串刺し公は勘違いされる様です(是非もないよネ!) 【完結】 作:カリーシュ
右を見ても人混み。
左を向いても人混み。
……予想はしていたが、いざその場に立ってみると中々に圧巻だな。
――場所は第七十五層、円形闘技場の客席。
ここに集ったざっと五千人のプレイヤー。 その目当ては言うまでもないだろう。
『神聖剣』と『二刀流』――ユニークスキルを保有する二人のトッププレイヤーの決闘。
……だからといっても、集まり過ぎな気がするが。 規模こそオリジナルの一割程度とはいえコロッセウムの観客席が満員になるとはな……
まあダイゼンあたりがまた盛大にやらかしたのだろう。 俺は知らん。
暇潰しにこの闘技場に施された装飾を眺めて時間を潰していると、時間になったのか、中心にある闘技場に二人が現れた。
二、三話すといよいよ始まるのか、この場所の効果か通常より大きくデュエル表示が投影され、カウントダウンが進む。
自然に入る手の力を如何にか意図して緩めていると、とうとう運命の一戦がビープ音を合図に始まった。
――ヒースクリフの戦法はひたすら護り続け、相手が晒した隙を突くカウンターがメイン。
あの鉄壁を破る事は非常に難しく、かといって奴の防御が緩む攻撃時を狙おうにも、あの盾にも攻撃判定があり、生半可なガードでは押し切られるだろう。
故に、奴と決闘で戦う際に最も有効的な戦法は――
「うおぉおおおおお!!」
今キリトがやっているように、『ひたすら攻め続ける』だろう。
幾ら堅いとはいえ、なにも百パーセントダメージカット出来る訳ではない。
まあ攻めるのに、攻撃後に強制的に隙が生ずるソードスキルを使用した時点で相当厳しいだろうな。
……もっとも、それは
青い光を纏い常識外れのスピードで交互に繰り出される剣戟に、盾を構える速度が少しずつ間に合わなくなっていく。 それは、常人離れした反応速度を以てして初めて成り立つ連撃。
というかこの時点でスキルコネクトの原型が出来ていないか? スキル後の硬直がやけに短い気がするんだが……
原作主人公たる所以にこっそり驚嘆していると、ついに決着を付ける気になったのか、キリトの剣が二本とも燐光を纏う。
そして十六の激突音の果て、遂に右手の黒い剣が盾を大きく弾きガードが完全に崩れた。
その隙を左手の剣が逃す筈もなく、その刺突が迫り――
――盾がその一閃を防いだ。
ソードスキルを強制停止され硬直したキリトに一撃を入れて勝者となったヒースクリフに観客が沸き立つ中、俺は静かに息を吐いた。
……これでキリトも、ヒースクリフと茅場晶彦が同一人物である可能性に気付いただろう。 さて、後はどうなるか。
取り敢えず、フォローにでも行こうかと移動するべく足に力を込め、
『――続きまして、只今の勝者『神聖剣ヒースクリフ』対『無限槍ヴラド』の試合を開始します!!』
聞こえてきたソプラノボイスに膝から崩れ落ちた。
……ちょ、ちょっと待て。 さっきまで放送はKoBの団員がやっていたよな? なぜあの毒鳥に変わっている!?
唖然としていると、メッセージ通知が視界の端に。 無意識のままに開くと、
『スケジュールはこの私が組んどいてあげたから、後ガンバ ☆彡』
……………………は、
謀ったな、ピトフーイッッ!!
◇◆◇◆◇◆◇
「――おいピト! あれはどういうつもりなんだ!?」
メッセを送ったついでにライブで使うマイク型拡声器をしまっていると、やっと控室に戻ってきたキリトが噛みついてくる。
「それはねー」
サチちゃんやアスナを放って真っ直ぐ来たもんだから、何となく揶揄いたくなって、私から更に顔を近付けて耳元で囁く。
「――最後のガード。 違和感無かった?」
顔を赤らめるなんて初心な反応をしながらも、表情は驚愕していた。
「お、おま、」
やっぱり、私の勘違いじゃなかったか。
何か勘違いした乙女二人に問い詰められているキリトを一旦放置して舞台の方を見れば、苦笑いしているヒースにギルマスが回復結晶を渡していた。
……さっきの不自然な動き。 もし私の予想が正しいなら、もう一度見られるかもしれない。
本音を言えば私が戦いたいくらいだけど、流石にそれだとヒースが連戦な事について何かしらのバッシングがありそう。
だけど、その相手がずっと論争が続いていたカードの対戦なら?
サプライズ風にしたのもあってか、観客のテンションは最高潮。 多少の文句ならノリで封殺出来そうだし、ヒースが負けても連戦云々でKoBの面目が潰れる心配はナシ。
まあそこら辺の後始末は
「おーい、いつまでやってんのさー?」
サチちゃんが拗ねだしてゴリゴリ精神力が削れているキリトを追い打ちも兼ねて強引に引っ張り出して舞台の方を向かせる。
丁度その先には、銀髪を微風に靡かせた初老の男性が、(渋々)槍を構えてカウントダウンが進むのを待っていた。
……あれだけ見れば、あのオッサン本当に大丈夫なのかとツッコミたくなる。 モンスターどころかマッチョ系の人相手にも完封されそうな細身の身体に、腕一本で槍を持っているだけなんだから。
――それが、切り替わる。
攻略組とオレンジから畏れられる
――『
◆◇◆◇◆◇◆
――ブザーが鳴るのにワンテンポ遅れて右手に下げた槍を振り上げると、丁度
追撃で直剣が突き出されるのに合わせ、下がっていた左脚を一歩踏み出しカウンターで突き出した左手から杭が飛び出し強引にガードに持ち込ませる。 紅の切先が鼻先まで迫ったことで怯んだその一瞬を突き盾を筋力値全開で蹴り飛ばし、闘技場の壁まで吹き飛ばす。
土煙が立つがやはりと言うべきかダメージはほどんど無いようで即座に距離を詰めてくる。 ナイフで攻撃しようと袖を振りかけ――咄嗟に槍で受け流す。
まさかこんな事態になるとは思っておらず、ナイフは六本しか仕込んでいない。 ストレージにはもう何セットかあるが、ホルダーを持ってきていない所為で実体化した状態で保有出来る数には限りがある。
そんな訳もあってナイフはあまりばらまけぬ。 槍と無限槍で相手取らねばならないが、その
つまり、槍一本であの鉄壁を突破しなければならない。
思わず舌打ちするが―――それに反して、何故か口角は吊りあがっていた。
戦いを愉しんでる? いや、違うな。
ならば、この感情は――
この世界には存在しないあるキャラクターが握るのと同じデザインの槍の矢印型の矛先の返しを盾に引っ掛け引き剝がしにかかると、盾の石突きを大地に押し付けて耐えられる。 その先端に足払いを仕掛けて盾に体重が偏っていた奴の身体ごとバランスを崩してやり、もう片方の手で押し潰すように張り手を突き出しおまけで無限槍も発動する。
残念ながらその杭は虚しく足場に深さ一メートル程の小さな穴をこさえるだけでヒースクリフは不恰好ながらもステップを踏んで一回転、遠心力を乗せた直剣で切りかかってきていた。 その時、ほんの一瞬、奴と目があった。
…………成る程。 この高揚感。 少し、分かった気がする。
あぁ、ならば――
――本気で征こうか!
その一閃を防ごうにも槍は間に合わないと判断。 剣の腹を肘で打ち上げ軌道を跳ね上げて外させると、そのまま勢いで襲い掛かる盾を受けながらスナップで逆手に持ち替えた矛先で奴の背中を突き刺す。
互いにHPを四分の一ずつほど減るが、無限槍のデメリット分俺が不利か。
――だから、どうしたぁ!
後ろ回し蹴りを防がせ、何とか距離を空ける。
間髪入れずに二本だけ持ったナイフをカーブさせ左右から挟み込むよう投擲、槍を背後に振り絞りながら一跳びに突撃。 奴の集中が逸れた隙に槍の間合いまで詰め、身体を捻りながら矛先を叩きつける。
当然小細工など通用せずナイフは弾かれ、此方の足の遅さもあって振り下ろしも受け止められ、その盾を僅かに凹ませるに留まる。 無論反動は大きく、槍を握る右手が数瞬痺れる。
これ以上ないほど分かりやすい隙。 見逃す奴の方が圧倒的に少数派だろう。
奴も反射的に剣を突き出し――
「――なっ!?」
その切先を、
勿論直に刃を握れば潰す前に指が切れる故、正確には、逃さぬ様指で刃の腹を抑えた状態で無限槍を発動させたのだが、細かい事はいいだろう。 肝心の結果は、更に一割強の体力と引き換えに奴の剣を、少なくともこの決闘中は使用出来ない程度には破壊出来た。
この結果がどう転ぶかは分からん。 少なくとも――
奴の右半身に向けてナイフを追加で二本投擲する傍ら、視線を一瞬だけ
……有利ではないな。 ちと無限槍を打ち過ぎたか。
奴の攻撃手段はまだ残っている。 流石にあの盾を無限槍抜きで破壊するのは不可能。
だが奴の体力も俺よりは有るとはいえ六割前後。 直撃させる事が出来れば如何に
――つまり、次の一閃で勝負が決まる。
奴もそれを分かっているのか、ボロボロの剣を盾の裏に収刀しながら声を発する。
「……見事だ。 まさか、剣を掴んでくるとは思わなかった」
「ふっ。 幾千の刃を最前列で阻み続けている騎士にそう言われるとは、光栄だな」
……ゆっくりと息を吐き、槍は右手にぶら下げたまま脱力。 自然体に構える。
澄んだ思考で、盾のみを装備した敵の行動を推測する。 通常なら、そんな状況に陥った相手の取る行動など悪足搔きでしかなく、一々予測などせず押し切るだろう。
だが、奴も俺もそんな『普通』には当て嵌らない。
奴も何かしらのソードスキルを創ってあるだろう。 本来ありえない状態に陥ったが故の、初見殺しなスキルを。
だからこそ推測出来る。
俺にとって、『盾のみを装備した英雄』は見慣れたと言ってもいいだろうからな。
――気が付けば喧騒は収まり、異様な緊張感がコロッセウムを包む。
最早言葉は不要。
只々、武を競うのみ。
己こそが勝者だと。 己こそが最強であると証明する為に。
……数秒か、或いは数十秒か。
互いに睨み合い――
決闘の時間制限が迫っている事を知らせるブザーを合図に、同時に行動を開始した。
奴が選択した一手は、何処までも騎士らしい、盾を斜め右に保持しての愚直なまでの突進。
だが侮る勿れ、その勢いは『閃光』の副団長に匹敵するだろう。
ならば此方の一手は決まっている。
――我が全力をもって、迎え討つ。
動きが無い間に僅かながら回復した体力をギリギリまで槍に纏わせ、構える。
奴は既に間合の内。 ジャリッ、と足場の砂を踏み締める音と咆哮が響き、
……だがまだ当たっていない。
素早く引き絞った槍を、各関節を総動員して絶叫と共に突き出す。
紅の矛先と盾は、ほぼ同時に激突し、
――
それを見たヒースクリフが勝者の笑みを浮かべ――
「まだだ。 まだ終わっておらぬッ!!」
敢えて、もう一歩踏み込む。
我ながら巫山戯た筋力値で再度地面に叩きつけられた槍は、矛先の根元で折れる。
だが完全に分断された訳ではない。 過去にも散々
武器としては十分。 そう信じて、柄を跳ね上げる。
奴はこの動作を足掻きと見たのか、そのまま力を掛けるのみだったが、もう遅い。
たった一箇所とはいえ、数十年前に画面の向こうで見たまま、意識を持った蛇か、或いは鞭の様な軌道で矛が奴の頸に喰らい付き―――
―――ブザーが鳴り、歓声が轟いた。
次回予告
どうも皆様。 本当にお久しぶりです、ジルで御座います。
さて、今回の次回予告ですが……
此度は予告ではなく、エイプリルフールについてのアンケートを取りたいと思います。
幾つか用意してあるのですが、流石に本編が進んでいないのに番外編を、それも全く毛色の異なる話を複数投稿するのは憚られたので、勝手ながら、『シリアスルート』、『シリアルルート』、『コメディルート』。 以上三つから選んで頂きたいのです。
期限は、今月十九日まで。 それでは、皆様の意見をお待ちしております。
※期限となったので、アンケートは締め切らせて頂きます。 多くの投票、ありがとうございました。