ルシファーside…
(……この辺りも異常なしだな)
日が傾いて夕日に染まり始めた駒王町を、私は人間の姿になって巡回していた。
この駒王町の管理を任されてから2年が経過し、管理の仕事やこの町での生活にも十分慣れた。管理の仕事は思っていたより簡単で、町で人間を襲っている悪魔や堕天使などの人外を討伐しておけば、後は町に異常がないか巡回して週に1回日本神話の神々に報告しておけば後はほぼ自由だった。
最初は既に町に侵入していたはぐれ悪魔共の討伐と、次いでに町を根城にしていた人間の犯罪者共を縛り上げて警察に通報するのに忙しかったが、そこは日本神話側が送ってくれた助っ人と、一緒に町の管理をしてくれているガブリエル達のお陰で早く済んだ。その助っ人は今休暇中でこの町にいないので、紹介はまた今度にしよう。
(さて、後は神社の近くを見て終わりだな。確か今日の夕飯はシチューだとグレイフィアが言っていたな。早く済ませて帰るとしよう)
「……ん?あ、ルシさ〜ん!パトロールの帰りですか?」
歩く速さを少し上げて巡回ルートを歩いていると、背後から声を掛けられた。私が足を止めて振り返ると、制帽を被った少し癖のついた緑色のロングヘアーの少女…ガブリエルが手を振りながら駆け寄って来た。女性の郵便配達員を思わせる紺色の制服を着て、首には愛用のゴーグルを掛け、黒い革の集配バッグを肩から掛けた服装をしているから今は進化の姿だな。しかし相変わらず元気いっぱいだな。
「なんだガブか……進化の姿という事は、戦闘でもあったのか?」
「そうなんですよ。実はさっきすぐそこの空家に住み着いていたはぐれ悪魔に襲われましてね……あ、勿論ちゃんと討伐しましたよ?」
「逃していたら私と呑気に話をする訳ないだろう?もし出来てなかったら私が直々にお前を鍛えてやる」
「あははぁ〜………冗談ですよね?」
「さぁて、どうだろうな」
「ちょ!それどういう意味ですか!?ねぇルシさ〜ん!」
フフフ♪ガブリエルを揶揄うのはやはり面白いな。焦った様子の彼女はとても可愛らしい。
私は我慢出来ずにクスリと小さく笑ってしまった。それを見てガブリエルは自分がまた揶揄われていると気付いて今度は頬をプク〜ッと膨らませて怒り出した。元々可愛らしい顔をしているから全く怖くないな。
「ま、また私を揶揄ってますね!?もぉ〜〜!!酷いですよルシさん!」
「フフッ♪済まない。お前の反応が可愛らしいのでな、ついやってしまう」
「か、かわッ!?いきなり何を言うんですかルシさん!!」///
ガブリエルは顔を真っ赤にさせながら怒っているが、今のは本当の事を言ったまでなんだがな。
「ところで、町に侵入した
「……いいえ、残念ながらいません」
私がそう聞くと、ガブリエルは少し残念そうにしながら首を横に振った。私達が言う《白のはぐれ悪魔》とは、止むを得ない理由で主人を裏切ったり、濡れ衣を着せられてお尋ね者にされた転生悪魔などの事だ。
はぐれ悪魔には2つの種類がある。1つは自分の力に溺れて主人を殺害し、自分の快楽の為に人間を襲い、殺したり喰らう《
そして悪魔に騙されたり、弱味を握られ強制的に悪魔に転生され、主人の悪魔からの虐待などが原因で主人を殺害または裏切ったりしてお尋ね者にされた《白のはぐれ悪魔》の2種類だ。
黒のはぐれ悪魔はそのまま野放しにしておくと人間達を襲ったりする為、見付け次第討伐している。だが白のはぐれ悪魔は見付けたら先ず会話を持ち掛け、私達が“白”と判断出来たらアヴァロンによる治療を受けてもらう。
人間などの他種族は“悪魔の駒”を体内に入れられる事でその駒の持ち主の下僕悪魔に転生する。それをアヴァロンによる治療で摘出して元の種族に
私は出来るだけ白のはぐれ悪魔はなんとかしたいのだが……来ていないのなら仕方がないな。
「そうか……まぁ、いればラッキー程度に聞いてみただけだ。見付けたら知らせてくれ」
「ッ!はい!了解であります♪」
「フフ♪……うむ、期待しているぞ」
ガブリエルとそんな会話をしながら巡回していると、パァン!と何かが弾ける様な音が聞こえた気がしたので、一度足を止めて周囲を見回した。今いる場所は神社に続く石階段前の道。今まで何度もこの道を歩いて来たが、あんな音が聞こえたのは今回が初めてだ。それにあんな音がする物はこの付近には無いはずだが……?
「どうしたんですかルシさん?」
「いや……今何かが弾ける様な音が聞こえた気がしたんだが、ガブは何か聞かなかったか?」
「え?弾ける様な…ですか?私は気付きませんでしたけど……」
やはり気の所為か?だがどこかで聞いた事がある様な音だったのだが……どこで聞いたんだったか。
私がなんとか思い出そうとしていると、再び先程と同じ音が聞こえた。今度はガブリエルも聞こえた様で、私と一緒に音が聞こえた神社の方を見た。
そうだ思い出した!あれはこの町を管理して初めて人間の犯罪グループを潰しに行った時に聞いた……銃の発砲音だ!!
「ッ!!ガブリエル!先に行くぞ!!」
「え!?ちょっとルシさん!待って下さいよぉ〜……」
私は神化の姿になって翼を広げて空に舞い上がり、銃声がした場所…
★
「おい
姫島神社の居住区の前では、10人程のローブの様な服を着た男達が1人の女性と小さな女の子を取り囲んでいた。男達はそれぞれ手にナイフや剣を握り、1人だけナイフと一緒に拳銃を握っている。朱璃と呼ばれた女性は右腕から血を流しながら女の子を守る様に抱き締めていた。
男達のリーダーらしき拳銃を握った男に子供を引き渡すよう言われた女性は、女の子を抱き締める力を強めて首を横に振った。
「嫌です!!この子は私の……あの人と私の大事な娘です!絶対に渡しません!!」
「か……母さま………」
抱き締められている女の子は、右腕から血を流している自分の母親を今にも泣きそうな顔で見上げた。あまり詳しく状況を理解出来ていないが、朱璃が自分を守ろうとしてくれている事は分かっているのだろう。朱璃は右腕を撃たれて激痛が走っているのにも関わらず、自分の娘に優しく微笑みながら安心させる様に優しい声で話し掛けた。
「大丈夫よ。貴女は絶対に渡さないわ。安心しなさい」
「う…うん……」
女の子はガタガタ震えながらも、必死に朱璃に抱き着きながらコクリと頷いた。朱璃はそれを見て安心したようだが、男達のリーダーはそれが気に食わなかったのか、痺れを切らして銃口を朱璃に向けた。
「フン!どうやらあの堕天使に心まで汚されてしまったようだな朱璃よ。ならばその子供の前に、貴様から先に始末してやる!!」
銃口を向けられた朱璃はキッ!とリーダーを睨み付けながら自分の娘を更に強く抱き締めた。自分の母親が危ない事を悟った女の子は母親を引き離そうと暴れるが、大人と子供では力の差があり過ぎて腕から抜ける事が出来ない。
「……ッ!!ごめんなさいね」
「いやぁ!!ダメ!母さまぁぁぁぁぁ!!!」
「………死ね」
パァン!!と乾いた破裂音が鳴り響き、リーダーの持つ拳銃の銃口から1発の弾丸が朱璃の命を奪う為に放たれた。朱璃は我が子を守ろうと目を固く閉じて襲って来る痛みに備え、愛する夫と娘に謝った。抱き締められた女の子は自分の母親の顔を見て涙を流し、泣き叫んだ。
そして放たれた弾丸は………。
「「「「「ッ!!?」」」」」
「な、何ぃ!?」
「………え?」
空中で
弾丸は薄っすらと紫色の光に包まれており、やがてその光が消えると、弾丸は力無く地面に落ちた。
「私が管理するこの町で、随分とふざけた真似をしているな…?」
男達と朱璃が突然の出来事に唖然としていると、朱璃と女の子の背後に空から1人の少女…ルシファーが降り立った。男達はルシファーの容姿を見て一瞬見惚れていたが、すぐに気を取り直して武器を構えた。
ルシファーは詰まらなそうに彼等を見た後、自分の側にいる親娘に視線を向けた。朱璃が腕を怪我していたのを見て少し顔を歪めたが、2人共生きているのを見てルシファーは安心した。
「ふぅ……間に合った様で良かった。すぐに終わるからそこを動くなよ?」
ルシファーの言葉に朱璃は少し混乱していたがコクコクと頷いた。するとリーダーが突然現れたルシファーに拳銃を向けながら叫んだ。
「おい!何者だ貴様!?人間ではないな!?」
「黙れ、それくらい見れば分かるだろう。私はこの町を管理している者だ。貴様等、私が管理する町で何をしている?」
ルシファーに睨み付けられてリーダーは数歩後退ったが、なんとか気を取り直して問いに答えた。
「そこの女は忌々しき邪悪な堕天使に心を汚され、それの子供を産んだ!我が一族は他種族の存在を許さん!よって我々はその女と、堕天使の子供を始末せねばならん!邪魔をするなら、貴様から消してやる!死ねぇ!!」
リーダーはルシファーに向かって残っていた3発の弾丸を放った。朱璃は危ないと叫ぼうとしたが、弾丸がルシファーが展開したバリアに弾かれたのを見て固まった。
「な!?
「はぁ……うるさいな。……ガブ!準備はいいな?」
「はぁ〜い!ラッパさん達は全員配置OKです!」
男達が新たに聞こえて来た女性の声がした方を見ると、背中に6枚3対の純白の翼を広げ、頭上に光の輪を浮かばせたガブリエルが神社の屋根の上に立っているのを見つけた。それと同時に、いつの間にか自分達の周囲に沢山の羽が生えたラッパが浮いている事に気付いた。
ガブリエルは鞄から先端が百合の花の様な形に開いた金色のラッパを取り出すと、ニコリと笑った。
「ちょっぴりビリビリさせちゃいます♪スゥ……」
《 パァァァァ!!! 》
バチバチバチバチバチバチバチッ!!!!
「「「「「ギャァァァァァァァァ!!?」」」」」
ガブリエルがラッパを吹くと、羽根が生えたラッパが電撃を放ち、バリアに守られているルシファーと親娘以外は全員感電し、意識を手放した。
★
ルシファーside…
「やり過ぎだぞガブ。死んでないか?」
「ちゃんと手加減したので大丈夫ですよ!」
神社で親娘を襲っていた男達は全員ガブリエルの電撃によって気を失った様だ。ガブリエルは手加減したと言っているが、これは生きているのだろうか?
私が黒焦げになってピクリとも動かない男達をチラ見していると、襲われていた親娘が話し掛けて来た。母親は右腕を撃たれた様だが、2人共命に別状は無くて私は内心ホッとしている。
「あ、あの…助けて頂き、ありがとうございました」
「うむ、気にするな。2人共無事で何よりだ。お前も怪我はないか?」
私が母親にしがみ付いている女の子に出来るだけ優しい笑みを浮かべながら聞いてみると、彼女は少しポ〜ッとするとすぐに答えてくれた。……少し顔が赤い様だが大丈夫か?
「(わぁ…すっごくキレイな人///)…う、うん。ありがとう、母さまと私を助けてくれて」
「フフッ♪さっきも言ったが気にするな。怪我がないならそれでいい」
「(〜ッ!///)あ、あの!私、姫島
「ほう、朱乃か…いい名前だな。私はルs「朱璃ぃぃぃぃぃぃ!!朱乃ぉぉぉぉぉ!!」……今度はなんだ?」
私が朱乃に名前を言おうとした瞬間、親娘の名前を呼ぶ叫び声が聞こえて来た。全員が声のした方を向くと、1人の堕天使が体に電気を纏いながら猛スピードで飛んで来ていた。おそらく朱乃の父親だろう。
「ッ!!何をしている貴様等ぁぁぁ!!朱璃と朱乃から離れろぉぉぉぉぉ!!」
「ちょ!?あれ完全に私達を敵だと思ってますよ!?」
うん、一目見れば分かる。このままだと面倒な事になりそうなので私達は逃げるとしよう。
「仕方がない。ガブ、逃げるぞ。ではな朱乃、達者で暮らすのだぞ!」
「あ!ちょ、ちょっと待って!!」
私達は翼を広げ、向かってくる堕天使と反対方向に向かって飛び去った。あの堕天使よりも私達の飛ぶスピードの方が早いので追い付かれる事はないだろう。……あ、しまった。まだ名前を言っていなかった。……まぁ、いいか。
★
一方名前を聞きそびれた朱乃は、ルシファー達が飛び去って行った空を悲しげな表情で見詰めていた。自分と朱璃を助けてくれた命の恩人である2人…特にルシファーの名前を聞きそびれてとてもショックだったのだ。
2人が飛び去ってから少し遅れて纏っていた電気を消して神社に降り立った朱乃の父親…バラキエルは、ルシファー達が飛び去って行った空を悔しげに睨み付けた。
「クッ!取り逃がしたか!朱璃!朱乃!無事だったか!」
「ッ!父さまのバカ!!もう知らない!!」
「………え?」
バラキエルは愛する妻と娘の無事を確認したが、朱乃は涙目になりながらバラキエルに向かって怒鳴ると家に向かって走り去って行った。バラキエルは愛する娘に怒られて石化した様に固まってしまい、2人の様子を見ていた朱璃は深い溜め息を吐いてやれやれと頭を振った。
「………?……ッ!」
朱乃が家に入ろうとすると、目の前に綺麗な紫色の羽が舞い降りて来た。朱乃はそれがルシファーの羽だと気付くと大事そうにそれを手に取った。
その後、バラキエルは朱乃に嫌われてしまい、朱乃は紫色の羽を自分の宝物にし、いつかまたルシファーに会いたいと願うようになった。