2026年もよろしくお願いします。
※ハイキューマガジン2025のネタバレ含みます
シード校である稲荷崎は一試合だけを終え、借りた体育館で調整をしてから、その日は練習を終えた。
毎年全国大会に出場する強豪校故に、体育館やホテル、会場の行き来は非常にスムーズで、不慮の事態にも冷静に対応できた。コネもあるので体育館や練習場所の確保は十分で、動き足りないと不満を抱く選手もいない。
あとは明日の決勝トーナメント戦で全力を出すだけである。
「信ちゃん先輩、今ちょっといいですか……って、すみません。課題中でしたね」
「いや。ちょうど終わったところや。どうした?」
ホテルで貸し出された会議室にて、桃井に話しかけられた北は広げていたプリントを片付けた。
一つ空けたその隣には大耳もいて、桃井の来訪を微笑んで見守ってくれる。その手には新聞が握られており、二人並んだ姿につい「老夫婦みたいだな……」と桃井はちょっぴり思った。
「少し確認したいことがあって。コレなんですが」
「うん」
書類を片手に一言二言話をして用事を済ませると、礼を言った桃井はちらとテーブルに視線を落とした。
「大会中でも課題持ってきてたんですね」
「これでも受験生やし。大会中とか関係ないわ。毎日やることをここでもやるだけや」
「それにセンター試験まで数ヶ月しかないからなぁ。夏休みは追い込みかける時期。桃井も頑張るんやぞ」
「は、はい」
「そっちは順調に進んどるか? 課題」
「はい、と言えたらよかったんですが……IHに全力投球してて全然やってないです」
「正直やな。ま、一年生やしそんなに慌てるような時期でもないか」
大耳にゆっくり言われて「そうですよね」と呑気に笑う桃井だったが、ハッとした顔で北に向き直って弁明する。
「大会終わってから着手するので! 課題はちゃんと全部やりますから!」
「? 別に怒るつもりはないわ。お前はちゃんと終わらせるやろうし」
学年トップクラスの成績を出す桃井のことだ。提出物や課題はしっかりこなすだろう。その点には全く不安がない。なんとも優秀な後輩である。
「桃井はホンマに安心するわ。あの双子とは大違いやな」
「……何かやらかしたんですか?」
「去年赤点取りまくって、夏合宿が補習とかぶったことがあった」
「えっ、じゃあ去年はあの人たち来れなかったんです?」
「二日間な。三日目から合流したけど、先輩らカンカンやったわ」
「そうそう。夏休み終わってからも酷かったな。休み明けの初日、双子は部活に来んかった」
「どうして……って、もしかして課題をやっていなかったとか?」
「そう。課題せん、提出もせん、忘れましたの一点張り。先生たちが課題やるまで部活に行かせん! ってバリケード作ってた」
「ああ、あったなぁ。あんなん初めて見たわ。そしたらバレーで食ってくから勉強なんていらん! なんて侑は言いよって、先輩らが楽しそうに張り切ってたな」
「楽しそうに……?」
「熱血指導」
大耳が握り拳を作って、桃井の目を見て言った。ぞぞ、と彼女の背中が粟立つ。まあ全部双子の自業自得なので、可哀想にと思うだけで特に止める理由はない。
むしろ大事な合宿に遅れて参加するなんて前代未聞……と眉根を寄せるのだった。
「その甲斐あって、今年は何とか赤点回避して合宿初日から参加してたな」
「課題の方はどうやろ。後で聞いとくか。もしやってなかったら強制的にさせる」
北の目を見て嘘をつける人間はいない。双子は震え上がって白状するだろう。
しかし強制的とは。勉強に苦手意識を持つ双子に無理やりさせるなんて、監禁とかバレーを取り上げるとか、そのレベルじゃないと難しい気がする。
桃井がその疑問をぶつければ、北はふむと考える間を置いて。
「俺ん家に呼ぶ」
そう宣言したのである。
大耳は「うわ……」と冷静になって引いた。双子は泣き叫んで拒否するだろうが、この男がやると言ったらやるので、多分免れないだろう。
だが大耳とて去年の二の舞はご免だ。双子には心底反省してもらって、来年の予防をしなければならない。問題児を受け持った先輩の責任だと考えている。
自分たちが卒業した後、双子の手綱を握るのは間違いなく桃井なので、この子のためにも……と見れば、何故か彼女はソワッとしていた。
「あ、あの、それって侑先輩と治先輩だけですか?」
「いや、他の奴も呼ぶ。脱出防止に」
「双子は信介の家でヘタなことせんやろうけどな。俺らも行くわ」
「ついでに課題の進みが遅い奴も呼ぶ」
「銀とかな。去年徹夜明けで登校しとったからな」
「課題の進捗が滞ってない人は呼びませんか?」
「呼……ばん」
「まあ、課題を順調にこなす奴はわざわざ来る必要ないからな」
「そうですか……」
一通り確認すると、何故か桃井が落胆したように肩を落とす。北と大耳が「?」という顔で見合わせるが、大耳が先に察したので、北の背中をポンと叩いた。
あ、とワンテンポ遅れて北が口を開く。
「桃井も来たかったら来るとええ。ばあちゃんも喜ぶわ」
「! はい! お土産持っていきますね」
やった! と目を輝かせてウキウキ答えられて、上級生二人はホッコリした。
しかし大耳は、北が平素の態度を貫くので流石やなと内心頷いていた。
かわいい紅一点が自分の家に来ることが確定したのに、北は微塵も揺らがなかった。普通の男子高校生ならソワソワしたり目を泳がせたりして喜びを噛み締める場面だろうに。
まあ信介やしな、と自分を納得させる大耳は、まさか桃井が北の家を訪問済みとは知らない。おばあちゃんとの対面を済ませているどころか、食事も風呂も睡眠も経験しているなんてわかるわけがなかった。
と、そこへ。
「アイス食べるー?」
「おー、お疲れ」
棒アイスを持った赤木と尾白がやってきた。お風呂上がりのラフな姿である。
あっちで配ってる、と廊下の方を指差したが、室内の三人は遠慮した。
「そういや二人のインタビュー流れとった」
「ああ、今朝の」
今朝の二人のインタビューというのは、北と桃井が受けた取材である。例年の如く稲荷崎は強豪密着取材中で、そのやりとりがテレビ報道されたのだ。
「桃井の仕掛けが作動するかどうか……本当に梟谷の連中はインタビュー見るんか?」
「見ますよ。木兎さんなら確実に。ターゲットの赤葦さんも一緒に見るでしょうから、目的は既に達成してます。試合はもう始まっていますからね」
桃井は自信や確信を通り越して確定事項を告げる声色だった。桃井が言うならそうなんだろう、と赤木も頷く。
今朝のインタビュー時点で、桃井は梟谷への罠を仕掛けた。種を蒔いたのでそれが芽吹く明日を待っている。
明日の決勝トーナメント戦の対戦相手は梟谷だった。
尾白と同じ全国五本指の大エース、木兎光太郎を擁する強豪校である。
「木兎……」
最後の一口をシャリシャリ食べて、尾白が低く言う。
周りは五本指対決と囃し立てるだろうが、彼が目指すのは最強の称号である。
明日はその初戦だ。絶対に勝つ。そう意気込んでいる。
「桃井は木兎と面識があるんやっけ」
「はい。何度か。木兎さんは進路相談に乗ってくれたんです」
「……アイツそういうの向かんと思うけど」
「と思うでしょう? でも、あの人のシンプルな考えは私にないものでしたから。稲荷崎を選んだきっかけをくれたんです。だから、とびきりのお礼をしたい」
GW合宿で白鳥沢と練習試合をすることを知った時も、桃井は「お礼しなくちゃ」と言っていた。
それはつまり、普段以上に気合を入れて情報収集・分析をして、死力を尽くして戦うということである。
桃井の意気込みも十分だ。こんなに心強いことはない。
『では初戦を終えた主将の北信介くんにお話を聞いてみましょう。稲荷崎は優勝候補筆頭ですよね。チーム目標や意気込みはどうですか?』
『はい。僕たちは優勝を目標に、日々練習を重ねてきました。また日頃からたくさんの応援を頂いております。期待してくださる皆様に恩返しができるよう、IH優勝という結果で応えたいです』
テレビ画面の向こうで狐の目が光っている。
『マネージャーの桃井さつきさんは、越境入学ですよね? 試合中、タイムアウトでは選手たちに声掛けをする場面がよく見られました。どんな言葉をかけているんですか?』
『戦術や相手チームの分析です』
『……応援や鼓舞ではなく?』
『もちろんそういう言葉をかけることもありますが、今日の試合は順調でしたし、その場面はなかったですね』
「あれ〜? さっちんだ」
「雪っぺー」
梟谷が宿泊するホテルにて、大きなテレビに映っている従姉妹に気づき白福雪絵が言った。
白福の声に、ソファに座っていた木兎が顔を上げる。隣にいる赤葦も小さく頭を下げた。
『最後に明日への意気込みを一言、お願いします』
『明日はとても面白い試合が見られますよ。秘策を用意していますので』
「秘策?」
「……秘策か」
そこで稲荷崎へのインタビューは終了する。狢坂の番になり、桐生のスパイクシーンが映し出された。
赤葦は桃井の返答が妙に引っ掛かり、顎を撫でて違和感について考えた。
なんというか、最後の一言は今までテレビや雑誌に出てきた"桃井さつき"像とズレる気がした。彼女は模範解答チックなことをよく言う。今のはそれと違うような……。
秘策? 秘策って何だ。ウチとの試合に向けて仕込んだということか? 桃井さつきがわざわざ言うということは、それだけ自信があるのだろう。
梟谷を打ち破る、彼女の秘策とは。
赤葦は"秘策を認識"し、警戒心が強まっていく。この時点で桃井の仕込みは完了しており、まんまと罠にかかっていることに彼は気づかなかった。
「木兎さん、今の秘策って……」
「サツキの必殺技!? すっげー楽しみ!!」
「まあ、秘策も必殺技も似たようなものですけど」
本日流れたニュースに木兎は後ろ姿しか映っていなかったが、桃井のコメントのおかげで木兎のテンションは下がっていない。むしろ何が待っているんだ!? と昂るばかりである。
木兎は桃井の能力について、正確なところは知らなかった。情報分析に長けていて予測能力に優れているのは有名だ。そしてハジメとトールの後輩で、ウシワカが気をつけろと言っていたのは覚えている。
一度対戦経験があるから苦しい試合になるのはわかっているが、感覚派の木兎にとって、桃井の脅威をデータ的に把握するのは難しかった。
ただ野性的なカンで只者ではないと感じ取っている。
「木兎たちさぁ、さっちんと去年話してたんなら梟谷に誘導してよー。さっちんと一緒だったらもっと楽しかったのに」
「白福さんは彼女と従姉妹なんですよね」
「俺結構誘ったんだけどなー。じゃあ雪っぺが誘えばよかったんじゃん!」
「私が聞いたときにはもう稲荷崎に決めてたの!」
「俺のアドバイスのおかげでな!」
「それで自分たちが追い詰められてちゃ世話ないですよ……」
木兎はウキウキしているが、不安を感じる赤葦と白福は顔を見合わせている。
ただでさえ稲荷崎は強敵なのに、優秀なブレインが登場するなんて。桃井と同じタイプの孤爪に振り回された経験のある梟谷にとって、その厄介さは想像しやすかった。
しかも秘策を用意していると言うし。
「んがあああッ! 俺も必殺技欲しー!!」
「木兎さんもあるじゃないですか、超インナークロスが」
「新技が欲しいの! 烏野のリベロもやってたじゃん、ロー……ロー……なんだっけ?」
「ローリングサンダー?」
「そうそれ! ああいう派手なヤツがいい!」
「あー……」
木兎は完全にその気になってしまって、西谷のローリングサンダーのような必殺技を編み出すことに躍起になっている。
これはどうやって落ち着かせようか……と赤葦は0.5秒の間に思案した。
A.一緒に新技を考える。時間もないし厳しい。
B.既にあるものを必殺技と認識させる。クロスがダメだったので難しい。
C.必殺技なんていらないと思わせる。ここまで欲していると説得するのは容易ではない。
さあどうしようか、と試合中のようにシミュレーションした。
……が、赤葦が口を開くより早く。
「ホッ」
「っ、」
「!?」
木兎がその場でバク宙の練習をし始めた。思いつきで、勢いよく床を蹴ってくるっと回ろうとしたのである。
木兎の身体能力は折り紙つきだ。しかしバク宙は素人がいきなりやろうとしてできるものではない。案の定失敗し、木兎は頭から落下した。ガツン! と大きな音を響かせて木兎は頭を抱えうずくまる。
「いったああぁぁぁ!!」
「大丈夫ですか木兎さん!?」
「監督! 誰か監督呼んできてっ」
「バカッ、木兎バッ、バカ!!」
全員騒然となった。監督を呼び、医者を呼び、大丈夫だという木兎の声を遮って検査をした。
結局怪我は無かったが、大事な試合前になんてことを! と木兎は色んな大人たちからお叱りを受ける。
反省した木兎も髪をしんなりさせて「スミマセン……」と頭を下げた。顔をシワクチャさせて、大事になってしまった……と背中を丸めている。
そんな彼に優しくする人間はいない。チームメイトは集まって木兎を叱った。
「お前これで怪我したらどうするつもりだったんだよ!?」
「頭なんて後遺症とか怖いから! 一番怖いから!!」
「明日の試合、少しでも調子が変だったら下げるからね」
それだけ木兎のことが心配だったのだ。木兎に出血はなかったし立ち振る舞いや受け答えもきちんとしていたが、検査が終わるまで不安は拭えない。
そして検査では大丈夫だったと言われても、木兎が倒れた現場を見ている彼らは、怖くて仕方がなかった。
「すみません、自分がちゃんと止めていれば……」
「私もその場にいたのに何もできなかった。ごめん」
「二人が責任感じることじゃねーよ。木兎が馬鹿やったのが悪い。全部あいつが悪い」
「おい木兎! 赤葦と白福に言うことあるだろ!」
「二人ともゴメンナサイ」
木兎に本当に申し訳なさそうに謝られて、赤葦は「もう危険な真似はしないでください」と釘を刺した。
そして少しだけ思考が乱れる。
桃井の秘策とはコレか? とちょっぴり思ったのだ。桃井なら梟谷学園グループの合宿に烏野が参戦したのを知っているはず。烏野に西谷がいて、彼の必殺技のことも認知しているだろう。木兎が見れば憧れるというのも、また。
だから秘策なんて言い方をして、木兎の「必殺技に憧れる少年心」を刺激したのか? と考えた。
それで木兎が無茶をやるのを予測して……なんて。
もし桃井がここにいれば「違う違う!」と必死に手を振るだろう。
「まさかね」
流石に思考が飛んだ、と赤葦は今の考えを否定した。
いくら桃井といえども怪我に繋がる作戦なんて立てないはずだ。赤葦が桃井と話をしたのは去年の進路相談をしたあの時だけだが、そんな邪な人間ではないとわかっている。
妄想の中で、桃井が「誤解されなくてよかった」と安堵していた。
「それに桃井さんが稲荷崎を選んだのは、きっと……」
去年、桃井に梟谷への進学理由を聞かれた時、赤葦は最初誤魔化した。深い理由はない。彼女の情報収集癖を何となく警戒しただけだ。
それなのに短時間やりとりをしただけで、赤葦が木兎にスター性を見出したことを桃井は見抜いた。ほとんど勘で、正解を導き出したのだ。
その嗅覚の鋭さは木兎を彷彿とさせる。
だから赤葦は桃井にかなり注意していた。そんな彼女が何故稲荷崎に進学したのか、赤葦なりの推理があった。
『水ありがとうございました! あの……赤葦サン、ですよね。俺、烏野一年の影山です』
『どういたしまして。肉は逃げないからゆっくり食べて』
IH前の合宿終わり、BBQ中に肉をかき込んで喉を詰まらせた影山に、赤葦は水を差し出した。おかげで命拾いした影山が礼を言い、名乗る。
それまで赤葦にとって影山とは、打点で止める神業トスを放つ天才セッターという印象だった。自分にはない技術を持つセッター。第三体育館で共に練習した日向の相棒。
外的な情報ばかり耳に入っていて、パーソナルな部分はほとんど知らなかった。その時までは。
『さつき、アッ桃井! 桃井に、話は聞いてて。赤葦さんと去年東京で会ったって』
『桃井さん? ……ああ、そんなこともあったね。どうして影山が知ってるの?』
『俺とアイツは同じ中学なんです。北川第一出身で』
『そうだったんだ。……』
『それで! 練習方法とか色々聞きたいことがあって!』
『いいよ。あっちで話そうか』
『! あざます!』
孤爪と違って赤葦が協力的なので、影山は目を輝かせて質問攻めをする。
あれだけの技術を持ち合わせていながら、影山は貪欲だった。凡人の、自分のなんてことないトレーニングにものすごい関心を持って、目をキラキラさせて学んでいる。
そういう部分は木兎とも重なった。あの人もリバウンドを、下っ端1年のただのミスプレーを、拾い上げて自分のものにしていったと思い返す。
天才ってみんなこうなのかな、と影山の質問に一つ一つ丁寧に答えながら、赤葦は静かに考えた。
『……、』
影山と桃井が同じ中学出身であることが無性に気になり、去年の桃井とのやりとりを必死に思い出す。
彼女は進路に悩んでいて、自分も相談に乗った。あれこれ話をして、最後は木兎の言葉に吹っ切れた顔をしていたように思う。
あの時は確か、誤魔化した進学理由を言い当てられて、どうしてわかったのか理由を聞いて……。
『木兎さんへの態度に共感する部分が見えたんです』
『うん』
『はい』
『……それだけ?』
『ええ、まあ。勘です。この人のために全力を尽くしたいと思ってるんじゃないかなって』
誰かに全力で尽くすことへ、桃井は共感した。
赤葦が木兎に尽くすように、桃井も誰かに尽くしているのだろうか。
北川第一の誰かに。それって目の前のこの男のことなんじゃないかと、赤葦は辿り着いた。
彼女のチームには、影山の他にも天才的な選手がいたかもしれないが……あんな天才がチームに二人もいてたまるか、とも思った。
だから仮に桃井が影山に尽くしていたとしたら。どうして桃井は烏野ではなく、稲荷崎に進学したのか疑問に思う。
『本当は高校で何やりたいの?』
『私は……飛雄ちゃんの可能性の果てを見たい』
『じゃあそれをやろう!!!』
木兎の質問に桃井はそう答えた。"トビオちゃん"の可能性の果てを見る為、桃井は稲荷崎を選んだ? いや待て、飛雄ちゃんって誰だ。稲荷崎の誰かか? ……違う。
『影山。下の名前は?』
『? 飛雄です。影山飛雄』
『………』
ビンゴだ。桃井が尽くし、可能性の果てを見たいと願う相手は影山だった。
天才セッターと天才アナリスト。とんでもない組み合わせが宮城にいたのか、と今更思う。当時の宮城チームは北川第一が嫌だったろうな、とも。
でも桃井が稲荷崎を選んだ理由がわからない。
稲荷崎なんて縁もゆかりもないだろうに。
『いや、そうか……』
稲荷崎には宮侑がいる。
高校No. 1セッターに最も近い男が。
木兎と同じく全国五本指エースと名高い尾白もいるが、影山と同じポジションであるあの男が鍵だろう。
だけど桃井がまっすぐに侑を選んだわけではないと理解した。
ここは赤葦が桃井と似た性質をしていたのが大きい。木兎に尽くすように、影山に尽くす。尽くす方法が違うだけで、桃井の気持ちが誰に向いているか、赤葦にはよくわかった。
まさか侑を影山の供物として捧げようとしているとは思わなかったが、彼はとても少ない材料でそこまで肉薄したのだった。
『……? 赤葦さん?』
『影山は、桃井さんが稲荷崎に進学した理由を知ってる?』
これを聞いたのはちょっとした好奇心だ。尽くされる側の人間は、尽くす人間の動力源をどう認識しているのか、気になった。
木兎は多分、赤葦がどうしてここまで尽くしてくれるかを深く考えていない。考える理由がないというか、赤葦もわざわざ本人に言おうとも思わない。あの人の全力は見ていて気持ちがいいから、自分はその道を作るだけなのだ。
その質問を受けて、影山は食べていた肉をきっちり飲み込んでから、無防備な声で言う。
『さつきが強くなって、俺の隣に立つため』
「あれは周りには傲慢ともとれるな……全く妬けるよ」
「焼く!? ご、ごめんなさい赤葦」
「いえ。木兎さんに言ってないです」
影山も桃井もお互いのことだけを見ている。いつか来る未来で互いの隣にいることを、当たり前のように信じている。
外野の存在など認識もしていないだろう二人の関係は、傲慢にも思えた。
鍵になっている侑はこのことを知っているのだろうか? わざわざ教える義理も理由もないが……と赤葦は視線を落とす。
影山飛雄と宮侑。
東西の天才セッター。
もし自分が彼らのような天才であれば、桃井は梟谷を選んだだろうか。
「俺は彼らのようにはなれない」
思い出されるのは、影山の神業トスによる変人コンビの速攻。対策のために繰り返し見た、侑の神がかり的セットアップ。
ああいうのには目を奪われる。ああやれたらと思わずにはいられない。
しかし赤葦にあんなことはできない。技術も身体能力も足りない。
自分ができることをやるだけだった。
ということで原作にあった大耳さんの「木兎の弱小版に過ぎん」をやります
赤葦察し良すぎて推理ものだと即消えるレベルですね
アニメと劇場版の情報出ましたね!2027年が楽しみです!