if物語 藍染に成り代わった男   作:フ瑠ラン

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アマゾンで198円のアイマスクを買った。かれこれ1週間経つけどまだ来ない。……あれ、もうしかして詐欺られた?


両親

ブーブーと車のクラクションが鳴る。そんな街中に小さい子供は歩いていた。一人で。みすぼらしい格好をして、足に合わないブカブカのサンダルを履いて。季節は冬。冬なのに子供はまるで今は秋なのでは無いのか、と周りを勘違いさせるほどの薄着である。子供はとても寒そう…いや、慣れた、とでも言うような顔をして歩いていた。

 

今、自分はどこに向かっているのだろうか。子供はふと考えた。家にいたくなかったから適当な服を着て外に出てきたのはいいが、意外に外は寒いし、行き先だって予定だって何もない。けれど、家には帰りたくない。悶々と子供は考えた。考えた結果人っ子一人もいない忘れ去られた公園にたっていた。

 

 

「…まるでオレみたい…」

 

 

忘れ去られた公園を見て子供は呟いた。ついこの前、義務教育の始まりを告げる小学校に入学した少年は1つ大人の階段を上り一人称を「オレ」に変えた。まだ言いなれてないせいか少年は自分のことを「オレ」と言うとまだ照れる傾向にあった。

 

少年はブランコに座るとブランコをこぎ始めた。薄着な上にブランコと言うセレクトはちょっとダメだったかもしれない。少年は少し後悔をしながらもこぐことはやめなかった。

 

何故だか涙は止まらなかった。

 

家は嫌いだ。家族も嫌いだ。少年は人知れずそう思った。学校の帰り道、友達の迎えに来てくれる親等を見て何度羨ましく思ったことだろうか。そんな思いは入学してから沢山あった。笑顔の友達を見て自分もあれほど綺麗な笑顔を作れているかと何度も心配した。

 

学校の友達も先生も嫌いだ。「――のお父さんやお母さん来ないの?」とか「ちょっとお母さん達と先生お話したいんだけどいいかな?」なんて言われて嫌だった。

 

オレが両親を呼んだとして来てくれる人達なら遠の昔に呼んでる。呼んでも来ないし、彼らは自分に興味関心がない。きっとオレのことを道具としか思ってないんだ。そう思う。

 

だから常々思ってる。この世なんて滅びちゃえばいいのに。自分も、この地球も、宇宙も全て。道連れにして滅びちゃえばいいのに。けど朝と言うものはいつもやってくる。眠たくなっても自然と目は覚める。その事に落胆の毎日だった。

 

 

「そんな薄着で寒くないの?キミ」

 

 

一人で泣きながらブランコをこいでいると急に話しかけられた。黒髪の優しそうな顔が印象の男の人だった。男の人は白いワイシャツの上に黒いスーツを着ている。サラリーマンなのだろうか。

 

 

「寒いよ」

 

 

心が。とは言わなかった。男の人は困ったように笑うとスーツのジャケットを脱ぎオレに羽織らせた。

 

 

「これで少しはマシになったんじゃないのかな?」

 

「…変わらない」

 

 

そんなことを言いながらもオレは男の人のジャケットをギュッと握って離さなかった。それを見た男の人は「今時の子は素直じゃないね」と笑った。

 

 

「名前はなんて言うの?」

 

「ヒミツ」

 

「親御さんは?」

 

「ヒミツ」

 

「年齢は?」

 

「ヒミツ」

 

 

男の人は「秘密の多い子だねぇ」と言った。無理矢理オレに問うてくることはなかった。

 

 

「お兄さんの名前は?」

 

「ん?俺?俺は瀬野(せの)華澄(かすみ)って名前だよ」

 

「…女みたい」

 

「うん、よく言われるよ」

 

「…職業は?」

 

「んー、なんて言ったらいいかな。子供には…難しい仕事かなぁ」

 

「…年齢は?」

 

「二十二才だよ」

 

「若いね」

 

「キミの方が若いでしょ?」

 

 

瀬野はクスリと面白そうに笑った。

 

 

「寒いのは取れた?」

 

「…さっきよりかはマシ」

 

「そっか」

 

 

「子供は風の子って言うけど、この時期あの格好は流石に寒いよ」と瀬野は自分よりも何倍も大きな手でオレの頭を不器用に撫でた。…頭を撫でられるのも、心配されるのも初めてだった。

 

 

「なんでお兄さんはこんなところに来たの?」

 

「息抜きかな。大人って疲れるから。こうして一人、空を見上げてると落ち着くんだ」

 

「オレ、邪魔?」

 

 

恐る恐る聞くと瀬野は「邪魔じゃないよ」と笑った。

 

 

「たまにはこういうのもいいね」

 

「そう」

 

「キミはどうしてここに?」

 

 

オレは少し悩んだ末に「家にいたくなかったからここに来た」と言った。瀬野は「最近の子って思春期も早いのか…?」や「いや、これは親離れなのか…?」等とぶつぶつ呟いている。

 

 

「…お兄さんは優しいね」

 

「俺が?」

 

「うん。こんなオレに話しかけて今も構ってくれてる。だから優しい」

 

 

「なんかお兄ちゃんみたい」と言うと瀬野は嬉しそうに顔を綻ばせて「弟か…。一人っ子だっからいいかもしれないな」と言った。

 

 

「お兄さんも一人っ子?オレも」

 

「そっか。一緒だな」

 

 

おかしくなって笑った。こんなにちゃんと笑ったのも初めてかもしれない。

 

 

「お兄さんはオレに沢山の初めてをくれるね」

 

「何だぁ?ガキの癖に俺を口説こうとしてんの?まだダメだよ、キミには早い」

 

「なに言ってんの、お兄さん」

 

 

ジト目で瀬野を見ると瀬野は乾いた笑いで「ジョークだよ、ジョーク。だからそんなにまにうけないで」と言った。

 

 

「変なの」

 

「………」

 

「…この世の中の大人がみんなお兄さんみたいだったら良かったのに」

 

「そうか?俺は嫌だなぁ」

 

 

瀬野とオレは困ったように笑った。

 

 

「キミはいつ帰るんだい?」

 

「…何でそんなことを聞くの」

 

「キミが帰るまで待ってあげようかなと思ってさ」

 

 

 

照れたように瀬野は笑った。そんな瀬野の姿を見てオレは小さく呟いた。

 

 

「………帰らない」

 

 

瀬野はどうやら聞こえなかったらしく「え?」と聞き返してくる。だからオレはブランコから立ち上がり大きな声で言った。

 

 

「帰らないって言ってるの!!!!」

 

 

瀬野は瞠若する。暫く暫く瀬野は固まったままだったが、意識を取り戻したのかハッとした顔になると言った。

 

 

「…キミ、家で何があったの」

 

「………ヒミツ」

 

「でも家には帰りたくないんだろう?」

 

「うん」

 

 

小さく頷くと瀬野は困ったような顔で頭を掻いた。

 

 

「大人にも色々あるように子供も色々あるんだよなぁ」

 

 

「俺もそうだった」と瀬野は苦笑いをしながら言った。

 

 

「キミの気持ちも分かるからこそ俺も強く帰れ、なんて言えない。けどなぁ、流石に帰らないのもなぁ……」

 

 

オレは後悔した。嗚呼、お兄さんを困らせてしまった。オレは勢いよく立ち上がると言った。

 

 

「さっきのことも、今日、この公園でオレに会ったこと全部忘れていいから」

 

 

オレはお兄さんからスーツのジャケットを借りていたことを忘れて、肩にジャケットを羽織ったまま走って公園から出た。

 

 

 

 

 

 

これはとある少年の幼い記憶。

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