人間は嫉妬、憤怒、悲哀、等様々な感情を持っている。それは勿論あの完璧主義者と言われる藍染もである。
時を遡ること30分前……
「最近ギン見らへんようなったなぁ。ちょっと前までは副隊長、副隊長、言うて惣右介の後ろぎょうさん走りよったのに。なんや、オマエら喧嘩でもしたんか?」
平子隊長の言葉で俺は気がついた。確かに最近ギンの姿を見ていないな、と。喧嘩は勿論した覚えもない。逆に最近は色々と忙しかったので海燕の修行やギンに構ってやれる時間がなかったのだ。
「流魂街に散歩にでも出掛けたんじゃないですか?」
最近のギンの趣味は散歩である。流魂街に散歩にでも出掛け、昔俺が作った家で一泊して帰る。…と言うことは今ギンは昔俺が作った家にいると言うことなのか。
段々心配になってきた俺は早急に今日の分の仕事を終わらせ平子隊長に言う。
「ちょっとギンを探してきます。隊長、くれぐれも
所々の言葉を強調しながら言うと隊長は怯えた様子でコクコクと頷いた。俺は隊長に一礼すると瞬歩で流魂街へと向かった。
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昔俺が作った家に着くと俺の目の前が真っ赤になったことがわかった。決してギンが殺されたとか其処らに倒れてるとかそんなわけではない。ギンが女と一緒に家に入っていく姿を見てしまったのだ。
……え、もしかして、彼女…?
……俺が何百年も欲しいと願い続け、一度も出来たことのない、彼女…か……?
俺は発狂した。ギンに気づかれないように発狂した。俺にまだ一度も出来たことのない彼女をアイツは作りやがった!!
何分発狂していたのかは分からない。分かったことといえば冷静になった時の自分の虚無感だろうか。ヴァレンタインデー(カッコつけた)で尸魂界一チョコレートを貰ったとしても彼女は出来なかった。そんな俺の拾い子ギンは俺を抜き去って、彼女を作った。……俺の一体何がいけなかったんだ。俺が女子に一体何をしたと言うんだ。俺は今猛烈に虚しく、悲しい。
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ギンのことは全て見なかったことにした。て言うか記憶から消した。抹消した。
「聞いてや、惣右介。今日はちゃんと自分の力で仕事終わらしたで」
「……」
平子隊長の言葉を完全に無視する。この人と今構っている時間も労力も精神もないのだ。隊長に使っている時間があるなら俺は彼女探しの旅に出たい。
それかギンが自分よりも先に彼女を作っていたショックを…心を癒したい。
そんなことを俺が考えているなんて露程知らない隊長はギンを探しに行った俺がギンを連れていないことに不信に思ったのだろう。ギンの事を聞いてきた。
「…なんや、ギン見つからんかったんか?」
「あ"?」
今、ギンの話題は死に等しい。禁句ワードである。その為俺は血走った目で平子隊長を睨み付けた。勿論悪いと思っていないし、後悔も反省もしていない。話しかけてきた隊長が悪い。
「(なんや、今ものスッゴい機嫌悪いでコイツ)」
ウザったらしい平子隊長を目で制し俺は事務作業へと戻る。すると扉がノックされ平子隊長が入室許可を出した。入ってきたのは海燕で顔は何故か嬉しそうである。一体どうしたのであろうか。
「副隊長に報告があって」
まさか隊長に昇進?もしそうであればかなり凄いことである。打ち上げいかないといけないな、なんて考えは直ぐにぶちのめされることとなる。
「俺、結婚することになりました」
右手に持っていたペンがボキリと折れる音がした。……冷静は保っていた筈だ、うん。
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一体惣右介に何があったんかは分からんけど兎に角機嫌が悪かった。それだけは明白やった。それが今、完全に噴火した。怒りの炎が噴火した。
惣右介が握っていた万年筆は見事に二等分されており、今となってはもう跡形もない。何でキレたのか…それは確実に志波の結婚報告だろう。勿論どこにキレる要素があったのかは俺でも分からん。けど何かの燗にでも触ったのか目の前にいる惣右介の機嫌は先程よりも数段悪くなっている。思わず俺は志波の頭を叩いた。
「痛っ!!」
「アホか!!惣右介の機嫌が更に悪うなっとるやろ!!何火に油注いどるんや!!全部とばっちりは俺に来るんやぞ!!」
「いや、そう言われても一体…副隊長は俺の何の言葉にキレたんスか?」
「知るか、そんなもん!!」
勿論これら全ての会話は小声である。俺は冷や汗をダラダラと流し志波を咎めるが、志波も志波で自身のどのような言葉にキレたのか分からず謝ることも出来ない。……ストレスが溜まってたんやろうか。
事態の収集がつかないまま惣右介は隊首室を後にした。
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……こうやって嫉妬やらなんやらをするからカッコ悪い、モテないと気づいた俺は無理やり怒りを鎮め、外に出てきた。勿論頭を冷やすためである。
…結婚かぁ、いいなぁ、俺もしたいなぁ。彼女すらいない俺には到底無理なことを考えながらヒラヒラと空を舞う桜を見ていた。
ギンと一緒にいた女はギンを騙しているのではないだろうか。よからぬ女だったら俺が成敗して…ギンがそんな女に引っかかるわけないか。そんな女だったら逆にギンが成敗しているに違いない。
ぱっと見、年代も同じぐらいみたいだったし、本人が彼女がいいと言うならそれでいいのだろう。俺もそこまで野暮ではないのだ。
ギンにあの家をあげよう。そして二人で仲睦まじく過ごして欲しい。そう考えると家もうちょっと大きく作っとけばよかったなぁ。子供はせめて結婚した後に…って今度ギンが来たら言おうかな。…俺も彼女探そ。
因みにギンが久しぶりに顔を見せたので「子供はせめて結婚してからな」と言うと鳩尾された。痛かった。家あげるって言ったらあんなに喜んだのに…。俺、何か悪いこと言った?
「(何でボクが乱菊拾ったこと副隊長知っとるんや?…恐っ)」
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海燕がまさかの結婚か。相手は確か…都と言った女性だったか。一度だけ話したことがあるような気がする。可愛いと言うより綺麗な女性だったような気がする。あくまでも気がするである。
祝宴会などやるのだろうか。やるなら早めに決めて欲しいなどと思いながら事務作業をすること約一時間。浦原隊長の呼び出しから帰って来た隊長が俺に言った。
「惣右介、浮竹が探しとったで」
浮竹隊長は体が弱いため滅多に外には出ない…と言うか出れない人だ。そんな浮竹隊長が俺を探していた事を知っている隊長は帰りに十三番隊に寄ってきたのか。休憩時間を30分もオーバーして帰って来た隊長だが心優しい俺は咎めることしなかった。
「わかりました。丁度十三番隊には書類を届けないと行けませんでしたし…ちょっと抜けますね」
「おう。ついでに休憩もとってきぃ。どうせ惣右介のことや、休んどらんのやろ?」
「………」
「二時間は帰ってこんでええからな」
何気にあの人は周りを見ているから嫌なんだ。こういう時に限ってあの人は仕事を終わらせている。サボり魔かと思えば急に仕事をやったり気分屋は如何なものか。
「わかりました。一時間で帰ってきます」
「二時間言うてるやろ!!人の話聞けや!!」
俺は平子隊長の言葉に頷かなかった。
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十三番隊に着くと
浮竹隊長の部屋に着くと浮竹隊長は待っていたような顔で俺を見て「藍染副隊長も知っているだろう?」と言った。
「あ、座ってくれて構わないよ」
「ありがとうございます」
浮竹隊長に言われ俺は座ると「知っているって…海燕くんの結婚のことですか?」と聞いた。浮竹隊長は「勿論、それだよ」と。
「海燕の祝宴会をやりたくてね。是非とも海燕の師である藍染副隊長には来てもらいたいんだ」
「勿論、いいですよ。…と言うか僕、行く気でしたから」
浮竹隊長は俺の言葉を聞いて「そうか、そうか!!」と嬉しそうに笑った。
「それでいつがいいだろうか?藍染副隊長は無理な日などあるかな?あるなら言って欲しいんだが……」
「僕はいつでも大丈夫ですよ。浮竹隊長のお暇な日であれば」
「分かった。俺の体調によるんだが…それでも大丈夫だろうか?」
不安げに見る浮竹隊長を見て俺は安心させるような笑みで言った。
「逆にそうしてください。そうじゃないと海燕も気が気ではないでしょうし」
「そうか、助かる」
暫く談笑すること数十分。俺は話を切り上げ五番隊へと帰った。…隊長から無理やり後一時間休まされた。
…お忘れと思いますが主人公は基本平子隊長達意外の前では猫かぶってます。