魔法の使い過ぎと仕事の斡旋のし過ぎでダウンしていたラキュースが復活し、再び活動を始めた冒険者チーム『蒼の薔薇』。
そんな中、ラナーに呼び出されていたラキュース達は王都で再びモモンガ達に出会った。
「天誅!!」
「おっと、危ないな」
出会い頭にいきなり魔剣を振り下ろされたが、モモンガは特に危なげなく回避する。
今ネムは肩車ではなく、少し離れた位置で歩いていたので安心してほしい。
いくら怒り爆発中のラキュースでも、子供が肩車されている状態の骨に魔剣を振り回すほど馬鹿ではない。
「いきなり武器を振り回すとは危ないじゃないか。アダマンタイト級冒険者なんだし、他の冒険者の手本となるような振る舞いをしないと……」
「いきなり厄介事をぶん投げた貴方には言われたくない!!」
ラキュースは以前の事で随分と怒っているようだ。〈
魔法効果範囲拡大化も籠められているものだから大丈夫だと思ったのだが、お礼も含めて多めに渡しておくべきだったかもしれない。
「アンタが噂のアンデッドか。こんなに堂々と歩いてると寧ろ清々しいな」
「あの子可愛い。持ち帰ろう」
「ダメ。私の勘が言ってる。それをしたら死ぬ」
大柄な女性のガガーランに、双子の忍者ティアとティナも話しかけてきた。
元暗殺者の勘は中々侮れない。見事な即死回避である。
「まったくアイツらは…… それにしてもお前達、やはり強さを感じられんな。本当にアダマンタイト級なのか?」
「む〜、モモンガ様はすっごい強いもん!!」
二人のちびっ子が張り合ってるが、ネムは実際強くないので半分は合っている。
そんな仲間を置き去りにして、ラキュースは段々とヒートアップしていた。
「こうなったら決闘よ!! 私と勝負しなさい」
「どうなったらそんな結論に至るんだ…… それで気が晴れるなら私は構わんが……」
お互いにラナーに会いに王都まで来ていたため、話を通して城の一角を使わせてもらうことになった。
笑顔のラナーは結末を分かっているのだろうが、クライムと共に観戦するつもり満々だ。
「それでは折角なので私が合図を出したいと思います。お互いに相手に致命傷を与えてはいけませんからね。使役魔獣モモンガ対、蒼の薔薇ラキュース、はじめ!!」
「死ねぇぇ!! 喰らえ!! この骨ぇぇ!!」
「ははは、ブレインに比べたら止まって見えるぞ」
ラキュースは試合開始と同時に突撃し、魔剣を振り回しているがモモンガには一発も当たらない。
現在血が上って剣筋が多少乱れてはいるが、ラキュースはアダマンタイト級に恥じない神官戦士であり決して剣の腕は悪くない。
「凄いな、アイツ全部余裕で避けてるぞ」
「鬼ボスには冷静さが足らない。あ、剣を素手で掴まれた」
「鬼リーダーは熱血。あ、そっと離してもらってる」
モモンガに馬鹿にされたと思ったラキュースは、涙目になりながらも必死に剣を振るい続けるが掠りもしない。
もし当たっても上位物理無効化があるのでダメージは入らず、勝ち目はもともと無かったりする。
「くっ!! たとえ実力で負けても心では負けていないわ!!」
剣を振るう体力が無くなったラキュースが、膝をつきながらモモンガを睨んでいた。
「鬼リーダー敗北。途中から予想はしてた」
「鬼ボスくっ殺。だがそこが良い」
「はい、今回の勝負はモモンガ様の勝利ですね。ラキュース、残念でしたね」
近くで見ていたラナーが手を叩きながら間に入り、モモンガの勝利宣言をした。
「折角ですしネムさんもやってみますか? 同じ様に戦鎚を使いますから、ガガーランさんに胸を貸してもらったらどうですか?」
ラナーは完全に面白がっている。
そもそもネムは武器を持ってないし、アレは一時的に貸したジョークアイテムだ。
「でも、あれを使ったらガガーランさんを吹き飛ばしちゃいますよ?」
子供の純粋な疑問だったのだが、ガガーランは可愛い挑戦と受け取ってしまう。
「ほぉ、言うじゃねえか。良いぜ、先にアダマンタイト級になった先輩として胸を貸してやるよ。どーんとかかって来な」
「えーと、わかりました。モモンガ様、前のピコピコ貸してください!!」
モモンガからネムに手渡された物を見て笑う。
どう見てもオモチャだ。
面倒見の良い姉御肌だったガガーランは子供の訓練に付き合うのも悪くない、そう思って構えを緩めた。
「ではネムさんとガガーランさんは安全にするために、こけたり倒れたりした時点で負けにしましょうか」
ラナーの合図でネムがゆっくりと走ってくる。
まずは一発当たってやろう。
そう思ってネムの振るう小さなハンマーに無防備に当たった。
――ガガーランは吹き飛んだ。
「凄い。ガガーランが飛んだ」
「流石。幼女は最強」
『蒼の薔薇』二連敗である。
「全く情けないな。だが、『蒼の薔薇』の一員として負けっぱなしで終わりには出来ん。こい、私が格の違いを教えてやろう」
モモンガのラウンド2、イビルアイとの戦いが始まった――
「――魔法無効化とか聞いてない…… 殴ってもビクともしないし、勝てるわけが無いだろ……」
「蒼の薔薇、完全敗北」
「流石イビルアイ。期待を裏切らない」
ティアとティナは端っこで三角座りをしながら、いじけている赤ずきんの周りを回って煽るのだった。
「さぁ、皆さんの親睦も深まったところで大事な話があります」
「ラナーよ、大事な話なら先に話すべきだったと思うぞ」
蒼の薔薇は一部を除いてテンションが下がりまくりである。
「レクリエーションも大事ですのに…… さて、真面目に話をしますね。アベリオン丘陵からエイヴァーシャー大森林付近にかけての亜人が妙な動きをしているようです。恐らく法国が動き出しました」
引き篭もらなくなったラナーは、法国の秘密裏の動きをアッサリと掴んでいたのだった。
法国の秘密作戦バレバレである。
トブの大森林にあるモモンガの家で寛いでいるのはブレイン、エンリ、ネムの三人。
モモンガが偶々居ない時に来たので、珍しい組み合わせで話している時のことだった。
「あー、モモンガはまじで強すぎるな。ところでネムちゃんの使役魔獣になる前は何してたんだ?」
「そういえばモモンガ様はあまり昔の話はしませんね。ネムは少しだけ聞いたことがあるのよね?」
「うん…… ぎるどっていうお友達との居場所を守るために、ずっと一人で戦ってたって言ってた……」
その時のことを思い出したのか、ネムの声が少しだけ暗い……
「ただいまー。ん? 三人でここに居るのは珍しいな。何の話をしてたんだ?」
重い空気を入れ替える様にモモンガが帰ってきた。
モモンガの過去が気になっていたと三人に聞いたモモンガは、なんだそんな事かと軽く話し始めた。
「そうだな、私は普通に働いてたな。よくある会社の営業職だったよ。ここで言うとなんだろうな…… 商品を他の組織に売り込む下っ端の商人といったところか」
骸骨が商人とか全然似合わないし、モモンガ程の存在が下っ端の想像も出来ない。
ネムの聞いていた話と雰囲気が違いすぎるため、三人は首を傾げていた。
「あー、すまんがネムちゃんから少しだけ聞いちまってな。ずっと戦っていたと聞いたんだが……」
少し悪いとは思ったが、どうしても気になったブレインはそんな事を口にするが歯切れが悪い。
「ごめんなさいモモンガ様。勝手に話しちゃいました……」
「ああ、別に気にすることはないさ。大した話でもないしな。ネムから聞いたということはギルドの方の話だな。 ――ふむ、実は私は当時の世界で知らぬ者はいないとまで言われた、悪の組織のギルドマスターでもあったんだよ」
そんな事を笑いながら話すモモンガに、三人は何を言っているのかわからなくなった。
「訳がわからん…… まぁ、俺が戦わなくても良いように悪の親玉には復帰しないでくれよ?」
「なんだ信じていないのか? どれも本当の話だぞ。 ――本当にどれも私の大切な過去だよ。モモンガになる前の…… モモンガになった頃のな」
ブレインはふざけたように言ったが、モモンガにとってはどれも嘘は言っていない。
三人がモモンガの過去について正しく理解するのは、まだまだ先になりそうだった。