オーバーロード ありのままのモモンガ   作:まがお

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修行の成果

 ラナーの平和を取り戻す策略により、リ・エスティーゼ王国とバハルス帝国は交流試合を行うことになった。

 出場する選手の選定と仕事の調整のため、例のアンデッドに出来るだけ早く対応しなければならない等の理由から、試合が行われるのは5日後。

 それまでの間暇となったモモンガ達は、のんびりと観光を楽しんでいた。

 もちろん魔法でこっそりとネムとエンリを連れて来て、試合前日まで一緒に楽しんだ。

 

 試合の前日までフールーダの弟子と連携訓練をしていた、真面目な帝国四騎士とは対照的である。

 

 そして試合当日――

 

 

「今日は我が帝国が誇る四騎士と優秀な魔法詠唱者(マジックキャスター)の実力をお見せしよう。我々のチームは五人だが王国側は何人かな? 別にこちらより一人多い六人でもルール通りだから構わんよ」

 

 

 人数など用意出来まいと確信しているからこその、余裕の態度を見せるジルクニフ。

 

 帝国側のメンバーは雷光バジウッド・ペシュメル、モモンガが使っている物よりは小さいが、グレートソードを扱う見た目通り豪快な戦士だ。

 撃風ニンブル・アーク・デイル・アノック、一般的なサイズのロングソードを使い、育ちの良さが出ているのか実直な剣術を扱う。

 重爆レイナース・ロックブルズ、四騎士唯一の女性で最強の攻撃力を誇る槍使い。

 不動ナザミ・エネック、両手に盾を持つ珍しいスタイルだがその防御は一級品である。

 そしてフールーダの弟子、第4位階の魔法を扱える一流の魔法詠唱者(マジックキャスター)

 

 頭の中で長い説明がよぎったジルクニフ。まるで勝ち筋まで見えるようだとほくそ笑む。

 

 

「ではこちらのメンバーを紹介しますね。クライムとその家庭教師です」

 

 

 そこにいるのはラナー御付きの兵士と仮面をつけた謎の人物。

 たったそれだけで挑もうなど馬鹿げているとしか言えない。人数も規定の三分の一とはなめられたものだ。

 

 

「王国はやはり人材が不足しているようだ。六人以内とは言ったがたったの二人しか用意出来ないとは……」

 

「多ければ良いというものではないですから。あっ、髪は量も大事ですけどね。それにしても皇帝陛下はストレスでも溜まっているのですか? 髪の艶がよくありませんよ。量も無ければ質まで悪いなんて…… そうだわ、ここで言うのも何ですけど、こちらが勝ったら10年程王国に戦争を仕掛けてくるのはやめてくれませんか? もちろんお互いに不可侵の条件で」

 

「ええい、構わん!! その代わりこちらが勝ったら、化け物討伐の費用はそちらに7割負担してもらうからな!!」

 

 

 思わず口走ってしまった。相変わらずこの女は…… 

 そんなことを言ったらお前の護衛の一人は禿げじゃないか。髪どころか頭皮も無いくせに。

 

 

「クライム、相手は前衛が四人と魔法詠唱者(マジックキャスター)が一人…… やる事は分かってるな?」

 

「はいっ!! 最初から全力でいきます!!」

 

「気合は十分だな。姫様に修行した剣を見せてやれ」

 

「クライム〜、応援してますよ!!」

 

 

 クライムはラナーの声援を受け、更に気合が増していく。人数差をなんとも思わず勝つ気でいる。

 

 

「ほぉ、あの仮面タダもんじゃねえな」

 

「ええ、腰に下げている武器も…… 確か刀という南方に伝わる珍しい武器のはずです」

 

「……」

 

「はぁ、こんなのに駆り出されるなんて……」

 

 

 四騎士の内の一人を除いてバジウッド達は冷静に相手を観察しており、人数が少なくとも油断はしていない。

 

 

「それではバハルス帝国とリ・エスティーゼ王国の交流試合を始めます。禁則事項は基本的にありませんが、命を奪う事だけは禁止とします。それでは、試合開始!!」

 

 

 審判の合図と共に、ブレインとクライムは武技を使いながら全力疾走で相手に向かっていく。

 

 

「「うおぉぉぉっ!! 武技〈能力向上〉」」

 

 

 まさかの開始と同時の突撃に一瞬呆気にとられるが、四騎士の名は伊達では無い。

 相手の狙いを即座に判断し、後衛まで行かせないようにブロックしようと対応する。

 

 

「四人同時に抑えてみせる!! 〈四光連斬〉」

 

 

 四騎士もまさか、あのガゼフ・ストロノーフと同じ武技を使ってくる事は流石に予想外だったようだ。放たれた四つの斬撃は正確に四騎士を捉え、それぞれの動きを少しだけ鈍らせる。

 

 

「うおぉぉぉぉっ!! 武技〈脳力解放〉」

 

 

 その隙にクライムは更に武技を重ねがけし、四騎士の横を通り過ぎて魔法詠唱者(マジックキャスター)に迫る。

 

 

「っ!! 〈魔法の矢(マジック・アロー)〉」

 

 

 遅れて動き出した相手の魔法詠唱者(マジックキャスター)は反撃するが、ラナーに同じものを撃たれ続けた彼は数発当たった程度では怯まず止まらない。

 

 

(まだだっ!! 相手は走りに集中しすぎて剣に手をかけていない。あの体勢から剣を振るうなら、その隙にもう一度魔法を放てる!!)

 

 

 実戦経験は少ないが、自らの魔法の速度から確かな勝機を見つけるフールーダの弟子。

 

 

電撃(エレクトロ・ス)――」

 

 

 ――クライムはそのままタックルした。

 

 

 その後の展開はブレイン無双なので割愛。

 強いて言うのならばクライムが剣を抜く事は無かった……

 

 

「手に汗握る良い試合でしたね!!」

 

「ああ、まるでアメフトの試合を観ているようだった」

 

 

 モモンガは実際のアメフトを見た事などほぼ無いが、漫画やアニメで見たような光景だった。

 

 こうして同盟は無事に締結され、リ・エスティーゼ王国とバハルス帝国に10年間の平和が訪れる事になる。

 

 もう残しておく必要が無くなったので、カッツェ平野の魂喰らい(ソウルイーター)の内9体はこっそりとモモンガが片付けておいた。

 

 暫くはカッツェ平野で兵士や冒険者の巡回が多くなるかもしれないが、残り一体を両国が協力して倒すことでいずれ丸くおさまるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 カルネ村に住むアダマンタイト級冒険者の少女、ネム・エモットは好奇心の強い子供だ。

 普段から姉やモモンガに色々質問していたが、冒険者となってからはより色々なモノに興味を示すようになっていた。

 そんなネムが次なるターゲットにしたのは、モモンガのお腹辺りに浮いている様に収まっているアレ。

 鎧姿の時は見えないが、ローブ姿の時や温泉に一緒に入った時には気になって仕方なかった。

 あの赤く光る玉はなんなのか、今日こそはとモモンガの家に突撃していく。

 

 

「おお、ネムか。いらっしゃい、今日は冒険者の仕事をする予定も無いがどうしたんだ?」

 

「こんにちは、モモンガ様!! 実はお腹の赤い玉を見せて欲しいんです!!」

 

 

 どうやらネムはモモンガ玉に興味を持ったらしい。

 アイテムに興味を持つとは中々お目が高い。

 

 

「ああ、これは危ないから渡す事は出来ないが、触るくらいならいいよ」

 

 

 そう言ってネムの手が届くように椅子に座り、膝の上に乗せてあげるモモンガ。

 

 

「凄いです。凄い力がある気がします!!」

 

「これは私が持っているアイテムの中で一番レアリティが高いからな。とても凄いんだ」

 

 

 これを使って1500人を返り討ちにしました、なんて事は流石に言えない。

 

 浮いているのにネムが触ってもビクとも動かない。ネムは不思議そうに何度も指で突いている。

 

 

「どうやってくっ付いているんですか?」

 

「うーん、私もどうしてこうなっているのかは知らないな……」

 

「モモンガ様でも知らないなんて不思議ですね」

 

「ああ、私の知っている事はほんの僅かなことだよ。世の中はまだまだ不思議でいっぱいだ」

 

「そうなんですね」

 

「そうなのだよ」

 

 

 これは特に何も起こらなかった、骨と幼女の平和な日常である。

 

 

 


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