よっこいせ…こんなもんかな、かーさん!俺片付いたけどそっち何か手伝おうか?」
「大丈夫!こっちは千歌ちゃんに手伝ってもらったから、千歌ちゃんも一息入れよっか」
「はい!お疲れ様でした!」
引っ越しの荷物を片付けていてまず驚いたことがある、自分の部屋から千歌さんのところの旅館が見えるのだ。見えると言ってもいくらか距離はあるようだが、あともう一つ驚いたことがある、というか現在進行系なのだが。
「なんで千歌さんがいるんですか!?」
「ふぇ?お手伝いだよ?」
あぁもう!可愛いなちくしょう!小首をかしげるその姿勢がもうずるいと思うんです。
「志満ねぇに頼まれたの、手が空いてるなら手伝ってきなさいって」
「そ、そうですか…」
志満さんグッジョブ!
それはさておき茶でも入れるか、と台所に向かおうとすると、なにやら千歌さんがうんうん唸りだした。
「どうしたんですか?」
「えっとね、もしまーくんとアキさんさえよかったら沼津の方も案内できればかなーって思って」
なるほど、確かにまだ夕方前だし案内してもらえるならそれに越したことは無いが、というかそれって千歌さんとデーt。
「いいね!!行っといで!私は志満ちゃんとまだやることが残ってるから、千歌ちゃんがよかったらマサキの一人や二人持ってっていいよ!」
俺は一人しかいないんですけど、実は生き別れた兄弟が!なんて、そんなわけがあるか。しかも持っていってって、俺は物じゃねーぞ…。
「はい!!」
「あの、俺はまだオッケーとは一言も…」
「えっ……うぅ…」
と、口では言ってみたが、そう、千歌さんの困った顔が見てみたかっただけというほんの出来心である。というかめちゃくちゃ可愛い。
「まーくん……だめ…?」
はい落城、降参、崩壊、むりむりむり。その上目遣いは反則だ、一発退場レッドカード。罪悪感が大行進だ。
「よろこんで!!さぁ行きましょう!レッツゴー沼津!!むしろ沼津が俺を呼んでるぜ!」
「おぉー!!やったー!!れっつごー!!」
ほんとに表情がころころ変わる人だ、咲くような笑顔ってこんな感じなんだろうな。なにはともあれ、千歌さんと初で、で、でーとだ!!出会ったその日にデートなんて、俺の青春はすでにクライマックスに突入しているんじゃないだろうか。続編の制作は必ずお願いします。
「なにやってんだか…あんまり遅くならないようにね!」
「うい~じゃあちょっと行ってきます」
「はい!アキさん!まーくんは私が責任をもってお預かりします!」
ふんす、と鼻息が聞こえそうな気合の入れようだ。どっちかというと千歌さんを俺が責任をもって見なければならないんじゃないだろうか。そう!その辺の男の魔の手から警護するという重大な責任だ!
「私がしっかりしないと!おねーちゃんなんだし!」
「俺が…警護…魔の手から…」
「大丈夫か、この二人…」
「ちょうどバスの時間で良かったぁ、これが行っちゃったら次は四十分は待たないとなんだよ」
「うげ…マジですか、流石に本数はそんなもんなんですね」
「うん…田舎…だから…」
「なんかすいません…」
「大丈夫…」
沼津行きのバスの後部席に腰を下ろした俺と千歌さん。なにやら地雷を踏み抜いたような感じがするが…。
「だめだめ!暗いのは無し!」
そう言って頭を左右にぶんぶん振る千歌さん、頭のくせ毛?アホ毛?も一緒にぶんぶん揺れてちょっとおもしろい。
「そうそう!私の友達にも声かけたんだ!友達というか親友!」
「は、はぁ…それ、俺行って大丈夫なんです?」
「もちのろんだよ!!絶対仲良しになれるよ!私が保証するぜぃ!」
江戸っ子かな?ぐっと親指を立ててウインクを向け、ぺろっと舌を覗かせる。てへぺろですねわかります。俺を萌えこ○す気かな??
しかし、ここに来てトントン拍子に話が進んでいく、ただでさえ今社会では近所の繋がりだったり、横の繋がりが希薄になってきている時代、こんなすぐに知り合いがぽんぽんできて大丈夫なんだろうか、いや何か悪いことをしているというわけでは無いが、あまりの展開の早さに今ひとつ自分の中で整理が追いつかなくなりそうな気がしてきた。
「ちなみに、その人って……男の人ですか…?」
これは重要なことである、これまでの俺の人生の中で最も知り得なければならない情報ではないだろうか、ここで「うんそうだよ~実はわたしの好きな人で~」なんて言われようものなら、今日この後一日死んだ魚のような顔で過ごせる自信がある。さぁ!どっち!?
「うん?女の子だよ、渡辺曜ちゃんって言うの、私と同じ高校二年生で小さい頃からの親友なの!幼馴染ってやつかな!」
はい勝訴。勝ちました。恵比寿さんもびっくり満点笑顔で今日一日過ごせます。
とはいえ、今からその渡辺さんと合流するということはだ、女性二人とお、お、おでーとではないか!?ただでさえ人生初の女性との外出が、まさかひとり増えるなんて、一生分の運ってどのぐらいあるんだろう、まだ生きたいんですが。
「今はね水泳部で飛び込みをやってるんだー、すごいの!ばしゃーんって!!」
「ばしゃーん、ですか」
おおげさなジェスチャーで真剣に説明してくれる千歌さんを見ていると、この人といると飽きないんだろうなぁと感じる。そんな人と幼馴染の渡辺さんにちょっと嫉妬すらしてしまう、もし俺も小さい頃から千歌さんと知り合いで幼馴染だったら、どんなに世界は色づいたんだろう。
「あ、ごめんね、私ばっかり話しちゃって」
「えっ!あっいえ!大丈夫です!千歌さんの話面白いから」
少し沈んだ表情をしてしまっていたのだろうか、変な気を遣わせてしまった。紳士としてあるまじき行為だ、気を引き締めろ井上将生!
「あはは、それだったら良かった!あ、曜ちゃん!」
「ヨーソロー!!渡辺曜!ただいま着任でありま……す……」
「あ、ども……よ、よーそろー…?です」
途中のバス停で乗り込んできた女の子、明るく透き通った声でそう挨拶をする、これが渡辺曜さんとのファーストコンタクトだった。
千歌ちゃんは書いてて色んな表情が出てきて、とても楽しいですね!