ゼフォンside…
「やれやれ、まさか町に来た翌日から仕事とは……この世界の堕天使も面倒な事をしてくれましたね」
私は今、すっかり日が暮れて暗くなった駒王町を地図に書かれた巡回ルート通りに歩いています。本来ならもう少し時間が経ってから仕事に就きたかったのですが、今朝町を監視している天草四郎と卑弥呼、そしてガブリエルの3人から町に“はぐれエクソシスト”と呼ばれる教会から追放された悪魔祓いが侵入したと報告があり、ルシファーの頼みで町の管理に少し早めに参加する事になりました。
代わりに落ち着くまではルシファーの家に泊まらせてもらえる上、後日一緒に町を案内していただく事になりました。「そんな事でいいのか?」と聞かれましたが、私はそれがいいんです。
「さて、次は………!アレは……」
しばらく巡回ルートを歩いていると、幾つかの人外の気配を感じ、そちらの方向を見ると、遠くの空に黒い翼を生やした男性の堕天使が飛んで行くのを発見しました。先日アリスが取り逃がしたのは黒髪ロングヘアーの女性の堕天使なので、現在この町には少なくとも2人以上の堕天使が侵入していることになりますね。あの堕天使とは別に悪魔のものらしき気配が4つ程固まっていますが、今回は方向だけにしてあの堕天使を捕えるとしましょう。
私は翼を広げ、少しだけ本気のスピードを出して
「な!?なん《 ドゴッ!! 》グハッ!!?」
突然現れた私に目を見開いて驚愕していたコートを着た堕天使の顔面に蹴りを入れ、近くのビルの屋上に叩き付けました。感触からしておそらく3〜4本程骨が折れたでしょう。私も堕天使の反撃を警戒しつつビルに降り立ち、ゆっくりと歩み寄って行きましたが、どうやらダメージが大きく、動く事すら出来ないようですね。
「……遅い。堕天使はこの世界で戦争をしていた勢力の1つと聞いていたのですが、この程度で戦闘不能になるとは………平和ボケしていると言わざるを得ませんね」
「ゴフッ!?ハァ…ハァ…き、貴様……いきなり何を……!?」
「意識は残っていましたか。さて………」
私は口元を自分が吐いた血で汚している堕天使の首にローラーシューズに付いているブレードを突き付け、少し殺気を込めながら彼を見下ろした。
「首を切り裂かれたくなければ、大人しくすることです。幾つか質問しますので、偽りなく答えなさい」
「ゴホッ!……貴様、何が目的だ?その翼…何故同じ堕天使が攻撃を…ッ!」
「質問をするのは私の方です。貴方は黙って私の質問に答えなさい」
ブレードを少し強く突き付けると、首に小さな傷が出来て血が流れる。私が本気だと理解した堕天使は私を睨み続けながらも大人しく口を閉じた。
「先ず、貴方には仲間がいますか?居るならばその人数と名前を答えなさい」
「……………」
私は取り敢えず仲間がいるかどうかを確認する為に質問しましたが、今度は質問にさえ答えなくなりました。待ってても喋る気が無さそうなので、一度殺気を強めると、彼は汗を一雫垂らしながら話し出しました。
「ッ!……仲間は堕天使は私を含め
「(ふむ、堕天使は全部で5名……アリスが取り逃がした夕麻という女堕天使と目の前にいる彼の他に後3人いるという事ですか)では次の質問です。貴方と、仲間の名前を答えなさい」
「わ、私の名はドーナシーク。貴様がいう天野 夕麻…レイナーレ様の部下だ。部下には私の他にカラワーナ、ミッテルト、そして新入りのエバルという男がいる」
この男…ドーナシークはそのレイナーレという女堕天使の部下でしたか。しかしいったい何が目的でこの町にやって来たのでしょうか?
「では最後に、貴方達の目的は………ッ!?」
最後にこの男達の目的を聞き出そうとした所で、私から見て7時の方向から一本のレーザーが私の上半身を狙って放たれました。レーザーを回避する為にドーナシークから距離を取ると、レーザーが放たれた方向から今度は蒼い火炎弾が飛来し、私とドーナシークの間に着弾し、炎がドーナシークの姿を隠しました。
「ッ!ハァッ!!!」
このままではドーナシークに逃げられると直ぐに理解した私は蹴りによって生み出された風を利用して炎を搔き消し、ドーナシークの姿を探したのですが、どうやら逃げられてしまったようです。
「チッ!まさか私もアリスと同じ失敗をするとは!………しかし、先程の攻撃は……」
私はアリスと同じ失敗をしてしまった事にショックを受けましたが、それよりも先程の攻撃について考えていました。おそらく今の攻撃はドーナシークの仲間のものと考えて間違い無いのですが……あの攻撃は、我々モンスターが使っているレーザーと火炎弾でした。
「………これは、少々面倒な事になりそうですね」
私はボロボロになってしまったビルの屋上から飛び立つと、スマホを取り出して先程の事をルシファーに報告しました。その際敵かどうか分からないのにいきなり蹴りを入れないようにと注意は受けましたが、今度町で何か美味しいものを奢ってもらう事になりました。楽しみですね♪
★
「………どうやら、行ってくれた様ですね」
ビルから飛び去って行くゼフォンを、建物の影から1人の男がドーナシークに肩を貸しながら覗き見ていた。
「グッ!ハァ…ハァ……助かった。礼を言うぞ、エバル」
「まったく、油断は禁物ですよドーナシークさん。この町は魔王の妹君の管轄。常に自分より強い相手がいる可能性を考えて行動しなければ、いつ何処から攻撃されるか分かりませんよ?」
自分の後輩であるエバルと呼ばれる男に呆れ顔で言われたのがかなり気に食わないドーナシークだったが、実際油断していたのは確かなので、苦い顔をするだけに終わった。
「兎に角、今はアジトに戻りましょう。また連中に襲撃されてはたまりませんしね」
「あぁ、分かった。しかし、あの女…!!あの女だけは私が直々に殺す!」
「なら、今はその女に受けた傷を癒すとしましょう。明日には例の少女が町にやって来る筈ですし」
エバルは眼鏡をクイッと上げながらドーナシークを連れて自分達のアジトに向かった。
★
ルシファーside…
ゼフォンがドーナシークとかいう堕天使を発見してから2日目の夜、私は現在人間の姿で桜と卑弥呼の2人と一緒に駒王町の外れにある今は使われていない廃工場に訪れていた。卑弥呼の話によるとこの廃工場に黒のはぐれ悪魔の……バイザーだったか?が住み着いたらしい。今の所まだ被害は出ていないが、早く排除しなければならない。
「卑弥呼、本当にここにいるのか?」
「我が眷属達がこの廃工場に入って行くはぐれ悪魔を確認済みです」
『『『『ハニー!!』』』』
装飾の施された赤と白の巫女服を着た卑弥呼は、自信満々の表情を浮かべ、彼女の周りに浮かんでいる眷属の紫の衣を着て小さな拡声器を持った埴輪達もその通りだとでも言うように返事をする。
………ちょっと可愛いな。
「………確かに悪魔の気配が1つだけあります。ルシファー、今回は私にやらせてもらえませんか?」
桜の花模様が特徴的な紫のミニスカ和服を着て、背中に美しいステンドガラスの様な蝶に似た羽根を生やした桜が、自慢の愛刀を撫でながら期待を込めた視線で私を見て来る。別にダメだと言う理由もないので、今回は彼女に討伐を任せるとするか。
「あぁ、構わない。……ちょうど向こうも来たようだな」
私が廃工場の暗闇に視線を向けると、その暗闇から1人の女性の声が聞こえて来た。
「ふふふふ♪甘い匂いがするわぁ。今まで嗅いだことがない程美味しそうな匂い。いったいどんな味がするのかしらぁ?食べてみましょうか」
闇の中から現れたのは1人のはぐれ悪魔。上半身は人間の女性のものだが、下半身はまるで獣の様な四足歩行の何かだ。桜は愛刀の柄に手を添えながら前に出てそのはぐれ悪魔…バイザーに問いかけた。
「貴女がはぐれ悪魔、バイザーですね。1つお聞きしますが、貴女は何故はぐれ悪魔になったのですか?」
「ん〜?あの主人がウザかったから……ただそれだけよ。でもアイツのお陰でこんなに素晴らしい力が手に入ったからまぁそこの所は感謝しているわよぉ?」
「そうですか………ならば、貴女は討伐対象です」
桜はスラリと鞘から愛刀を抜き、構えた。抜かれた刀は窓から差し込む月明かりが刃の部分に当たり、薄っすらと紅く妖しく輝いていた。バイザーもその刀の美しさに一瞬見惚れたが、同時に発せられた桜の濃厚な殺気を浴びて即座に戦闘態勢に入った。
・・・・・だが、遅過ぎる。
「…………へ?」
チャキンと音を立てて桜の刀が鞘に納められた頃には、バイザーの首は宙を舞い、上半身と下半身……更には手足が全て切断されていた。飛ばされたバイザーの顔は、自分が何をされたのか分からないとでも言いたげな表情で固まっている。
「終わりました。しかし、やはり少々物足りなく感じますね」
桜は少し不満げな顔をしながら戻って来た。確かに彼女程の腕ならこの程度のはぐれ悪魔は物足りなく感じて当然と言えるだろう。
「そんな事言ってないで、さっさと死体を燃やして帰るぞ。卑弥呼、頼む」
「分かりました。では…「待ちなさい!」おや?」
卑弥呼が炎でバラバラになったバイザーを焼却しようとした所で、私達がやって来た方向から女性の声が聞こえた。まだはぐれ悪魔でも残っていたのかと思いながら振り向くと、そこには金髪で剣を構えた少年と、バイザーの死体を見て顔を青くさせている茶髪の少年、拳を構えた小柄な白髪少女と笑みを浮かべる黒髪ポニーテールの少女……そして、私達に弱い殺気らしきものを放ちながら睨み付けてくる赤い髪の少女が立っていた。幾つか別の種族の気配を若干感じるが、全員悪魔で間違いない。
「貴女達、ここで何をしているの?」
「見ての通りはぐれ悪魔の討伐だ。貴様等こそ何者だ?」
「私はリアス・グレモリー。今まで勝手にはぐれ悪魔を討伐しているのは貴女達ね?ここは私が管理している領土よ。勝手な真似をしないでちょうだい」
リアス・グレモリーと名乗る彼女の言葉に私は首を傾げた。この町を管理しているのは私だ。しかもゼウスだけではなく、日本神話勢力からの正式な依頼だ。なのに私になんの連絡もなく勝手にこんな悪魔の娘に管理を任す筈がない。どういう事だ?
私達は同じ疑問を抱いたが、勝手にこの町は自分の領土だと言っているこの娘に多少の苛立ちを感じた。
「まぁいいわ。貴女達には幾つか聞きたい事があるの。大人しく私達について来なさい」
「……ほう?もし断ったらどうなるんだ?」
「その時は力尽くで行かせてもらうわ」
グレモリーは脅迫のつもりか知らないが、魔力を練って顔に笑みを浮かべながらそう言った。完全に私達を舐めている。流石に腹が立ったので、フッと鼻で笑いながら挑発した。
「やってみるがいい。やれるものならな」
「ッ!ならお望み通りにしてあげるわ!
「はい!」
祐斗と呼ばれた金髪の剣士は、剣を抜いて一番近くにいた桜に斬りかかった。スピードからしておそらくスピード特化型の“
「いいイッセー?次いでだから“悪魔の駒”の特性について教えておくわ。祐斗の役割は“
「敵の目の前で授業とは……我々も舐められたものですね」
桜に斬りかかった祐斗は身体中に斬撃を受けて血を流して地に倒れ伏した。確かに普通の人間よりかなりのスピードはあるが、桜から見たらかなり遅く見えただろう。
「桜、殺してはいないだろうな?」
「勿論手加減はしました。見た目程酷い怪我ではありません」
「よくも祐斗を!!行きなさい!私の可愛い下僕達!!」
「「「はい!!」」」
祐斗が倒された事に顔を怒りに染めたグレモリーは、残りの眷属達に指示を出した。白髪の少女は私に接近して“
バチィッ!!!
「にゃ゛!!?…ぁ……」
気を失って力無く倒れる彼女を優しく抱き止め、ゆっくりと地面に寝かした。
……ふむ、どうやらこの子は猫又の類の転生悪魔の様だな。となるとやはりこの娘は黒歌の……あとで本人に確認するか。
「
子猫と呼ばれる少女が倒されたのを見た茶髪の悪魔が、右腕に龍のものらしき気配を発する籠手を出現させて殴りかかって来た。……というかこの男、さっきから私の胸をガン見していて気持ちが悪いな。
「食らえ!!“
私に向かって殴りかかって来た茶髪の悪魔は、背後に回った桜によって背中を切り裂かれた。何故だろうか?物凄くスッキリした気分になった。
卑弥呼の方ももうすぐ終わりそうだな。
『『『『ハニー!!』』』』
「ッ!攻撃が効かない……!!」
ポニーテールの悪魔は電撃を卑弥呼に何度も放っているが、その全てを卑弥呼の眷属の埴輪達が集まってバリアを張り、防ぎ切っている。
「そこです!!」
『『『『ハニー!!』』』』
「え!?きゃあああああ!!?」
遂に魔力が切れたらしく、息を荒くしながら攻撃の手が止まった彼女の隙を狙って、卑弥呼は埴輪に指示を出して彼女の足元にレーザーを放った。足元に着弾したレーザーは威力を弱くされていたが、それでも発生した爆発によって少女は吹き飛ばされ、気を失った。
「子猫!イッセー!朱乃!クッ!!よくも私の可愛い下僕達を…!!消し飛びなさい!!」
グレモリーは赤い魔法陣から何やら妙な魔力の玉を放って来た。魔力の練り方がまだまだ甘いが、どんな能力を持っているのか分からないので一応バリアを展開して魔力玉を防いだ。ヒビ1つ入った様子は無いが、デバフ効果のある玉だったのか?
「な!?なんで効かないの!?」
「?よく分からんが、少し眠っていろ」
「ッ!?キャアァァァァァァァ!!?」
私は取り敢えず自分の攻撃を防がれた事が信じられない様子のグレモリーを衝撃波で吹き飛ばし、壁に激突させてグレモリーの意識を奪った。さて、これで全員倒した訳だが……管理者を名乗るにしては実力不足過ぎるな。
「この程度ですか……ルシファー、この娘はどうしますか?ここで首を落としても構いませんが…?」
「……いや、放置して帰ろう。下手に殺すとこの娘の兄が何をしでかすか分からないからな」
「「分かりました」」
『『『『ハニー!!!』』』』
私達はグレモリー達をそのまま放置して帰った。家に帰ると黒歌が「白音の匂いがするにゃ!!」と騒ぎ出し、私が相手した子猫と呼ばれていた彼女が黒歌の妹だと分かった。いつか2人を会わせてやろう。
しかし赤い髪の娘か………あの娘が予言の“赤き王”なら、今よりもっと面倒な事になりそうだな。