串刺し公は勘違いされる様です(是非もないよネ!) 【完結】 作:カリーシュ
――サーシャさんに淹れて貰ったカップを少しずつ啜るユイ。 その様子を視界の端に入れながら、離れたところでサチと今後について話し合うことにした。
「……ねぇ、キリト。 あの反応ってやっぱり……」
「記憶は、無いんだろうな。 それより、あの様子だと………精神にも」
「………こんなのって無いよ。 あんまりだよ……」
俯いたサチの眦が、薄っすらと光る。
……ハッキリ言って、状況はかなり悪い。
サーシャさんに訊いてみたところ、あの子の顔も『ユイ』という名前も聞き覚えがないらしい。 かと言って、この世界は、あんな小さな子供が一人で二年弱も生きていけるような優しい場所では無い。 誰かしらが面倒を見ていたはずだ。
つまり、あの子の親なり保護者なりが居たということで、それでいて、ユイが一人で彷徨っていたという事は――
――ユイの保護者は、既に死亡している可能性が高い。
「取り敢えず、ユイの記憶を直接引き出すのは後にしよう。 子連れのプレイヤーなら、きっと噂になってる。 直ぐに見つかるよ」
「……うん。 そう、だね」
一先ずの方針を固めてから、ユイが座っている長椅子の隣に座る。
「やあ、ユイちゃん。 ……ユイって、呼んでいいか?」
カップから顔を上げたユイが、こくりと頷く。
「そうか。 じゃあユイもオレのことを、キリトって呼んでくれ」
「き………と……?」
「キリト、だよ。 キ・リ・ト」
「……きいと」
舌足らずな口で頑張ったのだろう。 少し吃りながらも、近い発音が出る。
「ちょっと難しかったな。 何でも、言いやすい呼び方でいいよ」
そう言うと、ユイは目を瞑って深く考え込んだ。
見守っているこっちが不安になり始める程の時間が経った頃、漸く瞼を上げたユイは、俺の顔を見上げ、おそるおそる、口を開いた。
「………パパ。
さぃは………ママ」
「「っ!?」」
想像の斜め上どころか真上にカチ上げた呼び方に、思わずサチの方をチラ見する。
あっちもパニクっているのか、顔を真っ赤にしてキョドッていた。
「わわわ、私が、ママで、き、キリトが、ぱ、ぱぱぱ―――ふひゅぅ……」
デコ辺りから湯気を出しながらくたっと崩れ落ちるサチ。
……もしかして――
思わず幸せな妄想が浮かんでしまい、我ながらナイナイと頭を振って、ユイに向き直る。
ユイは、なぜ急にサチがダウンしたのか分からず、首を傾げていた。
「ママ………?」
「あーその、その呼び方は――」
「パパ………?」
不安そうな目で見上げられ、強烈な罪悪感が湧き上がる。
この子がオレたちを本当の両親と勘違いしているのか、或いは、もう居なくなってしまった両親を求めているのか――
どんな理由にせよ、この子を拒絶することは出来ない。 しかし万が一ピト辺りに知られれば、胃に穴が開く程度なんて可愛らしいと思える程弄られるのは確定どころか、話にわざとヒレどころかエラまで付けた状態で攻略組中に広まるよう仕組む恐れすらある。
自分よりテンパっている人を見た影響か、不思議と落ち着いている頭でウンウン悩み――
「………パパ…………?」
「――うん、そうだな。 もう大丈夫だからな、ユイ」
その程度、一層攻略直後の『ドラキュラ』より『ビーター』の異名の方が流行っていた頃に比べればマシか。
オレの返事を聞いたユイが初めて浮かべた笑顔を見て、その判断が間違っていないのを実感した。
――サチをどうにか起こした後、道中で買ったピーナッツサンド(調理者匿名:小竜公)を三人で齧りながら過ごすこと数分。
身支度を整えてきたサーシャさんが、情報屋に捜索依頼を出すという事で、ユイに幾つか質問をし始めてすぐ。
突然教会前が騒がしくなり――金属音と、破壊不能を示すシステムタグの発生と共に鳴る、甲高い音が響く。
第一層主住区じゃあまず聞かないような音に慌てて出て見れば、白いフルプレート姿の集団が、銀色のポニーテールが特徴の女性と、
な、なんであいつらが此処にいるんだよ?!
忙しいとかでここ最近見かけなかったメンバーがいる事に驚きながらも、一先ず援護しようとフルプレート集団の中でも一番装備のランクが高そうな奴をソニックリープで吹き飛ばす。
衝突音が鳴り止まない中で一際デカイ音が発生した事で注目を集めたのか、集団の視線がオレに集中する。
先ずは状況確認。 そう思って口を開きかけて、
「……く、『黒の剣士』だ!? 退け、退けー!」
「……………」
一度に色々起きて、とりあえず剣は仕舞っておくか、と少し的外れな事を考えながら振り返った。
……これって、絶対面倒ごとだよなぁ………
◇◆◇◆◇◆◇
「――つまり、どういう事だってばよ」
テツオ曰く――
第一層に来ていた黒猫団男性陣&エムは、偶々あのフルプレート集団が例の女性プレイヤー……プレイヤーネーム『ユリエール』を追いかけている所に出くわしたとの事。
強引に割り込むも、何故か連中は一度逃走。 エムがそいつらを追い掛けに離れて直ぐに再度襲撃され、慌てて応戦。
何故か回廊に押し込まれそうになったり、転移結晶のワープに巻き込まれそうになったりしながらも、何とか教会まで逃げてきたところだったという。
うーん、相変わらず訳が分からない。
そんな感想は、サーシャさんに他のDKメンバーの行方を聞いているユリエールの話を聞いて、ある程度は把握出来た。
――『MTD』。 アインクラッド解放軍の前身のギルドにして、軍解散後に当時のツートップが所属した状態で復活した治安維持ギルド。
そのツートップであるディアベルとシンカーが、ポータルPKに引っかかったとの事。
犯人は、元アインクラッド解放軍のメンバー。 抵抗したものの、相手は最底辺ながらも攻略組程度の実力はあったらしく、彼女一人が逃げ出すのがやっとだった。
以来、ずっと逃げ続けていたらしい。
「……彼らは事が明るみに出るのが嫌なのか、執拗に私を追いかけて来て……幸い、フレンド欄でシンカーたちの無事は確認出来るのですが、生命の碑すら確認出来ないほどで……」
その後は、さっき見た通り。 見つかって襲撃された所でケイタたちが現れた、か。
「あの、無茶を承知でお願いします。 助けて下さい! 私では、シンカーたちが何処に転移させられたかすら分からなくて…… お願いします!」
涙目で頭を下げ、そう言うユリエール。
力を貸してあげたい。 それがオレの本音だ。 だが――
「確かに、助けたいとは思う。 けど、」
「……はい。 それは、分かっています」
助けを求めるフリをして誘き出し、襲撃する。 とても簡単で、――それでいて、強力な罠。 このデスゲームに於いて、その可能性は決して無視出来ない。
オレンジと見れば即
けれど、もしも本当の事だとしたら。
高い結晶アイテムを湯水の様に使う財力に、妙に圏内での襲撃・逃走に慣れている連中だ。 被害が拡大する可能性もある。
それに、ポータルで飛ばされた二人も心配だ。
……一応最低限の裏取りとして、こっそりディアベルに連絡を試してみたが、
ならば助けに行くと言いたいけれど、その判断を躊躇わせるのは、ディアベルたちが飛ばされた先が不明という事だ。
事態は一刻を争う。 けれど、この世界での経験が警鐘を鳴らしている。
その時、サンドイッチを静かに頬張っていたユイが、小さく喉を鳴らしてから言った。
「だいじょうぶ、だよ、パパ。 その人、うそついてないよ」
――恥ずかしながら、この瞬間の詳細はあやふやだ。 気が付いたら、何故かケイタが三人がかりで絞め落とされて、サチがまた気絶していた。
急変して即沈静化された状況に呆気に取られつつも、サチが抱き抱えていたユイを見つめながら「判るのか?」と聞くと、ユイは頷いた。
「……そうか。
よし。 ユリエールさん、手伝わせてください。 全力を尽くします」
その返事を聞いたユリエールさんは、涙目になりながら、頭を下げた。
――さて。 とは言ったものの、ディアベルたちの送られた先も犯人の居場所も不明だ。
前にDKとの取引でオレンジギルド狩りに付き合った事はあれど、その時は殆ど相手の情報は揃っていた。
唯一の例外と言えば――
「……囮作戦」
「? キリト、何を――」
手元にあるマップを総て広げ、ふと十九層にある子丘が目につく。
こう言っては何だけれど、今と
『誰が』『誰を』狙っているのかが明白。
でも……
「……ユリエールさん、」
思い付いた提案を言い掛けて、けれど危険性から辞めようとして。
その訂正は、
「――いえ。 私も同じ事を思いつきました。
私が、囮になります。 彼らは必ず、私を襲うでしょうから」
決意の篭った空色の瞳に遮られた。
◇◆◇◆◇◆◇
――第三十四層主住区 裏路地
――中世ヨーロッパ調の石畳の路地を、金属で補強されたヒールの靴が踏み付け、駆ける。
追い縋るは、無骨な金属ブーツの集団。 怪しまれない様にか、その手に武器は無く。 側から見れば、場所によってはまあ稀に見られる、女性を追っ掛ける傍迷惑な男性プレイヤーと映るだろう。
ただしこの世界では武器が無かろうと圏内では『ブロック』や『ボックス』が可能な分、寧ろ武器を持たない悪意の相手の方が危険な事がある。
事実、入り組んだ裏路地を疾走する華奢な足は、人という垣に阻まれて立ち止まる事を強制された。
慌ててUターンしようにも、そこにも既に人が。
代表するかの様に、一際体格の大きい男が一歩踏み出す。
「やーっと追い付いたぜ、副団長副官サマよぉ。 教会でビーターと合流された時は肝が冷えたが……」
そこで自分たちが何処に居るのか思い出したのか、声を一段小さくして続ける。
「――普段表に出ないアンタが泣き付いた所で、信用が足りなかったって感じだな」
「くっ!」
女性が左腰の鞭をホルダーから外して構える。
しかし男たちの余裕は消えない。 不破壊オブジェクトを力付くで動かすには、鞭はあまりにも非力なのだから。
「なに、心配しなさんな。 ちゃんとアンタのシンカーの元に放り込んでやるよ。
ま、出迎えるのは男じゃなくて――」
――ただし。
彼らを動かしたモノは、一切の力を振るわなかったが。
屋根の上。 紅い
それでいて満月の様に輝く銀髪。
顔こそ見えないけれど、そこに居るのは、彼らの様な日陰者が何よりも畏れる『
まずその姿を目撃した男が硬直し、次にその様子を怪訝に思った集団が空を見上げ、思考が停止する。
その空白に浮かんだのは、見張り役への恨みか、大金を支払った後ろ暗い商品専門の情報屋への怒りか。
ただ一つ断言出来るのは、
――虎穴に入ったらそこはヒュドラの群れの巣穴だったという
「……………て、撤退!! 撤退ぃーーッ!!」
「ど、どけ! 邪魔なんだよ!」
「ちょ、お前転移結晶蹴るな!?」
当然パニックが起き、統率が乱れる。
彼らが悪用していた犯罪防止コードが逆に彼らに牙を剥き、結果として互いに突き飛ばしあい、混乱が更に深まる。
けれど、その無秩序は長くは続かず。
次回予告 (CV:大◯保◯美)
ハーイ! 第三話でフラグが立って七ヶ月。 やっと出演が決まった――
………え? まだ名前は言っちゃダメ? なんでよ!? 折角のアタシのアイドルデビューチャンスを邪魔する気!? だったら貴女でも容赦しないわよ!
違う? じゃあ何よ?
……………今一番流行りはお淑やか系? 元気っ子は下火なぅ?! うー………
(10分後)
――し、しょうがないわね。 ほら、原稿寄越しなさい。 お淑やかにやればいいんでしょ、お淑やかに! 少しなら付き合ってあげるわよ!
えぇふん!
無事情報を引き出すことに成功した一行。 指し示された先は、未踏の地下ダンジョン!
けれど、当然万事上手くいく筈も無く。
『死』が、彼らの前に立ち塞がる。
次回、(今度こそ)『朝露の少女、笑顔を識る』
ところでジル。 貴女、なんでさっきアタシが悩んでる時にアタシの写真撮ったのよ?
………? かりすまがーど? なによそれ?