変わってる男
人前での一人称を「私」から「僕」に変えた俺は真央霊術院を首席で入学し、その後も全て一位を保っていた。お陰で一年生ながら飛び級の話がきたらしい。
何故らしい、なのかと言うと俺は断ったので間接的にしか聞いていないからだ。頭の中身は学生を超えていたとしてもまだ体は学生なので、このまま学生を続けようと思ったのだ。……正直、学生割引とかありそうじゃん。
が、学生割引は本音じゃねぇからな!!お、オプションみたいな感じで考えてるだけだから!!嘘じゃないよ!本当だよ!!
そんなこんなで今日も俺は学生を続けています。
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首席入学、学年一位の藍染くんは孤立している。孤立、と言うよりも私達が彼に歩み寄らない、と言う方が正しいのかもしれない。
彼は頭も良くて、『斬・拳・走・鬼』全て一位を誇っている。しかも顔のベクトルも高く、裏ではファンなるものが作られるほど人気だ。
こんな人気な彼だが友達と言う人は誰もいない。何故か、それは私達クラスメイトが畏れ多くて彼に近づけないのだ。
でも、一度だけ解らない所を教えてもらったことがある。その時の彼は少し目を見開き…数秒後、嬉しそうに微笑み「いいよ」と言って丁寧に、解りやすく教えてくれた。お陰で私は成績伸びたし、1ヶ月の間、藍染くんファンクラブからのいじめの対象にあった。勿論藍染くんはその事は知らない。
私が藍染くんに近づかないのはいじめの対象になるのが怖いんじゃない。あんなもの怖くはない。なら、何故近づかないのか。そんなの決まってる。……私が彼に惚れちゃったから…。
今日も藍染くんはカッコいいです。
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友達と言うものができないまま俺は真央霊術院を卒業した。そして真央霊術院で浅打と言う斬魄刀を貰った。この斬魄刀には“本当の名前”なるものがあるらしい。頑張ってその“本当の名前”を聞けるように努力したいと思う。
名を聞くには“座弾”と言うものが必要らしい。早く名前を聞きたいと思っている俺は、早速その座禅なるものをしてみた。
気がつくと俺は全てが鏡の世界にいた。右も鏡、左も鏡、上も下も鏡。そんな鏡の世界に俺とは違う、小柄な1人の少女が立っていた。彼女はアルビノなのだろうか。髪の色素が薄く、白に近い水色の髪色をしている。
彼女を見たときの第一印象は “白”である。髪も白に近ければ、肌も白い。最後には白い無地のワンピース。彼女は全体的に白を強調しているようにしか俺には見えなかった。そんな彼女を見つめること約数秒。彼女が小さな口を開けた。
「貴方様ならば
彼女はビー玉のように透き通っている青い目で俺を見つめながら言った。
「正直、私はホッとしております。私の持ち主が貴方様であることを」
「『鏡花水月』は何か俺の事を知っているのか?」
「知っていますとも。少なくとも貴方様が
彼女はそう言った。彼女の表情は安心しているようで、少し笑っているようにも見える。彼女の笑う姿はとてもかわいらしい。
「きっと、本物の藍染惣右介であったならば、私の力を悪用し闇の道へと進んでいったに違いないでしょう。しかし、心が清らかな貴方様ならば、私の力を悪用し闇の道へと進むことはない、と思っております」
「悪用、ってことはそれだけ強い能力ってことか?」
俺が彼女に聞くと彼女は首を横に振り「強い、と言うよりも
「私、『鏡花水月』は能力解放に伴う形状の変化はないのですが、解放の瞬間を一度でも見た相手の五感・霊感等を支配し、対象を誤認させることが出来る
「…チート……?」
「貴方様はこの力を正しく、光の道で使ってくれますか?」
彼女は俺の「チート」と言う言葉を完全無視して不安げな表情、声音で聞いてくる。そんな彼女の顔を見て俺は何故か居た堪れない気持ちになり、頭をガシガシと掻いた。
「…俺、光の道だとか闇の道だとかそんな解らねぇし」
「…………」
「俺は、ただ、自分が正しいと思った道を進むだけだ。とりあえずは、この力を尸魂界に貢献するとするさ」
俺はそう言うと彼女に近づいた。そして、しゃがみ視線を合わせると俺は彼女に手を出して言った。
「俺は、か弱い命を護れるだけの力が欲しい。助けて、と思っている少年、少女、ご婦人、爺さんや婆さんの助けになれる力が欲しい。だから、俺に力を貸してくれないか?――『鏡花水月』」
俺が『鏡花水月』にそう問うと『鏡花水月』の目から透明な
…な、なな、何で泣いてるんだ!?俺、何かやった!?え、もうしかしてだけどこれ…俺が泣かせちゃった系…?………何やってんだよ、俺っ!!女泣かせるとか最低じゃねぇかっ!!
俺が泣かせちゃった疑惑が俺の心の中で浮上し更にアタフタする。そんな俺を見て、彼女は笑った。それも上品に。
「勿論ですとも。どうぞ、これから宜しくお願いしますね、我が主」
『鏡花水月』は俺の手を取った。
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真央霊術院を卒業して間もなく、俺は五番隊に入隊した。因みに副隊長と言うかなり高い役職に就いてしまった。周りは先輩だらけで新参者の俺はかなり孤立している。かなり息苦しい。
「俺の名前は
赤髪で俺よりもガタイのいい隊長は笑って言った。俺は一礼し「宜しくお願いします」と言う。
「そんなに畏まるな!何か気になるだろ!」
俺の背中をバンバンと叩く隊長。一応力加減をしてくれていて、痛いとは感じなかった。
「隊長、少し聞きたいことがあるんです」
「なんだ?」
「…そもそも、僕は何処の隊に行っても悔いはなく、特に希望もありませんでした。だから希望書にも何も書かなかった」
死神になる前。真央霊術院を卒業し間もなく渡されるのは何処の隊に所属したいかと聞かれる「希望書」である。
必ずしも、自分の希望が通るとは限らないが、少なくとも皆には何処の隊に行きたい、と言う希望があるのだ。まあ、俺は特になかったから白紙で出したんだけど。
俺は回道が得意だったので、てっきり四番隊に飛ばされると思っていたのだが…。まさかの五番隊。しかも隊長直々に俺を五番隊に入れたい、と言ったらしいのだ。
だから聞いた。確かにこの少年の体はスペックが高くて、イケメンであるが態々隊長が指名するほどなのだろうか、と。体はイケイケでも中身は全然イケてないのだから、中身が全てを台無しにしてしまったいるのだから……自分で思ってて悲しくなってきた…。
兎に角、気になったのだ!気になったから聞いた!只それだけ!!
隊長は一瞬キョトンとした顔をすると豪快に笑った。
「真央霊術院を首席で入学し、一位を誰にも譲ることなくそのまま首席卒業!!鬼道の腕もよし!何なら得意は回道!!そんな金の雛鳥を呼んで何が悪い!!」
俺は目を見開いた。……金の雛鳥なんて…カッコいいじゃねぇかっ!!
「俺はお前の力を認めてるんだ!いきなり副隊長なんて責任重大な場所についちまったが、俺はお前ならできる、って信じてるんだ!頑張ってくれよ、藍染!!」
隊長が笑った顔は、俺の心を安心させた。
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俺が副隊長になって早百年が経とうとしていた。五番隊の皆とも慣れ、俺の演技には更に磨きをかけ優しく何でもデキる上司を演じてきた。お陰でヴァレンタインデー(少しだけカッコつけた)では尸魂界一沢山チョコを貰うと言う快挙を成し遂げた。
皆からは自分の上司にして貰いたい人と言う謎のランキングでも一位になり、告白と言う昔の俺ではされないこともよくされるようになった。
イケメンでイケボ、仕事も完璧と言う三拍子が揃っているとこうも人生薔薇色になるんだ、と実感した百年だった。
書類仕事をしながら昔の記憶に馳せていると、扉がノックされる音がする。俺は「どうぞ」と声をかけた。
「失礼します」
入ってきたのは平隊士であり、平隊士は緊張した顔で俺に言った。
「た、隊長が現在、新米隊士の紹介をしているので、時間が作れたら来るように、と!」
「…態々済まないね。ありがとう」
「い、いえ!!それでは失礼します!!」
勢いよく出ていく隊士を見送り、俺はエベレストのような書類を見て…ため息をつき、早く終わらせねば、と気合いを入れる。
「一度ぐらいは顔を出さないとな」
書類を見てまた、俺はため息をつくのだった。
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結局、エベレストの山を短時間で終わらせることはできず、顔を出すことは叶わなかった。そして、現在俺は顔には出さないがかなり慌てている。
何故かって?隊長が姿を消したからだ。隊舎中探しても見つからない。それに皆から聞いた話だと隊長を最後に見たのは約2週間前だと言う。
そして今、俺は総隊長の目の前に立っていた。話の内容は勿論隊長のことについてである。
「藍染惣右介よ。この度朱司波征源が姿を消した」
「はい」
総隊長の言葉に俺は頷く。総隊長の鋭い視線が俺に
「あやつは隊長。隊長不在は隊にとっても大きな影響を受ける。その為、新たな隊長を呼ぶことにした。名は
総隊長が「入って参れ」と言うと後ろにあった大きなドアが開き金髪ストレートイケメンが入ってきた。肩よりも少し長いぐらいの金色でストレートの髪をした男性。白い羽織を着ていてその羽織には“五”と書かれていた。
「平子真子。今日から五番隊隊長を命ずる」
「了解しましたわ」
……関西弁。また、癖のありそうな人が隊長に任命されたもんだ。まあ、自分が隊長にならないだけマシか。
その後、俺と平子隊長は一番隊隊舎を出て五番隊隊舎へと向かった。隊士たちには「朱司波隊長は家の事情で隊長職を下りざる終えなかった」と伝えようと思う。
「お前、名前なんて言うん?」
「僕は藍染惣右介です。特技は書類仕事なので隊長のお手伝いが出来るかと」
「ほな、惣右介。肩の力抜いてええで。お前ホントはそないええ性格ちゃうやろ?」
なんと。朱司波隊長にも知られなかった『俺』をまさか知られるとは。この人意外と観察眼あるな…。
「…じゃあ改めまして“俺は”藍染惣右介。特技はいい子ぶることです」
俺の自己紹介を聞いて平子隊長は悪巧みするような顔で笑った。
「“僕”よりも合うとると思うで。宜しくな、惣右介」
“友達”と言える程まで仲の良い友達がいるわけではなかった。だから、本性を人前で曝すことなんて一度もなくいつも息の詰まるような生活を毎日していた。
だからこそ心の中では気づいて欲しかったのかもしれない。自分から言うことなんて出来ないし、絶対にないと思うから他人に気づいて欲しかったのかもしれない。
……素直に平子隊長に尊敬したと同時に彼についていきたいと思った。彼の下で働きたいと思った。彼になら……
平子隊長になら