ゴブリンスレイヤー~もしも女神官より先に転生オリ主が入ったら~   作:ちっく・たっく

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「この技能を生やすわ」
「おうよ」(ルール的に問題ないけど物語的になんでだ?)

みたいな。宗教に拒絶反応ある方は飛ばすべし?
オリジナルましまし。


神様ってなんだろう?

夢を見ている。

俺の故郷。俺の育った村。

 

寒い、村だったな。夏が短いって意味じゃなく、夢とかの余分がないって意味で。

日々を畑に向き合って、懸命に作った作物を領主に持っていかれて。

父ちゃんにも母ちゃんにも笑みを向けられた記憶なんて残ってない。

 

たまに村に立ち寄る冒険者や吟遊詩人の語る物語を貪るように聞いて、それを反芻しながら拾った棒切れを振り回すのが、俺の唯一の遊びだった。

……今からすれば遊びでも、当時の俺にとってはこの上もなく真剣な、将来のための修行だった。

 

なんでだろうな。

 

夢なんて持てない、持っても苦しいだけの毎日で、それでも気づけば夢をみちゃうのは、なんでだろうな。

 

ほとんどない駄賃を必死に貯めて、バカにされながらも冒険者になってやると言い張り続けて、好きにしろと言われたから好きにしてやると街に来た。

 

なんでか幼馴染が付いてきた。こいつに冒険者やりたいって思いがあったとは知らなかった。

むしろずっと一緒に村で暮らそうとかうるさかったのに……女の子の気持ちって言うのは牛や豚のそれより摩訶不思議である。麦の方がよほど素直だろう。

 

そして……。

 

暗い洞窟の中で死にかけた。

ゴブリン、今なら分かる。最弱ではあっても数が多く、残忍で、ズル賢い。……本物の怪物。

 

舐めてかかって武器を無くし、地面に引き倒される段になって、俺は生まれてはじめて死を本気で考えた。

 

でも、勝った。勝ったから生き残った。

頭目が言う。

 

「考えろよ」

 

ああ、考えるよ頭目。そうすれば勝てる。……そうだろ?

 

 

 

……………

 

 

 

「神様ってなんだ?」

 

そんな俺の呟きに、対面に座る幼馴染は目を丸くした。

 

「なに? なんかへんなモノでも食べた?」

「自慢じゃないけど最近は頭目とお前の飯しか食ってないよ。むぐ……旨いぞ」

「そう? 良かった」

 

にこりと笑う彼女に、なにやら胸の奥が暖かくなるのを感じる。

今日の朝は彼女のお手製のキッシュだ。ベーコンと菠薐草と黄色くて甘い穀物がたくさん入っていて食べ応えがある。

 

もしも良いものを食べたら頭まで良くなるなら、俺もそろそろ読み書きが出来ているはずだ。

 

「じゃあ頭目に言われた?」

「何でそうなる」

 

心外だ。こんな疑問も頭目に出された課題だと思われるのか。最近は俺なりに考えてるのに。

 

「や、だって……私が言うのもなんだけど最近のあんたの頭目への態度は……」

「なんだよ」

「……いえ、やめときましょう。で、なんだっけ? 神様?」

「ああ。俺達には僧侶とか神官が足りないって話があったろ。で、ぐるぐる考えてるうちにそもそも神様ってなんだっけってなったんだ」

「なったんだ……」

 

目の前の皿を空にした幼馴染がうーん、と腕組みをして考え込んだ。

最近のこいつはよく食べる。俺も村にいた頃の何倍も食うようになって最近背が伸び身体がガッシリしてきたのを感じている。

その俺に輪をかけて食っているのに、彼女は少しだけ背が伸びただけで、むしろほっそり、しなやかな体型だ。

取り込んだものをどれだけ消費してどれだけ練り込んでいるのか、考えるだに恐ろしい。

 

「私もあんたも単なる田舎もんだし、ピンとこないわねえ」

「だよなあ」

「これはもう、あんたの得意技の出番じゃないの。今日はまだ依頼とってないんでしょ?」

「おう」

「休みがてら、みんなに聞いてまわったら? それができるのが、あんたの良いところよ」

「ああ、良いきっかけだな。……お前は?」

「悪いけど、稽古があるの。付き合えないわ」

 

なみなみ注いだ牛乳をぐいと一息に飲み干して、彼女は立ち上がった。……恐ろしいことだ。

 

 

……………

 

 

 

「はあ? 神ぃ?」

 

我等が副頭目は、眼鏡の奥の眉をひそめて、こちらに訝しげな視線を向けた。

 

冒険者ギルドの受付カウンターに、借り物の制服を身に纏っている彼女は、胸元の雇われ名札が無ければ職員にしか見えない。馴染みすぎだろ。

 

「なに? なんか悪いモノでも拾い食いした?」

「してねえよ!? お前ら俺をなんだと思ってんだ!?」

「からかい甲斐のある……待った待った。悪かったから。答えるから。帰らないの。今お客さんいなくて暇なのよね」

 

クスクスと意地悪く笑って見せる彼女だが、俺が来るまで熱心にギルド備え付けのモンスターマニュアルを読み耽っていたのは知っている。

 

……思えばこいつも柔らかくなった。初対面の時のこいつは警戒心剥き出しの猫のようだった事を思い出せば、他種族が「只人は可能性の種族」なんて言っていたのにも頷ける。

 

「神様っていうのは、この四方世界、そして私達全ての命あるものの創造主のことね」

「創造主……」

「そう、それ以前に何処から来たのか、どのように生まれたのか、諸説はあれど私達には計り知れないことよ」

「……そんなスゴい奴ら……人達……方達が、力を貸してくれるのが奇跡ってわけか」

「そうね。そんな大いなる方々は、私達を愛して下さっているっていうのが定説よ」

「愛して?」

「実際に神の存在に触れる人の多くが、確かにそう感じる……らしいわ」

「……じゃあさ、その神様じゃあないのの神官はどうなんだろう」

 

副頭目は、その緑の眼をパチクリ瞬かせて、意外なことを聞いた、という顔をした。分かりやすい。

 

「と、いうと?」

「ほら、最近来た蜥蜴人さんは、われはおおいなるりゅうをほうずるーとか言ってたろ?」

「あ、あーそうね。そういう……うーん」

 

ほんの数日前、このギルドに上森人と鉱人と蜥蜴人の一党がやって来て、うちのギルドきっての変人冒険者と、ゴブリン退治に出かけて、オーガを打ち倒す大戦果をあげて帰ってきた。

……どういうことだよ。

 

「……ごめんなさい、正直なところ私も詳しくなくて……あら?」

「……ん?」

 

噂をすればなんとやら。

翠の鱗を生やした僧侶が扉を潜り抜け、のっそりと酒場の方へ足を向けるのが見えた。

 

「……行ってくるわ」

「行ってらっしゃい」

 

ひらひら手を振って、本を引っ張り出す副頭目に背を向けて、俺は酒場に小走りで向かったのだ。

 

 

 

……………

 

 

 

「ふむ、神とは、信仰とはなんぞや、とは」

 

目前の蜥蜴人はシュッと鋭く息を吐くと、瞳を閉じて黙って考え始めたようだ。

言ってはなんだが、奇妙な存在である。鋭い爪、硬い鱗、力在るその容貌を、彼等の伝統の品だという装束に包んで隠している。

 

ともすれば小鬼よりもよっぽど人間離れしている種族。しかし、一度その瞳と、牙のある口を開いたなら。

 

「それは、その道を歩む、その者次第でしかあり得ますまい」

 

そこには、深遠なる思慮と、理知が宿っていると悟らされるのだ。

 

「その者……次第?」

「左様に」

 

蜥蜴僧侶が、皿の上のチーズを手に取り、豪快にかぶり付く。無論、話を聞かせてもらおうというのだから、俺の奢りだ。

甘露……甘露……と眼を輝かせている様は、可愛らしく(それこそ奇妙なことだが)実に奢り甲斐のあるお方である。

 

「先ほど、剣士殿からあった通り、信仰による奇跡は何も創造の……人の神によるモノのみにあらず」

「大いなる竜……だっけ」

「然り……氷河の果てに滅びし我等が大いなる祖なり」

「ご先祖様ってことか……ご先祖が神様?」

「はてさて」

 

蜥蜴僧侶は奇妙な動作を織り混ぜながら、困ったように笑う。

 

「神、と称するは些か語弊が……拙僧等は信ずる竜をこそ辿り着くべき理想と掲げ其処を目指す事を道とする」

「神様が目標?」

 

ううむ、聞けば聞くほど……分かるような、分からないような。

 

そんな俺を見て、呵々と蜥蜴僧侶が笑った。

 

「重畳、重畳、そのようにして悩み考えることこそが信仰へと繋がることもあると聞き及びますぞ」

「……あなたもそうだった、とか?」

「いやいや、生まれた時より周囲も拙僧もそのようにあったもので、気付いたら当然のように……時に信仰とは生活、生き方に根づくもの。根のない拙僧らですらそうなれば、街を作る只人ともなると……さてな」

「なんです?」

「いや、思えば拙僧より適任がもうすぐ来るはず……確か、冒険者の同期とか」

 

蜥蜴僧侶が、まだここにいない誰かを思い返して、笑みを浮かべた。

 

ああ、そういえば、彼女が黒曜に昇級した最後の決め手は、オーガの討伐だったとも聞いたな。

 

 

 

……………

 

 

 

夕刻過ぎ、彼女はギルドに現れた。

地母神の神官衣に身を包み、淡い灯りに照らされてその豊かな金髪を輝かせる……冒険者だ。

 

「地母神様、ですか?」

「うん」

「そうですね、優しい方、だと思います」

「お話とかできるの?」

 

俺の問いに、彼女は快く応じて。

 

「ふふ、よく聞かれますけど、できませんよ。すごく遠くて、高いところから……もしかしたら深いところから、たまに声が聞こえてきて、分かったような気がするだけです」

「声が……」

 

その青い瞳に、強い、清い信仰の光を宿して答えるのだ。

 

「神様とは、信仰とは、でしたね。……たまに聞かれます。なんで姿の見えない何かを信じられるのか、とか本当に神様がそんなに偉大なら、世に溢れる悲劇をそのままにしておくのはおかしい、とか」

「……」

「なぜ今の世がこのような理で、地母神様や神様達が遠くに在られるのか、私には分かりません。……この世界が、悲しいことで一杯なのも、そうなのでしょう……それでも、なぜ私が地母神様を信じるか、理由は……」

「……理由は?」

 

うん、と一つ頷いて、地母神の女神官は言った。

 

「聞き届けて下さるから、でしょうか」

「……うん?」

「私達神官が祈るとき、いつでも神様は応えてくれます。すごく遠くにいるのに。神様に比べてとても弱くて小さな私達全員に、頑張って祈る者に例外なく」

「……」

「そして、奇跡を通して感じるんです。地母神様はいつでも私達を見ておられる。深く愛して下さってる。……遠くても信じられるって」

「すげえな」

「はい! 地母神様は凄いんですよ! そんな地母神様がどうしてか出来ないことを代わりに成す。そのために私は冒険者になったんです!」

 

すげえってのは、君に言ったんだけどな。

全く、俺達の同期は凄い冒険者だ。これはうかうかしていられないぞ。

 

「あっ」

 

ぱっと、真剣に話していた彼女の顔が華やいだ。

薄汚れた皮鎧、中途半端な長さの剣。

見た目は物凄く弱そうな冒険者だ。

つい最近街に出てきた新人が、少ない資金で無闇に中古の装備を買い込んで、なにも考えず身に付けた、と言われたら信じてしまいそう。

 

「ゴブリンスレイヤーさん!」

「……帰っていたのか」

「はい! なんとか無事に終わりました!」

 

現在はオーガにやられた傷を癒すのも兼ねて休暇中だと副頭目が言っていた。……ギルド職員に、彼にお熱の女性がいて、犬も食わない話を聞かされると苦い顔をしていたっけ。

今夜ここに顔をだしたのは、情報収集かなにかか、人に会う予定か……詮索することでもないか。……そうだ。

 

「ゴブリンスレイヤーさん」

「なんだ」

「神様ってどう思います?」

「知らん」

 

ですよね。

 

 

 

……………

 

 

 

「なあ頭目」

「なんだ剣士」

「神様ってなんだ?」

「ああ? なんだよ宗教の勧誘かよ勘弁して下さいよ洗剤要りませんよ」

「は?」

 

夜半、なんだか寝付けずにいると頭目が帰ってきた。頭目はたまに個人的なツテとやらでよく分からない仕事をしにいく。

 

大抵は実入りが良いが、なんでか俺達には内容を言いたがらない。副頭目には話しているようで、彼女は不思議と納得しているようだった。

 

小腹が減ったという頭目に付き合って、さっと炙って塩をふった鳥を肴に、ここらの地ワインをやっている。

 

で、朝からずっと考えている神様について聞いてみたら、なにやら早口で捲し立てられた。……洗剤?

 

「あー、いや、悪い。神ってのは宗教における信仰の対象だろうよ」

「そういうんじゃなくて、頭目にとっての神だよ」

「……難しいことを聞きやがるねこの子は」

 

頭をボリボリ掻いて、鳥を口に放り込む頭目。難しいのか。

 

「神様ってのはその人にとって、心から信じられるもののことだよ。素直に凄いとか、怖いとか、どうにもならないとか……そういう」

「信じられる……」

「そうだな、俺にとっては、この世界そのものかな」

「世界? ……四方世界?」

「いいや、もっと大きく、神々とやらがいる領域や更に外まで引っくるめて……此処じゃない何処かも含めて」

 

頭目が、少し赤く染まった頬と潤んだ黒瞳で、すごく遠くを見るような顔をした。とてもとても、切なそうな顔だった。

 

「……頭目?」

「……いや、俺もお前もドラゴンも神様も……ゴブリンだってこの世界を構成する一つの要素にしか過ぎないってことさ。……でかいよな。たまに落ち込んだときにそういうこと考えると、悩んでることが小さく思えて楽になる。……だから、それが俺の祈りで、俺の神ってことで」

「さては適当だな頭目」

「そういう……民族性……酔ってるな俺。もう寝るわ。お前もほどほどで寝ろよ」

「おうよ」

 

神様ってなんだろう?

肉と酒の残りを胃袋にしまいながら、また考える。

 

信仰とは、憧れ、尊敬、心から信じられること?

 

「じゃあ、俺にとっての神は頭目かもな」

 

疲れと合わさって、スゴく酩酊している頭で笑う。

 

テーブルに肘をついて、手を組んでみる。祈りのつもり。

 

祈るとしたら勝利だろう。

敵に、誰かに、自分自身に、負けず挫けず挑んで、最後には打ち勝つ力。

 

真っ白になった意識が落ちていく中で、遠くて高くて、もしかしたら深いところから、少女の心底愉快そうな声が聞こえた。

 

……何て言ってるかは分からなかった。

 

 

 

……………

 

 

 

「……ううぅ」

 

あー、二日酔いっであったま、いっでー……。

昨日は裏通りの元締めからのリクエストで薬屋のお手伝いをしていた。

 

媚薬、精力剤、避妊薬、そういった特殊な薬を専門家の元で実地で学べる割の良いお仕事だった。

 

けんども昼のうちに娼婦のお姉様方に見つかってしまったが運の尽き。

散々に酒を飲まされておもちゃにされるわ、でれでれしてる薬師のジジイに余興を強要されるわで、もう無茶苦茶だよ。

俺の修めている技術は意外と大道芸に通ずると分かったのが収穫か。今後は街の広場辺りでお捻りを狙うのもいいな。

 

リビングに行くと剣士がいた。

そういや昨日はこいつと飲んだんだったか。

帰った時点で相当に酔っていたらしくよく思い出せん。

 

「頭目」

「なんだよ……あーあ散らかしっぱなしで寝たか。武術家に怒られるな……」

「頭目、どうしよう」

「なんだよ深刻な顔して」

「……戦勝神よ……」

 

剣士が手を組んで祈ると、なにやら燐光が生まれて、すぐまた消えた。……マジか。

 

「……おめでとう?」

「おめでたくない……あんな……あんなんで……」

 

頭を抱える剣士。……こっちも二日酔い辛いんだが。

 

ああ、神が本当にいるんなら今すぐ現れて二日酔いを治したもう。




ゴブリンスレイヤーは神には祈らない。(確信)

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