if物語 藍染に成り代わった男   作:フ瑠ラン

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自分なんかの為に色々考えて下さった皆様、本当にありがとうございます。もう感謝の言葉しか出ません。この小説を読んでくださる皆様は優しい人ばかりです。まあ駄文の小説なので当たり前ですね。
皆様のおかげでやる気が少し出ましたので早めの投稿を。


王鍵

ザアアアアア

 

ザザッ

 

ザザ――――ッ

 

 

大きなモニターには砂嵐が写っており、そのモニターの前には暇そうにしている乱菊、相変わらずどんな事を考えているのか分からない笑みをしているギン、そして仏頂面の日番谷が立っていた。

 

 

「隊長ぉー、まだですかぁ?」

 

「…乱菊、ちょっとは忍耐力付けなあかんよ」

 

 

もう待てないと言ったように口を尖らせながら言う乱菊を見てギンは苦笑いをしながら言った。この目の前にある大きなモニターは尸魂界と連絡をするもので尸魂界から緊急で回線を用意しろと言われたのだ。織姫が居ないこの時を狙ってやろうとしていたのだが……。

 

ばたばたばたばたガチャン!と大きな物音をたてながら織姫は帰ってきてしまった。家の半分以上を占領しているこのモニターを見て織姫は「カッコイイ」と呟く彼女は本当に優しすぎる。

 

 

「…じゃないよ!何これ冬獅郎くん!?」

 

「…ちっ、間の悪い時にかえってきやがったな……」

 

 

説明するのが面倒だ、といった表情をしながら頭を掻く日番谷。そんな日番谷を見て乱菊が「だからもうちょっと早めにしましょう〜って言ったんですよぉ」と言った。そんな乱菊を見て「うん、乱菊は黙ってような」と言っている二人には織姫に見つかっても焦りは見せなかった。まあそれは日番谷も同じだが。

 

 

「十番隊隊長 日番谷冬獅郎だ」

 

 

日番谷がそう言うとようやく繋がったのか『はい。お繋ぎ致します』と淡々とした声が返ってきた。数秒経つとブンと音と共に画面に総隊長の姿が出てきた。

 

 

「そ、総隊長…さん?」

 

 

織姫はまだ状況を理解していないらしい。総隊長の姿を見て疑問の声を出していた。

 

 

『…流石に仕事が早いのう、日番谷隊長。今回緊急に回線を用意してもろうたのは他でもない。皇帝の真の目的が判明した』

 

 

その場にいた全員の顔が驚愕に染まった。

 

 

「…皇の…真の目的…!?」

 

『如何にも』

 

 

漸く状況が理解出来た織姫は空気を読んでその場を退散しようとした。しかし総隊長は織姫を止めその場に居ろと言った。お主ら人間にも関係のある話じゃ、聞いていきなさい、と。

 

長い前置きから日番谷に言われようやく本題に入る総隊長。そして総隊長は言った。

 

 

王鍵(おうけん)

 

 

この名が出てきた時、あのギンさえも珍しく細長い目を開き驚愕していた。

 

 

「…王鍵…って何ですか?」

 

 

織姫の問いに答えたのは乱菊だった。

 

 

「王家の鍵よ。文字通りね。尸魂界にも王ってのがいるのよ。王って言っても尸魂界の事は四十六室に任せっきりで一切干渉してこないから実感ないし実際あたしも隊長もギンも直接見たことは一度もないんだけどね」

 

『然様。王は霊王と言い尸魂界にあって象徴的でありながら絶対的な存在。その王宮は尸魂界の中の更に別空間に存在し王族特務が守護している。王鍵とはその王宮へと続く空間を開く鍵じゃ』

 

 

漸く事の重大さに気づいた織姫は一筋の汗を伝わせながら言った。

 

 

「それじゃあ…皇…さんはその王様を…」

 

『殺す。それが奴の目的じゃろう。…じゃが問題は其処では無い』

 

 

総隊長の言いたい事を理解した日番谷は真剣な眼差しで総隊長を見つめ言った。

 

 

「………皇が見たのは王鍵の在り処を記した本じゃない…」

 

『如何にも。王鍵の所在は代々十三隊総隊長のみに口伝で伝えられる。故にその所在を記した本など存在せん。奴が見たのは王鍵が創られた当時の様子を記した文献――奴が知ったのは『王鍵の創生法』じゃ』

 

「つまり…その創生法に問題があるという事ですか?」

 

 

乱菊の問いに総隊長は『否』と答える。

 

 

「人間、織姫ちゃんにも関わる言う事は――材料かなんかやないの?総隊長さん」

 

 

ギンの言葉に総隊長は深く頷いた。

 

 

『如何にも。王鍵には十万の魂魄と半径一霊里に及ぶ重霊地。重霊地とは現世に於ける霊的特異点を指し、その場所は時代と共に移り変わる。その時毎に現世で最も霊なるものが集まり易く霊的に異質な土地をそう呼称する』

 

 

総隊長は織姫を見て「もう判るじゃろう」と言った。

 

 

『皇の狙う重霊地。それは『空座町』じゃよ』

 

 

織姫は目を見開き、ギンや乱菊、日番谷は想像でもしていたのだろう。大して驚いた姿は見せなかった。

 

 

『儂は彼奴がそれを成せるとは思っておらん。然し、それは儂個人の考えでありもしものことがあっては敵わん。そのもしもを無くす為にも儂ら『護廷十三隊』が居る』

 

 

乱菊が織姫の肩に手を置いた。いつものような余裕の表情の日番谷、相変わらず何も悟らせてはくれないギンの笑み。そんないつもを見て織姫は安著した。

 

この人達が仲間で良かった――。

 

決戦は冬と決まった。それまでは各々も力をつけることに専念する。

 

 

「あたしとギンは一角達に知らせて来ます、総隊長」

 

 

乱菊とギンが動くとそれを見た日番谷も自分も行くと言った。しかしそれを総隊長が止める。

 

 

「――お前……」

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

市丸ギンが現世に行き藍染惣右介の仇を取りに行くと聞いた雛森は自分も行くと懇願した。しかし、それは皆に止められ行くことは叶わなかった。

 

酷い隈に青白い顔色。そんな雛森を見て日番谷は雛森の心配をする。ギンとは違い全て顔に出る雛森は中々部屋からも出して貰えず、日番谷と喋るのが雛森にとって久しぶりに人と話した瞬間だった。

 

雛森は藍染が死んでから皇に刺されるまで大きな空回りをした。時には仲間を疑ったこともあった。その事について雛森は日番谷に謝る。何故なら雛森が疑った相手とはモニターに写っている日番谷なのだから。

 

雛森は日番谷に謝る。段々雛森の顔は俯いていき、表情が見えなくなる。そこまで自分を追い詰めていたのか、日番谷はフッと笑うと「いつまでも気にしちゃいねーよ」とおちゃらけた表情で言った。雛森は日番谷が好意を向けている相手。好きな人が悲しい顔をしているのが見てられないのだろう。

 

 

「俺は気にしちゃいねーからオメーも気にせずもうちょい寝てとっとと目の下のクマ消せよな」

 

 

日番谷の言葉に安心したのだろうか。雛森は微笑しながら涙を流した。

 

 

『…うん、ありがとう日番谷く…』

 

「大体よ――」

 

 

日番谷は雛森の感謝の言葉を遮る形で更に言葉を続ける。

 

 

「オマエそれでなくてもガキみてーなんだから他人の何倍も寝ねえと成長止まんぞ。松本見てみろ、オメーあと10年は寝続けねーとアレに追いつけねえぞ」

 

『う、うるさいな!乱菊さんは特別だもん!大体日番谷くんに成長のこととか言われたくないよっ!!』

 

「雛森!…何遍も何遍も言わせんじゃねーよ。日番谷くんじゃなくて日番谷隊長(・・・・・)だ」

 

 

日番谷の言葉に雛森は弱々しくも「うん」と頷いた。

 

 

『…ねえ、日番谷くん』

 

「何だ?」

 

 

急に声色が暗くなった雛森に気づいて日番谷は少し驚きながらも答えた。雛森は少し顔を俯かせながら言う。

 

 

『――…本当は藍染隊長死んでないよね…?』

 

 

日番谷は目を見開いた。

 

 

『だってあたしや日番谷くん、市丸副隊長が怪我した時誰かが治したんでしょ?そんなの出来るのって藍染隊長か卯ノ花隊長しか出来ないもん。でも卯ノ花隊長は知らないって言ってたし――本当は生きてるんでしょ?ねえ、生きてるよね!!』

 

 

日番谷は目を閉じた。

 

 

「それは――」

 

 

日番谷が雛森の悲痛な質問に答えようとしたその時だった。総隊長が雛森を気絶させ、退室させた。

 

 

『…済まんの。本人の意志を尊重して話をさせたんじゃが…どうやらまだ早かったようじゃ…』

 

「――いえ…ありがとうございました」

 

 

日番谷は深々と総隊長にお辞儀をした。

 

 

「失礼します」

 

 

日番谷の言葉と同時にモニターは消え砂嵐へと変わる。日番谷はグッと歯を食いしばり拳を握った。

 

 

「…安心しろ、雛森。皇は……藍染の仇は俺が討つ!!」

 

 


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