You are MY HERO !   作:葦束良日

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書いていたら長くなってしまった……。
でも途中で切りたくはなかった……。
結果、読みにくいことになっていたらごめんなさい。
短く話をまとめる才能が欲しい。


体育祭、騎馬戦の話

 

 

 

「気藤くん、一位おめでとう! ってか出久ちゃん、あれ何!? めっちゃビックリしたんやけど!」

 

 第一種目、障害物競走。

 先にゴールした練悟と出久が話していると、スタジアムに戻ってきた麗日が息を乱したまま、気になって仕方がないといった様子で二人の所にやってきた。

 とりあえず深呼吸しな、と二人で勧め、すーはーと深呼吸をしたところで改めて話し出す。

 

「ありがとな、麗日」

「麗日さん! あれは特訓の成果というか、ようやく個性の使い方をわかってきたっていうか……」

「トックンのセイカ! いいねー、なんかすごく頑張ったって感じがするやん! 出久ちゃん凄い!」

「いや、そんな……」

 

 正面からまっすぐ褒めてくる麗日に、出久はとてもわかりやすく照れていた。

 両親と練悟ぐらいしか身近に褒めてくれる相手がいなかった出久は、基本的に他人から褒められるということ自体に慣れていないのである。

 

「緑谷君、気藤君!」

「飯田くん! お疲れ様!」

「よ、お疲れ」

 

 続いてやってきたのは飯田だった。

 声に応えて二人が手を振ると、飯田も表情を緩めて片手を上げた。

 

「二人こそ、お疲れ様だ。一位、二位、おめでとう! しかし、気藤君……まさか空を飛ぶとは、驚いたよ。僕は、俺は、この個性で、後れを取った……! まだまだだ……!」

 

 ぐぐ、と拳を握りこむ飯田は本当に悔しそうだった。そして少しショックも受けていた。

 飯田の個性は「エンジン」。ふくらはぎから突き出すマフラーが示すように、速く走ることに特化した個性だ。

 それだけに、この競争というジャンルで一位になれなかったことには、思う所があるのだろう。

 

「飯田。そりゃ、この競技は走る奴を妨害するのがメインだから仕方ないだろ。俺はたまたま個性が噛み合っただけだよ」

「ありがとう。しかし、君の個性は「気」の操作だろう? どうしたらそれで空を……?」

「そりゃあ気だからな。飛べるさ」

「なるほど、そうか。……うん? いや、どういうことだ!?」

「気にしないほうがいいよ、飯田くん。わたしもよくわかんなかったから……」

 

 困惑する飯田の背を軽くぽんと叩いて、出久がアドバイスをする。

 出久も疑問に思って二週間の間に聞いたのだが、練悟は心底不思議そうに「なんで飛べないと思うのか」と首を傾げるばかり。

 なので、この件についてはもう「そういうもの」だと受け入れて、細々とした理屈については突っ込まないことにしたのである。諦めたとも言う。

 

 と、不意にピシャンと鋭い音が朝礼台のほうで鳴る。

 ミッドナイトが皆の注目を集めるべく鞭を振るったのだ。

 その狙い通りに全員の視線が自分に向いたことを確認して、ミッドナイトは一つ頷いた。

 

「さーて、ようやく終了ね! 順位はモニターに表示されているわ! まずはそちらを確認なさい!」

 

 勢いよく鞭で示したのは、空中に投映されたディスプレイ。

 そこには障害物競走を勝ち抜いた生徒たちの名前が順位に従って映し出されていた。

 

「予選通過は上位42名! 残念ながら通過できなかった子も、あとでまだ見せ場は残っているわよ! ――そして、いよいよ第二種目! ここからはついに本選! 注目度はグッと上がるわ! 気張りなさい!」

 

 そうこの場にいる全員に発奮を促した後、「さぁ、続いて第二種目!」と言いつつ、ディスプレイに目を集める。

 ドラムロールの音がしばらく続き、そしてそれが止まった時、表示されたのは――。

 

「次の競技はこれよ! 『騎馬戦』!!」

 

 

 ――騎馬戦。

 

 それは、騎手を乗せる騎馬を複数人で作り、その騎馬の上に乗る騎手一名がハチマキを巻き、そのハチマキを取られればその騎馬の負けとなる、という合戦を見立てた競技である。

 基本的な騎馬戦のルールは上述した通りだが、ここは雄英高校。そのルールはやはり通常のものとは大きく異なる。

 参加者が二人から四人でチームを組み、騎馬を作るところは同じ。ハチマキを巻くことも然りだ。

 しかし、違うのは此処から。

 騎馬を組む生徒それぞれに、予選での順位に応じたポイントが振り当てられ、騎手が持つハチマキには騎馬を作るメンバー全員の合計ポイントが設定される。

 そのハチマキ――ポイントを奪い合い、多くのポイントを獲得したチーム上位四組が最終種目に進む、という形式だ。

 そしてもちろん雄英体育祭であるからには、当然のように個性の使用は自由。ただし悪質な崩し目的での攻撃はNG。

 また、ポイントを失っても競技時間となる十五分以内であれば失格とはならず、0ポイントから挽回することは不可能ではない。つまり、最後の一秒まで上位の者も下位の者も油断することが出来ないということである。

 

 まさに雄英。生徒へ与える受難に関しては妥協をしない高校である。

 そして、更に言えば雄英の校訓は“Plus Ultra”である。

 当然、上位の者には上位に相応しい受難が与えられる。

 

「振り当てられるポイントは、順位が下の者から順に5ずつ! 42位が5P、41位が10P……順に上がっていくけれど、1位は別よ! 1位、気藤くんに振り当てられるPは――1000万!」

 

 全員の視線が一斉に練悟のほうを向く。

 練悟はその視線を全身で受け止めつつ、不敵に笑った。

 ちょっと腰が引けていたのは、幼馴染にしかバレていなかった。突然大人数にガン見されるって怖いよね。

 

「上位の奴ほど狙われる、下克上サバイバル! “Plus Ultra”よ――全力で乗り越えていきなさい!」

 

 そう締めくくったミッドナイトの言葉に、全員の顔つきが変わる。

 

「それじゃ、これより十五分! チーム決めの交渉タイムスタートよ!」

 

 そしていやに短い交渉時間を告げて、ひとまずはチーム決めという名の第二種目の前哨戦が始まったのであった。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、俺はミッドナイト先生に聞きたいことがあるから」

 

 チーム決めの時間が始まった途端。

 練悟はそう言って出久らに背を向けた。

 

「え? 気藤くん出久ちゃんと組まんの?」

「ん。俺はそれもいいと思うけど、ミッドナイト先生の所に行っている間、待っているつもりはないだろ? イズ」

「うん。ミッドナイト先生の所に行くってことは、本気でやるってことなんでしょ? なら、わたしはレンくんとは組まない。わたしが欲しいのは、おんぶに抱っこの勝利じゃないから」

 

 強い眼差しでそう言い切った出久に、練悟は愉快気に笑った。

 

「お前ならそう言うと思ったよ。麗日、そういうわけだ。じゃあな、三人とも。勝負の場で会おうぜ」

 

 練悟はそうしてミッドナイトの元へと歩いていった。

 それを見送ったあとで、今度は飯田が出久と麗日に向き直る。

 

「俺も、他の誰かと組むことにするよ」

「え!? 飯田くんも!?」

 

 麗日が目を剥いて驚く。

 練悟に続き、飯田。仲が良い二人が立て続けにこの輪から抜けていったからだった。

 

「ああ。君らは俺にとって素晴らしい友人だ。しかし、友人だからこそ負けたままでいたくはない」

「出久ちゃんはともかく、私なんてそんな……」

「いいや」

 

 飯田は自分を卑下する麗日に首を振った。

 

「麗日君。君には戦闘訓練の時、最後にしてやられた。そしてUSJの時、君の助けがなければ、俺はきっと自分の役目を完遂出来なかっただろう。そう自分を貶めるものじゃない。そして気藤君の実力は、確実に俺より上。緑谷君には……入試の時から負け続きだ」

「飯田くん……」

「だからこそ、ついていくばかりでは未熟者のままだ。俺は、挑戦したいんだ。――緑谷君、君をライバルとして見ているのは、轟君や爆豪君たちだけじゃないぞ」

 

 最後に真っ直ぐ出久を見て挑戦状を叩きつけた飯田は、背を向けて去っていった。

 それを見送る二人は複雑なお思いを抱きつつも、何も声をかけることはなかった。それは飯田の決意を踏みにじることになると思ったからだ。

 

「……みんな、本気なんやね」

「……うん。でも、それはわたしたちも一緒だよ麗日さん」

 

 そして、出久は麗日に手を差し出した。

 

「改めて、なんだけど。わたしと組んでくれないかな、麗日さん」

「出久ちゃん。うん、喜んで! 私、頑張るからね!」

 

 ありがとう、と笑みを交わし合ってから、二人は表情を引き締めた。

 

「麗日さん。レンくんがミッドナイト先生の所に行ったってことは、1000万をとるのはだいぶ厳しいことになる。でもわたしは、挑戦することを諦めたくはない」

「え? 出久ちゃん、気藤くんが何を聞きに行ったか分かるの?」

「うん、まぁ。レンくんが出来ることを知っていて、騎馬戦って聞いたら真っ先に思いついたからね」

 

 出久は苦笑を浮かべた。何故なら、練悟が考えているだろう方法をとれば、実質1000万ポイントは狙えないポイントになるのだ。

 しかし、それなら仕方ないと言い訳をするのは嫌だった。

 

「だから、その対策をチームに組み込みたいんだ。だから急いで誘いに行こう。きっと大人気だろうし」

「え、誰なん?」

 

 出久に手を引かれるまま麗日も走り、二人は残りのメンバー集めに向かっていった。

 そんな中、無事ミッドナイトに確認をとって許可をもらった練悟もメンバー集めに精を出していた。

 今のところ決まったのは二人。そして今は、最後の一人を探しているところだった。

 

「常闇」

「気藤か。俺に声をかけてきたという事は……」

「そう。俺の騎馬になってくれないか?」

「わざわざ俺を見出したのだ。何か考えがあるんだろう。返事はそれを聴いてからでも構わないか?」

「ああ、もちろん」

 

 常闇が考えているのは、果たして俺と組んで勝ち残れるか、ということだろう。たとえ障害物競走での一位と組んだとて、次に進めなければ意味はない。

 ゆえに、どんな戦術をとるのかを知りたいという要求は尤もだ。もし断られた場合、常闇に作戦が漏洩してしまうことになるが、問題はない。

 何故なら練悟の策は、ごく限られた手段でしか対策が取れないからだ。

 

「……合理的、かつ効率的だが……。気藤、えげつない手を選択したな」

「けど、これが一番勝ち上がるために有効なのはわかるだろ?」

「ああ。そして俺の役割は、事前に万全を期すため。そして万が一のためか」

「そういうことだ。それで、どうだ?」

 

 練悟が再び問うと、常闇はにやりと笑った。

 

「いいだろう。俺の命運、お前に託そう、気藤」

「ありがとう、常闇」

 

 練悟は常闇の回答に嬉しそうに手を差し出す。

 それを常闇も握り返し、こうして騎馬の二人目が決まった。

 

「ところで、気藤」

「なんだ、常闇」

「気になっていたんだが……」

「ああ」

「後ろでずっと機械をいじりつつ、ついてきている女子がもう一人か?」

「……うん、そう」

 

 常闇の視線の先にいるのは、頭にゴーグルをつけ、様々なサポートアイテムを身に纏った少女。

 サポート科の発目明である。

 

 彼女は練悟がミッドナイトのところから戻ってきて、すぐに声をかけてきた。

 曰く、「一位の人、あなたの立場を利用させてください!」と。

 そこから怒涛のセールストークが始まったのだが、要約すれば「一位の人と行動すれば自分の作ったアイテムが目立つ。目立てば企業の目に留まる。なので組みましょう!」ということだった。清々しいまでに自分本位である。

 一応、彼女にも自分の策を説明し、サポートアイテムが不要であること。そして恐らくアイテムを目立たせる機会はないことを伝えた。

 それでも彼女が練悟と騎馬を組むことになったのは、策を聞いた発目が、練悟と組めば決勝にはほぼ確実に出られると思ったこと。練悟の取る手段が目立つものであり、それより目立たない他の組と組んで、しかも最終種目に残らないかもしれないよりは、確実に最終種目で残ってそこで目立つほうがいいと判断したこと、の二点からだった。

 そして、練悟自身には特に興味もなく、そのうえ騎馬戦でアイテムも目立たないと割り切った彼女は、次に向けたアイテムの調整を始めたのである。

 もしかしたら必要になるかもしれないですし、だから調整していますね! とは言われたが、そうなるとは彼女もあまり思っていないのだろう。

 ひたすら自身のアイテムをこねくり回しているその姿は、とても楽しそうだった。

 

「……変わった奴だな」

「俺もそう思う」

 

 A組も比較的クセが強い人間が集まっているとは思うが、発目はそれ以上だった。

 今も楽しそうにアイテムをいじっている発目に、二人は小さく溜息をこぼした。

 

「まぁ、そう言うなって! サポートアイテムがあれば、いざという時に俺らには出来ない対処ができるかもしれねぇ。だからこその発目さんだろ?」

 

 あ、もちろん気藤の考え通りに進めばそれが一番いいけどな! と、もう一人のメンバーが明るく口を開いた。

 

「切島」

「お前は本当にいい奴だなぁ」

「よ、よせよお前ら!」

 

 常闇と練悟から向けられた尊敬の眼差しに、切島はわかりやすく照れていた。

 そう、練悟の騎馬メンバー最後の一人は切島であった。

 練悟の策が成れば、正直に言って騎馬は誰でも構わない。けれど、全て思い通りに行くと思いあがるほど練悟は傲慢ではなかった。

 いざという時、真正面から、そして絡め手からも戦えるように選んだ面子がこのメンバーだった。

 そういう意味では、多彩なサポートアイテムを使う発目が残ってくれたのは、実はとてもありがたかった練悟である。

 

「これでチームは揃った。――いくぞ、一位通過」

 

 おお、と切島が声を上げ、常闇が静かに頷く。

 発目は変わらず機械をいじっていたが、片手だけはしっかりと拳を作って上げられていた。

 

 

 

 

 

 

『十五分のチーム決め兼作戦タイムを今終えて! 十二組の騎馬がフィールドに出揃った!』

 

 プレゼント・マイクの声と共に、それぞれが騎馬を作って準備万端の戦闘態勢へと移行する。

 と、そんな中。

 

「はぁ!?」

「げ!?」

「マジで組んだの!?」

「……? A組の連中は何をそんなに驚いてるんだ?」

 

 ある一つの騎馬を見つけたA組の生徒が一様に驚きの声を上げた。

 B組は彼らがなぜそんなに驚いているのかわかっていないようだが、それは日常の彼らの姿を見たことがないからである。

 あの二人が同じチームに入っているなど、A組は想像もしていなかったこと。そのチームの脅威度などは置いておいて、ただただそのチームが成り立っているという事実そのものが、彼らにとっては驚きだった。

 つまり、どういうことかというと。

 

「爆豪と緑谷が組んだぁああ!?」

 

 要するに、そういうことだった。

 

 ――爆豪チーム。メンバー、爆豪勝己、緑谷出久、麗日お茶子、瀬呂範太。

 

 あの爆豪と出久が組む。

 普段の二人の関係、戦闘訓練での攻防、それらから見て特に爆豪が出久に隔意を抱いているのは明らかだった。

 その二人が組んだ。それはまさに彼らにとっては予想外だったに違いない。

 

 

 

 

 

 

「かっちゃん!」

「あァ!?」

 

 出久は真っ直ぐ勝己に向かって走っていた。

 麗日が後ろで「まさかの爆豪くんやった!?」と驚いているが、それに応えている余裕は今の出久にはなかった。

 何故なら、爆豪の周りには彼と組もうとする人が多く集まっていたからだ。A組の生徒も多いが、それ以外のクラスの生徒も多い。

 彼らにとられるわけにはいかない。

 出久は強引に爆豪の手を取った。

 

「んだァ! デクてめェ……」

「わたしと組んで! かっちゃん!」

「はァア!? なんで俺がお前と組まなきゃなんねェんだ!」

 

 めっちゃキレる爆豪。麗日は想像した通りの反応に、「やっぱり!」と思わずつぶやいていた。

 出久にとっても、爆豪のこの答えは想定内だ。しかし、だからといって諦めはしない。

 

「かっちゃん。わたしは、レンくんに挑戦するつもりなんだ」

「っクソザコに、テメェが……?」

「わたしだって、成長しているんだってところを見せたいんだ! レンくんに……そして、君にも!」

 

 ぴく、と眉を動かした爆豪に、出久は更に自分の思いをぶつける。

 爆豪相手に余計なことは考えない。適当に聞き心地のいい理由を話したって、頭のいい爆豪ならそれに気づく。何より出久も嫌だ。

 ただシンプルに、思っていることを話す。爆豪が応えてくれることを信じて。

 

「君の個性に憧れるだけじゃない。今のわたしなら、その助けになれるんだって所を、見せたいんだ!」

 

 昔から、ただ凄いと思って憧れていた爆豪の強さ。爆豪にとって出久は常に下で、その関係が変わることはないと思っていた。

 けれど、違った。そうではないのだと出久は気づいたのだ。

 自分が諦めていたから、そう思っていただけ。練悟がそのことに気づかせてくれた。

 

 憧れだけで諦めず、近づくように努力すること。それが大事だったのだ。

 憧れは理解から最も遠い感情だというが、言い換えればただ遠いだけだ。遠いだけなら、近づけばいい。

 オールマイトへの憧れ。爆豪への憧れ。その力を眩しく見るだけではなく、どうすればそうなれるのかを考えた。そのためには努力が必要だった。だから、努力した。諦めることだけはしなかった。

 

 その結果、今こうして出久はこの場所に立てている。

 出久にとって練悟はそれに気づかせてくれた、そして常に傍で応援して支えてくれた特別な人だ。

 それは変わらない。

 けれど、爆豪もまた違う意味で大切だった。なにせ出久にとって、人を救ける姿への憧れがオールマイトだとすれば、強さへの憧れは爆豪に他ならなかったのだから。

 だからこそ、出久は爆豪にも今の自分を見てほしかった。

 もう昔とは違う。自分で立ち、歩き、人を助けることができるようになれたのだと、見せなかった。

 

「頭のいいかっちゃんなら、レン君が何をしそうかなんて気づいているでしょ? だから、わたしと麗日さんの個性、それに君の個性なら、レンくんの思惑を潰せる! ……かもしれない」

 

 力強くアピールするが、最後にちょっと自信がなくなってしまうのは出久らしかった。

 そしてもう一度、出久は同じ言葉を爆豪にかけた。

 

「だからお願い! わたしと組んで!」

 

 頭を下げる出久を、爆豪は何とも言えない顔で見下ろしていた。

 今にも怒鳴りつけそうでありながら、しかしそれをこらえているような、そんな表情。

 

「――……ちっ」

 

 自分よりも下で、守ってやらなきゃならない奴だった。

 ずっとそう思っていた。

 しかし、それは出久のことを何も考えていない独りよがりな決めつけだったと気づいたのは、ごくごく最近だった。

 結局爆豪がしていたことは、自分がしたいことをしていただけだった。そこに出久の考えていること、思い、それらは一切入っていない。

 力で守れば、守れたというわけではないのだ。そのことに気づくのが、ずいぶん遅くなってしまった。

 とはいえ、気づいたところで今更この関係を変えようとは思わないが。

 過ぎたことを今更どうこうしようとは思わない。それが爆豪勝己であった。

 しかしまぁ、己のことを振り返った結果、少しばかり思う所がないわけでもない。

 それを消化しないままにしておくのも気持ち悪いし、気に入らない。

 だから、爆豪は本意ではなさそうな表情で、苦々しさを隠そうともせずに口を開いた。

 

戻る(・・)手段はどうすンだ。考えてあんのか」

「っえ……――う、うんっ! 瀬呂くんの力を借りようと思って」

「瀬呂……あのテープか。もう誘ってあんのか」

「え、それはまだだけど」

 

 きょとんとした顔をした出久に、爆豪は怒鳴った。

 

「他んトコ行っちまったら意味ねェだろうが! さっさとあのしょうゆ顔連れてこいや!」

「う、うん! 待ってて!」

 

 急かされ、出久は麗日を連れて瀬呂に声をかけに行く。

 後ろから、麗日がこそっと囁いた。

 

「あれ、つまりOKってことでいいんやよね?」

 

 苦笑して頷く。

 

「うん。よかった、これで――君に挑戦できるよ、レンくん」

 

 そして前を向き、出久はぐっと拳を握りこんだ。

 

 

 

 

 

 

『さァ、上げてけ鬨の声! 血で血を洗う雄英の合戦が今! 狼煙を上げる!』

 

 プレゼント・マイクの声が場内に響き渡り、それに負けないほどの大歓声がスタジアムを包み込む。

 それらを受ける対象である生徒たちはフィールドに手騎馬を作って既に待機しており、どの生徒の顔も決然とした面持ちで、ただその時が来るのを待っていた。

 

『そんじゃァ、いくぜ! 準備はいいかなんて聞かねぇぞ! 残虐バトルロイヤル、カウントダウン!』

 

 そしていよいよ、その時が訪れる。

 実況席から届く、スリーカウント。

 それが終わった瞬間。

 

『スタートォッ!』

 

 その合図とほぼ同時に、全チームが一斉に動き出した。

 1000万ポイント。手に入れれば一位が確実となる、練悟のハチマキを求めて。

 しかし、練悟は慌てなかった。何故ならそんなことは始まる前から簡単に予想できることだったからだ。

 そして当然、そういった危険を回避するために取るべき行動も既に決めてある。

 

「常闇! 手筈通りに!」

「任された!」

 

 間髪入れない答えと共に、常闇の個性「黒影(ダークシャドウ)」が発動する。

 自身の体から影のような自意識のある異形を生み出す個性。比較的大きさや動かせる距離も自由にできる汎用性の高い個性。

 それによって、可能な限り広範囲で黒影を展開する。

 当然、周囲は警戒して動きを止めるか緩める。

 その僅かな時間があれば、練悟には十分だった。

 

『おーっと、常闇が出した黒い影のような異形が気藤チームを覆っ――おおォッ!?』

『まぁ、そうなるわな』

 

 プレゼント・マイクの驚きの声と、相澤の落ち着いた声。

 対照的な反応を示した二人は、フィールドではなく空を見上げていた。

 そしてそれは、フィールドにいる大多数の生徒や観客も同じである。

 何故なら、練悟は一人で騎馬を離れて空を飛んでいたのだから。

 

『気藤、空を飛んで悠々と空中散歩ォ! そういやコイツ飛べるんじゃん!』

『常闇のアレは確実に安全圏まで飛べるようにするための、周囲への牽制か。開始直後に狙われて、上空まで上がり切る前に妨害されたくはねぇだろうからな』

『これじゃあ1000万ポイントは狙えねぇ! っていうか、ミッドナイト! こりゃ、ありなのか!?』

 

 プレゼント・マイクの質問に、全員の目がミッドナイトを見る。

 ミッドナイトはグッ、と親指を立てた。

 

「テクニカルなので、あり! それに気藤くんは私に事前に確認してきたしね。彼が飛べるのは知っていたし、それが個性ならそれも彼の力よ!」

『主審のOKがあるなら問題ねぇ! ってか、アイツの個性って空飛ぶだけじゃなくて超パワーもあるんだろ!? 強すぎねぇ!?』

『この個性社会でその意見は非合理的だ。まぁ、とはいえ――』

『おーっと、ここでフィールドの騎馬諸君! 気藤のことを諦めて他のチームを狙い始めたぁ! そりゃそうだ!』

『おい、俺いらないだろ』

 

 先の障害物競走中にもあったが、再び発言を無視されたことで相澤の声に苛立ちが混じった。

 

 そんな風になんだか揉めている実況席を上から見下ろしていた練悟は、視線をフィールドに移す。

 そこでは、さっきまで自分のほうに向かってきていた騎馬が一斉に互いのほうを向いてハチマキを取り合っていた。

 プレゼント・マイクが言っていたように、それはそうだろう。騎馬戦の時間は十五分。その間、上空に逃げたハチマキを追い続けるのは不毛すぎる。

 いくら取れれば一位確定とはいえ、制限時間内ではリスクが高すぎると判断するのは至極当然のことであった。

 今のところは作戦通りに進んでいる。

 そのことを確認して、練悟は一つ安堵の息を吐いた。

 

「この高さなら、空を飛べる個性がいないとすれば安全だろう。スタジアムの天井より上に出たら場外で失格にする、って言われちゃったのは残念だったけど」

 

 しかし、考えてみれば当然だ。

 これは体育祭。そして行っているのは競技である。

 競技中に会場の外に出たら失格になるというのは、まぁ言われてみれば当たり前のことだろう。

 

「なんにせよ、順調か。これなら何とか――」

「そうはいかないよ!」

「っ、後ろ!?」

 

 突然、上空で聞こえた声。

 それに反応して後ろを振り返ると、そこには誰もいなかった。

 しかし。

 

「えいっ」

「うわっ、危ないハチマキが……! って、見えないってことは、まさか葉隠!?」

「イエス、アイアム!」

 

 ハチマキが引っ張られそうになって慌てて抑えた練悟は、いまだ見えていない相手の正体を、見えていないからこそ看破した。

 クラスメイトの葉隠透。その個性は「透明化」。つまりは透明人間である。

 よくよく見れば、体操服のズボンは見えている。つまり、上半身だけ脱いでいるという事だろう。

 練悟は視線を下にちらりと向けた。こちらを見上げている、自分以外の騎馬から騎手がいないチームを見つけるのは簡単だった。

 砂藤、口田、耳郎のチーム。

 ということは。

 

 ――まさか、砂藤の「シュガードープ」!? 強引にここまで投げ飛ばされてきたってことか!?

 

 シュガードープは、糖分の摂取により三分間だけ五倍の筋力を得る増強系個性。使いすぎると副作用があるようだが、それでもその圧倒的パワーは魅力的だろう。

 砂藤の元々のフィジカルの強さが五倍。そう考えれば、ここまで葉隠を投げ飛ばすのは不可能ではないだろう。

 しかし、だからといって実行するかどうかは別問題である。

 練悟は、葉隠を落とそうと体をねじる。その瞬間、葉隠が「おっと!」と声を上げた。

 

「いいのかい、気藤くん! 振り落とせば、私は地面に真っ逆さまだよ!」

 

 その一言に、練悟はぎょっと目を剥いた。

 

「お前、まさか戻る手段ないのに飛んできたのか!?」

 

 なんて無茶を。

 練悟がそう思うのは当然だった。

 なにせこのスタジアム、雄英が作っただけのことはあってすさまじく大きい。

 高さは高層ビルとまではいかずとも、五階建てのビルぐらいの高さは優にあるだろう。

 場外の制限があることから、上限よりも下を飛んでいるとはいえ、落ちれば間違いなく死ぬ高さだ。だというのに、戻る手段がないままここまできた。驚く他なかった。

 だが、そんな顔を見せた練悟に、葉隠は強気に答える。

 

「私の個性は透明になるだけ! その中で結果を出そうと思ったら、リスクを負うしかないの!」

 

 超パワーもない。速くも走れない。何かを作り出すこともできないし、氷も炎も電気も音も、何も操れない。

 透明になる以外、何もできない個性。

 しかし、だからといって諦めるというつもりは葉隠にはなかった。

 みんな頑張っている。自分だけ個性の不利を理由に一位を目指さないなんてのは、嫌だった。

 

「私だって、本気で優勝目指してるんだよ!」

「お前……」

 

 その、真摯に優勝を目指すという意志に、思わず練悟も言葉に詰まった。

 何故なら、練悟は全力を出したくても全力を出せない。

 本気で臨んでこそいるが、持てる力全てというわけにはいかないもどかしさを感じていた。

 そんな中で、全てを懸けて優勝を目指し、ヒーローになろうとしている葉隠が羨ましく感じたのだった。

 

「というわけで、ハチマキよこせー!」

 

 思わず動きを止めた練悟。

 それを好機と見たのか、葉隠が目を光らせた。目は見えないが。

 そして、両腕を振り上げて襲い掛かってきた。両腕も見えないが。

 

「うわ、こら暴れるな!」

 

 上空ゆえに足場はなく、葉隠は無理やり練悟に抱き着いている状態だ。

 そんな密着状態でお互いが動き、しかも葉隠が上体に何も着けていないとなれば……。

 

「って、やわらか!?」

 

 こうなるのは自明の理だった。

 

「きゃっ! ち、ちょっと気藤くん! 触る場所は考えてよ!」

「悪い! って、見えないんだから仕方ないだろ!? それなら暴れるな!」

「そっちこそ、大人しくハチマキを――って、ちょ、あ、このっ! やんっ! もう、いい加減怒るぞー!」

「そっちから来たのに!? でもごめんなさい!」

 

 なんだか理不尽だったが、こういうとき悪いのは大抵男になる。仕方ないね。

 そして謝りつつも心の中で、そしてありがとうございます……! と呟く。悲しい男の性だった。

 

 

 

 一方、それを見上げている地上。

 

「――――あ?」

「出久ちゃん!? 顔! 顔が女の子してないよ!?」

 

 出久が誰がどう見てもわかるぐらいキレていた。

 とてもお茶の間には流せないやつだった。幸いカメラはこのとき別の所を向いていたので、撮られてはいない。一安心である。

 なお、出久の心は全く安らいでいない模様。是非もないね。

 

「……かっちゃん」

「あァ!? んだコラ、デク!」

「予定通りポイントはそこそこ奪えたし今から思い切り上に飛ばすから爆破でレンくんの所まで行ってハチマキの奪取ね」

 

 一息で一方的にそう指示を出す。

 当然、人の言うことには逆らいましょうを旨とする爆豪がそれを聞いて素直に従うわけがない。

 

「はァ!? 勝手に決めつけてんじゃ――」

「かっちゃん」

 

 一言、名前を呼んだ。

 それだけ。

 それだけなのに何故か漂う底知れぬ威圧感に、爆豪は初めて出久を相手に言葉をひっこめた。

 

「いって」

「……お、おう」

「ば、爆豪くんが折れた!?」

「すげぇな、緑谷……!」

 

 麗日と瀬呂がざわめく。

 あの爆豪が頭ごなしに言われた指示に従った。それは彼を知る人間してみれば、まさに快挙と言うに等しい出来事だった。

 でも、恋する乙女は強いって言うからね。恋の力ってすげー。

 

 

 

 

 

 

「ええい、仕方ない!」

 

 その頃。上空で不用意に体に触れないよう悪戦苦闘しつつ対処していた練悟だったが、ついに痺れを切らしたのか、強引に葉隠の体を抱え込んだ。

 そして力任せに左腕で拘束する。脇に抱えるような形で。

 

「わっ、ちょっとー!?」

「このまま一度下に降ろす! 大人しくしてろ!」

「ぐぬぬ、動けないー……!」

 

 どうにか手を伸ばしてハチマキを狙う葉隠だったが、さすがにその状態では手が届くはずもなかった。

 ただびしびし肩や顎に当たって、地味なダメージを練悟が受けるだけだった。

 

「じたばたするなって、落ちるぞ!」

 

 それを嫌がったのと本当に危ないことから、やめるよう葉隠を諫める。

 それでようやく抵抗しても抜け出せないと悟ったのか大人しくなった葉隠にホッと一息ついたところで。

 下から迫って来る覚えのある気を感じて、はっとそちらに目を向けた。

 

「クソザコォォオオッ!!」

「!? 勝己!?」

 

 迫って来ていたのは爆豪だった。しかも、爆破を一切せずに一直線にここまで飛んできている。

 

「そうか、そのためのあのチーム……!」

 

 本来、爆豪一人でも空中戦は可能である。

 しかし、爆豪の飛行は爆破で空を移動するものだ。しかも一度の爆発で上昇できる距離などたかが知れている。高いところまで移動しようとすれば、第一種目でロボを越える際にしたように、何度も爆破させなければならない。

 それはスピードという意味では決して速くはないし、しかも爆破の音で接近に気づかれてしまう。であれば、練悟にとってはそれほど脅威ではない。

 

 その欠点をなくしたのが、出久の作戦だった。

 まず麗日の個性で爆豪を軽くする。

 次に軽くなった爆豪を、出久がワン・フォー・オールで思い切り上に飛ばす。

 ほとんど重さがなくなった状態の爆豪をあの超パワーで投げるのだ。凄まじい速さで上昇できるうえ、爆破による音もないため接近に気づかれにくい。

 そして最後には瀬呂の個性で爆豪を回収すればいい。

 練悟が空に逃げることを想定していたが故の布陣だった。

 

 爆豪の突進を横にずれて避ける。

 少しだけ通り過ぎた爆豪は、自身の個性で上昇を止め、体勢を整えると爆速ターボで一気に練悟に迫った。

 

「そして空中の機動は勝己自身の個性で調整、ってわけか! さすがはイズ……!」

「爆豪くん!? 無茶するねー!」

「いや、お前が言うな」

 

 抱えている透明人間から聞こえてきた声に思わず言葉を返す。

 その間にも爆豪は一気に練悟との距離を詰めてきて、小さな爆破を繰り返すその手を思いきり練悟に向けて伸ばした。

 

「死ねコラァア!!」

「あぶね……!」

「逃がすか、クソがァッ!!」

 

 後ろに飛んで避けた練悟に、爆豪は追いすがる。

 練悟は苦い顔になった。スタジアムの中から出てはいけないという制限では、思うようにスピードが出せない。速く移動しすぎると体を止める前に壁に激突という事になりかねないからだ。

 そのため、本来であれば速度で振り切ることも可能でありながらそれが出来ず、爆豪を突き放すことが出来ないまま空で追われることに甘んじた。

 試しに数回、気弾を放ってみるが、さすがの戦闘センスというべきか、器用に爆豪は空中で爆破を用いた三次元機動を見せてそれを躱す。

 そのため攻撃をやめ、避けることに集中する。

 

 追う爆豪に、逃げる練悟。

 まさに空中戦。空中戦ということはつまり、観客席の目の前でそれは行われているわけで。なかなか見ることが出来ない派手な戦いに、観客は大盛り上がりだった。

 

『ヒュー! 緊迫感溢れる空の攻防! エンターテイナーだぜ二人とも! こんなアクションそうそう見れねぇぞ! 今日の観客はラッキーだな!』

 

 対して、実際に追われている練悟からしたらたまったものではない。自分一人ならまだ取れる手はあるが、今は葉隠も抱えているのだ。あまり無茶な動きもできなかった。

 だが、かといってこのままでいいというわけも当然ない。

 

「仕方ないか……!」

 

 そうこぼし、練悟は動きを止めた。

 一瞬、訝しげな顔をする爆豪。そんな彼に向けて、練悟は手で誘うような仕草を見せた。

 

「来い、勝己!」

 

 その煽りに、一気に表情を攻撃的なものにして爆豪は一層の加速で空を飛んだ。

 

「観念しろや、クソザ――!」

「太陽拳っ!」

 

 直後、練悟の体から眩いばかりの光が放たれた。

 周囲も一斉に瞼を閉じるが、直視してしまった爆豪は一瞬遅れて目を瞑るものの目の前が真っ白に染まってしまう。

 

「クソがっ……! どこにいやがる、コラァ!」

 

 どうにか薄目を開けるが、視界は戻っておらず前は見えないまま。

 それでも爆破を続けて空中での姿勢を保っているのはさすがと言う他なかったが、そんな状態では咄嗟の対処など望むべくもなかった。

 

「上だ」

「ッな……このッ!」

 

 声に反応するも、それより練悟のほうが速かった。

 地面に向かって思い切り爆豪を蹴り飛ばす。

 一気に落ちていく爆豪。それを途中で瀬呂がテープを伸ばして回収し、爆豪は再び地上の騎馬の上へと戻っていった。

 それを確認して、練悟は安堵の息を吐き出した。

 

「何とかなったか……。できれば、舞空術だけでいきたかったけどな……」

 

 まさか太陽拳まで使うことになるとは。それに、舞空術もかなり無茶な機動を繰り返した。

 恐らくはそこまで含めた出久の作戦なのだろう。練悟の個性を知る出久だからこそ、勝つために最善の手段を考えているのだ。

 そう思うと嬉しいが、やられる身としては辛い複雑な気持ちになる練悟であった。

 

「どうしたの? 気藤くん」

「いや、なんでも。それよりそろそろ降ろすからな、葉隠」

 

 さすがにこのまま抱えて続けることもできない。

 悔しそうに唸りながらも「わかった」と頷く葉隠に、更に言葉を続ける。

 

「あとついでにハチマキももらっとく」

「えぇー!? 鬼ー! 悪魔ー!」

 

 途端、非難を再開して足をばたつかせる葉隠。

 それを制しつつ、反論した。

 

「なんでだよ! そういう競技だろうが!」

「うぐぐ、悔しー! おっぱいまで触られたのに!」

「ばっ、口に出すな! 恥ずかしくなってくるだろ!」

 

 わーぎゃー言いながら、このままでは埒が明かないと思ったのか、練悟は「口閉じとけよ!」と一声かけると、一気に降下を始めた。

 

 

 

「………………」

(出久ちゃん……! めっちゃ「イラッ」って顔しとる……!)

 その様子を競技の中でも見ていた出久は、再び表情をアレな感じに変化させていた。

 

 

 

 

 それはさておき、戻ってきた練悟は自分の騎馬へと降りて、葉隠を解放した。

 そのまま砂藤らのところに向かえば、返した途端にハチマキを奪いに来るのは目に見えている。離れた位置で解放するのは当然だった。

 

「すげぇ空中戦だったな、気藤!」

「大丈夫か」

「しっかりしてください! 私は勝ち残れると思ったからあなたについたんですからね!」

 

 一度だけ戻ってきたことで、メンバーから口々に声を掛けられる。

 特に発目はサポートアイテムのアピールという本来の目的を収めて参加しているのだ。不満が出るのは当然だった。

 

「悪いみんな。だが、もう大丈夫だ。油断はない」

 

 言いつつ、迫ってきた氷に気を放ち、一気に砕く。

 いったん地上に戻ってきた1000万ポイントを皆が目指すのはわかっていた。そして、真っ先に近づいてくる気にも当然、気が付いている。

 

「――だからもう取られないぞ、轟」

「ちっ……!」

 

 千載一遇の奇襲。それを防がれた轟は次の策を打とうとするが、その前に、こういう時の行動を事前に伝えてあった練悟の騎馬の行動のほうが早かった。

 

黒影(ダークシャドウ)!」

「よーやく、ベイビーの出番がキター! 赤髪の人! いきますよ!」

「切島な!」

 

 常闇の黒影が再び牽制をするのと同時に、常闇の体を上に持ち上げる。そして発目と切島の足に装備されたアイテムが二人を飛ばす。

 

『おーっと! 気藤のやつ今度は騎馬ごと空を飛んだぞ! つってもありゃジャンプの範囲かもしれねぇがな!』

『だが、あれで十分時間は作れたろうな』

 

 相澤の言う通り。

 黒影の牽制、それに加えて騎馬自体が飛ぶことで妨害の手が届かないようにしつつ、その間に練悟が再び空に上がる。

 もし騎馬に戻された際にどうするのか、それを事前に決めていたからこその即応に周囲は反応しきれていない。

 

「クソザコォオ! 逃げんな、テメェ! 死ね!」

 

 しかしそんな練悟に再び突っ込んでくる爆豪。

 それを練悟は空を飛んで躱した。怒りの形相で睨みつけてくる爆豪が再び爆破で飛ぼうとするよりも前に、練悟の姿は再びスタジアムの上空へと戻っていた。

 

『そして再び1000万は空の彼方へー! 現在の順位は、一位気藤チーム、二位轟チーム、三位爆豪チーム、四位鉄哲チーム! 上位チームは二位と三位が途中でひっくりかわった以外に変動なし! そして時間は残りわずかだぜ、スパートかけなァ!』

 

 プレゼント・マイクの声がかかると同時に、多くのチームが再び練悟のチームを視界から外して他のチームへと向かう。

 最後の追い込み、ここで一位に固執するのは賢い選択ではないと誰もが思う。地上の取れる可能性が高いポイントを狙うのは正しいことだ。

 

 しかし、それでもなお一位を目指して再び飛んできたのが爆豪である。開始と同時に多くのポイントを奪っていた爆豪チームには、ポイントに余裕がある。

 それならば練悟と同様、騎手が空中で行動できる利点を使わない手はない。一位のポイントを狙うと同時に、ポイントを空に逃がす。それゆえの爆豪の特攻であった。

 それを葉隠もいなくなって身軽になった練悟が上手くかわし、それを爆豪が追う。

 再び始まった空中戦に歓声が上がる中、刻一刻とその時は近づいていた。

 

『そろそろ時間だ、カウントいくぜ!』

 

 そして始まるテンカウント。

 空で、地上で、皆が最後の力を振り絞ってラストスパートをかけていく中、アナウンスされるカウントは徐々に徐々にゼロへと近づいていく。

 

 そして、ついにゼロのカウントが刻まれ、騎馬戦は幕を下ろした。

 

 

「終わったか……」

 

 瀬呂のテープで回収されていく爆豪を見ながら、自身もゆっくり地上に戻る。

 迎えてくれた常闇と切島にハイタッチで応える。発目は既にアイテムのメンテナンスを始めていた。さすがである。

 

『んじゃ、早速上位四チームの発表だ! 一位、気藤チーム! 二位、轟チーム! 三位、爆豪チーム! 四位、鉄て……ってアレェ!? 心操チーム!? いつの間に逆転してたんだよオイオイ!』

 

 ディスプレイに表示されている順位を見て、プレゼント・マイクが驚愕の声を上げた。

 直前までは鉄哲チームが四位だったのを見ていたので、この僅かな間での順位の変動は予想していなかったらしい。

 

『まぁ、なんにせよこの上位四組が最終種目進出決定だァ――!!』

 

 大声で宣言するアナウンスに、歓声が沸き起こる。

 そして最終競技に進出を決めた四組には称賛の、それ以外のチームには労いの拍手が会場中から贈られた。

 

『んじゃ一時間ほど昼休憩挟んでから、いよいよ午後の部開始だぜ! 遅れんなよ! ……っしゃ、メシ行こうぜイレイザーヘッド』

『寝る』

『ヒュー!』

 

 適当にあしらわれたプレゼント・マイクの声を残して、昼休憩という事で生徒や観客が一斉に移動を始める。

 そんな中、一緒にチームを組んでいた麗日と出久は隣り合って歩いていた。

 

「はぁ、やっぱ気藤くん強いねぇ。文字通り手が届かへんのやもん」

 

 空に逃げる。飛べる以上は当たり前の戦術だが、その有効性はこの結果が証明していた。

 対抗するには葉隠のような捨て身の特攻ぐらいしか手はなく、それにしたって後に続かない上に自由に動けない諸刃の剣だった。

 出久と爆豪の力があって自分たちのチームは肉薄出来ていたが、それにしたって苦肉の策に近い。

 そんな策を、一人を相手に取らざるを得ない。いかに練悟の個性が強いかが改めてわかり、麗日は溜息をついた。

 

「そのうえ、USJで見たあの強さやもんねぇ……」

「うん。さすがだよ、レンくんは。でも――数回、使わせた」

「え?」

 

 出久の言葉に、麗日は首を傾げる。

 そんな麗日に、出久は真剣な表情で答える。

 

「個性も結局は身体機能の延長ってことだよ、麗日さん。それはあのレンくんでも、一緒なんだ」

 

 二週間の特訓。その間に知った練悟の個性の詳細。

 それらを加味したうえで、出久は最終種目に向けて今から少しずつ準備をしているのだ。最終種目が始まってからでは間に合わない。そう判断したからである。

 

 練悟に自分の成長した姿を見せる。オールマイトの期待に応える。

 それらを達成するために優勝が欲しい。

 

 出久は改めてその決意を新たにし、その眼差しに強い光を灯した。

 

「――けどその前に、さっきの葉隠さんの件を聞かなきゃ。レンくん、どこかなぁ」

「出久ちゃん!? 目から光が消えたよ!?」

 

 しかしその光は一瞬で闇に飲まれた。やみのま。

 

 そして見つけ出した練悟に、出久はぷんすか怒りながらこんこんと説教をほどこした。

 明らかに嫉妬が先立つその姿に、A組女子一同はほっこりしつつ見守ったという。

 

 

 

 

 




ちなみにこのお話は16000文字強でした。
長い。
でも過去に一話で38000文字をやらかしているのと比べれば短い。

そしてやはり隠し切れない葉隠さん推し。
一応、上から落下しても強化した砂藤に受け止めてもらうつもりでしたので、騎馬に戻れないわけではありませんでした。
めちゃ怖いのは間違いなかったでしょうが。
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