if物語 藍染に成り代わった男   作:フ瑠ラン

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サマーブックさんのリクエストです。
まだ続きます


男として

今の現状を理解出来なかった。

壁ドンならぬ床ドンを現在進行形でされていた雛森はそう思った。恐怖はない。ただ、嗚呼、男の子なんだな、と意味のわからぬ理解をして。

 

雛森のこの現状を知るためにも、藍染が小さくなる2日前の話からしよう。

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

とある居酒屋。そこに藍染は居た。人は店員しかおらず、客は居ない。何故かと問われれば藍染がわざわざ貸切にしたからとしか言いようのない。全く無駄な出費である。

 

チリンとドアに掛けてあったベルがなった。店内に入ってきたのは藍染に呼び出されていた日番谷冬獅郎である。日番谷は迷わず藍染の隣の席に座ると「何の用だ藍染」と藍染に声をかけた。

 

藍染は別段酒に弱い訳では無い。仕事が忙しい事もあるし、そもそも酒を好んで飲む性格ではないので、誰かに進められたら飲む、ぐらいなのだが今日は珍しく飲んでいた。

 

グラスに注がれていた酒をグッと一気に飲み干す。そしてどこかを見つめ藍染は言った。

 

 

「日番谷君は知っているかい?」

 

「何がだ」

 

 

質問の意味が全く分からないとでも言うかのように日番谷は返した。すると藍染は「本当に何も知らないのだね」と言う。

 

コイツ酔ってるのか、そう思って日番谷は眉を顰めるが、藍染からは酒の匂いがしない。店員の方を見れば「彼が飲んだのはまだ1杯目でございます」と言われた。もう一度言う。藍染は別段酒に弱いという訳では無い。

 

いつもならしない面倒な言い回しに全く理解が出来ない日番谷。藍染はそんな日番谷を気に止めることなく店員におかわりを頼んだ。

 

 

「五番隊の雰囲気、日番谷君はどう思う?」

 

「はあ?知らねぇよそんなモン」

 

 

日番谷が五番隊に出す事は他の隊と比べれば多いがそれだけである。乱菊のようにサボり魔では無い日番谷はこの前まで不在だったが為に出来た大量の仕事を一人でこなしていた。その為、五番隊に顔を出す時間もなければ余裕もなかった。

 

 

「五番隊は今、とてもギスギスしている。その理由の筆頭にいるのが雛森君だ」

 

 

それを聞いた日番谷は目を見開いて驚く。だってそうだ。あの雛森が隊の雰囲気を悪くするなんて信じられないのだから。

 

 

「雛森君は尸魂界に戻ってきてからは僕にずっとつけ回ってきてね。まあ、これは僕の行いが悪かったから、と黙認していたのだが…。何分、隊長の当たりが強いんだ」

 

 

「おかげであのメンタル馬鹿がいつも以上に使い物にならなくてね」藍染は困ったように言った。新しく注がれた藍染のグラスに入っていた氷がカランと音を鳴らす。

 

 

「そもそもあの計画――嗚呼、生きていたけど死んじゃった計画ね、あれの真相を予め雛森君に伝えていても良かったんだ。でもそれをしなかったのは雛森君が僕に“依存"していたからなんだよ」

 

 

藍染の死体――ただし偽物だった…と表ではなっている――を目の前で第一発見者となった雛森の精神ダメージは図りしれないものだった。

 

そうなると知っていてなお、雛森にこの計画を伝えなかったのは親離れならぬ藍染離れをさせるためだと藍染は語る。

 

 

「人間に依存していてもいいことは何も起きないんだよ。人はいずれ死ぬ。その死を受け入れられないのは死者の冒涜だと思うんだ。もし、僕が死んだとして追いかけるようにギンや雛森君が死ねば僕は悲しい。生きてて欲しかったと思うんだ。物が壊れるように人間だっていなくなる。これはどう足掻いたって変わらない事実だ。それを受け入れられないのは生きて(・・・)いない(・・・)ことと(・・・)一緒(・・)なんだ」

 

 

無表情に、瞳には何も映さず藍染は言った。

 

 

「…てめえの持論は分かった。それを俺に伝えてどうするんだ」

 

「日番谷君、雛森君を嫁に貰わないかい」

 

 

たまたま、水を飲みかけていた日番谷の口から水が噴射される。藍染の顔は無表情だ。そんなに付き合いが長いとはお世辞でも言いきれない日番谷からは今、藍染がどんなことを考えているかなんて分からなかった。

 

 

「きゅ、急に何を…!!」

 

「いや、取り敢えず依存先を変えないことにはどうにもならなくてね。これ以上平子隊長(あのバカ)が使えなくなるのは本当に勘弁なんだ」

 

 

知るかそんなモン!!日番谷はそう言い返そうとするがニコリを笑う藍染を見て何も言い返せなくなった。何故なら、その意味深な笑みが怖い。笑っているのに目が笑っていない。冷たい、殺気が乗っている。

 

 

「日番谷君。君は男だろう?砕けてもいいから取り敢えず雛森君に男だと認識されてくれないか。そうすれば僕から意識が削がれる」

 

 

知っていた、知っていたさ。俺が男だと思われてないくらい、藍染のさり気ない毒にダメージを受ける日番谷。それを知ってか知らぬか藍染はさらに毒を吐く。

 

 

「そうだね、日番谷君が男だと認識されるには先ず…襲ってみたらどうだい?そうすれば嫌ってほど雛森君も分かる筈さ」

 

 

襲う?そんなの出来ていたら既にしていた。日番谷はそう言いたいが藍染は一人ペラペラと喋り続ける。そして藍染は言う。

 

 

「明日からの三日間、十番隊の仕事は僕が受け持とう。だから休暇を取りなさい。雛森君も休暇取らせるから。それで二人で温泉にでも行っておいで」

 

 

有無を言わせない声で藍染は言った。と言うか藍染の声は若干怒りが篭っているようにも聞こえる。そんな藍染に気圧され日番谷は「お、おう…」と返してしまう。

 

藍染と別れた後、凄く後悔した。


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