「マサキー!!早く荷物まとめなよー!!」
「はーい、今やってるよー!」
俺の名前は井上将生、この春晴れて高校生デビューを迎えた一年生だ。
「お昼前には出るからね!お昼はサービスエリアで取るから!」
「あいよー」
さて、そんなめでたい最中、何をドタバタとしているのかというと。
「アンタ学校の教材は持ったの?」
「大丈夫大丈夫、通信なんだし多少無くなったところで…」
「多少もへったくれもない!忘れ物はしないでよ!?引っ越しの当日に荷物まとめきってないとか勘弁してよね!!」
そう、引っ越しだ。なぜこの春先のタイミングでと思うかもしれないが、なんでも母親の旧知の知り合いが勤めている旅館で働かせてもらえる話が出たらしく未亡人ながら女手一つで俺をここまで育ててくれた母のまたとない機会に反対する意思もなく喜んで決まったわけである。
「よし…かーさん!荷物終わった!」
「業者さんに伝えてアンタは車に乗っといて〜!」
「うーい」
別段思い入れのある物も無し、中学からの知り合い達とも高校が別になるということでわかれはすませた、後は産まれてから今まで世話になったこのアパートの一室に感謝の一言でも伝えて終わりだ。
「…ありがとうございました!!」
なんてことないアパートの一室でも、いざとなるとこう何かこみ上げてくるものがある。
ちょっと溢れそうな涙を抑え、別れもそこそこに俺は母親の車に乗り込んだ。
「内浦の旅館ね、あんたと同じぐらいの女の子もいるんだって!!」
「ふーん…」
「元気な子らしいしさ!いい感じになっちゃいなよ!そんでゆくゆくは、旅館の跡取り息子にでゅふふふ……」
「あーはいはいお母様は運転に集中してくださいねー…」
跡取りとはなんだ、俺はまだ高校一年生だぞ、今時結婚は墓場なんて言葉も当たり前になっている時代……すすんで死地に赴く趣味はございません。
「高海さんってとこの子でね、私も写真だけで実際は殆ど小さい頃しか記憶にないけど、確かお母さんのスマホにこの前志満ちゃんからラインでもらった写真が…」
「だーっ!?かーさんのスマホは見るから!運転!前!」
油断するとすぐこれだ、頼むから事故だけは勘弁願いたい。
さて、早速話題に上がった噂の美少女のご尊顔でも拝見しよう。どうせ片田舎の旅館の娘、その辺のちょっと可愛い程度の子だろうから母親の機嫌だけ損ねない程度には持ち上げておいてやろ…う……。
「は?え…は??」
思わず一回スマホから目を離し狭い車の天井を仰ぐ、嘘だ、片田舎だぞ?旅館だぞ?娘だぞ?
娘だぞってなんだ、自分に対する言い訳すらまとまらず思い切ってもう一度スマホの画面に目をやる。
「………めっちゃ可愛いんですけど……」
「おーっ!?いいねぇ!!まずは友達から友達から!!かーっ!!お母さんの方が興奮してきちゃった!」
『妹の千歌の写真送っておくね』というメッセージと共に添付されていのは溌剌とした笑顔でピースサインをする美少女の画像だった。おまけに『千歌です!マサキくん!会えるの楽しみにしてます!』なんてわざわざメッセージまで付け足してるもんだからこいつはもうお手上げだ。
「高海千歌か…」
「そうそう!千歌ちゃん!あぁそうだ、もう一人妹がいるわ」
「この子の下?」
「んにゃ、千歌ちゃんは末っ子だから真ん中の子だね、美渡ちゃんっていうの、その子も可愛いんだわ!美人三姉妹ってとこだね!」
「美人三姉妹…」
その真ん中の美渡って人は写真がないから分からないが、この子の写真からはある程度推測できる。
普通の高校生としてのはじまりの春を手放したことで少し自棄になっていた所だったが、これはこれで楽しみだ。
これまで『特別』とは無縁だった普通に普通のレールを嵌め込んだような学生生活だった、でも何かが変わる気がする。その何かなんて何も分からないけど、きっと変わる!!変わってやる!!
「待ってろ内浦ぁぁ!!!」
「うぉー!?急に何よ!?」
「かーさん!俺内浦めっちゃ楽しみになってきた!!」
「おーっ!!お母さんも楽しみだーっ!!」
「うぉぉお!!??何キロ出してんだよ!?」
「千歌?そんな早くには着かないわよ?」
「そ、そうだけど〜!!ん〜!落ち着かない!!ちょっとその辺走ってくる!!」
「あら…行っちゃった…ふふっ同じぐらいの男の子なんて今まで殆ど接点も無かったものね…千歌と仲良くしてくれるといいんだけど」
「はぁ!はぁ!」
ドキドキする!緊張する!ワクワクする!こんな事今まで無かった!!学校の授業の発表会とかお母さんにテストや通知表を見せるときもドキドキしたけど、そんなの比べものにならないぐらい!心臓が落ち着かない!
「井上将生…君か…仲良くできるかな……」
無我夢中で海岸沿いを走っていたら結構な距離を走ってしまっていたらしい、とりあえず戻らないと。
「こうしてる間に着いちゃってたら大変だよー!?」
挨拶も無いやつなのかー幻滅したぜー、なんて言われたくないもん!挨拶は大事!第一印象なんだよ!
少し切れた息を整えながら早足で来た道を戻る、さっと一瞬強い潮風が私の頬を凪いだ。何がというわけでもないがふと立ち止まり海に目を運ぶ、穏やかな波の音だけが私を包む。
「……ねぇ、まだ顔も知らないあなた……ここは素敵なところだよ、だから……お願い……」
わた……を………たす……て…。
こんにちは、初投稿ということで右も左もわかりませんが完結できるように頑張っていきたいと思っています!
沼津の地理についてはあまり詳しくないのでちぐはぐな箇所などが出てくるかもしれませんが、何卒ご容赦ください!(勉強しておきます