暫くして。海燕達が白哉の元に加勢に加わるものの、劣勢から優勢に動くことはなかった。ゾマリの斬魄刀『
白哉達の傷は増え、広がっていく一方相手は無傷。どうやら白哉と戦ってたゾマリの記憶もあればフュズィオンの記憶もあるらしく、そこから弱点解析をされていた。
どう足掻いても劣勢から優勢に動くことはない。諦めることはしなくともせめて、この中でも一番の重症を負っている山田花太郎の治療を――と考えている三人は戦闘に気をとられていて気づいていない。
「(この戦いの中に飛び出して行くなんて無理!!)」
四番隊副隊長 虎徹勇音が物陰に隠れて戦闘を見ていたことに誰一人と気づいていない。勇音自身怖がりなので自分から飛び出すことはないだろう。現に物陰に隠れている今の状況でも顔を青くして体を縮こませている。
「ねえ、君達さあ」
ボロボロの三人を見つめながらシンテシスは攻撃の手を緩めながら三人に問うた。
「君達は一体何の為にここに来たの?」
「それは勿論、井上を助ける為だっ!!」
シンテシスの問いに真っ先に答えたのはルキアだった。シンテシスは「ふーん」と答えると三人から距離をとり、斬魄刀を鞘になおす。
「やーめた」
「はあ?」
「織姫はあそこにいるよ」
そう言ってシンテシスは大きい塔を指さした。
「まあ、グリムジョー達が連れ出してなかったら、の話だけど」
「貴様何を……」
「そもそも、ぼくは暇を潰す為に十刃になったんだよ。でも織姫にもよくしてもらったし、本人も帰りたそうにしてたしね。ぼくはそこまで織姫を監禁する必要もないと思ってるし。――破面もここまで」
シンテシスはニコッと笑うといきなり吐き出した。シンテシスの腹から出てきたのは少しの胃液、そして丸くなっているフュズィオンだった。シンテシスの体も小さくなっていく。
裸のフュズィオンを俵抱きすると「さようなら」と言って何処かへと去って行ってしまった。案外呆気ない。
「……………」
シンテシスが去ったその場の雰囲気は最悪だった。
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少しだけ、少しの時間話しただけで絆されたのかもしれない、シンテシスはフュズィオンを抱え走りながら苦笑いした。
シンテシスは破面だ。でも、ご飯はそこらの虚よりも現世のご飯が好きだし、虚圏にいるよりも現世を眺めてる方が有意義に感じるほどシンテシスは変わり者だった。
人間が好きか、と問われれば虚よりは好きだと答えるだろう。虚圏よりも現世が好きか、と問われれば速攻頷く自信がある。
だから時々考えてしまうのだ。自分が人間だったあの頃、自分は現世で有意義に生きていられたのか、と。後悔とかやり残しとか無かったのかな、と。破面になった今ではもう分からない。だけど人間を見ると考えてしまうのだ。
ふと、織姫と喋っている時、自分にこんな妹がいたらどうなんだろうと思った。自分は破面で敵だ。織姫を無理やりここに連れてきた奴らの仲間なった筈なのに織姫は警戒一つせず、自分が持ってきたご飯を綺麗に平らげ話し相手になってくれた。
きっと愛しい、と思うんだろうな、と思った。あんなに可愛く笑う彼女が妹だったらきっと自分は話すたんびに妹の自慢しかしないだろうな、と予想した。
気づかない内に絆されていた。
人間は嫌いじゃない。
この退屈な毎日をどうにかしたくて皇についてきた。
けど、それももう、意味の無いことなのかもしれない。
せめて結末だけは見届けようと思った。
「ほら、早く起きな。フュズィオン」
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三人は唖然した後にシンテシスに怒りを抱いた。遊びでここまで仲間を傷つけられたのだから当たり前だろう。そんな怒りを霧散させたのは勇音だった。
勇音は今、出ていくつもりは無かったのだ。ただちょーっと足を動かしたら石に当たっちゃって、その石が音をたてて転がって皆にバレただけだ。
勇音は死を悟った。
「ご、ごごごごめんなさいいい!!」
「な、何を謝っているのです?勇音殿」
「え、えとえとその…あの……」
「卯ノ花隊長にここに来いって言われたんだろ?別に誰も勇音を責めたりしねぇよ。な?朽木隊長」
「………」
「ほら、朽木隊長もこう言ってることだし、まあ、なんだ…山田七席を治療してもらってはくれねぇか?」
朽木隊長何も喋ってない、そう思う勇音だが勿論口には出さなかった。何故なら勇音にそんな勇気は持ち合わせていないからだ。
勇音は空気を読み、頷くと素早く山田花太郎の治療に取り掛かった。
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「………? 兄様?」
白哉に凝視されていることに気づいたルキアは首を傾げながら白哉に喋りかけた。すると白哉は一度目を伏せ、そして静かに小さな声でルキアに問う。
「…無事か、ルキア」
その声は妹をかなり心配している兄の声だった。それが少し嬉しくて、むず痒かったルキアは頬を朱く染めると少し俯いて「ええ。兄様や海燕殿が助けてくれたので」と答えた。
「…そうか」
白哉は安心した声を出すがルキアに「怪我したところがあれば志波に回道で治して貰え」と言ったのでルキアは「私よりも先ず兄様が治して貰ってください」と言ったのだった。
そんな二人を見て、海燕はホッと息をつく。最近はルキアと会うことも無かった。海燕自身忙しかったし、ルキアも現世に赴いていた為、顔を合わせることが中々出来なかったのだ。
だが、何も無く今はちゃんと兄弟として白哉と喋れているルキアを見て安心した。
「朽木隊長ォー、応急処置ぐらいはするんで来てくださいー」
気づかない内に部下が成長していて嬉しい反面少し寂しかった――。