串刺し公は勘違いされる様です(是非もないよネ!) 【完結】   作:カリーシュ

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21話 雪原の歌姫、邂逅す

 

 

 

 

 

――ソロプレイヤーから、晴れて栄えあるKoB(エリート集団)に所属する羽目になって早一週間。

面倒臭いのにちょくちょく絡まれる事はあれど、まあレベルとしてはギルドトップクラス程度にはあるから難なくあしらえるし、元々最前線で活動していたのもあって、あまりソロ時代と行動スケジュールは変わらなかった。

バタバタした事と言えば、支給された装備が貧弱過ぎて、ソロだった頃のコートの染め直しを依頼したら馬鹿みたいな値段を吹っ掛けられたことと、――

 

 

 

 

 

 

 

……KoB本部で侵入者騒ぎがあったくらいか。 まあこれに関しては犯人も目的も知ってるし、寧ろ見失うように誘導したからオレも共犯だけど。

ていうか、『キリト君から知らない女の匂いがする』って怖ぇよ。 副団長の嗅覚どうなってるんだよ。

結果的には捜索の名目で本部の扉が開け放たれたから悠々と奥まで見れたから良かったけど、もうあんなダンボール無し縛りのリアルメタ○ギアは御免だ。

 

 

閑話休題(終わった話は置いておいて)

 

 

そんなこんなで、今日はKoBに所属するようになってからの初めての休日だ。 ゲームの中で休日とはこれいかにという気がしなくもないが、事実だから仕方がない。 結局何が言いたいかというと、今日一日はKoB団員として動く必要が無いという訳であり、つまり――

 

 

 

 

 

 

「――っと、ごめん。 待たせたか?」

 

「ううん。 私も今来たところ」

 

 

 

 

 

――他のギルドと活動しても問題無いという事だ。

 

集合場所は『月夜の黒猫団(彼ら)』のギルドホームがある第十一層『タフト』。

オレの所属こそソロだったけど、あのクリスマスの一件以来、大体月に3、4回くらいのペースで昔みたいに皆でダンジョンに潜ったり、Mobの出現率の低いフィールドを散策するようになっていた。

……時々劇物(毒鳥)その他が居る事もあって、若干ロシアンルーレット染みた所はあるけど、まあそこには目を瞑ろう。 オレとケイタの胃SAN値が削れるだけの話だし。

 

逆に目を瞑れないのは………

 

 

「……ところで、ケイタたちは?」

 

「え? えっと、今日も忙しいみたいなの」

 

「そうか……」

 

 

いつからか、サチを除く残りのメンバー全員が揃って参加しない事がちょくちょく起こり始めた事か。

 

……オレ、また何かやらかしたのだろうか? サチはこうして毎回会いに来てくれるから違うと信じたいけど…… 一緒にいる時のあいつらを見る限り、特に不快と思ってる様子は無さそうだし……

 

 

………ダメだ。 考えてもこれと言った理由が思いつかない。

一先ず、サチとのデート(と思いたい)を楽しむとしようか。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

――第十一層 『タフト』

 

 

 

――懐かしい感じがする。

 

全く違う環境。 全く違う目標。 全く違う自分。

思い返す当時とは同じ所を見つけ出す方が難しい状況だというのに、これ(・・)をしている間は、その『昔』の感覚が有り有りと蘇ってくる。

 

 

……強いて、その感覚にノイズが混じる点を上げるとするならば、

 

 

「よしいけサチ! そのまま押すんだ!」

 

「そのまま、そのままいけば……

っ! あ“〜〜もう! 焦れったい!」

 

「おもがえが、ふぉへはぼっががへ!!」

 

 

ピトフーイの毒(団長曰く『愉悦部』)に侵食されでもしたのか、嬉々とした様子の三人と、+αの蓑虫(ケイタ)の存在だろう。

 

 

本当に、どうしてこうなった。

 

 

もう何度目か分からない無心に浸りながら、回想―― は、必要ないな。 単にピトがサチの想いを黒猫団にバラした結果がこれだし。 団長への疑惑が無ければ本人がこの場で笑い転げていただろう。 それでも観察を他人に任せている辺りはSAO解決を優先している、のだろうか?

 

………いや、ないな。 恐らく団長の運の無さを愉悦しに行っただけだろう。

もういいや。 観察に徹しよう。 隣でテツオがカンペとか取り出し始めたことだし。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「――ふぇ?!」

 

「? どうしたんだ、サチ?」

 

軒下で雑談していると、サチが急に一点を凝視したままテンパった声を出した。

そっちの方を注視しても誰も居ない様だし…… 念の為に索敵スキルを使うべきか?

ストレージを開こうと指を滑らせ――

 

「き、キリト! こ、こここれから二十二層に遊びに行かない?!」

 

「……二十二層?」

 

――ようとした所で、その指を止める。

二十二層か…… 確かあの層は迷宮区以外にMobは出現率が低いから安全だし、フラワーガーデン程じゃないけど景色が綺麗な場所だ。 ちょうど変わった噂も流行ってるし、いいかもな。

 

「よし! それじゃあ行こうか」

 

「うん!

……それにしても、何で二十二層……?」

 

それにしてもちょっと意外だな。 サチってホラーモノ大丈夫なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって、第二十二層。

太陽は真上にあるのに、それでも尚薄暗い針葉樹の森。

足元にある草を踏む僅かな音だけがするなか、左腕の感覚から必死に意識を遠ざけながら震えている少女に声をかける。

 

「あのー、サチさん? そのー」

 

「………」

 

ギューっと左腕に抱きつき、そのまま震えている少女。

てっきり例の噂――二十二層に現れるという白衣の幽霊の噂を知ってる上での提案だと思っていたら、まさかのこの反応だし。

うーん、ここはどうするべきなのだろうか?

引き返すのが正解な気がするが、サチにその事を伝えると「わ、私は大丈夫だから」と返ってきたし…… 一応索敵スキルをフル稼働、武器も顕現させた状態でキープしてあるから、ボス級のMobでも出現しない限りは対応出来ると思うけど………

 

やっぱり引き返さないか?

 

再度そう提案しようと、視覚だけサチの方に向けて――

 

 

「……き、ききききキリト、あああああれあれ」

 

「? ……嘘だろ、おい」

 

 

サチの視線を辿ると、木の影に白いワンピースを着た少女が。

スゥと血の気が引く気がするが、何処かの誰かのお陰で付いたホラー耐性を振り絞り、正体を確かめるべく意を決して一歩踏み出し、

 

 

――トサリ

 

 

「………へ?」

 

 

その少女が、突然倒れた。

倒れる幽霊の話なんて聞いた事ないし……

 

――まさか、人?

 

慌てて駆け寄って起こす。

歳は十くらいか、気絶していて目を覚ます気配は無い。 一応確認しても、透けたりすり抜けたりする様子も無い。

ということは、幽霊の可能性は多分無い。

 

「だ、大丈夫?!」

 

「大丈夫そうだ。 けど……」

 

ただ、プレイヤーにしてはおかしい点がある。

このアインクラッドにおいて、人であればプレイヤー、NPC、敵Mobを問わず必ず存在する筈のカーソルが見当たらないのだ。

それに状況も変だ。 この少女があの噂の正体だとすれば、少なくとも数週間はこの層を彷徨っている事になる。 幾らMob出現率が低いとはいえここは圏外。 こんな小さな子供が、見るからに防御力皆無な装備で、それも一人で歩き回るには危険過ぎる。

かと言ってNPCだと仮定すると、こうやって触れられる事自体が異常だ。

 

………バグでカーソルが消えた、のだろうか。

 

 

「兎に角、移動しよう。 第一層に年少プレイヤーを保護してる教会があるんだ。 もしかしたらそこなら、」

 

「誰か、この子を知ってる人がいるかもしれないね。 急ごう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――第一層 『始まりの街』

 

 

筋力値の関係で俺が少女を抱えて転移門を出ると、そこそこ活気付いている街の光景が眼に映る。

この街に居を置いているプレイヤー数は約二千人弱。 居住区も広く最下層故にあらゆる物価も安く、オマケにここはディアベルが所属する『MTD』のギルド本部があるだけでなく、『DK(某ブッ壊れギルド)』のメンバーが頻繁に目撃されオレンジ連中は近付きもしないのもあって、ここは余裕の無いプレイヤーやギルドにとっては文字通りの『安全圏』だ。 攻略や戦闘には一切関係しない流行の殆どはここで発生する。 一時期流行った、両手を横に真っ直ぐ上げて「そーなのかー」と言う一発ネタもここ(第一層)で発生したらしいし。

 

「それで、その教会ってどの辺?」

 

「えっと、確か――」

 

季節(十月)に相応しく薄っすらと肌寒い風が吹く中五分十分ほど足を運ぶと、ちょくちょくザザと来る教会に着いた。

いつも通りに扉をノックすると、やはりと言うべきか、扉が開いて眼鏡の女性の顔が見えた。

 

「あぁ、キリトさんでしたか。 お久しぶりです。

今日のご用件は……」

 

俺の隣にいるのがザザではなくサチだからか、少し困惑した表情で尋ねてくる。

 

「二十二層で迷子を見つけたんです。 ただ、バグなのか少し様子がおかしくて」

 

「二十二層で、ですか?」

 

サーシャさんもその異常さに気がついたのか、「一先ず、中へどうぞ」と教会の扉を大きく開いた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

――キリトがサーシャって人と話し込み始めてから暫くの間。 目が覚めた時に寂しくないように、クッションが敷かれた長椅子で眠り続けている女の子の側に座る。

時々ここに住んでいる子供たちが訪ねてきてくれるから、この女の子を知らない? と聞いてみても、返ってくるのは「見たことない」という返事だけ。

 

 

「はぁ……」

 

小さな寝息を立てている女の子。 その様子は、少し目を離しただけで消えそうな程儚くて。

 

……考えてみれば、この子は長い間、たった一人で薄暗い森を彷徨っていたんだよね。

一人ぼっちの寒さ、怖さ、寂しさは知ってるけど……この子は多分、もっと辛い目に遭ってきた。

 

「……もう大丈夫だから。 あなたはもう、一人じゃない」

 

私よりも細い、華奢な手を優しく握る。

柔らかくて、ほんの少しひんやりしている手を包んで――私の手が、本当に小さな力で握り返される。

 

「――え?」

 

思わず女の子の顔を覗き込むと、睫毛が微かに震えて、瞼がゆっくりと持ち上がり、黒い瞳が、真っ直ぐに私を見つめる。

 

「き、キリト! キリト!! 目を覚ましたよ!」

 

慌ててキリトを呼ぶと、すぐさま飛んでくる。

取り敢えず背中を支えながら上半身を起こしてあげる。

 

「え、えっと…… 自分がどうなったか、分かる?」

 

どこか寝惚けているような視線で私を見上げていた女の子は、少ししてからゆっくり首を振った。

 

「っ…… じ、自分の名前は分かる?」

 

「なま……え……? わたし……の……なまえ……

 

………ゆ……い。 ゆい」

 

辿々しい、切れ切れの音が口から溢れる。

 

「ゆい………ユイちゃんか。 私はサチ。 この人はキリト」

 

「さ……ぃ。 き……ぃと」

 

……女の子の外見年齢は八、九歳くらい。 デスゲームが始まってからの時間を考えたら、多分十歳は超えている。

嫌な予感を感じながら、震える声で、決定的な質問をする。

 

「……ユイちゃん。 なんで、二十二層にいたの? お父さんか、お母さんは?」

 

暫くの間を空けて返って来た応えは――

 

 

 

 

「……わかん、ない。 なんにも………わかんない………」

 

 

 

 

――あまりにも、絶望的な答えだった。

 

 

 

 

 

 









次回予告

諸君、久しいな。 此度は出番の無かったヴラドである。
では早速次回予告に進もうと思うが……その前に二つ、報せがある。
一つは作者が携帯の機種変更をした故、僅かながら幾つかの記号がこれまでの物とは異なっている点だ。
そしてもう一つは、本当に今更の話なのだが、遂にソーシャル版FGOに手を出したことだ。 始めてまだ一週間しか経っていないこともあり、只でさえ遅い筆が更に悲惨な事となっているが……すまぬ、赦せ。

さて、白ける話は此処までとしよう。 次回予告である。


――キリトとサチが第二十二層で出逢った、記憶を失った少女『ユイ』。
果たして彼女は一体何なのか。

次回、『朝露の少女、笑顔を識る』





………話は変わるが、最近毒鳥が矢鱈と絡んできて地味に胃と頭が辛いのだが。 うむ、今日も余の幸運値は絶不調だ。
だから人が間食にと持って来た甘味を掠め取るのは辞めぬかピトフーイッ!?



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