両手に華…ではなく両手に書類の束を持っている藍染は昔の行動について振り返っていた。
……最近俺、クサイ台詞しか言ってないような気がするっ!!一番クサイと思ったのは海燕を副隊長に説得した時の台詞だろうか。あれはもう黒歴史に認定されるほどクサイ。
目の前に書類の束が有ると言うのにそれに手をつけず、昔の自分の行動に悶絶する藍染。そんな藍染を見て平子は言った。
「オマエ仕事のやりすぎでヤバなっとるで。今日と明日は休みにしてやるさかい帰れ」
「……どうやったらタイムマシンって作れるかな」
タイムマシン作って過去に言って自分をおもいっきり殴りたい、そんな衝動に駆られる藍染。勿論平子の話は聞こえていない。
「おい、ギン。ちょっと卯ノ花隊長呼んできてな」
平子は本気で藍染の頭を心配した。
仕事の鬼、
ともかくそんな男でも休みは必要らしい。平子は藍染から書類の束を取り上げ無理矢理休ませた。因みに藍染の診察をしに来た卯ノ花隊長の話によると「カウンセラー五番隊に置くのをオススメします」と平子は言われた。…そこまで藍染は病んでいたのか(勘違い)。
「平子隊長がそない仕事せえへんからちゃう?」
「えっ…俺のせいなん?俺が悪いん?」
少しずつではあるが机の上に置かれた書類を無くしていっている平子と藍染の分の書類を片付けているギン。ギンは五番隊に来てすぐ平子が書類仕事から逃げる為に書類整理の仕方を無理矢理叩き込まれていた。その為今、藍染が残していった仕事をギンが肩代わりしているのだ。
勿論ギンが書類整理出来るなんて藍染は知らない。平子がサボるために教えた、なんてバレたらきっと藍染に酷い仕打ちが来ると目に見えているからである。…下手したら殺される可能性も出てくる。
「とりあえず一人にしたけど…えかったんかな?」
「首吊りとかしとらんよね?」なんて縁起でもないことを言うギンに平子は吃りながらも「…ないやろ…」と言った。全くもって説得力皆無の言葉である。
「…カウンセラー、置いた方がええんかな」
平子は窓から空を見ながら一人呟いた。
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タイムマシンについて考えていたらいつの間にか家にいた。覚えていることと言えば平子隊長に「ちゃんと休めよ!!」と強く念を押されたことぐらいだろうか。……一体何があったんだ?
ついに仕事をする気になったのかと嬉しく思いながら一先ず黒歴史とタイムマシンの事を忘れることにする。
「何故か休みを貰ってしまった。…考えると久しぶりだな休み」
確か最後に休みをとったのはギンを拾ったあの日だったような気がする。そう考えるとかなり休んでないんだなぁとわかった。…護廷十三隊はブラック企業か。
久しぶりすぎる休みの為何をしていいのかわからない藍染。
「…そういえばこの前手紙来てたな。それでも読むか」
忙し過ぎて読めなかった手紙。差出人は榛巳の父親だった。内容は「最近実家に帰ってきていないようだが元気にしているか」や「色んな人に虐められていないか」「仕事はきちんとやっているか」等であった。
「……心配性かよ…」
藍染の顔が少し嬉しそうに綻ぶ。そして手紙の最後の行にはこんなことが書かれていた。
「忙しいと思うが、榛巳の墓に遊びに行ってやってくれ」
よくよく考えれば藍染は護廷十三隊に入ってから墓参りに一度も行っていなかった。そう考えるとここ百年ぐらいは榛巳と顔を合わせていないことになる。
「…今日は丁度休みだし、行くか!!」
藍染は立ち上がり、墓参りに必要な道具を持った。バケツに雑巾、花瓶は……念のために持っていこう。花は…墓参り行く途中に買っていくか。服は汚れてもいい服をで、墓を光輝く墓に!そんな目標をもって藍染は墓参りに出掛けた。
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「…墓参りに最適な花ってなんだ…?」
生憎、光右介時代も惣右介時代も墓参りなんぞしたことがなかった為、わからないことだらけだ。花なんて何を選べばいいのか男の藍染にはこれっぽっちもわからなかった。藍染はどうしたらいいのかわからず花屋の前で右往左往する他になかった。
「あの~、すみません。そこで何をしてるんスか?」
「…浦原、隊長ですか。どうもご無沙汰してます」
「イエ……」
花屋の目の前を通ったのは十二番隊隊長 浦原喜助だった。この人は何かとうちの隊長と仲が良かったので多少の顔見知りだ。
浦原隊長は俺の服装を見て「今日は休みなんスか?」と聞いてきた。
「ええ。珍しく隊長が仕事にやる気を出したみたいで休めと言われまして」
「あらら。あの平子サンがスか?……風邪でも引いたんでしょうか」
なんとも酷言い草である、が否定は出来ないので何とも言えないのが今の現状だと言ったところだろうか。
「何か迷っていたように見えましたが…どうかしたんスか?ボクが手伝えることなら手伝いますよ?」
あの藍染がわからないことがある、と浦原は知った。藍染のわからないことは一体何なのか。それにただ浦原は興味が湧いたのだ。
藍染は少し恥ずかしそうに笑うと「恥ずかしながら…」と言葉を続けた。
「墓参りに最適な花とは何ですかね?僕の知り合いの墓参りに行こうと思ったのですが…生憎、知り合いは花よりも鍛練に興味を持っていたので好きな花がなく…」
浦原は「ああ」と頷いた。墓参りの花で悩んでいたのか。何とも意外だ、そんなことを浦原は思う。正直言うと藍染の墓参りの相手が知りたかったが浦原はそんな野暮なことは聞かなかった。
「墓参りの花で主流なのは、カーネーションとかッスかね。他にもアイリスとかユリとか」
「そんな花があるんですね…。凄い」
「ボクもそんなに詳しくは知りませんが」
浦原はポリポリと頬をかく。藍染は浦原に「ありがとうございます。助かりました」と礼を述べた。
「別にこれぐらいいいッスよそんなに感謝させることボクしてないッスから」
「それでも僕は助かりました。今度、十二番隊に御礼の品持っていきますね。高いのは流石に無理ですけど…」
「いやぁ、ありがとうございます」
ただ花を教えただけなのに今度御礼の品を持っていくと言われた浦原。どんな御礼の品が来るのだろうか。
「(お菓子等だったら夜一サンが喜びますかね…)」
「お菓子、持っていきますね」
どうやら藍染には浦原の考えていたのが読めたようだ。浦原は思わず苦笑いになる。
「ホントありがとうございます」と浦原は礼を述べると「ではボクはこれで」と一礼して行ってしまった。
浦原を見送ると藍染は花屋でカーネーションを買った。
「(平子サンが随分、藍染副隊長に肩入れしてましたが……なんとなくわかるような気がするッス。少なくともひよ里サンとは違って急に殴ってきたりはしないでしょうし、気が利くッスね)」
少しだけ藍染のことが気に入った浦原だった。
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バケツに水を見て入れて雑巾を濡らす。定期的に榛巳の父親が来ているのか墓を拭いた雑巾は案外綺麗で大して汚れていなかった。
墓に置いてあった花瓶にはまだ綺麗な花が生けられていた。念のために花瓶を持ってきて良かった、と藍染は案著なため息をついた。
家から持ってきた花瓶に水を入れ、浦原に教えてもらったカーネーションなるものを花瓶に入れる。赤い花弁に水滴がついていて、その水滴が日光に反射して輝いている。とても綺麗だ。
「来るのが遅くなった。…ごめん。俺、護廷十三隊の副隊長やってるんだ。隊長はサボり魔だけど…心の開けるやる時はやる人だ。それに弟子二人も持っちまった。人の話とか全然聞かないけど、楽しくやってる。榛巳はどうだ?」
榛巳は俺の問いに答えてくれているだろうか。正直俺には榛巳の姿が見えないので何と言っているのかがわからない。
「……うん、ごめん解らん。…榛巳もそっちで元気でやれよ」
俺は手を合わせ、黙想する。数秒後、閉じていた目を開け、立ち上がった。朝、家を出た筈なのにもう茜色の空が広がっている。燃えるような夕焼けはとても美しい。そんな空を見ながら俺は家に帰った。
………「燃えるような夕焼け」とかクサくね?やっぱタイムマシン、必要かもな。
帰りに十二番隊へのお菓子を買って逃げるように帰路についた。