夕暮れの君は、美しく輝いて   作:またたね

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夏といえば。

ひまりかわいい。


夕暮れの夏祭り

 

 

 

22話 夕暮れの夏祭り

 

 

「っとやば、もうこんな時間か」

 

 

 先程まで続けていた身支度を終え、振り返りざまに壁時計を見た俺は呟く。

 時刻は18時45分過ぎ。日照時間が1日の半分を超えた8月の初旬。空は茜に染まりかけてはいるものの、まだまだ暑い日差しが地表をジリつかせている。

 

「早く行かないとやばいな……」

 

 遅刻でもしようものなら……考えたくもない(ブッ殺される)。財布と携帯、僅かばかりの携行品を入れたウェストポーチを引っ手繰るように肩に掛けると、スニーカーの踵を踏み潰しながら、駆け足で外へと飛び出した。

 

 太陽というのは、沈み出せば一瞬だ。先程までは地表を焦がしていた日差しも幾分か鳴りを潜め、微かではあるが、俺にとって外出しやすい気候になった。

 何度も言うが、俺は夏場に外に出るのが非常に嫌いである。理由はただ1つ、暑いのが嫌いだから。余程の理由でもない限り、個人的に外出なぞしない。そんな俺が、駆け足で目的地へと向かう。個人的には天変地異レベルの出来事である。

 その理由は───。

 

 

「あ、来た!」

 

 

 目的地へと辿り着いた途端、彼女の姿は目に入った。それは向こうも同じだったらしく、おーいとこちらに大きく手を振っている。

 夕暮れに染まる空、橙色の光が照らす世界の中。確かに彼女は、笑っていた。

 

「あ、陽奈くーん!」

「おっそいよー、もーう」

「ごめんごめん、家から近いから油断してたよ」

 

 

 ──『夕暮れ』を冠した、彼女達と共に。

 

 

「18時53分、集合2分前か。ギリギリセーフだけど男としては失格だなぁ、陽奈」

「うるせぇよ巴。俺にも色々あったんだよ」

「ふーん……色々って?」

「ああ!それってハネクリボー?」

「いや、誤魔化し方下手過ぎだろ」

 

 巴と会話しているうちに、駆け足のせいで上がっていた息が少しずつ戻ってきた。たかがこの程度の距離で息の上がる自分が本当に情けない。やはり夏場でも嫌だと言わずに少し体を動かすべきなのだろうか。

 そんな事を考えていると、如何にも不服と言わんばかりに頬を膨らませたひまりが後ろから俺に飛びついてきた。

 

「とうっ!」

「わっ!なんだよひまり、いつも飛びつくなって言ってるだろ?」

「もう、ハルちゃん私達の服装見て、なにも感想ないわけ!?」

「ぐふっ」

 

 抱きしめると言うよりは、ホールドすると言った方が正しいひまりの抱擁から解き放たれたことに安堵したのは一瞬、背中から突き飛ばされた衝撃に、肺の中の空気が一気に押し出され、大きく前につんのめった。倒れるなんてそんなダサい真似は出来ぬ、たたらを踏んでバランスを取り転倒を回避すると改めて後ろを振り返り、そこに立つ五人組の姿を見た。

 

 

「じゃじゃーん!どうどう?私達の()()姿()!」

 

 

 

 自信満々に笑うひまり。

 いぇーい、と言いながらピースをするモカ。

 恥ずかしそうだが笑顔を見せたつぐみ。

 やれやれ、といったように笑った巴。

 頬を染めたまま、目を合わせようとしない蘭。

 

 それぞれが多様な反応を見せた。

 

 そう、今日は彼女達と夏祭りに来ているのだ。

 

 

 事の発端はやはり彼女(ひまり)

 『お祭りに行こう!みんなも連れて!』と言う彼女の言葉のままに、今回のイベントが設けられた。お祭りと言うのは俺とひまりの家の近所で毎年行われている夏祭りのことで、神社の境内の中と隣接した小学校のグラウンドの二箇所に渡って中々の規模で開催されているものだ。たかが近所の祭りと侮る事なかれ、普通に見て回るだけでも数時間はかかる上に、最後には打ち上げ花火も空に花を咲かせる。この小さな町のどこからそんな金が出ているのかと不思議に思ったのは去年の事である。

 例年はひまりと2人で行っていたが、今年は『Afterglow』の皆も一緒にお祭りを回ることになったのだ。

 

「どうだいハルちーん、あたしらの浴衣姿は」

「……似合ってるんじゃないか?」

「えぇ〜、それだけ〜?」

「それだけもなにも、本当にそう思ってるんだよ」

 

 正直な話、『Afterglow』のメンバー全員のルックスのレベルは非常に高いと思う。全員がクラスのマドンナを張れるレベルで。

 そう思うとこんな浴衣姿の美少女5人組と、俺如きが一緒に夏祭りを回らせて頂くことは、もしかすると非常にありがたいことなのではないかと思い始めた。

 

「じゃあさ、ハルちんは誰の浴衣姿が1番似合ってると思うの〜?」

「は?」

「おっ、確かに気になるな!陽奈は誰の浴衣が好みなんだ?」

「巴まで、何言って」

「……早く決めなよ」

「蘭さーん?不機嫌そうに俺の背中を押すのはやめようなー?」

 

 多方面からの圧力により、完全に俺が誰かを選ぶ空気になってしまっている。『みんな可愛いよ』なんて言葉じゃきっと満足しないんだろうということもなんとなくわかってしまう。不本意だが、どうやら覚悟を決めるしかないらしい。

 

「んー……」

 

 改めて、5人の姿を眺める。甲乙付け難いものの、ややあって俺はある1人を指名した。

 

 

 

 

「──つぐみ、かな」

 

 

 

「へっ!?わ、私っ……?」

「うん。柄もお洒落だし、髪飾りも浴衣に合ってるし。何より、君に似合ってるよ」

「そ、そうかな……えへへっ」

 

 俺の言葉に、彼女は心底嬉しそうに笑う。  

 俺なんかの言葉でこんなに喜んでくれるなら悩んだ甲斐があったってもんだ。

 

 そんなつぐみの浴衣は、淡い青色を基調として、黄色い花や錦の魚型で彩られたやや薄手の布地で作られたものだ。髪型は普段と変わらないが、浴衣と色合いを合わせるように青い花弁があしらわれた髪留めをつけている。華美ではないが、その大人し目の色合いが、つぐみにぴったりだと思う。

 

「あーあ、あたしも自信あったのにな〜」

「だから、最初に似合ってるって言っただろ?」

 

 冗談混じりだが残念そうに呟くモカの浴衣は、普段彼女が来ている日中の青空のような色をしたパーカーとは打って変わった、星空を思わせる濃紺の浴衣だ。それと対比になるような眩い色遣いの帯と、黄色や白で鮮やかに彩られた花が、とても良いアクセントになっている。更に髪も普段のラフなそれとは違って丁寧に編み込まれており、モカってやっぱり可愛いんだなぁと、改めて思わされた。

 

「なるほど、陽菜の好みはシンプルな柄っと」

「そんな情報なんの役にも立たないぞ、巴」

 

 悔しがる様子もなく、一貫して俺を揶揄う様子でいる巴の浴衣は、彼女の髪色よりも少し暗めの、ともすれば茶色に見えてしまうような赤色だった。普段の振る舞いや言葉遣いから忘れがちだが、やはり巴も整った顔立ちをしている。可愛いというよりも美人といった印象を抱く。『Afterglow』の衣装のようにパンクな服装も似合っているが、個人的には髪型までオシャレに着飾った此方の方が似合っているように思える。

 

「…………何」

「いや、着こなしてるなぁって思って」

「褒めても何も出ないし」

「いやいや、純粋な感想だよ」

「…………」

 

 朱い頬のまま、俯きがちに視線を横に流した蘭の浴衣姿は、とても綺麗だった。他の皆とは違う、“着慣れている”感がある。やや赤みがかった桃色の浴衣にあしらわれた細やかなススキの装飾。布地が他の皆とは違い、触らずにしてわかるような高級感が漂っている。実家の……華道で使うものなのだろうか。髪も普段とは違ってメッシュに染めた赤い髪を丁寧に編み込み、そこに花飾りをつけている。語彙力がまるでないが、可愛い。そう形容する以外になかった。

 

「ねぇねぇ、私は!?」

「……フツー」

「えぇ!?なんで!?」

「いや、君の浴衣姿は毎年見てるから新鮮感がまるで無いし、しかも毎年俺に感想求めてくるじゃんか。もう語彙が尽きたよ俺は」

「えぇー、そんなぁー……」

 

 俺の言葉を真に受け、涙目で俺を見つめるひまり。可愛そうだとは思う、だが仕方ないだろう?少しは分かって欲しいんだ。

 

 ──毎年毎年、普段の何倍も可愛い君の姿を見せられる俺の心労を。

 

 可愛いんだよ、似合ってるんだよ。かなり、とても、凄く、止ん事無しに。

 ただあまりにも可愛いその姿を上手く形容できるような言葉が、俺にはもう考え付かないんだ。

 つぐみが1番似合ってる。ああ、確かにそう言ったさ。でもその中に、()()()()()()()()()()

 

 

 君の浴衣姿は、俺にとって別格だ。他の誰も並ぶ事はない。

 

 

 ──そう言えたなら、どれだけ楽な事か。

 

 

 

 邪魔をするのだ。プライドが、心が、見栄が、羞恥心が、『俺に言われたところで何になる』という卑屈な感情が。

 故に俺が取る行動は1つ。“何も言わない”、これに尽きる。しかし。

 

「陽奈くん、ひまりちゃん頑張って浴衣選んだんだよ?何か言ってあげなよ」

「え、つぐみ……?」

「そうだぞ陽奈、男としての人格を疑うレベルだぞ?」

「男らしくないと思いまーす」

「巴もモカも……」

「ハル、サイテー」

「蘭まで!?」

 

 全員からのバッシングを受けてしまった。まるで俺が悪者みたいに扱われてしまっている……いや、事実そうなのだろう。自分でも何か言わなければとは思っているのだから。

 改めてひまりを見ると、彼女は涙目のまま俯いていた。俺のせいでひまりが泣きかけている。確かにそれは本意ではないし、決してあってはならない事だ。

 

 俺はひまりへ歩み寄ると、そっとその頭に手を乗せた。

 

 

「──似合ってる、可愛いよ」

 

 

 圧倒的小並感。それでもその言葉が俺の正直な感想だった。そんな俺の言葉を受け、ひまりはゆっくりと顔を上げると。

 

 

 

「──えへへぇ、嬉しいなぁ」

 

 

 

 頬を紅潮させながら口元を緩ませ、だらしなく笑うひまり。

 ──単純かよ。

 口から飛び出しかけた言葉を、寸前で飲み込んだ。だがひまりの表情は、彼女の喜びを如実に示している。こんな言葉でも喜んでくれるなんて。俺は嬉しさと恥ずかしさが入り混じった苦笑を思わず浮かべてしまう。

 するとその様子を見ていた巴がニヤニヤと笑っている姿が視界に入った。それに気づいた俺は口元をキュっと締め直し、巴を睨む。それに対して巴は、ペロっと軽く舌を出して

返してきた。まるで『反省はするけど謝罪はしない』と言わんばかりに。

 

「……しっかし、結構人が多いんだなここの祭り。正直舐めてたぜ」

 

 そして何事も無かったかのように、巴は不満混じりに呟く。

 

「確かに町とかじゃなくて地域単位でここまでデカイ祭りはそうないかもな」

「これだけ大きければ、美味しい食べ物も沢山ありそうだねぇ、ふふふ〜」

「私イチオシのたこ焼き屋さんがあるよ、モカ!一先ずそこに行く?」

「うん、私達はどこに何があるかわからないから、とりあえず陽奈くんとひまりちゃんに付いて行くよ」

「……人酔いしそう」

「元気出せ蘭。ここにいる全員観客だと思えば大したことないだろ?」

 

 そして俺達は談笑しながら歩き出した。

 

 例年通りの、それでも例年とは一味違う、俺とひまりの夏祭りが、始まった。

 

 





夏祭りの導入ということで今回は短めです。

前回お知らせした企画小説の方に感想が届いていました!本当に嬉しいです!まだ読んでないよという方、是非読んで感想を頂ければ嬉しいです!リンクを1番下に貼っておきますのでお時間のある方は是非に是非に。

新たに高評価をくださった、

マトリカリアさん、なめりんりんさん

本当にありがとうございます!評価39になりました、サンキューです。あと少しで40……!

次回もよろしくお願いします!


企画小説はコチラ↓
https://syosetu.org/novel/175458/2.html
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