串刺し公は勘違いされる様です(是非もないよネ!) 【完結】 作:カリーシュ
折角の祭日なのに、普通に一話投稿するだけじゃつまらないと思ったので、予告無しにもう一話投稿しました。
〆切に追われるアンデルセンの気持ちがちょっとだけ分かりました(苦笑)。
――『彼』は、不幸な人間だった。
医者の息子に産まれながらも病弱で、入退院を繰り返しているうちに留年。
両親からは見放され、弟にプレッシャーが集中している現状からくる罪悪感からも逃れるためにゲームにのめりこんでいった。
そして、辿り着いてしまったのは、鋼鉄の浮遊城だった。
――デスゲーム開始が宣言され、真っ先に心に思い浮かんだのは、『恐怖』だった。
『死にたくない』という、生命として当たり前な『死への恐怖』。
残してきてしまった現実の心残りである弟のこともある。
――進まないといけない。
直勘的にその考えは浮かぶが、過去の失敗の経験や、ゲーマーだからこそ分かる、
それに、仮にクリア出来たとしても、自分にはもう、現実の居場所は無い。
………だったら、いっそ、――
思考が
「――聞けぇぇぇぇぇ!!」
――きる前に、運命は、変わった。
突然の大声に驚いて目を向ければ、そこにいたのは、おそらく外国人であろう長身の銀髪の男性。
「余の名はヴラド! これより我らは次の町『ホルンカ』へと進む! 我こそはと思う者は付いて来い! 死の恐怖に震える者は留まるがいい!
だが、これだけは言っておこう――
ここで脚を止めた者は敗者である!
あれらは蛮族。 我らの道を穢し、不遜に下劣に喰らう事しか頭にない愚者どもだ。
それらに屈服すること、それ即ちこの世界への降伏である!」
それだけ叫ぶと、さっさと町の出口へと歩いて行ってしまう。
――嵐のように叫び、嵐のように去る。
その反応はまちまちだった。
勢いと激しい言葉使いに押されたのか、俯いたままその日の宿を探しに歩む者。
何かに触れたのか、大急ぎで武器屋やアイテムショップに向かう者。
異端者を見るような目でそれらを見送る者。
あの男とは別にパーティーを組み始める者。
そして、彼は、
……………追おう。 あの人を。
惹かれた側の人間だった。
リアルは今まで負けっぱなしだった。 期待されることなんてなかった。
だからゲームにのめりこんだのに、そのゲームですら負けたくはない。
……それに、何より。 あの人と一緒なら、『ナニカ』が変わる気がする。
それを願って、暗くなり始めた町を歩く。
武器は……レイピアのままでいいだろう。 後はアイテムだな。 同じ町のNPCショップでも、値段が違っていることはよくある。極僅かな差でも、小金しかない今は、その差は大きい。
マップを開いて、アイテムショップのマークを頼りに向おうと路地に足を踏み入れ、
「っ!?」
途端に壁にぶつかったかのような衝撃が身体を打つ。
咄嗟に前をみれば、同い年位の白髪の少年が大袈裟に呻いていた。
「うお〜、痛って! マジ痛って! さっすがVRゲー!」
「すまない、前を、見てなかった。 大丈夫、か?」
ナーヴギアにはペインアブソーバーが付いていて痛みは無い筈だから、習慣や反射のようなものだろうとはいえ、一応、声をかける。
「……と思ったけどアレ? そんなでも無いな?
ま、いいか! それよりオタク、もしかしてこのゲーム慣れてる?」
「いや、
「なーるほど、それで……」とジロジロ上から下まで眺められる。
それに僅かにイラついたころ、ヘラヘラしながら手を差し出してくる。
「じゃあ、オレたちパーティー組まないか? なんっか合いそーな気がするぅんだよな、オレたち」
……何が『じゃあ』なのか分からないが、一人よりかは安全だろう。
渋々ながらもこちらからパーティー申請を送り、すぐに自分のHPバーの下にもう一人分、名前とゲージが表示される。
「そいじゃ、よろしくな『ザザ』!」
「あぁ、『ジョニー・ブラック』」
――改めて聞けば、ジョニーはVRゲーこそ初めてだが、旧作のMMORPGのプレイ経験はあるらしく、同じような理由で路地にいたらしい。
町中心近くの店で回復ポーションを買えるだけ買って、町の西に向かう道すがら、ふと何でジョニーはオレより早く動き出せたのか聞いてみれば、
「だってよ、まるで異世界転生モノみたいじゃん! オレTUEEEEしないともったい無いじゃん!」
とまあ、わりとふざけた答えが返ってきた。 武器は
………本当に大丈夫なんだろうか、コイツ。
早くも後悔し始めてきた頃、漸く町の出口が見えてきた。
もう既に何人か集まっていて、その中心には、腕を組んで門の支柱に寄り掛かる、あの男の姿があった。
もう出発するのかと、慌てて最後尾に混ざると、男の目がオレたち全員を見渡して、
「――行くぞ、テメェら!」
隣にいた野武士顔の合図で、一斉に夜の道へと、踏み出した。
――当然、一分としないうちにモンスターが湧いた。
いくらここが最下層、最初の町のすぐ外とはいっても、ゲームは始まったばかりでプレイヤーのレベルは低く、ステータスも低い。
前や横にポップしたモンスターを引き剥がすことも出来ず、すぐに乱戦になる。
………そう、思って
パーティーの前列。
襲い掛かるほぼ全てのモンスターが、そこで殲滅されていた。
五人前後のプレイヤーがソードスキルとスイッチを駆使して立ち回っているのもすごいことだけど、
――アレには、敵わない。
―――
それが見える頃には槍が首に突き刺さり、貫通ダメージを与えながら前方の狼や猪に叩きつけ、三体まとめてポリゴン片に砕く。
相手からの視線が途切れたその一瞬で逆手に持ち替えて一直線に突進、猪の額に突き刺さすと棒高跳びの要領で跳び、体重をかけて槍をより深く突き込んで止めをさし、高所からの振り下ろしで初めて見る植物型モンスターを幹竹割りに真っ二つにする。
飛びかかる狼を、槍を一回転、石突きで撥ね、奥のモンスターの眼部を二段突きで潰し、落ちてきた狼を槍の穂先を掲げる事で串刺し、仕留める。
槍の耐久値が下がれば、敵の急所を貫通させて大地に縫い付け、経過ダメージで殺す。
一切ソードスキルを使わず、硬直時間零で槍が縦横無尽に振るわれ、モンスターを突き、裂き、砕き、跳ね、蹂躙していく。
流石に完全に無双とはいかず囲まれてダメージを受けることこそあれど、一々呷る間も惜しいとポーションを瓶ごと噛み砕いて飲み干し、再度蹂躙が始まる。
――月を背後に、青白い顔の口元を
――ホルンカに辿り着くまでの一時間超、常に最前線に立ち続けたその体力。
――モンスターすらを軽々と振り回す力。
――執拗に
――まるで永い時を生きた様な風貌や威厳と、何処か時代錯誤な言葉使い。
誰かが、こう呟いた。
―――まるで、『ドラキュラ』だ、と。
――ホルンカに着く頃には、無限に思えたモンスターの群れは全て殲滅されていた。
長時間に渡る連戦、乱戦で疲弊しきり、全員が地に伏せているのに、その男だけが立っていた。
――それが当然だとでも言うように。
――寧ろ、血が、生贄が足りぬとでも言うかの様に。
男は
「ま、待って、くれ――」
咄嗟に呼び止めようとするも、声が掠れてでない。
その間にも、闇の中に蝙蝠に化けて消えそうな背が遠ざかる。
「……アイツがザザの言ってた奴なんだよな?」
「あ、あぁ」
「ふーん…… おし、行こうぜ!」
ひょいと立ち上がると、スタスタと近づいていく。
置いて行かれない様に慌てて後を追うと、丁度ジョニーが話しかける所で追いつけた。
「すぃまっせ〜ん。 アンタが『ヴラド』ですかぁ?」
「………貴様らは?」
振り向いたその顔は、暗い夜なのもあってか、顔の青白さと青い瞳が、月や銀のような鈍い輝きを放ってオレたちを貫く。
「オレは『ジョニーブラック』。
んでコイツが『ザザ』。 なんでも、オタクの演説が効いたらしくてよぉ」
「…………………」
「ぁ? もしもーし?」
ジョニーが名乗ると、ほんの一瞬目が細まり、僅かにプレッシャーが増す。
気が付いていないのか、ジョニーは変わらず話しかけ続ける。
「ちょっとー、オッサン聞いてるかー?」
「……あぁ。 どうやら余も疲れているようだな、少々惚けていたようだ。
して、何用だ?」
「それはな、どうやったらあんな風にバッサバッサ敵吹っとばせるんだよ?! オッサン戦国バ○ラの人?! なあオレにもやり方教えてくれよぉ〜」
どうやらジョニーは、人間程の大きさのあるモンスターを文字通り吹き飛ばした力の方に興味があるらしい。
……そういえば、『俺TUEEしたい』とか言ってたっけ。
何かに警戒していたのか、増していたプレッシャーが緩み、質問に応答する男。 その応えも、現実で武術を習った事があるのか、ひたすら戦闘経験をつませるのではなく、基本を押さえたものだった。
満足したのか、「じゃ〜な〜」と元気よく村を飛び出していくジョニー。 ただしちゃんと理解しているかどうかは不安だ。
似たような事を考えていたのか、男も小さく溜息を吐き、村の奥へと、何処か幽鬼のようにフラフラ歩むその背を、無言で追う。
月光に照らされる道を、道中一緒だった他のプレイヤーやNPCと二言、三言話しながら村を半周程進んで宿屋の前に辿り着く。
そこまできて、オレは焦っていた。
村を回っている間中、一度も話しかけられなかった。 それが、無視されているようで。 その姿がリアルでオレを見捨てた親にだぶって――
「何故付いてくる?」
はっと顔を上げれば、青い瞳がオレを見下ろしていた。
ただそれだけで幻影が搔き消える。
「……………」
「………黙りか」
自分でも何か言いたくて、でも喉に詰まってしまう。
かろうじて漏れ出たのは、
「――どうやったら……………
……どうやったら、アンタ、みたいに、堂々と、していられるんだ?」
そんな、とても抽象的なものだった。
当然、慌てた。 これだけじゃ伝わらないし、リアルが絡んだ内容だ。 分かってくれるはずが、ない。
………だけど、
「………堂々と、か」
薄っすら髭の生えた顎に手を当て、少し考えてから、
緩く、片頬を上げてワラいながら、こう答えた。
「……お前がどんな答えを求めているのかは知らぬ。
だが、一つだけ言うならば、自信を持て。
であれば希望せよ。
己が求める
――自分が求める、自分自身。
そんなものに、オレはなれるのだろうか。 誰にも期待されなかった、このオレに。
『自分には無理だ。』 そう言おうと顔を上げれば、
――
この瞬間、察した。
この男は、『支配者』であると。
異形の狂気と死の恐怖すら捩伏せる、『
そして、王の目の前に立ったオレに、そんな弱音を言う事は赦されないと。
「……分かった。 やって、みる」
気が付いたら、オレの口はそんな事を言っていた。
それを聞いた男は、当然だとでも言うかのように嗤い、建物へと足を踏み入れた。
――アインクラッド最初の夜。
白く、柔らかい光を放っているはずの月が、
確かに、ほんの一瞬、
―――紅く、輝いた。