ゴブリンスレイヤー~もしも女神官より先に転生オリ主が入ったら~   作:ちっく・たっく

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転生者が好き勝手にやったら因果がこう、いい感じに歪む。


いざ、水の街

 

 

辺境最強の冒険者、槍使いの男は苛立たしげに髪を掻きむしる。

 

「……だー、くそっ」

「もう、仕方、ない、でしょ……」

「そうだけどよ……くそったれゴブリンスレイヤーの野郎、間のわりぃ」

 

指名依頼の重複、名の売れた冒険者には稀に良くあることだ。

自分の人気ぶりが誇らしいと同時に、人情に厚いこの男にとっては歯痒い事だ。……しかし、選ばなければならない。

 

一つは、都からの依頼。

槍使いと魔女の二人を贔屓にしてくれている貴族にして聖職者の男。……といえば聞こえはいいがとんだ生臭で、会う度に貴重な香辛料をふんだんに使った激辛料理を底意地悪く振る舞ってくる陰気な野郎。

依頼は魔神軍の残党の討伐への参加。……あちらの冒険者を差し置いての呼び出しなのだから余程の大捕物か、そもそも人が足りないか……。

 

もう一つは、腐れ縁からの依頼。

こちらも陰気……とは少し違うが、それを超えた前代未聞の偏屈ものだ。少なくともあいつ以上の変わり者を、槍使いは詩にだって聴いたことがない。なんせ、小鬼ばっかり休まず五年も狩り続けた男なのだ。

依頼内容は驚くなかれ、小麦の配達。……白磁等級にでもやらせとけと言いたくなるような内容だが、そもそも他人に頼るということを知らない小鬼殺しが名指しで依頼を寄越したのだ。黙って請け負って一両日中にでも届けてやりたい、が……。

 

「今回は、折り合いが、ね。……悪い……わよ」

「わーってるよ! 流石にお使いやってる場合じゃねえ」

 

噂の白金勇者様とやらが魔神を打ち倒したとはいうものの、世に悪と混沌の尽きることはなく、むしろ勢いを増すばかり。

 

仕方ねえ、受け付けさんに事情話して他に回して貰うか……。

 

愛しの彼女の元に向かうには珍しく、重い足取りで槍使いは一歩を踏み出す。

 

ふと見ると、ちょうど別の冒険者が依頼を受理するところらしい。……あれは確か異例の昇級を重ねる新進気鋭の一党か。

槍使い自身とは絡みがないが、それは世話を焼かせない彼等の如才の無さの証明であろう。やっかみ以外で悪い噂は聞かないし、実際善良な類いの冒険者だ。

 

「はい、承りました。水の街での護衛依頼……依頼主様からの指名、ですね」

「はい」

 

奇遇も奇遇、渡りに船とはこの事だろう。

 

しかしどうにも……神様の導きってやつを感じるぜ。

 

 

 

……………

 

 

 

カラコロ、カラコロ……ゴトン。馬車が進行を止め、揺れもまた止まる。

 

頭目が二袋の小麦袋に異状がないことをチラリと確認していると、聖戦士が声をかけてきた。

長距離移動も慣れたもので、揺れに堪えた様子もない。

 

「なあ頭目、本当に請けて良かったのか?」

 

小麦その事……ではなく、もう一個、本命の方だろう。

 

「くどいぞ」

「そうよ、相談して決めたことでしょう」

「……私もちょっと責任感じてたり」

 

頭目としては全く、まだ依頼主に会ってもいない段階で責任も何もないと思うのだが、聖戦士と武術家はちょっとシリアスな雰囲気だ。……さて。

 

話はちょっとゴタゴタしながらも滞りなく蛙肉を片付けた翌日に遡る。

 

まだまだ破落戸もどきと言える彼ら下級冒険者一党に、突然の名指し依頼が来たのだ。

正確には、聖戦士及び武術家への依頼である。

 

「あれだよ、この家を俺達に譲って……っていうのも変か。紹介してくれた商人の兄ちゃん」

 

訝しんでいた頭目と魔術師に、聖戦士は依頼書の内容を辿々しくも読み上げて見せた。曰く、

 

『水の街は最近、とみにキナ臭い』

『殺人、強盗、枚挙に暇がないほどで、沈静化の気配もない。しまいには小鬼が出たとの噂もある始末』

『ついては君達二人に自分と妻、特に娘の護衛を頼みたい。仲間が居るならば連れだって来て欲しい』

『期限は最大一ヶ月、ないし事態が沈静化したならば終了』

 

「……ねえ、あんた達、この街で別れてからその人達に手紙とか出した?」

「ん? いや? ……なあ?」

「ええ、私もこいつもまだ読み書き自信ないわよ。……手紙を書くなんて無理も無理」

 

そんな事を自信ありげに胸を張って言う武術家に、魔術師は頭痛と嫌な予感を同時に覚えた。

 

この手紙の主は、剣士だった彼が鋼鉄等級に昇級したことを知らないはずだ。

おそらく黒曜に到達したとも思っていないだろう。

 

しかし、それにしては、だ。

鋼鉄等級二人分に余るほどの金額、仲間がいると考えたにしても報酬が不自然に多いのではないだろうか。

比較的長期に及ぶ依頼で有るにしても、現在の商人宅に住み込んでの護衛依頼とあるから生活費は向こう持ちだ。

 

「……どうする? 頭目?」

「……行ってみなきゃ分からねえな」

 

じっと話を聞いて、何やら考えていた頭目に魔術師が声をかける。

色々金銭感覚が麻痺している聖戦士や武術家と違って、頭目は違和感を嗅ぎ取っているはず。

 

なんといっても、学院で数術を学んだ経験もある彼女を差し置いて一党の帳簿を管理しているのは彼なのだ。

 

頭目は目を開くと、怪物の待つ洞窟や、森や、砦に踏み込む際にそうするように、ニヤリ、と笑って言った。

 

「分からねえから請けようぜ。提示された冒険には喜んで飛び込んでこそ、冒険者だろ?」

「え、なにかある?」

「そりゃ、ヤバい匂いはぷんぷんするわね……」

 

剣呑な雰囲気を感じ取ってか、武術家が尋ねてきたので、鼻を摘まんでみせた。

 

「……兄ちゃん達一家、そんなにヤバいのに狙われてそうなのか?」

「もしくは、お前らがどうしてか狙われてそうだぞこれ」

「……へえ」

 

それならいいや、と言って。聖戦士も依頼を請ける覚悟を固めた。

どう受け取ったのか、間を置かずに武術家も快諾。

魔術師は全員を見渡してから、黙って頷いた。

 

それからは「いつも通り」だ。

準備、点検、出発。……馬車に乗り込んで、こうして水の街を目指してる。

 

どういう訳だか小麦袋も運ぶ事になったが、まあ否やはなかった。ゴブリンスレイヤーさんには借りも貸しも恩も有る。

予備も見込んで小麦の大袋二つを首を傾げながらも積み込んだ。雑用ならば手慣れたものだ。

 

「……ん?」

「どうかした?」

「いや、誰か……達が乗るっぽいな」

 

頭目が、外で話をしている馬車の主人の声を拾った。威勢のいい女性の声。隠すつもりもない堂々とした足音は……三人分か。

 

「頼もーう! 空いてるかい?」

「おい、大きい声を出すな。驚かせるだろう」

「……非合理的だと思う」

 

乗ってきたのは三人の冒険者らしい一党、全員女性だ。

 

快活な笑顔が眩しい、黄色のリボンの少女。

おそらくは頭目役であろう。

 

後ろで髪を括った女剣士。隙の無い佇まいだが、少女とのやりとりに愛嬌を感じる。

 

一歩引いた位置にいるのは何かの呪文使いだろう。猫耳のようなフードが印象的だ。

 

「どうぞどうぞ。狭くしてて心苦しいですが歓迎しますよ」

「あはは、敬語とかいいよ! 年も近い感じじゃん」

 

頭目斥候の営業スマイルに本物の笑顔で返し、黄色リボンの冒険者は馬車へと乗り込んだ。

 

「んじゃ、遠慮なく。……水の街?」

「うん!」

 

悪いヤツをやっつけに、ね!

 

自信に溢れたその表情に、こいつはもしかしたら大物になるかもしれない、と頭目は思った。

 

カラコロ、カラコロ、馬車はまた、進み始める。

 

 

 


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