サーゼクス暗殺計画   作:キュウシュ

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ハイスクールD×Dのソシャゲにグレイフィアさんのカードが今出ているのですが、とても美しいです。

やっと主人公の三人称視点に戻れました。ここからが本格的に二章の始まりです。


魔王の眷属3

 部屋から出たライはすぐに確認をした。もちろん、グレイフィアの居場所のだ。

 眼球だけを動かして、瞬時に見る。

 グレイフィアは退出した部屋の扉から少し離れたところで立っていた。いつ魔王たちが出てきても対応できるようにとの考えからだろう。ついでに他の女王の動向も探ってみるが、ふたりとも隣の部屋に行ってしまった。そこは小さい会議室のようになっているので、そこで待っているつもりなのだろう。

 自分はどうするかを考えて、即座に対応する。

 選んだのはもちろん扉の前で待つほうだった。何年かぶりの二人きりになれるチャンスなのだ。ここで引くのは悪手に他ならない。

 ライはグレイフィアとは十メートルほど離れた場所に立った。近すぎると警戒されて話しなんてできないのはわかっているからだ。

 ──あぁ、ほんとやっちまったよなぁ。

 あのとき、変なことをしなければもしかしたら今頃はお役御免になっていたかもしれない。ライもしたくてやってしまったわけではないのだが、後悔の気持ちでいっぱいだった。

 ライは頭を一度横に振って、意識を切り替える。

 今するべきなのは、グレイフィアとまた仲を深めることだ。そのための思考をしろ、と自分に言い聞かせる。

 

 まず大事なのはなんて声をかけるか。

 普通の挨拶では無視されるか、頭を下げるかくらいの反応しかしてくれない。相手が話す気がないので、それ以上会話が続かない。しつこく粘ったりなんかした日には下心があるのに気づかれてしまうだろう。

 なので条件としては、グレイフィアが声を出さざるを得なくてそれでいて普通の会話である。この状況においてはこんなことですらとても難易度が高い。

 ライはセラフォルーからも認められているその頭脳をフル回転させる。

 時間はそう残されていない。なぜなら十分以上沈黙が続いてからの会話というものは、誰でもぎこちないものになってしまう。それは話し下手であり友達がいないグレイフィアの場合、顕著である可能性は高い。

 残り一分。それまでに最適解を見つけなければいけない。

 ライは目を瞑った。真っ黒な世界が広がる。グレイフィアの思考をトレースすれば自分には達成可能なミッションだと思い込んで、考えを巡らせる。

 そして、そのときがやってきた。

「グレイフィア様……サーゼクス様は体調を崩しているのでしょうか?」

 言ってからライは唾液を音がしないように飲み込んだ。

「…………どういうこと?」

 しばらく考えを巡らせたのであろうグレイフィアは何拍かおいて訊き返してくる。声が聞けたことに内心、狂喜乱舞しながら表情筋を引き締める。

「いえ、ここに来るまでの間、後ろで観察していて気づいたのです。サーゼクス様の体の重心が平常時よりややずれていることに」

 

 ──……無論、そんなことに気づけているわけねぇのである。

 歩いている途中でサーゼクスの異変に気づけるほど、ライは彼のことを知ってはいない。

 かといってこれが嘘になるわけでもないとライは踏んでいた。セラフォルーの仕事を押し付けられてわかったことであるが、魔王の仕事は尋常でないほど多い。こんなの魔王がやる必要なくないかと思うことは日常茶飯事だ。

 セラフォルーでそうならば、サーゼクスもそうであるはずなのは明白。なら、疲労がたまっていてもなにも不思議ではない。部下に仕事を放り投げるような鬼畜では無ければの話ではあるが。

 それにまったく疲れていない場合でも問題はないはずだ。

 おそらくこの話を信じてもらえたのなら、グレイフィアはサーゼクスに体調は如何かと訊くだろう。そうしたのならあのサーゼクスのことだ、爽やかな笑みを浮かべて平気さとかなんとか言うに違いない。しかし、そんな言葉はむしろ説得力の欠ける言葉になる。

 最終的にグレイフィアは疲れているのだと判断して、ライの言葉に感謝──できればお礼の一つでも言いに来てほしいがそれは高望みしすぎ──すること間違いないだろう。

 

 ここでの問題はグレイフィアがサーゼクスの体の重心とか何とかを把握することのできる知識を持っている場合だ。そうなったら、ライの嘘はすぐにばれてしまい、信用も今よりも下がるだろう。

 その点についてライも考慮しなかったわけでない。けれど残されている時間もそうあるわけではないので、いまの停滞している状況からすぐにでも抜け出す必要があった。

 ある程度のリスクを負わなければ、リターンを得られるわけがない。だからこその曖昧な嘘だった。

 

「──」

 顔は扉の方を向きながら、考えているようだ。今の話が本当かどうか。いや、それに気づけなかった自分を責めているという可能性もなくはない。

 ダメ押しとばかりにそれっぽいことを言ってみる。

「サーゼクス様は常に美しい姿勢を維持しておられる方なので、それがずれているというのは何か外的要因があると思ったのですが……」

 少し深刻そうな顔をすることで、話の信憑性をあげれるようにした。

 いつかの百人抜きよりよほど緊張して、手に汗をかいている。

 成功か失敗か──

「そう……後で訊いてみるわ」

 こうして、二人の間での言葉のやり取りは終わった。

 これを会話と呼んでいいのなら、まる五十年ぶり以来のことだった。声を聴けただけでなく、会話することもできた。予想外すぎるが最高の結果に終わってライの鼓動は尋常でないほど動き続けている。

 鼓動を身体操作で鎮める。これくらいの出来事で動揺しているようでは、あの関係に戻るのなんて不可能だ。

 横目でグレイフィアを見てみるがにこりともしていない。

 けれどこれは大きな前進だ。

 

 かなり後退したけれど、まだ前に進める。そう思って一安心しているところに突然水を差された。

 一般悪魔だろうか。足音が近づいてきていた。

 この場所は知らないでこれるようなところではない。確実に魔王がいるとわかっていて接近してきている。すわ戦闘かと思い、来ている方向へ体を向ける。グレイフィアも気づいたのだろう。侵入者の方に注意が向いていた。

 近づいてきてわかったが、その悪魔は息をかなり乱していた。長距離走ったのだろうか。距離にもよるが走っただけで息を乱すようなやつが強いわけがない。ライはやや危険度を引き下げる。

 その悪魔はふたりの存在に気づいたのか、ペコペコと頭を下げながら走ってきた。

「あの、緊急の伝令です。魔王様に謁見をお願いしたいのですが」

 止まるや否や、すぐにそう切り出してきた。

「魔王様方は大事な会議中です。その間は何者も入ってはいけないと言われています」

 グレイフィアはたんたんと告げた。

「でも緊急なんです!」

「では、自分たちに一度話してくれませんか。それでその件を今すぐに話すかどうかを判断しますので」

 このパシリっぷりは若き日の己を見ているようで、心が痛んだライはフォローに回った。そんなこととは露知らない悪魔は救世主来たりという顔を向けてくる。

 微笑みながら、話をしろと促す。

「私は辺境の──本当に辺境の場所にある家を持つ下級悪魔です……」

 グレイフィアが手を出して話を止めた。

「どうしてここにたどり着けたのですか。ここは場所を知らなければ来ることのできない術がかかっている場所です。どうやって?」

「そのお恥ずかしいことですが、私は都市に来たことなどなく、通行人に魔王様の場所を訊いたところ、この場所にいると言われたので来た次第です」

 この場所は途中の道から認識阻害の術までかけられている。ここに入ることを見られることはありえない。なら、その通行人はどうやってこの場所を知ったのだろうか。

 その通行人については怪しいことこの上なかったが、目の前の悪魔は一般人のようなのでその話は後で訊くとして、ひとまず話を続けさせるように言った。

 悪魔はうなずいて続きを話し出した。

「私は小さい畑で農業をして暮らしているのですが、ここ最近おかしなことが続いていているんです。畑の物が盗まれていたり、地面がえぐれていたり」

「そのくらいなら、どこにでもあることです。近くの子供がいたずらでもしたんじゃないんですかね」

「いえ、私もそう思いまして近くを探ってみたんです。そうしたら……」

 その悪魔は急に体を震えさせる。何かに怯えるかのような反応にライは困惑する。

「何があったんですか?」

「……」

 怖がっていてなかなか話してはくれない。じれったいなと思うものの、世間には優しい悪魔として通っているライはせかすということはしたくなかった。

 代わりにグレイフィアが脅す。

「それで?」

 語気を強くしたわけでもないが謎の迫力に悪魔も震える相手が変わったように見えた。

「え、あっと…………龍──ドラゴンをみ、見ました」

 思ってもみなかった言葉にライは驚きを隠せない。

 ドラゴンはどの個体もかなり強いと言われている。あの伝説上の赤い龍、白い龍はもちろんのこと下級のドラゴンですら一般の悪魔では手も足も出ないだろう。

 それが本当の話ならば。

「ドラゴンは確かに恐れるに値する存在です。しかしあなたが見たのは本当にドラゴンなのでしょうか? そのほとんどは魔王様や堕天使、天使によって封印、もしくは殺されています。この冥界に存在しているとはとても思えません。ドラゴンに似たものと間違えているのでは」

 冥界に存在している脅威になりうるドラゴンは悪魔も馬鹿ではないので全て把握している。ならば、外からの可能性という線も考えられなくはないが、それも極低いものだと想像できる。冥界は他の空間とつながっているわけではない。飛んでこれるということは絶対にありえない。悪魔の手助けかもしくは人間界に存在している優秀な魔術師の力が必要だ。

 しかし、悪魔側ではそのような申請はされていないので可能性はない。また、秘密裏にドラゴンを搬入していたとしたら、あまりにも管理が杜撰すぎる。確実に見つからないような場所で隠してもいいはずだ。

 そして、人間がやったとしてもドラゴンを冥界に放って何がしたいのかという話になる。いずれ退治されてしまうのは明白だ。そんなことをする理由は少なくともライには思いつかなった。

 そういった理由から、ドラゴンの可能性は低いと思った。

「いえ! あれは絶対にドラゴンでした! 本当です! 信じてください」

 けれど、その悪魔は頑なにドラゴンだと主張してくる。ライは顎に手を当てて、悩む。個人的にはドラゴンではないと思っている。

 しかし、それを目の前の悪魔に話したところで信じてくれないような気がするのだ。なぜなら、彼は実際に見たのだから。

 どうするのか悩んでいたライとは違い、グレイフィアは考えが決まったのか移動し始めた。

 魔王がいる部屋へ。

「グレイフィア様、良いのですか?」

 その背中に問いかけるが、ライの返事はまるで聞こえていないかのように無視される。

 ノックをしてグレイフィアは部屋の中へ入っていった。

 ライは部屋の中には入らずにその場で待つことにした。説明なら彼女ひとりだけで事足りるだろうから。

 数分経ったときに、再び部屋の扉は開かれた。

 出てきたのはサーゼクス、グレイフィア、そしてセラフォルーの三人であった。

「サーゼクス様、会議中申し訳ありません」

「構わないよ。それにしてもどうしようかね」

 どうしようかとは言っているが、困っているようにはまったく見えない。いちおう、この相談に来ている悪魔からしたら死活問題なので真剣に考えてもらいたいのだが。

「セラフォルー様、どうしたらよいと思いますか?」

 こういうときはセラフォルーに意見を求める。いい意味で彼女は何も考えていないので話が進展しやすい方向に持って行ってくれるからだ。

「うーん、そうだな……とりあえずそこに行って確かめてくればいいんじゃないかな☆ ドラゴンでもなんでもいたらいたで話し合いでもなんなりすればいいし、いないならいないでいいじゃない?」

 まぁ、それが一番解決が早そうではある。

「わかりました。ではそれでいきましょう。ということでサーゼクス様、自分はこれから彼がドラゴンを見つけたというところに行ってまいります。会議を抜けることになってしまいますが、ご容赦ください」

 初めから席をはずせと言われていたのだから、構わないだろう。護衛という点に関しても、セラフォルーにはほとんど必要がないようなもであるし。

「えー、ライくんが行っちゃうなら私も行こうかな」

 セラフォルーがいつものノリでそんなことを言い出した。

「セラ様は会議中じゃありませんか。自重してください」

「む、ケチ」

「申し訳ありません。それと移動の魔法陣を出してもらっていいですか」

 セラフォルーは文句がありそうな顔をしているが、渋々納得してくれたようで、指を鳴らして魔法陣を出してくれた。

 それに入って、転移しようとしたとき、サーゼクスに呼び止められる。

 

「ライ、グレイフィアを連れて行ってくれ」

 突然の提案にライは固まる。

「どうして、サーゼクスちゃん」

 自分も疑問に思ったことをセラフォルーが訊ねてくれる。しかし先ほどまでの和やかな雰囲気は消失してしまっていた。

 セラフォルーは怒っているように見えた。

「捜索するのなら手が多いに越したことはないだろ?」

「見かけた場所に行って少しその周りを見て回るだけで事は終わる話でしょ。ライくんだけで十分よ」

「もし、本当にドラゴンがいたとしてもかい?」

 セラフォルーは言葉に詰まった。

 万が一、本当にドラゴンがいた場合、強さにもよるが今のライでは苦戦は免れないかもしれない。

 セラフォルーはこちらに目線を送ってきた。それに対して、首を横に振って答えた。

 ──まだ、早いですよ。

 それでもなお、セラフォルーは納得してくれはしなかった。

「なら、私が行くわ。会議なんて三人もいれば十分でしょう」

「それはダメだ。この後、大王と会う予定になっているからね」

 セラフォルーは小さく舌打ちをした。彼女がなぜそんなに賛成してくれないのかがライにはわからなかった。

「なら、私の眷属を今から呼ぶわ。それなら……」

「セラ様、自分の目を見てください」

 真正面から彼女の目を見た。

「大丈夫ですよ」

 そこに含まれる意味は多岐に及ぶ。

 グレイフィアの危険性の無さや、自分から彼女に喧嘩を売ったりしないことなど。

「むう、ライくんはなんにもわかってないからそんなこと言えるんだよ」

 セラフォルーはため息を吐いた。けれど、先ほどまでの剣呑さはなくなっていた。

「大王との話しが終わったら、すぐにそっちに行くからね」

「えぇ、お待ちしています。我が王」

 普段は言わないような言葉を使って、少しからかってみる。そうしたら、完璧にいつもの魔法少女のことしか考えていない彼女に戻った。

「では、グレイフィア様。ご一緒していただいて構いませんか」

「魔王様の命令に異を唱えるつもりはありません」

 そうして、ライとグレイフィア。そして張本人の悪魔はドラゴンがいるという地へ転移した。


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