ルシファーside…
オーフィスが我が家の一員となってから数年経過したある日の事、私はリビングのソファーに座って小説を読んでいた。何故かは知らないが、今年に入ってからはぐれ悪魔が侵入したなどという報告が激減しているので、こうしてゆっくり出来ている。今だって私はこうして小説を読み、グレイフィアは八坂と一緒に買い物へ。アヴァロンは二階でオーフィスと遊んでいる。黒歌とカインは今テレビの前に座ってゲームで対戦している。
「にゃああああ!?また負けたにゃ!カイン強過ぎるにゃ!!」
「アハハハハハハァ♪これで10連勝♪私にゲームで勝とうなんて2000年早いんだよ!じゃ、今日のおやつは頂くよ」
「うにゃぁ〜……わ、私のおやつ……」
どうやら黒歌達は今日のおやつを賭けて対戦していたようだ。負けてしまった黒歌は涙目で耳や尻尾を垂らしてしょぼんとしており、カインはニカッ♪と笑いながら髪の毛を操ってピースサインをしている。
確か今日のおやつは八坂の要望で抹茶味のバームクーヘンだったか?楽しみだな。
「うぅ〜……こんな事なら、カインと勝負するんじゃなかったにゃ」
「残念だったな黒歌。次からは何かを賭けてカインとゲームはしない事を勧めるぞ」
「にゃ〜……抹茶バームクーヘン……」
黒歌はガックリと肩を落としながら今日のおやつの名前を呟いた。正直おやつを賭けて対戦したのだから仕方ないだろうとは思うのだが、流石にあんなに落ち込まれたら困る。後で私の分を少し分けてやろう。
そう思いながら小説を読み続けていると、玄関のチャイムが鳴った。
「グレイフィア……は、買い物中だったな。やれやれ…」
私は小説に栞を挟んでテーブルに置き、リビングを出て玄関へ向かった。しかし誰だだろうか?グレイフィア達はさっき出かけたばかりだから帰って来るにはしては早過ぎるし……ガブリエル達だろうか?それともカインがまた通販で新しいゲームでも買って宅配便が来たのだろうか?
そんな風に考えながら玄関のドアを開けると、そこには1人の女性が立っていた。髪型は前髪で左目が隠れた黒髪ショートで、服装は上が腹部を露出している和服の上に同じ丈の襟の立った紺色の袖のないジャケットの様な服を羽織り、下は燕尾服のテイルの様なものが付いたショートパンツといった和装と洋装を組み合わせた様な姿をしていた。
「お久しぶりですね、ルシファー」
「……あぁ、久しぶりだな。ゼフォン」
彼女の名はゼフォン。私と違って翼は黒く、2枚1対ではあるが、同じ堕天使のモンスターだ。彼女とはモンスター界では偶に一緒にモンスターを捕まえに行ったり、一緒に飲みに行ったりするぐらいには仲が良い。
「お前が来るとは珍しいな。何か用か?」
「えぇ、実はゼウス様より言伝を頼まれまして……お邪魔してもよろしいですか?」
「無論だ。紅茶でも淹れよう」
ゼウスからの言伝と聞いて今一瞬とてつもなく嫌な予感がしたが、取り敢えず彼女を家に招き入れる事にした。
………アイツ、今度は何をやらかしたのだろうか?
★
「それで?ゼウスの奴は今度は何をやらかしたんだ?」
私はリビングの向かいのソファーに座って紅茶を飲んでいるゼフォンに今度は何をやらかしたのか質問した。態々ゼフォンに言伝を頼んだのだから、また何かの封印を壊してしまったとか、孫のがまた食べ物求めてこの世界に逃げ出したとかだろうか?
私は様々な予想を挙げるが、ゼフォンは首を横に振った。
「いえ、今回は違います。確かに私が神殿に訪れた時は死にかけではありましたが、特に何かやらかした訳ではありません」
それを聞いて私は安心した。死にかけだったという部分は少し気になるが、どうせ浮気がバレてヘラさんに半殺しにされたんだろう。一応モンスター界では一夫多妻や同性婚などは双方合意の下ならば特に違法ではないが、ヘラさんが独占欲が強くて他の女性と会話をしているのを見ただけで機嫌が悪くなる事ぐらい理解しているはずなんだがな。
「そうか、まぁ何も問題を起こしてないなら安心だ。それで?アイツはなんと言っていたのだ?」
「先ず町に侵入するはぐれ悪魔が今年に入ってから激減した原因ついてですが、こちらで調べた結果、駒王学園に通う2人の悪魔が原因だと判明したとの事です」
「……悪魔だと?」
「えぇ、名前はソーナ・シトリーとリアス・グレモリー。2人共この世界の現魔王のサーゼクス・ルシファーとセラフォルー・レヴィアタンの妹らしいです」
サーゼクス・ルシファーの名前を聞くと不快な気持ちになった。サーゼクス・ルシファーはこの世界の
だが、この世界の私は男で、更に堕天の王ではなく悪魔の魔王……正直言ってかなり気に食わない。奴の存在をミカエルが知った時なんか、しばらくの間は私の顔を見る度に「悪魔ルシくん…プッ!」などとからかって来た。
勿論、お灸は据えてやったがな。
「しかし何故そんな奴等が学園に?」
「そこまでは何も……しかし一応警戒しておくようにと」
「分かった。後で手の空いている者に監視させよう。他には何かあるか?」
「後は私もこの町を管理する手伝いをする事になったので、よろしくお願いします」
「分かっ………今なんて言った?」
聞き間違いだろうか?今ゼフォンがこの町の管理を手伝う事になったと言った様な気がするのだが?
「ちゃんと聞いてたんですか?私も、この町の管理を手伝う事になったので、よろしくお願いしますね」
「聞き間違いではなかったか………理由を聞いていいか?」
「魔王の妹が町にいると分かったので念の為に戦力の増強。後は私が個人的にルシファーが管理しているこの町に興味があったから……でしょうか」
確かにゼフォンの実力はかなり高い。主に足技を得意としており、本気でスピードを出すと私でも目で追う事は困難な程の速さを出す。更に彼女の履いているローラーシューズには自由に出し入れ出来るブレードが搭載されている為、鋼鉄製の扉も簡単に斬る事も出来る。現魔王にも引けは取らないだろう。
「まぁいいか。どこに住むかは決まっているのか?」
「この近くのアパートに部屋を借りる事になっています。荷物は予定より来るのが遅れているので届くのは明日になるそうですが」
「あぁ、あそこか。荷物が来ないなら今日は泊まっていくか?」
「いいんですか?」
私が今日泊まるかと聞くと、ゼフォンはキョトンとした表情を浮かべながら聞き返して来た。
「私とお前の仲だ。遠慮するな」
「………では、お言葉に甘えて。今日はお世話になります………ところで、あちらで半泣きになりながら落ち込んでいる猫の妖怪は新しい同居人ですか?」
ゼフォンはテーブルの椅子に座って半泣きになっている黒歌を見ながら言った。そう言えばゼフォンは黒歌とオーフィスと会うのは初めてだったな。
「あぁ、白の元はぐれ悪魔の黒歌だ。少し前から私達と一緒に暮らしている。それと後もう1人、今二階でアヴァロンと一緒に遊んでいる」
「また増えたんですね。後何人増やすおつもりですか?」
「出来る事なら増やしたくはないのだが………まぁ、その時はその時だ」
正直私だって聞きたいぐらいだからな。昔は1人静かにゲームしたり小説や漫画を読んだりとゴロゴロした生活を希望していたが、アヴァロンを引き取ってからカイン、グレイフィア、八坂、黒歌、オーフィスと増えて行っているからな。今の暮らしが不満という訳ではないが、これ以上増えるとなると家を改装しなければならない。せめて後何人増えるか教えて欲しいものだ………今度の休日にノストラダムスに予言してもらうか。
「さて、黒歌。確かお前の部屋に予備の布団があったな?それを私の部屋に運んで置いてくれ」
「グスッ……分かったにゃ」
「………はぁ。後で私の分を半分分けてやる」
「!本当かにゃ!?ルシファー!!」
黒歌は私の言葉を聞くとしょんぼりさせていた耳と尻尾を立ててキラキラした目で私を見た。
「本当だ。ほら、分かったら布団を私の部屋に運んでくれ」
「分かったにゃ!行って来るにゃ〜〜♪」
黒歌は嬉しそうにリビングを出て自分が普段使っている部屋から予備の布団を取りに行った。………というか、自然な感じでゼフォンを私の部屋で寝てもらう事になっているが大丈夫だっただろうか?
「あー……ゼフォン。勝手に寝る場所を決めてしまったが……私の部屋で構わなかったか?」
「え?…あ、はい。構いませんよ?寧ろありがたいです」
「そうか?なら良かった。………そうだ、グレイフィアに今日お前が泊まる事を伝えておかねば」
私はスマホを取り出してグレイフィアに今日ゼフォンが家に泊まる事を伝えた。急に決めてしまって少し申し訳なく思ったので、彼女には今度何かお菓子を作ってやろう。
そう思ってどんなお菓子がいいかとしばらく考えていると、私のスマホが鳴り出した。電話をかけて来たのは今の時間は巡回をしている筈のアリスだ。
「(なんだか面倒な予感がするな)…………はぁ」
私は小さく溜め息を1つ吐くと、嫌々ながら電話に出た。どうかそれ程面倒な連絡ではないよう願おう。
★
夕日に染まる駒王町のとある公園、そこに1組のカップルが訪れていた。彼女らしき女性は黒髪ロングの可愛らしい少女、そして彼氏らしき男は茶髪のツンツン頭の少年だった。2人はデートにでも行っていたのか、手を繋いで楽しげに歩いている。
しかし、男を知っている者が2人を見たら、今の光景は幻覚か悪夢と思い、取り敢えず男の方が何か彼女の弱味を握っているのではと疑って警察に連絡するために携帯を取り出すことだろう。
流石に疑い過ぎだと思うだろうが、これは決して過言ではない。何故ならば、今彼女の隣にいるのはこの町の私立駒王学園で常日頃から仲間の2人と一緒に女子更衣室を覗き見したり、教室で堂々と変態発言をしている駒王学園の“変態三人組”と呼ばれる男達の1人である
普通なら彼女が出来るなんて有り得ないのだが、彼の前に数日前に隣にいる彼女…
夕麻は小走りに公園にある噴水の前に行き、一誠に向き直った。
「あのね一誠君、私達の初デートの記念に、1つだけお願い……聞いてくれる?」
そう言いながら歩み寄って来る夕麻に、もしやキスでは!?などと甘い考えが頭に浮かんだ彼は、頰を少し染めながらお願いとやらを聞く事にした。
「な、何かな?お願い「ハ〜〜イ!そこまでぇ〜〜♪」…え?」
突然可愛らしい少女のものらしき声が聞こえ、2人はその声のした方を見た。
そこにはまるで絵本の世界から飛び出して来た様な金髪の少女がアイパッチを付けて不気味な笑みを浮かべるピンク色の時計ウサギのぬいぐるみの耳を掴んで立っていた。服装は所々に西洋甲冑の防具が付いたエプロンドレスを着ており、肩には腰辺りまであるマントを羽織り、頭には小さな王冠が付いた水色のリボンを付けている。夕麻と一誠はまるで『不思議の国のアリス』の主人公の様だという感想を抱いたが、それもその筈。彼女は本当に『不思議の国のアリス』がモデルとなったモンスター……アリスなのだから。
「(お!いいおっぱい!…じゃなくて、誰だ?あの子?)あ、あの〜……どちら様でしょうか?」
「私?私はアリス☆悪いんだけど、夕麻ちゃん?アリスと一緒に来てもらおうかぁ♡」
アリスはガントレットを付けた手で一誠の隣にいる夕麻を指差しながら言うと、夕麻は目を細め、一誠は突然の言葉に驚いた。
「は…はぁ?何言ってんだよ。夕麻ちゃんが何か悪い事でもしたのか?」
「今はまだってとこかな?どうする?断るならちょっと強引にしちゃうけどぉ♥︎」
笑顔で言うアリスの言葉を聞いて、自分の彼女が何かされると理解した一誠は、アリスを睨みつけながら叫んだ。
「ふざけんな!夕麻ちゃんはお前には渡さねぇ!」
「……そうよ。私は絶対に行かないわ!」
「……あっそ。じゃあさぁ」
同行を拒否した2人を見たアリスは、左手にあるものを出現させてそれを夕麻に向けた。出現したものを見て一誠は有り得ないとばかりに目を見開いた。アリスの手に現れたのは、銃口が3つもあるピンクカラーのガトリングガンだったのだから。
「足の一本や二本は覚悟してね♥︎キャハハハハハァ♪」
ドガガガガガガガガガガガガガ!!!
「ヒッ!?ゆ、夕麻ちゃん!!」
アリスは躊躇いなく弾丸の嵐を夕麻に放ち、夕麻の立ってあた場所は土煙で覆われた。一誠は本物の銃と知って腰を抜かしたが、自分の彼女を心配し名前を叫んだ。すると土煙の中からボンテージぽい格好になり、背中に黒い翼が生えた夕麻が空に向かって飛び出した。
「くっ!まさか本当に撃つなんて……貴女何者!?」
「そんなの後でたっぷり教えてあげる♠︎キャハハハハァ♪」
再びアリスは射撃を再開しようと銃口を夕麻に向けたが、引き金を引く直前、驚きの連続で混乱した一誠が姿の変わった夕麻を守ろうと銃口の前に立ち塞がった。
「ちょ!?何してるの君!?」
「う、うるせぇ!夕麻ちゃんは渡さねぇ!」
銃にしがみ付いて射撃を妨害する彼をアリスはどうにか引き剥がそうとするが、彼は一応この町の住人なので傷付ける訳にはいかず、強引に引き剥がす事が出来なかった。
「ちょっと放して!危ないじゃない!」
「誰が放すか!この人殺しめ!」
「あれ人間じゃないよ!それにあの子は、
「………え?」
アリスの言葉に一誠は一瞬動きが止まった。今の内にアリスは銃から彼を引き剥がそうとしたが、次の瞬間彼の腹を光の槍が貫いた。
「ガハッ!!?」
「あぁ!!しまった」
「ちょっと予想外な事が起きたけど、これで目的は果たしたわ。貴女の事は今は見逃してあげるわ。次会ったら確実に始末してあげるから覚えてなさい!」
一誠は血を吐きながら地面に倒れ、夕麻はアリスを睨みつけてから翼を羽ばたかせて飛び去って行く。アリスは一瞬追うかと考えたが、まだ生きていた瀕死の一誠の治療を優先した。だが止血と治療の半分を終えた頃に突如紅い魔法陣が出現した為、治療途中で動かせない少年をそのままにすぐに物陰に隠れ、様子を伺った。
魔法陣からは1人の赤髪の少女が現れ、辺りをキョロキョロ見渡した。
「おかしいわね。確かに堕天使の魔力を感じたのだけれど……あら?貴方、死にかけね。ふぅ〜ん、面白いわね」
少女は一誠を品定めするかの様に見た後、チェスに使う“兵士”の駒を取り出して一誠の胸の辺りに置いた。そして少女の背中からまるで蝙蝠の羽根の様なものが生えた。
「どうせ死ぬなら、私が拾ってあげる……あら?1つでは足りないのね。フフッ♪実に面白いわ。貴方の命…私の為に生きなさい」
少女…いや、悪魔のリアス・グレモリーはそう言うと、駒を幾つか追加して一誠を転生悪魔に転生させた。転生を終えた後、リアスは気を失っている一誠を連れて先程と同じ様に何処かへ転移していった。
そして、初めて人間が悪魔に転生する所を好奇心に負けて眺めて悪魔と堕天使の夕麻を取り逃がしたアリスは、ルシファーに家に呼び出されこっ酷く怒られた。