IS×555 ファントムペイン   作:asterism

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謎はまだ闇の中

放課後

 

「…覚えることが大過ぎるぜ…」

 

勿論予習をしていないとは言わないが、積み重ねが違う、女子がIS学園を目指す場合、最近では幼児塾ですら、何をやっているのか知らんがIS学園コースなる眉唾物のバカ高いコースが存在している始末、片や、男子がISについて学ぼうと思えば、早くても高専のIS工学科に行くか、大学の工学部でIS工学を専攻するしかない。ちなみに、ここを選択する男は珍しいし、希望したところで、女性優遇の総本山みたいなところなので、入るのは余程優秀でなければならないし、周りの女子も、遅くとも中学入学時にはISについて学び始めているわけだ。年季が違う。

 

「あぁ、織斑くん、まだ残っていたんですね。良かったです」

 

「はい?」

 

呼ばれて顔を上げると、副担の山田先生が書類を片手に立っていた。そんな背が低いわけではないんだよなこの先生。

 

「えっとですね、寮の部屋が決まりました」

 

そういって部屋番号の書かれた紙とキーを渡す。

 

「…早くないですか?」

 

全寮制のIS学園とはいえ、男子というイレギュラーを迎えてしまったため、俺は一週間は自宅通学になるといわれていた。楽ならそれでいいけど…。

 

「事情が事情なので多少無理やりですが、部屋割りを変更したらしいです…織斑くん、そのあたりの事って何か聞いてます?」

 

最後は俺にだけ聞こえるよう耳打ちしてきた。

 

ちなみにあのニュースのあとマスゴ…じゃなかったマスコミに政府関係者らしき黒服の、懐に変なふくらみのあるお兄さんはもちろん、各国大使や国連の偉いさん、大企業の役員、果ては生体工学だの遺伝子工学の権威までやってきた。『ぜひとも生体を調べさせてくれ』って、いろんな意味で頷けるかバカ野郎。

 

まぁとにかく、そんなロクでもない連中が多量に押し寄せてきたため、啓太郎さんのところや、修二さんのところでかくまってもらったのだ。

 

「事情は察しましたけど…一人部屋ですよね?」

 

「ごめんなさい、やはり調整が難しく…、相部屋になってしまいました。まぁ一か月ほどで一人部屋に変更できる予定ですので…」

 

あぁ…仕方ない。

 

「それと、勿論大浴場とかの施設も使えない…か」

 

「そうなりますね…」

 

正直風呂が使えないのが一番きつい気がする。

 

「まぁ、自分がどれ程珍獣かは理解しているつもりです…荷物とかはどうなるんですか?」

 

正直、自分の物はそれなりに少ない方だと思うけど。

 

「あぁ、それなら私が手配しておいた」

 

「織斑先生」

 

我が姉が山田先生の後ろから声をかけてくる。そうか、この人ならば準備できるよな。一応、住んではいるんだから。

 

「とは言っても最小限だがな。今週末にでも取りに行け」

 

「はい」

 

ついでに温泉施設にでも行くかなぁ…。通り道にはどんな施設があったか調べることを決める。まぁこれくらいの寄り道は大丈夫だろう。…いや、古来風呂場で暗殺された大将ってのもいたなぁ…。やめとくか…。

 

「それと…一夏」

 

「なんだ、千冬ねえ」

 

多分、プライベートな事なのだろう。と思って普段の呼び名に変更。

 

「すまんな…、迷惑をかける。それと同室は篠ノ之だ」

 

「…、ありがとう、千冬ねえ、教えてくれて。大丈夫だよ俺は…何かあったとき箒のフォロー頼む」

 

同居人が心底辛い…まぁ、勝手に負い目感じているだけだけど。でも、どうせ千冬ねえより先に死ぬ身なんだ、せめて姉に恥じないように、姉が幸せに生きれるように生きる。夢というにはお粗末かもしれないけどとりあえずはそうしたい。

 

「わかった、他に何かあるか?」

 

どこか辛そうな顔をしながら千冬ねえが言う、結局、コトが起こっても箒は…、いや、悪い場合もあるのかこの場合…?まぁ、それでも彼女は「知らない」訳だ。非難するつもりはないし、させる気もない。

 

「あ。そうだ、織斑先生。…申請無しで使用できる練習施設ってありますか?」

 

「あぁ、第2演習場の近くに射撃場がある、VRやレーザーしかないから弾薬管理も不要でな。IDカードを通せば使用可能だ。やり方はそこにいる教師に聞けばいい、ISとは感覚が違う…らしいが、まぁ、基本を押さえるのは悪くない」

 

ISの予約は埋まっている。なら他のコトで練習するしかない。今は千冬ねえに恥をかかせない程度ってのは難しいかもしれないけど。最低限、マトモには動いて見せるさ。そう思いながら、俺は千冬ねえに教えられた施設へと向かった。

 

 

千冬side

 

「…以外でした」

 

一夏が教室を出た後山田先生が呟く。

 

「何がだ?山田先生」

 

「あ…いや、織斑先生の弟なのですから、てっきり剣道や居合を嗜んでいるものかと…」

 

「…あぁ、あいつも剣道や…居合をやっていたこともあるぞ、ある原因でやめたがな」

 

あの時の一夏の、翼をもがれたような表情を思い出す。おそらく私の顔は悲痛に歪んでいるのだろう。

 

「やはり…あの事件ですか…?」

 

「そうだ、私が、あいつの夢を奪ったのだ」

 

山田先生も、ある程度機密にアクセスできた身だ、あの事件のことも知っている。だからこそ思い当たったのだろう。申し訳なさそうに、触れてはいけないことに触れたような顔をしている。

 

「そんな顔をするな。山田先生がそんな顔をする必要はないはずだ」

 

そうだ、あの日以来、一夏は、刀を…それこそ竹刀や木刀、おもちゃですら、それを刀剣と認識すると苦しむようになってしまった。それ以外にも何か悩んでいたようだが、立ち直ったと思ったら、自分は知り合いのクリーニング屋や孤児院へ通いだし。今、私には恋人はいないのかだの、早く結婚しろだの言い出した。立ち直ったのが、そのクリーニング屋の店主や、孤児院で働く保育士の男、…一見浮浪者のようだが、才能豊かな男という訳の分からない三人組のおかげなのだ。それを止めるわけにもいかないし、いや、あの事件以来、妙に優等生のようになった一夏が、彼らと居る時に以前の一夏に戻ったようなのだから止めたくないのだ。

 

「さて…山田先生、悪いが面倒事を作ってしまった。来週までは忙しいぞ。それ以降も忙しいがな」

 

そう、クラス代表決定戦などという余計なことをする必要が生まれてしまったために、教師は忙しくなる。尤も、これも一夏を守るため…だ。

「あら、織斑さん、あなたも練習ですか?」

 

side return

 

千冬姉から教えられた射撃場へ移動しているとオルコットさんと出会った。ISスーツではないから俺と同じ所へ行こうとしているのかもしれない。

 

「あ、オルコットさん、えぇ、…まぁできることはしておかないと…」

 

絶望的な実力差があるが、なにもしないというわけにもいかないのだ。

 

「…いい心がけですが…、あなたはお姉さまよろしく、剣術などを嗜んでいるのではなくて?ISはパワードスーツです。私の戦闘スタイル的に相性はよろしくありませんが、触れたこともない銃火器よりも、その方面で頑張った方がいいかもしれませんよ?」

 

「悪いけど、俺は剣…使えないんだ」

 

自分でも、顔が苦痛に歪んでいるのがわかる、努めて顔に出さないようにしているが、前、教わっていた師範からすら剣の話は厳禁と言われてしまっているのだから当然か。

 

「申し訳ありません、聞いてはいけない事のようですね」

 

オルコットさんも察したらしく、申し訳なさそうに謝ってくる。

 

「知らなかったのだから、仕方ないですよ」

 

誰だってそう考えるだろうし、事実、剣道や居合いを嗜んではいた。どちらもやめたが。そう、あの日から俺は剣を握れないのだ。

 

ーーーーーーーーー

 

「オルコットさん…いい人ではあるんだけどさ」

 

敵に塩を送っているのに気づいているだろうか?まさかかなり専門的な射撃理論、恐らく英国で軍から教授されたものをしゃべっていることに気づいていただろうか?いやまぁ「大まかにはISが計算してくれるのではじめのうちは任せた方がよろしいでしょう」と言って締め括ったが、全く関係のない部分でかなり上達した気がする、後は反復練習だろう。

 

「…忘れてた」

 

篠ノ之箒と同室だった!!

 

どうしよう、そりゃ、幼馴染みだしある程度話をすることはできる…筈だ。ただ、正直話すことはあまり得意じゃないし、居間確実なあいつと共通の話題ってアレ位だ、いつか確実に地雷を踏む。

 

「…踏むなら早い方がいいかも…」

 

確実に篠ノ之は傷つくし俺も物理的に傷つくが、まぁ仕方ないのかもしれない。言ってしまえば彼女、というよりここに来るまで俺の周りにいた女性は人の話を聞かない人が多い気がする。真理さんや里奈さんもどちらかと言えばそうだろう…アレは啓太郎さんや修二さんが悪いのかもしれないけど。それに、一応俺は傷、残らないし。

 

そう思いながら部屋の鍵を開ける。

 

「…」

 

「…」

 

目の前には、バスタオル一枚の篠ノ之さんがいましたとさ。沈黙が痛い、ちゅーか、酷くね、男女で同じ部屋で生活するとなると、こういう他人から見たらウラヤマけしからん事故が起こる可能性はかなり高いだろう。学園の配慮を要求する。

 

「ッ…!!見るなぁ!!」

 

いち早く思考回路を取り戻した篠ノ之さんが俺に向かって来る。手には木…刀…。

 

「ヒィ!?」

 

身体を貫かれる痛み、そして破裂する何かがフラッシュバックする、そう、これがあるから、俺はもう剣道ができない。

 

恐らく殴打されたのだろう、衝撃で体が吹き飛ぶ。そんなことはどうでもいいレベルで痛みがからだ中を駆け巡っている。気絶したいのにできない、痛みで強制的に意識が引き戻される。

 

「…ちか、一夏!!」

 

篠ノ之さんの声ではない、姉の声を聴くと、少し安心する。あの時と同じ、体の冷たくなる感覚を味わい意識が遠のいていった。

 

―――――――――

千冬Side

 

「初日からやってくれたな、篠ノ之」

 

一夏を抱きかかえながら篠ノ之に向ける目線には、殺気がこもってしまっているかもしれない。嫌な予感がした。だから、篠ノ之にこのことを話すか迷いながら寮を巡回していた。説明が得意ではない私がやろうと、山田先生に理由を話してどう話しても過剰反応する気がしたのだ。例えば、克服するためだと言って一夏を剣道場に引っ張って行くとか。

 

「どういうことですか?」

 

 

気づいていないのか?彼女のポカンとした表情を見て、怒りが沸き上がる。

 

「篠ノ之、木刀で人が殺せるのはわかるな?」

 

そこに剣道の技量だとかは必要ない、ある程度腕力があればできるのだから、剣道経験者だとかあまり関係ないのだが。

 

「…お前のやったことは立派な障害…いや殺人未遂だ。反省文20枚と…そうだな、剣道部の顧問と相談して処分を決める。まぁ最低1か月の部活参加禁止は覚悟しておけ」

 

務めて、教師であろうとする。そうでなければ、暴力に訴えてしまいそうだから。結局私は、この唯一の肉親さえ幸せなら他はどうでもいいのだ。空回っている自覚はある、うまく接することができていない自信もある。我ながら姉としては出来の悪いこともわかる。だからこそ、何に換えても守りたいのだ。

 

「あぁ、そうだ、一夏はもう剣を握れないし握ろうともしないだろう。」

 

「な…なぜですか」

 

「剣を握れないからだ。正確には、剣と認識したものを見ると原因不明の苦痛で苦しむことになる。だから、もう二度と一夏の前で木刀や竹刀を出すな」

 

そう言うと私は、一夏を抱きかかえ、医務室へ運ぶ、少なくとも今日は、意識を取り戻しても私の部屋で寝かせる。そう決めて。寮の通路を歩くと生徒たちが黄色い歓声を上げる。こういうシーンは普通逆だろう。

 

一夏…スマン、私はお前を苦しませることしかできない…

 

 




箒は…うん、正直やりそうなんですよね。自分がインフィニットストラトスを読んだ限りの認識だと。他のトラウマならまだ回避効いた(例えば焼死なら鈴アンチになってたけど)んでしょうけど、
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