その男は、女尊男卑の世を憎んでいた。
その男は、それを体現したISを憎んでいた。
その男は、誰よりも自由な空を願っていた。

故に、その男は立ち上がる。

一振りの刀を手に──

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IS─鬼侍─

──女尊男卑とはよく言ったものだ。

 

今や世界は男は貧弱、女は強大。そんな勘違いが跋扈する世となってしまった。少し前は男性も、女性も、平等と世界は謳っていた。

 

だがどうだ。女性しか乗れない兵器、インフィニット・ストラトス。通称IS。篠ノ之束が創り出した産物は瞬く間に世界へと拡散し、人々の手へと渡り、世の秩序と平和を消し去った。あぁ、いや。平和は保たれているように思われる。上っ面だけの平穏というヤツだ。裏では悪意と汚い欲望が匣びっているのが現状だ。なにせ今は女が世界を操り、男は手駒。

 

何て惨い世だ。それを世界は平然と、嬉嬉として受け入れている。有り得ない。下に引かれる男供はかつての威厳を忘れ、媚を売る。たかだか作られた玩具一つのために。

 

腐っている。世界な、常識が、全てが。

認めない。己は認めない。こんなに不愉快な世界を。

変えてやる。何もかも。そして、思い出せ。

己の人間の底力を、その原動力の根底を。

 

──IS(常識)を覆してやる──

 

 

 

男は立った。刀を手に。全てを変えるために。

己がなさんとする狂信的な野望のために。

閃く太刀筋は既に捉えている。

次の獲物の首を、擡げているその未来が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園に緊急アナウンスが入ったのは今から丁度5分程前だった。無機質な機会音声が流される回数が何時もよりも増している。被害レベルはB。この未曾有の緊急事態に専用機持ち、教師君集はみな集められた。最後にやってきた世界最強ことブリュンヒルデこと織斑千冬の顔には珍しく焦りと畏怖の念が混じっていたのがどうにも意外で、かなりイレギュラーな事なのだろう。そう、集まった者達は確信した。

 

「今、集まってもらったのは他でもない。この緊急事態についてだ」

 

凛とした声が集合していた会議室に響いた。その声は重苦しく、小言で話していた教師達も押し黙った。無論専用機持ちの生徒も黙っていたが、実際には起こっている事態に追い付いていけず、黙っていたというよりかは呆けていたと言った方が適正だろうか。千冬の指示で山田麻耶女史がパソコンを操作し、ディスプレイの動画をスクリーンに鮮明に映し出す。再生時間は26秒、しかしその内容は強烈にして、鮮烈して、凶悪であった。

 

「何だよ…これ…!」

 

「…ッ」

 

その動画に映されていたのは2体のIS、打鉄と、全身を黒いプロテクターに身を包み、顔を赤く電子回路の入るバイザーをし、極め付きに腰に一本の刀を携えた者であった。動画ではISに乗った教師が刀を持った男に対して警告を発する。しかし男は気にも介さないといった様子で2機のISに向かい進んでいった。続けて二度目の警告。これも当然のように無視。規定に従い侵入者と認められた者に向かって片方はブレード、片方はマシンガンを展開しその得物で攻撃を開始しようとした瞬間だった。男の姿がなくなり、それに驚いた教師が後ろを振り向こうとした瞬間。

 

──打鉄がバラバラになっていた。

 

「あり...えない...ですわ」

 

「...何だコイツは...」

 

映像はそこで途切れていた。驚き呆れ、開いた口が閉じない。色々言いたいことはある。何故シールドエネルギーを貫通させているのか、いつの間に斬ったのか。湯水のように湧き出る疑問は埋め尽くされるだけで、その疑問に対する答を返せるものは今この場に誰1人として存在しない。どの位その状態でいただろうか、バンッと叩かれる机の音にハッとみな我に戻る。音を出した本人、千冬は麻耶のパソコンを横からキーボードを叩いて操作し、監視カメラ映像を映し出す。

 

「時間がない。ここに侵入させてしまった以上我々で侵入者を捕縛する必要がある。ISを破壊した事から生身では太刀打ち出来ない事が予想される。対抗策としてコチラはISを対人使用する。この事について異議はあるか?」

 

「……ないです」

 

それは人を殺すかもしれないということ。この学園をこれ以上襲われるというのなら覚悟を決めるしかなかった。

 

「よろしい。これより、侵入者──これ以降、侍と定義、捕縛プランを説明する」

 

千冬の切羽詰まった声が今一度会議室に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──弱い。ISとはこんな脆弱だったろうか。

 

床に散らばるジャンクを見て考える。こんなものが今の世界を支配しているのかと考えると無性に腹が立つ。篠ノ之束はこんな事のためにISを開発した訳ではない。宇宙へ行きたい。その目的で作られたものが、いつしかスポーツになり、兵器になり、やがてアラスカ条約で規制されている軍利用は当たり前となっていた。男と女が戦えば3日で終わると言われている。女の勝利によって、だ。

 

──ふざけるな。たかだかISに乗れるからといって思い上がるのも大概にしろ。私は認めない。こんな固定概念が染み付いた世界を。だから変えるのだ。世界各国が作り上げた具象の塊を斬捨て、認めさてやるのだ。ISなんぞ取るに足らぬ存在だと。男には男の矜持があるという事を。

 

ただ、男は彷徨う。理想の世界へ至る獲物を求めて。逃げ惑う女子供がいたが、敵はIS。襲う必要もない。眼中にすら捕えず薄暗い廊下を抜ける。

ISのパーツが保管されている倉庫を斬って進む。警報をけたましく鳴らし、己を殺さんとばかりに鉛玉を吐き出す醜いシステムを破壊して、押し進む。シャッターが閉じていようとも関係ない。そこには薄い板があるだけだ。板を斬るのは造作もない。横一文字に刀を振るう。その板の向こうから光が差し込んだ。急に入った光は明るく、眩しい。その光から熱が感じられるようだった。

 

男は刀を抜刀して空を撫でるように薙いだ。その鋒に僅かな衝撃、体に熱波が流れていった。太陽光から熱を感じたのではない。太陽の輝きは錯覚していただけで、実際はISからのレーザー射撃であったのだ。だが、関係ない。極地へと辿りつい感覚が、経験が、全てを教えてくれる。

 

──故に。

 

「ウオオォオォオ!」

 

「いくよ!一夏!」

 

裂帛した気合を上げ、背後より斬り掛かる剣の動きも、構えられる銃も全てを感じ取ることが出来る。気配を駄々漏れにした攻撃に当たってやる程生温くはない。

斬り掛かる剣閃を()()()()背後に剣を回して完全に威力を受け流す。力が込められた剣は意図も容易く崩れ、体の体勢を崩す。それでも転倒には至らなかったのは本人の技量がある程度高かったからだろう。だが、体勢が崩れただけで充分だ。その白きISに回り込んで翼を切り落とさんと刀を振り下ろす。

 

「やらせないよ!」

 

「私もいましてよ!」

 

それを止めようと前と後ろからレーザー銃と散弾銃が襲う。その速さは常人からすれば驚異。何もしなければ刹那の内に体に当たるのは必然であった。

 

集中力を上げる。その瞬間、見ている世界から色と音が消え去る。心臓の音も止まってるようだったその状態で見る弾丸と光は自分から見れば遅い。まるでその場で止まったかのようにも見える。しかし、自分の体は動く。

手始めに実弾よりも速く飛来するレーザーに斬撃を浴びせ、霧散させてやる。間髪入れずに弾き出された散弾銃の弾を切り刻む、それこそ鉄粉程の大きさまで。

 

斬る、斬る、斬る。斬り捨てる。

 

最後の一発も斬り捨てると集中の極地が解ける。

世界に再び色彩が艶やかに色を吹き返し、音が騒々しく衝撃を与え、心音がリズムを刻み出す。早業の前に対応が追い付かないのか、目を皿のようにして自分を見る。

スキありだ。白いISの翼に一撃を入れ、近くにいた橙色をした機体へと刀を構えて突貫する。磨き抜かれた白刃は心を穿つためにただ直線である。ただの一分の狂いなく。息は張り詰め、血肉は踊り、獲物をいざ仕留めん。

 

「ぐうぅっ!」

 

「シャル!」

 

必死の抵抗にと盾を掲げるが、遅い。研ぎ澄まされた一撃に対してシールドエネルギーなど薄い板に過ぎない。ハイパーセンサーをも凌駕する速さは疾風が如く。その速さに対応出来る者など居らず、そのまま攻撃は直撃する。ピタリと狙われた一撃は確かに直撃。しかし、ISの最大のポイントである絶対防御によりシールドエネルギーを削り取るだけに留まる。一撃を貰ったISは大きく後退し、この薄暗い通路を抜けていった。残るは後ろにいる白純のIS、よくよく見れば登場者は男。そうか、『これ』が織斑一夏か。正義感溢れる少年なのが容易く感じ取れた。その証拠に構える太刀には迷いがない。浴びせられる敵意はある程度洗練されている。

 

──だがそれがどうした。

 

その程度の力なぞ幾許もこの刃で斬り捨ててきた。

なによも、愚の象徴をその身に背負う者に慈悲はない。威厳を忘れた男よ、私は許さない。認めない。歪んだ存在を。男ならばこの世に問題提議の一つでもしてみせろ。もし、そんな事も出来ぬと言うならば。いや、しないのならば。

 

「―――ッ!」

 

──此処では果てゆくがよい。

 

刹那、神速の一撃が雪羅(織斑一夏)を襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──セシリア・オルコットは焦っていた。

 

何故か?実にそれは簡単な話である。ISを纏わない者が多対一でこちらを圧倒してくるなど化物そのものだからだ。レーザーを撃っては斬られ、シャルロットとの連携をとった挟み撃ちも歯牙にかけずと言った具合に易々と切り伏せられてしまった。

この先のアリーナにはIS乗りたちが待ち伏せているが、先程やられた芸当を見せ付けられては、代表候補生、学園最強という生徒会長、ひいては世界最強ことブリュンヒルデ。しかし、脳裏にはその誰が立ち向かっていっても勝てないヴィジョンが刻々と移り続ける。心音が高鳴り始める。動機が乱れる。せり上がるような吐き気が襲う。スターライトMKIIIを握る手がカチカチと震え出す。

いつも優雅たれ。己にかした心情すら、超える恐怖。

ピタリと合わさるはずの照準のブレは大きく揺れる。

その照準を合わせようとして前を見た。

 

一夏の首を狙わんとする、刀が、手が、黒が見えた。

 

「ッッッ!」

 

その刀に恐怖を覚えた。しかし、今は怖がって尻すぼみしている場合ではない。恐怖を押し殺し、その刀に照準を合わせて発射。背後からとはいえこの侵入者、いや畏敬の念を持って侍と呼ぼう。侍はその敵意に敏感に反応して対処するだろう。しかし、一夏から少しでも警戒か離れれば一夏とて馬鹿ではない。急いで離れるなり、アリーナへ誘い込むなりはする。やはり予想通りかセシリアの必死の一撃は刀に吸い込まれることなく斬られる。しかし充分過ぎる。これで警戒はこちらに移動するだろう。()の顔がこちらを向く。

 

「ッ!ティアーズ!」

 

本当に少しばかり直視しただけだ。それなのに身の毛のよだつような感覚が襲う。だが、セリシアは子供といえど代表候補生。なんとか次の手をと、機体の由来となるブルー・ティアーズを射出。発射された4機のビット兵器は自在に動き回り、侍へと狙いを定めていく。普通の兵器と違い、空中を飛び回るこのティアーズなら当たりはしなくとも時間を稼ぐ程度は可能だろう。セシリアはそう考えた。考えてしまった。

 

 

 

――ティアーズから高エネルギーが射出される、ことはなかった。

 

自在に飛び回っていた筈のティアーズは綺麗に二つに割られ、羽を奪われた醜い鳥の様に地べたへ這いつくばっていた。それも射出された分全てだ。侍が動いた様子はなかった。違う、見えなかっただけだ。ISのハイパーセンサーを有に超える攻撃速度。しかし、侍は攻撃してこない。これでは自分が遊ばれているようで、まるで相手になっていない。

 

「…なんて強さですの」

 

はき出された言葉は諦めか、敵という立場にありながらそれに対する感動なのか。その強さに理解を失った脳は現状を理解最早、現段階一人では打破出来ないお判断を下す。悔しい、プライドも許さないが、認めざるを得なかった。この目の前の侍の強さを。だが、撤退しようにもまだ侍の後ろには一夏が残っている。立ち上がって侍に刀を構えているが、それもこの侍の前では数秒と持たない。そう確信出来る。

 

「一夏さん!アリーナへ!」

 

「──!分かった!」

 

アイコンタクトを交わすと一夏はただでさえ狭い通路で横っ飛びした。その瞬間ブルーティアーズのスカートアーマーより、誘導ミサイルが2発発射される。恐ろしい熱量が込められたミサイルではあるが、この侍には全くの無意味だろう。しかし、これは避けても、斬られてもなんの問題もない。ミサイルを見据えた侍は刀を構えてミサイルを滅多切りにする。爆風すらも超える速さで。

その横を一夏の雪羅が瞬時加速(イグニッションブースト)ですり抜ける。一発斬撃が掠ったようだが、掠っただけであったのでシールドエネルギーも減らされず、アリーナへと後退する事に成功した。それに習いセシリアも加速してアリーナへと後退する。侍の姿は爆薬の黒い煙につつまれて確認する事が出来ないが、きっと無傷だろう。しかし、後退には成功した。ふっと息を吐いて安堵する。

 

「セシリア!後ろ!」

 

「...え?」

 

叫び声と後ろから感じた強い衝撃はほぼ同時だった。

悲痛な仲間の叫び声虚しくセシリアは何も分からぬまま暗い闇へと転落した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦況は最悪だった。専用機持ちは性能すら満足に出せず撃墜され、遂には一人が気絶させられた。ISの謳う絶対防御なぞ関係なく侵入者は襲いかかってくる。何故、こんな事になったかさっぱり分からない。ただ、一つ分かっているのは、どうしようもなく、戦わなければいけないことだけだ。

 

アリーナへは撤退出来たものの、そこから勝機を見いだせないのが現状だった。アリーナには今学園にいる専用機持ちと織斑千冬と山田麻耶とIS教師で合計12人、そのうち一人のセシリアは戦闘不能でそれを守る教師を差し引くと実質10人だったが、それでも通路からゆっくりと刀を納刀する、侵入者に相対しただけで、自ずと恐怖が込み上がる。鋭い眼光を浴びせる眼がこちらを睨む。その眼光と佇まいからセシリアが思ったように侍を彷彿とさせる。

 

「うわああああぁぁああ!」

 

一番初めに動いたのは教師用にチューンナップされた打鉄を駆る教師だった。恐怖に押し殺されたようで冷静な判断が出来ず、瞬時加速で、一気に侍へと近付く。逆に言えばそれは侍の間合いに簡単に入ってしまったに過ぎない。侍は腰の刀に手を添えた、打鉄がブレードを大きく振りかぶった。打鉄とはいえ、IS。かなりの速度があるのにも関わらず侍は動かない。教師は不意をつけたのかと錯覚し、そのブレードを縦に一気に振り下ろす。流石はIS学園で教便をとるだけあって、その太刀筋に迷いはなかった。迫り来る、ブレード。通路内の戦闘を見ていなかったものからすれば完全に不意をつけた構図に見えるかもしれない。しかし、一夏とシャルロットは違う。その驚異的な速さの剣速を知っている。

 

「下がってください!」

 

「あああぁ!」

 

だが、行動するのが遅すぎた。侍はその研ぎ澄まされた刀に手を掛けて、まさに紙一重と言ったところで刀を抜いた。そこまでは確認することが出来た。しかし、刹那の一瞬の後にはそこに黒い姿はなく、遅れて何が起きたか分からない教師の顔が確認でき、打鉄が斬り落とされていた。

金属的な音を立てて地面へと落下したパーツは切断面が光に反射して鈍く光っていた。絶対防御が一応発動したらしいが、教師には一見怪我がなく、気絶しているだけのようにも見えたが、血を吐いていたところをみると衝撃のみ内蔵へとダメージを与える程の剣戟をしたようだった。ISには本来、絶対防御と呼ばれる操縦者を守る砦があるはずであった。しかし、それすら貫通する規格外の恐ろしい芸当を見せられては────『化物』それ以外に浮かぶ言葉が見当たらない。

 

「先生!倒れた人たちをお願いします!俺はヤツを!」

 

「私もいるぞ!」

 

「あたしもね!」

 

一夏の叫びにラウラと鈴が答える。鈴が龍砲を、ラウラAICによる相手の停止を、一夏が雪片弐型で相手を斬りに行く。ラウラが手初めに肩のレールカノンから一撃を放つ。対する侍は刀でそれを見切り受け止める。ただ、侍もISの武器であるレールカノンの威力を見誤ったか、刀が僅かにだが打起こされ、腹に隙があく。そこを鈴が衝撃砲を狙う。空間を圧縮して撃たれるこの攻撃は、ハイパーセンサーすら躱す不可視の一撃。()()のIS乗り程度なら感知すら叶わず撃ち落とされるのが自明の理だろう。ただ、侍はただの人間ではない。衝撃砲が放たれた瞬間侍は横へと踏み込む事で攻撃を回避。ただ、驚くべきはそこではなく、放たれた『瞬間』に回避行動へと移っている事だ。さらに追加で背後から再び放たれたラウラのレールカノンを見ずに躱し、一夏の振り下ろす雪片弐型を刀で受け止め、蹴り飛ばす。

 

「うそ!何で!?」

 

鈴も全員の攻撃は命中はせずともかすりくらいはするもほだと予測していたが、甘かった。侍は掠る事なく避けて見せた。これには舌を巻いて驚くべきほか無い。だが、例え驚愕しようと冷静さは失っていない。この場にいるものは子供とはいえみな手練れである。頭の中で、何故躱されたかのを考える。やがて鈴の本能と言ってもいい感の良さ、加えて歴戦の鍛錬から培った経験が一つの答えを弾き出した。

 

「…敵意の察知…ね」

 

「敵意の察知だと…?」

 

恐ろしい事だ。確かに自分もある程度拳法などの修練によって鍛えたものと天性の才能である感により、ある程度相手の気配を探ることは可能である。しかし、()()()()相手の敵意だけで躱す事が出来るかと問われた迷わず否だ。鈴の察知はハイパーセンサーあってこそ真にその力を発揮すると言ってもいい。だが、侍はやってのけた。あの顔にかかっているバイザーに何かしらの仕掛けがあるとは思うのだが、それを考慮しても人間の反射神経の反応速度よりもも満たない時間で回避に移ることなど果たして可能なのか。もし、これがバイザーを外してもなおこの強さなら──まさに極地へ到達した者と言っても過言ではありない。

 

「──」

 

「本当にね。全く私だって予想外よ。IS学園にほぼ単身でここまで被害を出されるなんて」

 

「だが、やらねばならんのは変わらんさ」

 

千冬が侍からは意識を背けず、回線で鈴に呼びかける。

 

「そ、そうですよ!織斑先生の言う通りです!」

 

千冬の一言に回線越しにも勇気づけられたアリーナのISが次々と己の武器を構え、侍へと改めて相対する。銃口は己の心臓中心を狙い、刀は真っ直ぐ侍を見据え、槍はその鋒を狂いなく構える。重々しい空間がそこには自然と生まれる。侍の周りはほぼIS。一般常識から見ればどう足掻いても間違いなく侍の敗北は避けられない。

 

「三度、侵入者に命じるわ。ただちに武器を捨て──」

 

幾ら超人であろうと人間である。フライトユニットも持っていない。ならば、高度を離していれば、あの必殺の一撃は当たらない。そう考え、生徒会長である更識楯無は攻撃が当たらないと予測した高度から無駄だと分かっていても降伏を促そうとした。

そう考えていたのは実は更識楯無だけでなく、アリーナにいた大半だった。

 

 

根拠ない薄っぺらい思惑は当然のように打ち砕かれた。突然ハイパーセンサーが警告を発する。何事かと確認すると先程までいた侍がいない。何故という疑問はその先には続かなかった。影が自分を覆ったからだ。ハッとして上を見ると刀が既に甲割りの要領で振り下ろされていた。霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)の持つ蒼流旋を構えガードしようとしたが遅すぎた。

 

「キャアアア!!」

 

「更識!」

 

ミステリアス・レイディには装甲を少なくするために水のヴェールを発生させるナノマシンが搭載されている。本来ならその水のヴェールは装甲と同じ程堅骨な防御力を誇るが、今回に限り言えばそれは最悪だった。水のヴェールを易々と断ち切るほど研ぎ澄まされた一筋はその腹をIS操縦者である更識楯無に届かせており、ISスーツが裂け、纏う水のヴェールを完全に断ち切っていた。絶対防御が発動し、中のパイロットに傷はなかったが、ISエネルギーが大きく減らされていた。たかだかほぼ生身の人間が、ISのエネルギーを削っていっている事に最早何の疑問も湧かない。しかし、故も分からぬ恐怖感がまた、襲い、動きがとまる。ただ一人を除いて。

 

「フッ!」

 

澄まされた刀筋。狙われるは(かしら)。侍はそれを刀を頭上に持っていく事でそれを凌ぐ。ガギィッと金属がぶつかり合う音ともに火花を散らす。刀を振り下ろした者、千冬は受け止められた事に別段驚きもせず直ぐ刀を構え直す。見る者が見れば美しいと呼ぶに相応しいと評されるのであろうが、この場においては美しさは全くの無意味である。ただ、千冬の型に関しては美しいだけでなく、疾風の如く速かった。次なる千冬の剣が振り下ろされる。侍はそれを両手で構えた刀から右手を外し、左手だけで受け止めると、その空いた右手をもう一度刀に添え、空中へ飛んだ。千冬は次の手を予測し、刀を上段へと構える。その僅か数瞬後、侍がまるで駒のように胴を回転させ、高速で縦凪に幾度も斬り下ろす。

 

「はやいッ!?ウウウウ!」

 

もし、この攻撃を並の人間が受けていたのだとしたら、最初の一合で剣を落とされ、シールドエネルギーがごっそり奪われていただろう。ただ、千冬は違った。長年剣の道を歩んできた己の経験が、他を寄せ付けないその力が、何よりもブリュンヒルデとしてのプライドがその太刀を受け止める、そんな僅な時間ではあったが侍の気迫を越えた。その結果打鉄のブレードがボロボロにはなったが力の籠った渾身の一撃から身を免れることに成功した。しかし侍はそこではまだ止まらなかった。回転力刀を打鉄のブレードに叩き付け、さらに跳躍する。その弾みで、千冬の持っていた剣が下へと叩き付けられた。それと連動するように、千冬の手も崩される。一連の予想外の動きに千冬も驚きが隠せないようで目を見開いて上を素早く見上げた。もし仮に此が戦闘ではなくただの模擬戦なのだとしたら見えるのは通常ならば澄みきった青い空か、目に痛い太陽辺りが顔を覗かせていたかもしれない。だが次の瞬間千冬に見ることが許されたのは、赤い電子線の入った黒い足だけであった。なぜそんなものが見えるのか。簡単なお話である。侍の踵落としが既に頭上へと接近していたからである。ハッとその事に気づいたがもう既に時遅し。大気を揺らすような轟音と共に強大な一撃がアリーナに轟いた。その中心にいた千冬は勿論只で済むはずなく、大きく頭を後ろにもたげていた。そこへ追い討ちをかけるように、着地した瞬間にがら空きとなった胴へ後ろ回し蹴りを浴びせ、壁面まで押し飛ばす。PICがあろうとも関係ない。極められた体は近接戦闘において絶大な力を誇る。だが、世界を変えてきたISは体術だけでシールドエネルギーを減らせるような柔な作りには設計されてはない。

 

「なるほどな、敵は想像以上に強者、か。成程、久しぶりに本気の出せる相手と言うことか」

 

全く先の攻撃が堪えてないと言わんばかりに、全くの無傷で土煙の中から英雄よろしく現れた千冬は量子格納されていた予備のブレードが展開しなおす。流石、現行する全てのIS乗りの中でもトップクラスを走るだけあって、耐久値、素早さ、単純な力、どれをとってもピカイチだ。耐久値に関しては今のやり取りで充分に頷けるであろう。だがそれはあくまでも兵器としてみられた場合であって、本来の目的である宇宙へ行く目的には必要のない成分である。それを侍は許すことが出来ない。認めてしまえばそれは、どうぞ戦争をしてくださいと認めることと同意である。それを知っているはずの女がのうのうと戦闘力として認めているのが腹立たしかった。腹の中にあるドス黒いものが抑えられそうになかった。荒い吐息が吐き出されていく。目の前の千冬(ブリュンヒルデ)が憎い。憎い。憎い。憎い。憎い、憎い、憎い憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い

 

あぁ、憎悪を晴らすため、私の理想のため―――斬り伏せてやる

 

刀を目の高さへと掲げ、いざ切り捨てんと千冬に突貫する。だが、忘れてはいけない。此処は元々自らが生み出した正当な戦いの場ではない。

 

「やあああァァァ!」

 

箒が二振りの刀、雨月と空裂を構え、侍の背後より躍り掛る。千冬ほどの完成度ではないが、伊達に剣の道を辿ってきただけあってその刀身から滲み出る気迫はまさに鬼神の如し。いや、鬼神、その表現は少し間違っていると言っていいかもしれない。自身の恐怖を叩き斬らんとする自己の現れといった方が正しい。それに気付いた侍は刀でその斬撃を受け止めながら横へと体を捻る。しかし怒りにより千冬にしか意識を回していなかった侍は、冷静なら気付けたであろうその気配への対処が遅れてしまい、なんたる事か、その二振りの刀のうちの、雨月のほんの僅な切っ先に肩口に掠り、纏っていた黒いプレートから火花が飛び散った。その事にすぐに気付いた侍は飛んでいた体をもう一度捻り直し、バク転をするように後退する。だがそんな分かりやすいミスを仮にも国の候補生である彼女らが見逃すはずもない。

 

「負けてられないわね!」

 

「僕も、同意だね!」

 

「教師として、生徒には負けてられませんよね!」

 

バク転した先に刹那、弾けるように大量の光弾が着弾する。一つは鈴が放った龍砲、二つ目はシャルロットの持つブェントから発射された鉛玉。そして極めつけが山田が駆るクアッド・ファランクスの全4門からなるガトリング砲が口を開き、凶悪な鉄の嵐を目覚めさせ、余すことなくその弾尽きるまで排薬を目まぐるしく繰り返した。激しい閃光、鳴り響く爆音、どの位その光景の繰り返しが続いただろうか。カランと薬莢が落ち、もうもうと立ち込める土煙からは何も音がしない。

 

「やったかしら...?」

 

「この火力ですよ...無傷なはずが...いやその前に殺したりしてしまっているのでは...」

 

「いえ、まだです。確認するまでが勝負ですよ。気を抜かないで」

 

しかし、シャルロットが言うように下手をすると殺してしまっているかもしれない。しかし、その時はその時だ。既にこちらもかなり痛く被害を被っている。それは自業自得としか言うしかないだろう。だんだんと土煙も晴れる。さぁ、勝負の時だ。鬼が出るか、それとも決着か。

 

――土煙が切り裂かれた。

 

最初は何が起きたか全く分からなかった。いや、違う。理解するのが怖かった。土煙が自然に切り裂かれるなんてありえない。それでも、何か別の要因があると信じたかった。あの火力だ。倒せていても何ら不思議ではない。むしろ倒せない方が可笑しい。だが──

 

「うそ…」

 

その言葉は誰が発言したか、分からない。この場にいる誰もが口にしなくとも心の中ではそう思ったからだ。

その原因は一目瞭然だ。土煙の中から現れたのは誰と言わず侍ただ一人。先程引っ掛けられた刀傷が右肩にあるだけで、胴体にはそれ以外には傷が付いていない。ただ、よく見ると、刀は亀裂が入っており、あと一振りでもすれば壊れそうだった。だが、その二つの情報を合わせれば侍はあの弾幕を斬って防いだ、という事になる。今更ではあるが恐ろしい技量である。一体どうすればこの極地へ到達するか、検討すらつかなかった。銃が駄目で、剣も駄目。そんな相手にどう勝つのか、イメージが湧かなかった。ほんの少し前に乗り越えた恐怖が、それを越えて絶望となり、武器から手を離しそうになる。この武器を離して逃げれればどんなに楽か。もう、いっその事これを――

 

「諦めるな!まだ、終わった訳じゃないだろ!」

 

その声にハッとする。何を考えていたのだと。まだ、シールドエネルギーは残っている。動ける。それを示さんと声を上げ一夏は零落白夜を起動。そのまま侍へ瞬時加速で突っ込む。侍にはその特攻は無意味な行為にしか見えなかった。ならばと、迎え撃つべく、刀を構えて胴抜きを狙う。神速の一撃が一夏にほぼ完璧なタイミングで命中する───と思われた。

 

「ハアアアァァァ!」

 

だが、一夏はそれを防いだ。それだけではない。零落白夜を刀に無理矢理押し付け、鍔迫り合いの要領で瞬時加速の勢いそのままに押し込む。この迫り合いにおいて、パワーがあるISは圧倒的に有利だ。それが理解出来ない程侍は落ちこぼれていない。一夏のISに右前蹴りを喰らわせ距離をとると同時に左足を踵落としの要領で頭部に振り下ろし、膝裏で首を掴む。カクンと一夏の視界が歪み、僅かな隙が生まれた。その僅かな間は侍にとっては絶好の攻撃の機会だ。刀から右手だけ離し、雪片弐型の柄を掴むとグイッとこちらへと引き寄せ、さらにバランスを崩させる。先程と同じように前のめりに体勢を崩された一夏に左で握られた刀が迫る。後、0.1秒もしないうちに自身の喉笛辺りに直撃するだろう。

 

(見え…る?)

 

しかし一夏にはその剣が見えた。何故かは分からない。ただ、言えるのはその剣が見えるという事実のみ。一夏は、雪片弐型を掴む手を回して剥がし、流れる様にその刀に向けて、決して上手くはない、ただ、気合の一閃を放った。後にこの動きについて天災は語った。追い詰められた精神が一種のトランス状態を引き起こさせたのだ、まるで英雄談だ、武勇伝だ、と。その奇跡の英雄(一夏)の一撃は刀と凌ぎ合う事もなく、元々ヒビが入っていた侍の刀がバキリと刃元から粉々に砕け、真っ直ぐに侍の上半身を袈裟懸けに斬り下ろす。まさか、先の動きから一夏が対処してくるなど思ってもいなかったのだろう。侍は避ける事も出来ずその攻撃を真正面から受け、アリーナの床へと叩きつけられる。ましてや、ISのシールドエネルギーを刈り取り、大ダメージを負わせられる威力を秘めた零落白夜だ。無傷という事はない。

 

「やっ…たのか?」

 

「….終わった?」

 

アリーナの中心には先程の土煙など存在しない、ただ、胸から鮮血を流しピクリとも動かず横たえている侍がいるのがはっきりと確認できる。ハイパーセンサーにも異常はない。刀は失われ、相手は戦闘不能。捕縛は今しかありえない。

 

「ボーディッヒ、念のためAICで奴の身動きを封じろ」

 

「yes,sir教官。しかし、その後は...?」

 

「学園にある捕縛用のロープで拘束、尋問だ」

 

「了解しました、では」

 

ラウラが左眼の眼帯を外しAICの射程距離に入るところまで歩いていく。AIC、慣性停止結界。仮に侍が動けても、AICの中ではその速さは零だ。そのためのAIC。その最中誰もが声を発さない。それは緊張ではなく、安堵、畏怖、尊敬、など様々な感情があったからだろう。織斑千冬は気を抜かずどこか遠い目でその光景を見ていた。

 

(お前とは、違う形で相見えたかった、ゆっくりと、後で色々聞かせてもらうぞ)

 

「ああ、侍。敵とはいえ、卓越した技量だったぞ」

 

ラウラが位置につき、AICを発動する。ピタリと侍の動きと鮮血の流れが止まる──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――前に侍が跳ねおき、ラウラの喉元に侍の左腕に仕込まれていた二対の青白く光明する刃が突き立てられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――まだ、終われるものか。

 

胴はやられた。一時的に麻痺しているのか右腕が動かない。バイザーが衝撃で壊れたのかノイズが視界に入る。出血が激しい。呼吸により、出血を抑えようとするが少し深く斬られたようで中々止まらない。少々、自分は油断していたようだ。だが、足が生きているならまだ、戦える。現状使える兵装は左腕上部に仕込んでおいた二対の小太刀──いや、ブレードと己の身体能力のみ。この仕込み刀程度ではISにダメージを与えるには至らない。何より──柄だ。刀身は砕けたがまだ、あの柄さえあれば、こんな歪んだ愚者共などにもう下されることはない。この胸の傷は恥だ。歪んだ思想を持った愚者の一太刀を受け入れてしまった自分が恨みがましい。この借りは下らない兵器に成り下がってしまったこのIS共を破壊することだけしか消せないないだろう。だがそれにら今は足りぬ兵装。ならば、今は。全力で抵抗してやるだけだ。

 

「ウグゥ!?」

 

「ラウラァーッ!」

 

ラウラの喉元に突き立てられた仕込み刀は大した威力は無かった。だが、どうした事だ。激しい音と火花が飛び散っているではないか。決してシールドエネルギーと仕込み刀が拮抗してわけではない。ならば何故そこまでのエネルギーが起きるのか。答えは二対の仕込み刀が細かく振動する事で、猛烈な破壊力を生み出しているからだ。

別名、高周波ブレード。それに加え、AICを使おうとしていたラウラの集中の不意をついたのだ。この女──ラウラが軍人なのは知っている。

だがら、死んだふりだったからこそ、効いた策だったのだ。その結果刀と比べると威力ない斬撃であったが、ほんの僅かにシールドエネルギーを削る事に成功する。

 

「ラウラちゃん!」

 

「ラウラ!」

 

「今、助ける!」

 

嗚呼、なんて五月蝿い小蝿どもだろうか。そんな軍事兵器としてしか利用価値を見いだせない、害虫の羽根など捨ててしまえ。貴様らの持つなまくらか銃さえなければ、それは人類の発展のために使われる美しい天使の毛翼のように輝くというのに。何故、その思想を理解しようとしない。何故、その武器を向ける。何とそんなに戦いたいんだ。認めない。下らないそのIS(兵器)が支配する世界など。だがら、私は望む。力を。ISなどがあっても無駄だという事を証明する力を。

 

「ラウラを離せええぇぇぇ!」

 

織斑一夏。貴様には失望した。もう用済みだ。この現状を平然と受け入れる貴様は敵だ。邪魔だ。害悪だ。どんなテロリストよりも罪深い。その罪は止まらない。今尚加速し続ける。慈悲などない。

 

──その首を置いていけ。

 

侍はラウラの胸から一気に斬り上げるようにして肩に付いていたレールカノンを切断。そして左手でラウラの顔を掴むと周りが構えていた各々の武器から発射された凶弾の盾がわりに投げ捨てる。前から威勢だけよく、向ってくる織斑一夏に対しては懐に潜り込み顔を跳ね上げるように蹴り上げる。蹴り上げた足で踵落とし。怒りで止まらない拳が、シールドエネルギーがある事も忘れ一夏の顔面へ掌底、肘鉄、右膝蹴りを浴びせる。シールドエネルギーがあるというのに、力の乗った一撃一撃は激しい衝撃を発生させ、一夏の脳を揺らす。まだ、足りぬ。左手のブレードを切り離し、それと並行して一夏の右関節を蹴り上げ雪片弐型を奪い取る。左手に奪い取った雪片弐型はまだ単一能力(ワンオフアビリティ)が発動状態であり、一振りする分には持ちそうだ。つまり、これで、やっと、忌々しきこの純白の悪意に満ちたこのガラクタを木っ端微塵にしてやることが出来る。

 

「させるかァァァァ!」

 

だが、またしても邪魔だ。紅いIS、赤椿が二刀流から一刀流にして、今までのISとは一線画す素早さであっと言う間に侍の懐へ。侍は振り下ろそうとしていた雪片を投擲し、赤椿へと命中させる。だが、赤椿に命中する頃にはエネルギーが尽きたのか零落白夜は切れていた。しかし、結果的には行動を阻害されてしまった。だが、報酬もあった。赤椿が雪片弐型に命中した事により、バランスを崩された赤椿が地面を摺って落ちた事により、地面に落ちていた柄が宙へと舞い上がったのだ。侍は目標を定め、一夏の顔を踏み付け、柄に向かい一直線に飛び出す。場はにより混乱している。ましてや、柄だけになった刀を狙うなんて思いもしないだろう。

 

だが、その目的に気付いた者がたった一人だけいた。

 

パァンと軽い音を立てて、宙に円を描くように舞っていた柄が何かにあたり、大きく吹っ飛ばされたのだ。

 

「させ...ません...わ!」

 

そう、気絶していたはずのセシリアだ。放たれた一発の光弾はピタリ柄の中心を狙い命中させた。ハイパーセンサーがあるといえど、その場面で命中させた事は褒め称えるべきだ。ただ、本当にタッチの差ではあったが。

それでも、侍に反撃のチャンスを与えなかった。柄を掴み取る事に失敗した侍はクルンと空中で一回転させ、体勢を整えようとする。

 

「いい射撃だ、オルコット!」

 

が、先程よりも絶対的な隙を千冬が見逃してくれるはずなし。さらに混乱から脱したラウラのワイヤーブレードとセシリアのビットが空中にいる侍に一斉に発射され、さらに高度な回避を求めていく。それに否が応でも応えなくてはならぬ侍は近くビットを蹴り飛ばし、ワイヤーに命中させ、また残ったビットをワイヤーを掴み操る事でビットを撃ち落とす。

だが、こんなもは連携と隙作りにしか過ぎない。本命は千冬のブレード。完成された千冬の振り下ろしが侍に迫る――はずが左腕に()()()また切り離されたはずのブレードが受け止めていた。

 

「何!?」

 

千冬も先程一夏と侍の打ち合いの時にブレードを切り離したのを見ていた。しかし、どうだ。しっかりともう一度つけられているではないか。いや、よく見ると二対の小太刀は先程よりも対の間が離れている気がした。ぎりっとさらに肉薄し、迫り合い持ち込んだ時にその謎が解けた。腕の装甲が持ち上がり、空洞の空いた、射出口のようなものから刃が生えていたのだ。

 

「なるほど、な!」

 

千冬は侍に対して、蹴り、と見せかけた踏み込みで体勢

崩しを試みる。侍は極められた感覚と先読みでその攻撃を回避。お返しにとサマーソルトで反撃する。しかし、千冬も強者。ブレードでそれを防ぎ、流れるように横薙ぎ、振り下ろしを繰り出す。侍はそれすらも予測してか、上へと飛び、躱す。

 

「──かかったな?」

 

「織斑先生ナイス誘導です!」

 

誰が叫んだか分からない。しかし、全てのISの持てる火力が空中へ飛んだ侍へと向けられていた。照準は光を反射し、仕向けられ反射光はさながら、注文を浴びるスポットライトのようで、刹那、磨き抜かれた各々の武器からこの機を待っていたと言わんばかりに先刻の一斉砲火のそれを上回る熱が、弾丸が侍を襲った。

侍は回避しようと左手のブレードを構え、そして気付いた。

 

──最後の頼みの左手のブレードが消失していたのだ。

 

「お前が探しているのは、こいつだろう?」

 

その正解を知っていたのは千冬。右手には2枚のブレードの刃。──跳躍した際の一瞬の隙に私の左のブレードを斬っていたのか。

 

そして、宙を舞う己の周りにはISもいななければ、足場になりそうなものもない。

 

「──これで終わりだ、侍」

 

千冬が──ブリュンヒルデが獰猛に笑った。

 

 

「──覚えていろ、IS乗り共」

 

 

ハイパーセンサーが地獄の底から響くような低い男の声を拾った次の瞬間──圧倒的な砲火が回避する術を失った侍を襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、やられちまったじゃねえかよ!アイツ!」

 

「いや、よくやったと言うべきよ。ほぼ『生身』であの量のIS、ましてや第4世代とブリュンヒルデもいるというのに。こんな悪条件ではあなたでも勝てないでしょう?オータム」

 

IS学園から北に20km離れたビルの最上階にその2人の女性はいた。1人はISのハイパーセンサーの技術を用いた双眼鏡でその戦いを傍観し、もう1人はグラスに注がれたバーボンを呷っていた。

 

「スコール、あいつの望みを本当に叶える気だったのか?」

 

「えぇ。でも、できたらの、話だけれど」

 

「ハハハハハハハ!現行のISの全てのコアを回収して、水面下でISの軍事開発をしていている企業を倒産させ、国連を壊滅されることができたら、この亡国機業(ファントムタスク)を畳むってあの無理難題な契約だろ!?アイツもよく受け入れる気になったよなぁ!まぁ、これで終いだがな!」

 

オータムは腹を抱えて、品の欠片もない大声で笑う。対してスコールは、妖艶に笑みを浮かべて手元のタブレット端末の画面を注視していた。そこに映っていたのは、先程まで侍が戦闘をしていたIS学園のアリーナ。その中心は抉れ、砲火のために真っ黒に焼けていた。

だが──そこには本来あるべきはずのものがなかった。

 

「──まだ、私達に嗤わせてくれるというのね」

 

タブレット端末の電源を落とし、スコールは空──いや、成層圏を睨んで、呟いた。

 

「あなたの理想の世界か。私達の理想の世界か。どっちが正しいのか証明してみせましょう──」

 

 

──そう、なにせまだ計画は始まったばかりなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ISが完結すると聞いたので、書いてみたものの思いっきりアンチヘイトな作品になってしまった…

(´・ω・`)

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