけど、何も殺そうとしなくても。まだ地上には指一本触れてないじゃん。強い力を、不穏な力を持っているだけで、あんな目に。あんな酷いことをするなんて」

「馬鹿だなあ」

「え?」

 

 かのじょはきょとんとしてたんだ。はじめてみたよ、そんなかお。どんなかお? ぜつぼうのかおさ!

 

「そんなんだからだめなんだよ。待ってばっかでじぶんはなにもしないから手遅れになるんだ」

「なにをいって」

「だからね。迷ったらやった方がいいよ。よくいうでしょ。迷ったらやれって」

 

 そうだよね。まよったらやらなきゃいけないの。

 

「それにね、ふくざつなのはだめなんだよ。てのこんだようかんはからくなっちゃうの。だからこうしたんだ」

「どういうこと?」

「え? だって、霊烏路空がちじょうをせめるかもしれないんだよ。ちていとちじょうのあらそいになるかもしれないんだよ? だったら、そのげんいんをころせばいいだけじゃん。かんたんでしょ? しんぷるでしょ? ただころすだけだもん」

 

 あの子は、しばらく、そのばにたって、ないてたんだけどね、いきなりかおをあげてこっちをみてきたんだ。すごいかおだったね。だけど、それでも、ゆっくりちかづいてきたんだ。そして、むかしみたいに、ぎゅってだきしめてきたの。ぼうしのうえからあたまをなでてくる。いみがわからなかった。どうしてそんなことをしてくるんだろう。なんでこのごにおよんで。よそうがいだ。

 

「ねえ、覚えている?」

 

 ぬけだそうともがくけどね、なぜかうまくいかなかったんだ。

 

「いつも、あなたはしっかりしてなくてさ。無茶苦茶で馬鹿でどんくさくて、放っておけないような子だったけど、それでもさ。優しい子だったじゃん。覚り妖怪とは思えないほどに」

「やさしいさとりようかいなんているわけないじゃん」

「だから、珍しかったんだよ」

 

 かのじょのなみだが、わたしのふくまでぬらしてきたんだ。つめたかったね。これいじょうなくつめたかった。いままででいちばん。なんでだろうね。

 

「あなたは優しすぎたの。だから、壊れてしまったのかもね」

「わたしがやさしい? じょうだんでしょ」

 

 じょうだんにしてもわらえないかな。

 

「やさしくなんかないよ。だって、やさしいひとは、みんなに好かれるでしょ? わたしはすかれないもん。きらわれるのさ。だから、わたしはやさしくないよ」

「大丈夫。きっと大丈夫。あなたは優しいよ」

 

 なにがだいじょうぶなんだろうね。きっと、なにもかもがておくれで、もうまにあわないんだ。なのに、だいじょうぶなわけがないのに。

 

「謝ろう」

 

 かのじょはそうやさしくいってきたの。ほんと、おかしくなっちゃいそうだった。ほんとうに。ほんとうになりそうだった。

 

「お空に謝ろう。私も一緒に謝るから、ね」

 

 ああ。なんてやさしいんだ! わたしなんかより、よっぽどやさしいよね。さすが、しっかりしてるだけある。

 

 きっとかのじょは、ほんとうにやさしいんだ。さとりようかいなのに、さとりようかいだからこそ、やさしいんだ。だから、わたしよりはきらわれてないんだね。

 

 ひとのこころを、ようかいのこころをよめる。なのに、ここまでじゅんすいで、ここまでしんせつで、きっとだれよりもやさしい。

 

 だからこそ、食糧不足のときに、わたしをたすけてくれたんだね。そして、それでわたしがきらわれちゃったことを、きにしてたんだね。そのあとのちゃばんもしっぱいしちゃったからかな。

 

 かぞく。これいじょうないほど、さいこうのかぞく。

 

 だからこそ、わたしは。

 

「あやまらないよ」

 

 はっきりそういったんだ。あたりまえだよね。

 

「なんであやまらなきゃいけないのさ」

「大丈夫。たぶん許してもらえないけど、それでも」

「ゆるしてもらえない?」

 

 そんなことはわかってたよ。こんなことしてゆるしてくれるやつなんているわけないよね。それに、わたしはしっているんだ。誰かがあくいをもって、それでなかまを不意打ちしたやつが、この地底でどんなめにあうか。みをもって、しっていたの。

 

「いったいだれがゆるすの? 霊烏路空? かのじょがゆるしても、もうおそいよ。ちていがゆるさないんだ」

「それでも、謝ろう」

「いやだよ」

「どうして?」

 

 どうしてって、そんなのきまってるよね。

 

「だって、べつにゆるしてもらわなくていいじゃん」

「え?」

「わたしはべつにわるいことなんてしてないんだよ。そうなんだ。そうなんだよね。わたしはわたしがしたいことをしただけなの。だからあやまらなくてもいいんだよ」

「何を言って」

「だって、かんがえてもみなよ。わたしはちていがきらいなんだよ。なのに、わざわざこうやってたすけてあげたのさ! かんしゃしてもらってもいいけど、あやまるひつようなんてないね。それに、おもしろかったし」

「おもしろ、かった」

 

 めがねがないからかな、ぜんぜんこころがよめなかったんだ。でも、ふしぎなことにね、なんでか、むこうもこころをよめていないみたいだったんだ。もしよめてたなら、きっと、いますぐにでもとめてくるもんね。でも、なんでこころがよめないんだろ。ふしぎだよね。なきすぎちゃったのかな。

 

「そう。おもしろかったの。霊烏路空。すごかったよ! たすけて、たすけてってずっといってた」

「やめて」

「およげないのにね、せいいっぱいてをのばして、もがいてたんだ。つらそうだったよ。みじめだったね。めをみひらいてさ」

「やめてって」

「つばさなんてもう、とけてたんだ。すごいいたみだったみたいだよ。いたすぎて、すぐに失神してたんだけどね、ほら。いしきをうしなっちゃったら、しずんじゃうじゃん。そしたら、血がかおにかかって、それがまたいたくて、いしきをとりもどしてたんだ。そのくりかえしだったよ。なるほど。じごくだね」

「やめてって言ってるじゃん!」

「あーあ。こころをおたがいよめていたら、あの時の霊烏路空の顔を見せてあげられたのになー。ざんねんだよ。しんそこざんねんだよ。がっかりだ。霊烏路空は、ずっとね、よんでたんだよ。さとりさま、さとりさまって」

 

 かのじょはわたしをだきしめていた手を離したの。ばってね。そして、すごい勢いでわたしからはなれていった。

 

 そのかおは、すごくあおざめていたんだ。まゆがハのじにさがって、くちをわなわなさせてたの。すごいみおぼえがあるかおだったね。

 

 そう! こころをよめなくてもわかるほどに! 

 

「ねえ。あなたはお空をあんなめにあわせて、なにもかんじないの」

 

 たぶん、かんじないはずはないって、そういいたいんだろうね。そりゃあそうだよ。かんじるにきまってるじゃん。

 

「かんじないよ」

「え?」

「そりゃそうでしょ。霊烏路空はわたしのことがきらいなんだよ。どうして、そんなやつのことを。むしろせいせいしたね。かってにわたしのいえにすみついた、ちれいでんにすみついたぺっとにふさわしいさいごだとおもったのにな。おしかったよ。よけいなことしちゃってさ」

「それ、ほんき?」

「こころをよめばいいじゃん! あ、よめないのか。わたしはほんきだよ。いつだってほんき。ぎゃくに、ほんきじゃなかったら、わざわざ霊烏路空をこんなところによびだしたりするわけないじゃん。ほんとうはわかってるんじゃないの? わたしがほんきだってことを。あきらめなよ」

 

 そう。あきらめなきゃだめだよ。なにを? わたしのいのちを。

 

「わたしはやさしくないよ。なにをいまさら。なんねんいっしょにいるとおもってるの。むりに、こんなわたしにやさしくしなくてもいいんだよ」

「無理なんかじゃない」

「どうせざいあくかんでしょ」

 

 わたしはおもってもいなことをくちにしたんだ。うそだね。でも、かのじょはそれにきづいてないみたいだった。

 

「かぞくだから。わたしのせいだから。そんなふうにおもってるんでしょ? それでやさしくしてるんでしょ。いいめいわくなんだよ。どうじょう? なんておぞましい! そんな下劣なかんじょうをわたしにむけているなんて! とても姉妹とはおもえないよ。だからわたしは」

 

 まえ、八雲紫にきかれた質問をおもいだしたんだ。あなたたちはなかがいいのかしら、という質問。あの子はもちろん、なかがいいと答えたんだ。だけど、わたしはそれをきょぜつする。ほんしんからね。

 

「わたしは、おまえのことがきらいなんだよ」

 

 おとがきえたんだ。こころがこわれるおとが。わたしたちはなにもいわずに、ただたっていたの。あの子のかおはまっさおになってたね。

 

 そのまっさおなかおのまま、くるってうしろを向いちゃったの。かおをみれなくなっちゃった。

 

「もう、むりかもね」

 

 そのまま、そう言ってきたんだ。なにがむりなんだろうね。そして、そのまま、わたしにせをむけてあるきはじめたんだ。

 

「ねえ。私はあなたと一緒で楽しかったよ。確かに、他のみんなに嫌われてたし、辛かったときもあったけどさ、それでも楽しかったんだ」

 

 わたしはなにもいわなかったの。いえなかったっていったほうがいいかな。

 

「だから、今でも後悔はないし、恨んでもいないよ。本当に、姉妹でいられてよかった。最高の家族だったよ」

 

 だった。かこけい。そういうこと。わかってたのにね。ああ、かなしくなんてないさ。

 

「だから、最後はね、お礼でお別れ。今まで」

 

 彼女はそこでなみだをぬぐったんだ。なんのなみだだろうね。

 

「今までありがとう。そして、さようなら。こいし」

 

 そういって、一目散にさっていったんだ。わたしをおいてね。

 

 さようなら。そう。さようなら。これでいいんだ。こうかいなんてしていない。していないよ。していないんだ。

 

 なんでだろうね。むしょうにわらえてきちゃって。おおごえでわらったんだ。あははってね。おもしろいね。ふしぎだね。

 

 めがねをしてなかったのにね、さいごのさいご。さよなら、って言われるしゅんかんだけ、かのじょのこころがみえたんだ。よめたんだよ。よめてしまった。

 

 なんだとおもう? かのじょのこころには、なにがうかんでたとおもう? しょっく? いかり? しつぼう? かなしみ? そんなんじゃないよ。そんなあまくないよ。けんかじゃないんだから。

 

 かのじょのこころにうかんでいたかんじょうはただひとつ! もっともわかりやすくて、もっともみおぼえのあるかんじょうだったんだ。

 

 そう。嫌悪だよ。

 

 やったね。うれしいね。わらえるね。わたしはかのじょのうじむしになれたんだ。なってしまったんだ。きらわれたんだ。これいじょうなく!

 

 血の池地獄にわたしのこえがひびいてたんだ。わらいごえが。さいこうだね! もういいんだ。おもいきり、あたまをたたいて。

 

 そして、わたしはさーどあいをなぐる。なにもかんじない。

 

 そうだよ! なにをいまさら! きらわれることなんて、いつものことじゃないか。わかってたよ。わかっていたんだよ。だから、どうして。どうしてこんなに悲しいんだろう。わかんないや。

 

 そして、わたしはさーどあいをなぐる。なにもかんじない。

 

 わらいがね、とまらないんだ。でも、ふしぎとめからなみだがでたの。なぜかね、おもいだしたんだ。ほらあなで、あのこといっしょにくらしていたときのことを。かのじょの夕闇色のかみが、なんでか懐かしかった。でも、もういいんだ。もう、いいんだよ。

 

 そして、わたしはさーどあいをなぐる。なにもかんじない。なぐる。なにもかんじない。なぐる。なにもかんじない。なぐる。なにもかんじない。なぐる。なにもかんじない。なぐる。なにもかんじない。なぐる。なにもかんじなくなった。

 

 

 




もしかしなくても、そういうことだったのですか。だったら、私は。

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