オーバーロード ありのままのモモンガ   作:まがお

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クライムの特訓

 ここは帝国にある帝都アーウィンタールの闘技場、その控室である。そこに気合を入れた顔で自分の試合を待っている男がいた。

 

 

「ラナー様のため、私はもっと強くならなければ……」

 

 

 クライムがなぜこんな所にいるのかというと、モモンガに強くなりたいのなら色んな相手と戦うと良いと言われたためだ。

 経験は大事、その通りである。

 

 

『それならまた帝国に行きませんか? あそこの闘技場ならきっと色々な人と闘えますよ』

 

 

 ラナーのその言葉により、後日帝国に行くことに決まったのだが一人不参加の者がいる。前回の事があるせいか、エンリは行きたくないと言い今回は来ていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、ゲスト枠でクライムが参加する事になったが…… 賭けの倍率がやけに高いな? 対戦相手はそんなに強いのか?」

 

「天武のエルヤー・ウズルスですね。なんでも戦士長に匹敵する剣の腕前だとか」

 

 

 戦士長クラスとなるとクライムでは勝つのは厳しいだろう。まぁ負けても格上との戦いは経験になるし良いことか。死ななければポーションで回復出来るからと、手段が無数にあるモモンガは適当に考える。

 

 

「クライム君は負けちゃうんですか?」

 

「うーん、そうだなぁ。勝つのは難しいかもしれない。でも負けるのも勉強になるから悪い事ばかりじゃないんだよ」

 

 

 ネムは純粋に応援しているため、少し心配そうだ。だが人生は何事も思い通りにいくことばかりでは無いのだ。

 

 

「そういえば、あのエルヤーという人はエルフの奴隷を飼っていて、とても酷い扱いをしているそうです」

 

 

 ラナーの悲しそうな声…… これは演技だろう。

 しかし、相手がそんな奴だったとは…… そのエルフが子供かどうかは知らんが、ネムの教育的にもよろしくなさそうな相手だ。

 子供の味方なら動くべきか……

 

 計画変更だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回の相手は無名の剣士ですか…… つまらない。確実に勝てるような相手と戦っても、今さら名声にも繋がりませんね。いっその事ガゼフ・ストロノーフやブレイン・アングラウスといった有名どころと戦えれば、この私の強さが証明できるのですがね……」

 

 

 エルヤーは控え室で次の対戦を待っていた。

 今回も自分の勝利は揺らがないと、既に勝った気でいる。

 

 時間となり、観客達の見守る試合の場にいつもの様に出て行く。

 向こう側からやって来た対戦相手は、小柄だが立派なフルプレートを纏った剣士のようだ。

 自分の持っている物よりもはるかに上質だろう装備を見て、思わず舌打ちをする。

 

 

「天武のエルヤー・ウズルスです。どうぞよろしく」

 

「――ナイト・オブ・ゴールデンプリンセスです……」

 

 

 思わず吹き出しそうになった。

 なんだそのバカみたいな名前は…… 金にモノを言わせたどこかのボンボンが遊びで出場して来たのだろうか。

 

 

「少し賭けをしませんか?」

 

「……?」

 

 

 声からして男だろうが、フルプレートで表情の見えない相手から提案があった。

 

 

「もし貴方が勝てば私の身につけている装備を差し上げましょう。その代わり私が勝てば貴方は二度と奴隷を買わず、今の奴隷も解放する。どうでしょう?」

 

「面白いことを言いますね。いいでしょう、精々貴方の装備に傷をつけずに勝たせてもらいますよ」

 

 

 率直に言って怪しい…… 目の前の男は、どこか台詞を言わされている感がある。歩いていた動きを見るに緊張していて、実戦経験の少なそうな素人。

 結局のところ自分が負けるはずもないと、賭けを承諾する。

 

 そして、試合のゴングが鳴った。

 

 

「では、その装備を質屋に持っていかないといけないですからね。観客には悪いですが…… 一瞬で決めさせて貰いますよ!! 〈縮地改〉!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クライム君、ドカーンってなって凄かった!!」

 

「あのような勝ち方で良かったのでしょうか?」

 

「たとえ相手の実力の方が遥かに高くとも、道具や戦い方によっては勝てる。それを学べたんだしいいだろう。逆に敵を侮るとあっさり負けてしまうことも、今日の相手を見て学んだな」

 

 

 

 試合内容は余りにも酷かった。

 

 あの後クライムの控え室にいき、相手に持ち掛ける提案を話した後、モモンガは装備を渡した。

爆裂(エクスプロージョン)〉の魔法を籠めたフルプレートを着てもらったのだ。攻撃されれば発動するようになっており、魔法版のなんちゃって爆発反応装甲(リアクティブ・アーマー)である。

 

 やり過ぎないよう程よい加減が難しかったが、エルヤーは死んでないし上手くいったようだ。

 

 結局クライムは終始棒立ちしていただけで、剣すら振らずに勝ってしまった。ある意味これは歴史に残る一戦だろう。

 

 

 

「そういえばラナーはクライムに賭けていたようだが、儲かったのか?」

 

「ええ、とっても儲けさせて貰いました。さぁ、今回は私がご馳走するので、パァーッと盛大にご飯に行きましょう!!」

 

「私も食べることが出来たら良いんだがなぁ。これだけはアンデッドの身体に不満があるよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皇帝ジルクニフが働いている執務室。

 そこに一人の秘書官が物凄い勢いで駆け込んでくる。

 

 

「陛下、ご報告があります!!」

 

「どうした? なにやら慌てているようだが」

 

「帝都アーウィンタールの闘技場で少々損害が出まして……」

 

 

 歯切れの悪い言い方をする部下に、答えやすいように何でもないことのように軽く聞くジルクニフ。

 

「なんだ? 大番狂わせの試合でも起こったか? それで損害はいくら出たんだ?」

 

「金貨で約7万枚になります……」

 

「7万だと!?」

 

 

 基本的に闘技場の賭けは、こちらが儲けられるよう出来ている。

 それがたった一度の試合で、金貨7万枚の損害が出るなど誰が予想できようか。

 

 

「アハハハハ…… クソッ!! 一体誰が戦った試合だ!!」

 

「天武のエルヤー・ウズルスと…… ナイト・オブ・ゴールデンプリンセスというフルプレートを着た戦士の試合でした」

 

 

「ま・た・あの女かぁぁぁあああ!!」

 

 

 皇帝の怒号が執務室に響き渡る。

 

 ご飯を食べたモモンガ達は、みんな笑顔で帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ、流石に強いな…… 森が破壊されるだけのことはある。トレントがここまで強いとはな」

 

「諦めんなよ、ザリュース!! 俺たちにはまだ足も腕も付いててピンピンしてんだからよ!!」

 

「そうだな、ゼンベル…… それに今の俺たちには心強い味方がいる!!」

 

 

 世界を滅ぼす魔樹と言われる樹の魔物、名をザイトルクワエ。

 トブの大森林に封印されているザイトルクワエは復活するための養分を集める為かどうかは分からないが、自身の分裂体を放っていた。

 ただの分裂体と侮ってはいけない。

 その分裂体でさえ、かつて13英雄達が戦う必要があった程の強さを持つトレントである。

 

 それがリザードマン達の集落を襲っており、それを切っ掛けに全ての部族が一丸となって立ち向かっていた。

 そして、それを助ける通りすがりの男が一人。

 

 

「そこまで言われたら頑張らない訳にはいかないな…… それに正義の味方としては生き物の住処を奪い、自然破壊を行うトレントは止めないとな!!」

 

 

 亜人も人も関係無い。

 そこには生きる為に力を合わせ、必死に足掻く者達がいた。

 

 

「俺の〈神閃〉とあいつの〈六光連斬〉を合わせた新たな武技を見せてやる!! 〈秘剣虎落笛(もがりぶえ)剪定(せんてい)〉!!」

 

 

 同時に放たれた6つの神速の斬撃。その全てが分裂体を切り裂いていく。

 

 

「ありゃあ凄え。高い所の枝までバッサリだ」

 

「ああ、高枝切り鋏だな」

 

 

 正義の味方は今日も刀を振るい、更なる高みへと上り詰めていくのだった。

 

 

 


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