if物語 藍染に成り代わった男   作:フ瑠ラン

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藍染惣右介

「いやああああああ!!」

 

 

甲高い叫び声が聞こえる。叫んだ人物は雛森だった。雛森の叫び声を聞き付けて近くにいた副隊長達が集まって来る。

 

 

「…あ…はっ…はっ…ああ…あ…」

 

 

雛森は目を見開いて、その見開いた目に沢山の涙を浮かばせている。そして、まともに呼吸もできていないぐらい取り乱していた。

 

 

「藍染隊長、藍染隊長っ!いやだ…いやです、藍染隊長!!藍染隊長っ!!!!」

 

 

雛森が見た光景。それは傷だらけの藍染が吊るされていたのだ。雛森は泣きながら叫ぶ。しかし藍染は動くことはおろか目も覚まさない。まるで死んでいるかのように。

 

 

「何?騒がしいわね」

 

 

後ろから声がする。声の主は三番隊隊長 皇帝。皇の後ろには市丸もいた。雛森はその姿を見て日番谷の言っていたことを思い出す。

 

 

『三番隊には気をつけな』

 

 

まともな判断がつかなくなった雛森は藍染が吊るされているのを何故か嬉しそうに見ている皇を見て目をカッ開く。怒りを含んだ目で。

 

 

「お前か!!!」

 

 

雛森は叫ぶと斬魄刀の柄を強く握り、皇に突進する。皇にもう少しで斬魄刀の刃が届くと言うところで斬魄刀を抜刀した市丸に止められてしまう。

 

 

「市丸副隊長…どうして…」

 

「仮にもボクは三番隊副隊長。隊長の危険は見過ごせんのや」

 

 

ギンは力なく笑う。しかし周りが見えていない雛森はギンが力なく笑っていることに気づかない。

 

 

「…お願いします…!そこを退いてください…」

 

「それは無理なお願いやね」

 

 

「斬魄刀、退かしてくれへん?」と雛森を説得しようとするギンだが雛森にその声は聞こえない。

 

 

「…お願いします…退いて……」

 

「雛森ちゃん」

 

「退けって言うのがわからないの!!」

 

「お願いやからその刃を退かして!!」

 

 

珍しくギンが叫ぶ。雛森がドジなことをやっても「次頑張ろな」と怒るのではなく優しく、次にいかせと諭してくれたギンが、藍染に似てかなり温厚な彼が雛森の前で大声を出す。

 

雛森はギンの叫び声でハッとする。

 

 

「雛森ちゃんが斬魄刀退かさないならボクは雛森ちゃんを止めるために斬魄刀を使わなあかん。それは嫌や。だから退いてくれへん、雛森ちゃん。雛森ちゃんの気持ちはよく分かる。せやけど…お願いやから……」

 

 

ようやく正気を取り戻した雛森は気づく。僅かだが市丸の手が、斬魄刀を握っている手が震えていることに。

 

 

「あ…ああ……」

 

 

「ごめん、なさい…」雛森はそう言って後退りする。後退りした際に手の力が抜けたのか斬魄刀は重力に吸われるように落ちていった。

 

 

「あたしよりも、市丸副隊長の方が……ごめん、なさい…ごめんなさい……!!」

 

 

雛森は手で顔を覆うと大きな声で、まるで小さな子のように泣き始めた。

 

 

「イヅル」

 

「は、はい…!」

 

 

皇は近くにいた吉良に話しかける。吉良は急に話しかけられたことに驚き肩をびくつかせながらも大きな声で返事をする。

 

 

「彼女を拘置しなさい。また暴れられたらたまったもんじゃない」

 

 

「ただでさえ人手不足なのに何をしているのかしら」皇はそう言うとその場を去る。

 

 

「ハッ、ハハハ!!ハハハ!!」

 

 

急に大きな声で市丸が笑い始めた。

 

 

「ああ、おもろいわ。もうあかん。もうガマンでけへんわ。…絶対に殺す」

 

「市丸、副隊長…?」

 

 

吉良が話しかけるが市丸にはどうやら届いていなかったようだ。市丸は瞬歩で消えてしまう。

 

 

「藍染隊長に手ェ出したこと後悔させたる」

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

「はあ!?藍染隊長が殺された!?一体誰に!!!?」

 

「い、いえ…まだ犯人は分からず…」

 

 

旅禍が侵入して現在瀞霊廷はドタバタとしていた。その中志波海燕は浮竹に資料を渡すため廊下を歩いていたのだが隊士に止められ報告を聞く。その報告は海燕にとってあり得ないことだった。

 

 

「市丸は何処だ」

 

「それが…」

 

 

「市丸副隊長は雛森副隊長と一悶着あった後から姿を消して現在行方かわからない状態で……」と隊士から話を聞いて海燕はため息をつく。

 

 

「相当キレてやがるな市丸のヤロウ」

 

 

藍染の一番弟子の市丸ギン。彼は藍染とかなり深い繋がりがある。そんな彼なら何か知っていると思っていたのだが…行方を眩ませていると言うことは彼は何かを握っていてそれを実行しようとしているのだろう。

 

 

「あーもう、色々やらなきゃいけねぇことがあって参っちまう」

 

「どうなさいますか?」

 

「藍染隊長のことは市丸に任せる。俺達は…朽木の処刑を止めることに専念しねぇと」

 

 

海燕は廊下から晴天の青い空を見た。

 

 

「全く憎たらしいぜ。あんなに晴天だとよ」

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

「…藍染隊長、こんなお姿になられて…」

 

 

四番隊隊長 卯ノ花烈と一緒に死体の解剖をしていた虎徹勇音は藍染の姿を見て悲痛な声を漏らした。卯ノ花はテキパキと解剖を進めていく。そして一定の解剖が終わったとき卯ノ花は勇音の名を呼んだ。

 

 

「勇音」

 

「は、はい…!」

 

「奥に昔摂取していた血が有りましたよね?」

 

 

卯ノ花に聞かれ勇音は「え、ええ」と答える。

 

 

「確か有ったと思いますけど…それがどうかしたんですか?」

 

「今からDNA検索をします。持ってきて欲しい血が有るので取ってきてください」

 

 

卯ノ花は取ってきて欲しい血の番号を言う。すると勇音は目を見開き「その番号って…」と呟いた。その呟きが聞こえていた卯ノ花は静かに頷いた。

 

 

「ええ。多分彼は前任、四番隊副隊長 終夜(よもすがら)結右華(ゆうか)の血縁者でしょう」

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

終夜結右華は卯ノ花隊長の右腕だった人物である。卯ノ花隊長との長い付き合いであり回道の腕だけであれば卯ノ花隊長を凌駕するほどの腕前だった、と聞いたことがある。

 

しかし彼女は体が弱く、護廷十三隊には長くいられなかった。

 

 

「結右華は私が気づかない内に子供を授かっていました」

 

 

彼女はそれを理由に護廷十三隊を抜け、隠居し始めた。最初は月一の頻度で卯ノ花と連絡をとっていたがある日を境にそれはなくなり最後には行方不明となった。

 

 

「何となく気づいていたのです。彼は結右華の子ではないか、と。目元なんかは特に結右華にそっくりでしたので。だから聞きたかった。結右華は今元気に暮らしているか。まあ聞けませんでしたけどね」

 

 

卯ノ花が合間を縫って聞きに行こうとしたあの日。藍染には瀞霊廷で迷っていた客人がいた。それを見た卯ノ花は客人に譲ったのだ。いつでも聞ける、そう思って。

 

 

「こんなことになるのなら早めに聞いておけば良かったですね」

 

「隊長……」

 

 

卯ノ花の横顔はとても寂しそうで悲しそうだった。

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

雛森は牢に囚われていた。大きな隈を作って体育座りをして丸まっている。きっと寝れていないのだろう。

 

 

「雛森桃」

 

「…皇、隊長……」

 

 

牢の前に立ったのは皇帝。皇は座り込んでいる雛森を見ると牢の鍵を開けた。そして一言言う。

 

 

「ついて来なさい」

 

 

雛森は言われたように大人しくついていく。そしてとある場所につくと皇は歩いていた足を止めた。

 

 

「ここは…清浄塔居林(せいじょうとうきょりん)…四十六室の為の居住区域…どうしてあたしをこんなところに…?皇隊長」

 

 

雛森が聞くと皇はニコリと不気味な笑みを張り付けて言った。

 

 

「…逢わせたい人がいるのよ」

 

「…逢わせたい…あたしに…ですか?」

 

 

雛森の問いに皇は「ええ」と頷いて答えた。

 

 

「ほら、後ろ見てみなさい」

 

「うし…ろ…?」

 

 

雛森の後ろにある扉には死んだとされていた藍染が立っていた。

 

 

「…あ……藍染……隊……長……」

 

「…久しぶりだね…雛森くん」

 

 

藍染はいつもの優しい笑みで言った。雛森は動揺する。当たり前だ、藍染は雛森の目の前で死んでいたのだから。

 

 

「…本当に…藍染隊長なんですか…?亡くなられた筈じゃ…」

 

 

雛森は激しく動揺する。藍染が雛森を安心させるように優しく言った。

 

 

「…大丈夫。この通り生きているよ」

 

「あ…藍染隊長…藍染隊長あたし…あたしはっ…」

 

 

雛森は本当の藍染か、とペタペタ体を触って確めそして藍染に抱きついて泣いた。

 

 

「…藍染…隊長…隊長…」

 

 

雛森は藍染にすがるようにして抱き締める。藍染は雛森の頭を優しく撫でた。

 

 

「…すまない心配をかけたね雛森くん」

 

 

雛森は藍染に頭を撫でられ安心する。これは本物の藍染隊長の手だと。いつもと同じ心を洗い流してくれる藍染隊長の匂いだと。本当に藍染隊長だ、と。

 

 

「…すまない。僕のせいで少し痩せさせてしまった」

 

「いいんです。もういいんです。隊長が生きて下さっただけであたしは何も――…」

 

「…ありがとう雛森くん」

 

 

藍染は雛森のことを強く抱き締めた。

 

 

「君を部下に持てて本当に良かった…。ありがとう雛森くん…。本当に、ありがとう…」

 

 

藍染はそう言うと雛森には気づかれないように冷たい目で見下ろし言った。

 

 

「さようなら」

 

 

雛森の腹を斬魄刀で刺す。雛森はあり得ない、と言うような顔で藍染を見上げた。

 

 

「嘘」

 

 

雛森の腹を刺した斬魄刀を藍染は抜くと同時に雛森は倒れた。藍染は斬魄刀に着いた血を振り払い言った。

 

 

「これでいい?帝」

 

「ええ。上出来よ聖」

 

 

藍染だと思っていたモノ(・・・・・・・・・・・)は藍染ではなく現鬼道長 乾聖だった。乾は皇に褒められたことが嬉しいのか笑った。

 

 

「もうしかしてオレ役者向いてるかもしれないね」

 

「ええ、そうね」

 

 

皇は腹から大量の血を出して倒れている雛森を冷たい目で見ると言った。

 

 

「行きましょうか聖。ここは臭いわ」

 

「うん、そうだね」

 

 

部屋から出ると皇達の前に血走った目をした日番谷が現れた。

 

 

「…鬼道長の乾…と……」

 

「あら隊首会ぶりじゃないかしら、日番谷くん」

 

「……皇……!?」

 

 

こんなところにいる皇を見て日番谷は驚く。日番谷は脱獄した雛森の霊圧を辿ってここまで来た。が、雛森は急に霊圧が減少し今はもうわからない程小さくなっている。

 

 

「皇、雛森を知らないか」

 

「ああ、彼女。彼女は…」

 

 

皇は後ろを向く。皇の視線には大量の鮮血を出して横たわっている雛森の姿。

 

 

「――ひ………雛……森………」

 

 

雛森の姿を見て日番谷は憤怒の表情を見せる。

 

 

「ごめんなさい。日番谷くんを驚かせるつもりはなかったのよ。でも貴方のために粉々に切り刻んでおくべきだったかもしれないわね」

 

「…どういうことだ皇に乾」

 

 

日番谷は肩をフルフルと震わせながら皇達に問うた。

 

 

「どういうこと?見ての通りよ。私も聖も貴方の敵。尸魂界の敵なのよ。最初っから。私が隊長に、聖が鬼道長になった時から」

 

「…それじゃあ…てめえは今迄ずっと…雛森も俺もてめえの部下も他の全ての死神達も…みんな騙してやがったのか…!」

 

 

日番谷の言葉を聞いて皇は声を出して笑った。

 

 

「騙したつもりはないのよ。ただ貴方達が無能だっただけよ。まあ無能だったお陰で雛森ちゃんは簡単に騙されてそんなことになってるんだけどね」

 

 

皇がそう言った瞬間、日番谷は斬魄刀を抜いた。大量の氷が皇と乾を襲う。が皇も乾も避けていて傷ひとつついていなかった。

 

 

「――卍解『大紅蓮氷輪丸(だいぐれんひょうりんまる)』」

 

 

とてつもなく大きな氷の竜が日番谷を覆う形で出てくる。部屋には大量の冷気が漂う。

 

 

「――皇、俺はてめえを…殺す」

 

 

皇はニヤリと笑った。

 

 

「…あまり強い言葉を使わない方がいいわよ。弱く見えるから」

 

 

日番谷が『大紅蓮氷輪丸』を振りかざす。が攻撃を受けたのは皇ではなく日番谷だった。

 

 

「…嘘……だろ…」

 

 

日番谷を覆っていた氷の竜がただの氷となって落ちていく。

 

 

「いい眺めね。季節ではないけれどこの季節に見る氷も悪くないわ」

 

 

落ちていく氷を見て皇は言った。が数秒後には飽きたとでも言うかのように歩いていく。

 

 

「行きましょうか聖」

 

「行かせんよ」

 

 

皇の首筋にひんやりとした感覚がする。斬魄刀が当てられているのだ、皇の首筋に。

 

 

「その声は…ギンね」

 

「倒れとるのは雛森ちゃんに…日番谷隊長、か。三番隊に泥を塗っとるのはボクじゃなくてアンタやろ皇」

 

 

皇はギンの斬魄刀を握りしめる。するとポタポタと皇の手から血が流れ落ちる。

 

 

「隊長のことを呼び捨てなんてダメな子ねギン。やっぱり藍染(かれ)に拾われた子だからかしら」

 

 

ギンの目が大きく開かれる。

 

 

「やっぱり…アンタだったんやな」

 

「ええそうよ。簡単だったわ、彼を殺すのは」

 

「射殺せ――」

 

「そうはさせねェよ」

 

 

ギンが斬魄刀を抜いて始解をした瞬間、ギンの後ろに乾がいつの間にか回り込んでおり、回し蹴りを食らわせた。ギンは凄い早さで吹っ飛んでいく。

 

ドゴォン

 

ギンの速度は落ちることなくそのまま壁に追突した。

 

 

「クハッ!」

 

 

壁の破片がパラパラとギンの元へ落ちていく。

 

 

「…すめ、らぎ……」

 

 

ギンは立ち上がろうとしたが皇に斬魄刀で刺されそのまま気絶してしまう。最後に見た光景は卯ノ花隊長が歩いて来ていたところだった。

 

 


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