......はい、すいません。駄作ですが良かったらどうぞです。
数十分後、3人は滞りなく準備を終えて登校していた。歩いているのは、第一高校まで1kmほどの一本道。それにしても、わざわざコミューターの降り場に『第一高校前』などというジャストミートな場所があるあたり、やはり魔法科高校とは世間的に見ても特別な位置付けなようだ。
そんなことを考えながら、拾は隣で度々形成される兄妹によるアブノーマルな桃色空間に砂糖を吐きそうになりつつも、事前に用意していた一口チョコレート(カカオ99%)を口に放り込みながら耐えていた。ちなみに、今食べたもので8個目だ。
「このままでは一日どころか学校に着くまでにストックが無くなってしまいます.....と、ヒロイは悲惨な未来を想像してガクブルします」
「何を言ってるんだお前は」
「いえ、こちらの話です。と、ヒロイは話題を変更すべくただ今ネットワークにメッセージが届いたことを報告します」
「メッセージ?」
「《
《
「『入学おめでとう。お兄様達によろしく』という趣旨のメッセージが多数届いています。と、ヒロイはたった今届いた753号からのもので祝辞が合わせて1852通目になったことを報告します」
「入学式は昨日に終わっているんだがな......」
「まあまあ、良いではありませんかお兄様」
「ああ......」
深雪のフォローにもどこか決まりの悪い顔をする達也に、深雪が怪訝な顔をする。照れ隠しかとも思ったが、それにしては少々違和感があった。「ご迷惑でしたか?」という拾に、「いや、そういうわけではないが......」と、立ち止まる。
「何だか、お前を差し置いて俺が祝われると、立場的に思うところがあってな......お前だって、自分ではなく俺ばかり祝われたらいい気分はしないだろう?」
自分はガーディアン。深雪のボディガードであり、いざとなればその命をもって妹を守る存在である。そんな自分に祝言が届けられることに、何とも言えない心中を吐露した。が、しかし。
「何をおっしゃいますか、お兄様」
少しだけ前にいた深雪が、その言葉に即座に返答する。なんだそんなことか、と言わんばかりの口調だ。妹がするには珍しい反応に、達也は珍しく面食らってしまう。拾もその横でホッとすると、こちらに視線を向ける。
「あの人達は祝いの電話もなかったですが、その代わりにこんなにもお兄様を祝ってくれる人がいるんです。喜びこそすれ、不平を感じるなどということは決してございません。深雪は、お兄様のことで喜んでくれる人が沢山いることが嬉しいです。もちろん、私もお兄様が入学されたことを心より嬉しく思っております」
「ヒロイもです。情動を持たない身ではありますが、それでもお兄様が入学されたのは他の弟達同様とても嬉しいのです」
「だからお兄様、」と、二人がふりかえる。その時の二人の顔は、確かにとても喜んでいるように見えた。
「「ご入学、おめでとうございます」」
「.......ああ。ありがとうな、二人共」
忘れてしまった想い。心の中に暖かいものが広がっていく感覚。かつてはこれを『感情』と呼んでいたのだろうと、達也は確かに感じた情動にそう名前をつけることにした。
*
「そういえば拾、クラスは深雪と一緒なのか?」
「まさか、ヒロイは二科生ですから。と、ヒロイは答えます。お兄様と同じE組です。と、ヒロイは喜んでもいいんだぞ?と言わんばかりの期待の視線を投げかけます」
「.......二科生?お前が?」
それはおかしいだろう、と達也は冗談抜きにそう思った。
彼等《弟達》の脳内に存在する電磁情報網『クモイネットワーク』は、大規模な並列演算装置でもある。頭の中に超高性能の演算補助スーパーコンピュータを搭載しているようなものだ。これを利用するこで極限まで短縮された速度で構築された起動式を、《学習装置》によって整えられた脳構造を持つ《弟達》による2000人規模の『
「実は、入試当日にネットワークに問題が発生したのです。と、ヒロイは『不幸だぁぁ』と頭を抱えてみます」
「その台詞はこの作品では使っちゃいけない。わかったな?」
「.......何の話ですか?と、ヒロイはキョトンとしてみます」
「......いや、すまん。忘れてくれ。俺も大分疲れているようだ」
謎の圧力が自分の知覚範囲外から襲ってきたのは気づかないフリをする達也であった。
「それにしてもネットワークに不具合とは.....何があったんだ?」
「........博士がですね。研究の休憩中にダ○まちを見たらしく.....『そうだ、追尾ミサイルとか逸らす装置作ったら超役に立つことね?』とか言い出したのが発端でして.....と、ヒロイは博士のあまりの突飛さと間抜け加減にかなり呆れてみます」
「さてはアルク○・レイに影響されたなあの人。てか何でそんなピンポイントなアニメをわざわざ見たんだあの人は」
某都市最強派閥のエルフが使う魔法を思い出した達也は、今回の騒動の内容を大体察した。余談だが、達也が何故その事を知っていたかは、新魔法の開発に関して何か使えそうなアイデアはないかと一世紀前に最盛期だったアニメを漁ったからという割と真面目な理由があったりする。
「その通りです。と、ヒロイはお兄様の慧眼に感心します。その実験の際に博士がやらかしたらしく、かなりの高電磁波が放出されたのです。と、ヒロイはあの時のことを思い出して深く溜息をつきます」
クモイネットワークは確かに高い性能を誇るが、根源的には脳波などを電気的に制御することで構成されている。さて、そこに強力なジャミング──例えば強い電磁波のような──が加わればどうなるだろうか。当然ただではすまない。その後『博士』は、ネットワークの再調整に丸一日かけた。
「本当にあの人は自分の優秀な頭脳と行動力を無駄にしている気がしてならないな......」
「全くです。と、ヒロイは心の底から同意します.....あっ」
「ん?あ、達也君!おはよー!」
取り留めもない内容と割と衝撃の事実を織り交ぜた会話は、二人が教室の前にいる二人の女子を視界に入れたことで終了した。拾が声を上げたことで二人の女子の片方、赤い髪が特徴的な少女がこちらに気付いて手を振ってくる。
「おはようエリカ、美月。二人共今日は迷わずに来れたみたいだな」
「なによ達也君。私達が方向音痴だって言いたいわけー?」
「でもエリカちゃん、さっき間違えてF組の教室に入ろうとしてたよね?」
「ちょっ、美月ぃ!余計な事言わないでよ!」
「なるほど、千葉さんはドジっ娘属性持ちですか。と、ヒロイは既存の情報から分析します」
「どう分析したらそうなるのよ!見えんか!この溢れ出る気品が目に入らぬかッ!!」
「ちょっと何言ってるか分からない。と、ヒロイは白けた目で見つめてみます」
「ごめんエリカちゃん。私もよく見えないや.....」
「.....真面目に謝られるとこっちもリアクションしづらいからやめて欲しいんだけど.....って」
チラリ、と達也の横に目を向ける。警戒している.....とまではいかないが、それなりに怪訝な顔を彼女は浮かべていた。
「なんかサラッと人の事おちょくってくれてるけど.....誰?達也君の知り合い?」
「自己紹介が遅れて申し訳ありません。と、ヒロイは完全にタイミングを逃していたことに気付いてちょっぴり焦ってみます。このクモイの個体識別名称はヒロイ。お兄様の従兄弟です。と、ヒロイは先程のことはコミニュケーションの一環ということにして欲しい旨をさりげなく伝えてみます」
「.......えーっと、つまりどういうこと?」
「?」
はて、何かおかしかっただろうか。自己紹介をされたのに名前が分からないという珍妙な事態が発生していることに、拾が首を傾げる。すると、隣でこめかみを抑えながらため息をついた達也がフォローに入った。
「.......こいつは雲居拾、従兄弟だ。色々と変わってるところがあるが悪い奴じゃない。良かったら仲良くしてやってくれ」
「失礼な、ヒロイは至って標準的なステータスです。と、ヒロイはお兄様の補足内容に対して遺憾の意を表明します」
「そういうところだよ、全く......」
「........あはっ。確かに変わってるわよ、アンタ」
「....ふふっ....!ご、ごめんなさ....ふふ」
達也と拾がいつも通りに漫才を開始したところで、エリカは思わずといった様子で笑ってしまった。初対面で失礼かと思っているのか、隣の美月も口元を抑えているものの笑っていた。
「それに、せっかく綺麗な顔立ちしてるんだから。もうちょっと表情変えた方が初対面の人にはウケがいいわよ?」
「千葉さんも、初対面の人相手ならばノリツッコミはやめた方がいいと思います。ヒロイでなければドン引いてたと思いますよ。と、ヒロイは先程の下りを思い出して......ブフッ」
「んなっ....!」
「ふふっ、エリカちゃんすごい顔してるよ?」
「み、美月ぃ.....」
拾だけでなく美月にまで追い討ちをかけられたエリカは思わずノックダウンした。その様子がますます拾と美月の笑いを誘った。表情が豊かではない達也も、珍しいことに笑っている。
「......アタシ、千葉エリカ。この子は柴田美月。仲良くやりましょ。あと、この借りは近いうちに返すからね」
「これからよろしくお願いしますね、雲居君」
「......ヒロイ、と呼んでください。と、ヒロイはちょっぴり照れながら返答します」
生まれて間もない物語が加速していく。波乱の序章は、まだまだ始まったばかり。
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