ルシファーside…
魔王の妹の一行を叩きのめしてから数日が経過し、私は今“旋律の翼”のいつものカウンター席でアイスコーヒーを飲みながら報告書を見ていた。魔王の妹…グレモリーは暇を持て余しまくっていた黒歌に猫に化けて監視をしてもらっている。アイツもグレモリーの眷属に自分の妹がいると知ったからか喜んで引き受けてくれた。
報告によると、あの娘は私達に手も足も出ずに負けた事にかなり御立腹だったそうだが、数時間もすると私達の力に興味を持ち、今ではなんとか自分の眷属に出来ないかと画策しているらしい。勿論なるつもりは全く無い。
因みに、あの後日本神話勢力に確認を取ったが、向こうはグレモリーを町の管理者に任命した覚えは無いとハッキリ言っていた。勝手に管理者を名乗っているのは間違いない様だ。
(はぁ……悪魔も堕天使もいったい何を考えているんだ?悪魔は勝手に管理者を名乗り、堕天使はまだ可能性だがモンスターと手を組んでいる……やっぱりあの娘が予言にあった“赤き王”か?お世辞にも強いとは言えなかったしな)
桜の話ではあの剣士は百歩譲ってスピードはあったとしても力は無く、技も桜から見たら素人より少しは戦える程度だと聞いたし、私が相手した黒歌の妹は駒の特性によるゴリ押しのみで、技術は素人の喧嘩同然。卑弥呼の相手をしたあの娘…おそらく神社で会った子供は、魔力の扱いはあの中で一番長けていたが、攻撃は電撃のみで他の属性を使ってこない。グレモリーは何がしたいのか分からない上に、罠かと逆に疑ってしまう程に隙があり過ぎる。あの茶髪の変態に至っては初めて喧嘩しましたと言わんばかりの素人だ。よくあれで管理者を名乗れるものだ。
「取り敢えず魔王の妹は黒歌に任せるとして、問題は堕天使に協力しているモンスターが誰かだが……」
カラン♪カラン♪
「いらっしゃい。お1人かな?」
「……1人です。あの、外の看板にあった“1日5個限定特製ビックチョコレートパフェ”ってまだありますか?」
私が思考を巡らせていると、お店に新しい客がやって来たようだ。どんな客だろうかとふと気になって入口の方を振り返る。そこには無表情で小柄な体格の白髪の少女……黒歌の妹が私服姿で立っていた。
「………あ」
「………え?」
★
リアス・グレモリーの眷属である
彼女の姿を視認した子猫は顔を蒼ざめて後退ったが、ルシファーが引き止め、なんやかんやで2人並んでカウンター席に座る事となった。
(……今日はパフェを食べに来たのに、最悪な日です)
「………お前、確か名前は子猫と言ったな」
「ッ!!……は、はい。塔城 子猫です」
子猫は突然ルシファーに話し掛けられて肩をビクッ!と震わせたが、コクリと頷いて自分のフルネームを答えた。
「先日は済まなかったな。気絶させる程度に電撃を与えたのだが……あの後体に何か異常はないか?腕が麻痺しているとか……」
「……大丈夫です。なんともありません」
「そうか。それは良かった」
ルシファーはそう言うとアイスコーヒーを飲みながら報告書を読み始めた。何か異常があるようなら桜やアリス…それでもダメならアヴィロンやモンスター界の病院にでも治してもらおうと考えていたが、何も異常が無いならいいかと内心ホッとしていた。
一方子猫は自分を一瞬で戦闘不能にしたルシファーを不思議そうに見つめていた。まさか謝られる上に体の心配をされるとは思わなかったからだ。意外に優しい人だったりするのだろうかと思い、子猫はルシファーに話し掛けてみることにした。
「……あ、あの」
「はいお待たせ。特製ビックチョコレートパフェだよ」
「ッ!おぉ〜!!」
話し掛けようとした所でマスターのハデスが子猫の前に巨大なチョコレートパフェを置いた為、子猫の視線はそのパフェに釘付けになった。巨大な器にチョコレートやアイス、ホイップクリーム、果物などの具材がふんだんに使われており、甘く美味しそうな香りが子猫の鼻をくすぐった。キラキラと目を輝かせてパフェを眺める子猫の姿を見たルシファーは、まるで大好物の手作りお菓子を目の前にした黒歌とそっくりだと思い、クスリと笑った。
「(やはり姉妹だな)ふふ♪……さて、私は帰るとするか。あぁ、マスター。この娘のパフェの代金は私が払おう」
「え!?い、いえ!自分で払えますから……!」
「電撃を浴びせた詫びだ。気にする事はない」
ルシファーはそう言うとアイスコーヒーとパフェの代金をカウンターに置くとフードを被って店を出た。子猫はルシファーの背中とカウンターに置かれた代金を交互に見ながらオロオロしていると、カウンターの向こうでコップを拭いていたマスターのハデスが「貰っておきなさい」と言った。
「原因は詳しく知らないけど、彼女が『払う』って言ってるなら、素直に貰っておいた方がいいよ。それに、君はどうやら気に入られたみたいだしね」
「……気に入られた…私がですか?」
「うん、彼女は家族や親しい人かその身内、そして自分が気に入った者以外に対してああいう行動はしないんだ。彼女が奢ると言うなら、素直にもらっておいた方がいいと思うよ?」
「……………」
子猫は閉まったドアをしばらく見つめ、やがて席に戻ってパフェを食べる事にした。
因みに、特製ビックチョコレートパフェのお味は………?
「ッ!!?〜〜〜〜♪♪♪♡♡」
美味しかったようだ。
★
ルシファーside…
子猫と“旋律の翼”で出会った翌日、私は今ゼフォンとアリス、天草四郎の3人と一緒に町外れにある今は使われていないとある教会に訪れていた。
実はついさっき、ガブリエルが堕天使共の目的とアジトの場所の情報を持って来たのだ。目的は数日前にこの町にやって来た金髪の少女…アーシア・アルジェントとかいう教会を追放された娘から神器を抜き出す事のようだ。
神器の名前は“
そしてアジトになっているこの教会は、今まで何度か卑弥呼の埴輪達が見に言った場所ではあるが、どうやらあそこには地下の祭儀場に続く階段があるらしく、その入口を
因みに協力しているモンスターの情報は掴めなかった。かなり頭がいいのか、はたまた警戒心が強いだけかは分からんが、どの道私達が管理するこの町で好き勝手されては困る。
「本当にこんな場所にいるんですか?」
「ガブが自信満々に言っていたんだ。おそらくそうなのだろう」
ゼフォンは訝しげな顔で教会を見上げる。教会はどこからどう見てもただの廃墟。ゼフォンの疑いたくなる気持ちは分かるが、ガブリエルの情報は信用出来る。
「ねぇねぇ!この中にいる人達ってさぁ、蜂の巣にしちゃってもいいかなぁ?いいよねぇ♥︎」
「いや、アルジェントとかいう娘はダメだ。それ以外なら構わん」
私が今にも中に飛び込んで銃を乱射しそうなアリスに注意していると、青い長髪と纏っているマントを靡かせながら拡声器が付いた巨大な金の釈杖と一冊の分厚い本を持ち、腰や腕に鎧の防具をつけた和服の少女…江戸時代初期のキリシタンであり、島原の乱と呼ばれる一揆を起こした最高指導者が元となったモンスターである天草四郎時貞が釈杖を握る手に力を込めながら私の方を向いた。いつもは穏やかな顔をしているが、キリシタンの彼女は廃れたとはいえ教会が少女を殺す為に利用されるのが許せない様子だ。
「では参りましょう。祈りの場を少女の命を殺める為に使う輩を、一刻も早く捕らえましょう」
「そうだな。行くぞ」
私は閉ざされている教会の木製の扉を押し開けた。中は沢山の長椅子が祭壇に向かって並んでおり、思ったより汚くはなかったが、十字架や石像などは壊れており、それを見た天草四郎は少し悲しげな表情を浮かべる。
まっすぐ祭壇に向かおうとすると、私達の前に1人の白髪の神父が現れた。
「おんやぁ〜?てっきりクソ悪魔共が来ると思ってたんでやんすが、予想が外れやがりましたねぇ」
「なんだお前は?その服装からして神父の様だが……お前もはぐれ悪魔祓いか?」
すると白髪の神父は「御名答ぉ〜〜♪」と笑いながら左手に銃、右手に刃の部分が光で出来た剣を持ち、剣の切っ先を私に向けた。
「俺の名前はフリード・セルゼン。とある悪魔祓い組織に所属している少年神父でござんす♪」
「剣を向けながら名乗るとは、随分と物騒な神父がいたものだな。生憎私達は悪魔ではない。そこを通して貰おうか」
「そういう訳にもいかぬでありんす。『教会に入った者は殺しなさい』って指示貰ってますからぁ」
無駄に腹が立つ話し方をするフリードと名乗る神父に殺意を感じ、一気に頭を蹴り抜いてやるかと思っていると、天草四郎が手で制した。
「お待ち下さい。ここは私にやらせて貰えませんか?」
「………分かった。先に地下へ行っている」
私はこの場を天草四郎に任せ、アリスとゼフォンを連れて祭壇に向かって歩みを進める。するとフリードは光の剣を構え、私に襲い掛かって来た。
「さっきの俺っちの話聞いてましたぁ!?行かせる訳ないでしょー《 ドゴッ!! 》ブベラッ!!?」
だがフリードは一瞬で私の前に移動したゼフォンの蹴りを腹に受けて吹っ飛び、長椅子を幾つか破壊しながら壁に激突した。ゼフォンは手加減をしていた様だが、どうやら気は失っていない様だ。人間にしては丈夫だな。
取り敢えず後は天草四郎がやるだろうから、私達は祭壇の裏に隠されていた地下への階段を見つけ、降りていった。
「〜〜ッ!いってぇ!!よくも思いっきり蹴飛ばしてくれやしたねぇ!!」
「………フリード・セルゼン。貴方のお相手は私です」
「あん?………ッ!!?」
フリードはゼフォンに蹴られた腹を押さえながら後を追おうとしたが、背後から掛けられた声に振り返ると目を見開いた。フリードの視線の先では、聖書を開いてこちらを睨む天草四郎の姿と、彼女の背後に浮く何人もの水で出来た人型の式神の姿があった。彼女は聖書を高く掲げ、自分の背後に浮く式神達に指示を出す。
「信仰こそ、我らが武器。……進め!!」
彼女の命に従い、水の式神達はフリードに向かって突撃して行った。
★
ルシファー達は階段を降りた先にあった扉を開けて地下室の中へ入ったが、そこには予想外の光景が広がっていた。
室内には血を流しておそらく死んでいる悪魔祓いと思われる黒いローブの男達に加え、ボロボロの状態で同じく地に伏しているレイナーレの部下であるミッテルト、カラワーナ、ドーナシークの3人の堕天使達。そして祭壇の上には十字架に磔にされてぐったりしている金髪の人間の少女と、白いジャケットを着て紫のチェック柄のマフラーを首から下げている青っぽい髪を後ろで結った男性の堕天使に首を持ち上げられている全身傷だらけのレイナーレの姿があった。
「おや?予想よりも早く来てしまいましたね。やはり人間に
男はレイナーレを放り捨てると、ルシファー達の方へ体を向けた。ルシファーは男の顔を見ると、顔を険しくする。この男の顔に見覚えがあったのだ。
「成る程……貴様だったのか。通りでこれまで正体が掴めなかった筈だ」
「ふふふ……お久しぶりですねぇ?“堕天の王”ルシファー。貴女が人間界で町を1つ管理している事は知っていましたが、まさか駒王町だったとは…」
男はやれやれと首を横に振る。ゼフォン達は男を知っている様子のルシファーを見つめていたが、ゆっくりと体を起こして男を睨み付けるレイナーレに気付いてそちらに視線を向けた。
「エ、エバル……貴方、私達を裏切るつもり!?」
「裏切る?私は最初から貴女方堕天使の仲間ではありませんよ。私はコレが欲しかったので、貴女方を利用しただけです。私は人間からコレを抜き出す方法を知らなかったのでね」
そう言いながら男が見せたのは緑色の光に包まれている2つの指輪……十字架に磔にされている少女、アーシア・アルジェントの神器、“聖母の微笑”だった。
「回復系の神器というのはこの世界ではとても貴重な品だ。その道の連中に売れば莫大な金になる。コレが手に入った今、貴女方はもう用済みですので……」
「エバル!!貴様ァ!!!」
エバルが眼鏡をクイッと上げながら堕天使達に向かって『用済みです』と言った瞬間、光の槍を出現させたドーナシークがエバルに襲い掛かった。だがエバルはそれを見ても動じず、ゆっくりと腕を上げて向かって来るドーナシークに向けた。
「後、私の名前はエバル
エバルはそう言うと手からレーザーを放ち、ドーナシークを跡形も無く消し飛ばした。レイナーレ達がドーナシークの名を叫んでいる間、エバルの体が光に包まれた。やがて光が消えると、そこには額から青い2本の角が生え、背中に機械の様な
彼は姿が変わっている事に驚愕しているレイナーレ達と警戒を露わにしているルシファー達に向かって綺麗なお辞儀をすると名乗り始めた。
「改めまして自己紹介を、私は“ソロモン72柱の総帥”、バアルと申します」