サーゼクス暗殺計画   作:キュウシュ

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リゾート施設行くって前話に書いたけど、よく考えてみたら過激派との戦争が終わったのが数百年前ーー今小説では四〇〇年前と仮定していてます。
だから百年経過してもまだ、西暦一七〇〇年代だ。
この時代、リゾート施設なくね? という事に気づきました。

なので前話のリゾート施設に行くという設定をリゾート施設から別荘に変更しました。



休暇1

「人間界もたまには悪くないな」

 ライは光り輝く海を見ながら呟いた。

 

 ライがいるのは冥界ではなく人間界。サーゼクスの好意で執事、メイド一同は連れて来てもらっていた。

 悪魔が人間界に来るには様々な手続きが必要なので早々来ることができない。今回連れられて来た者の中でも初めて来たという悪魔がほとんどだった。

 そんな彼ら、彼女らからしたら人間界のあらゆる物が初めてのオンパレードだった。

 海にはじまり、青い空、技術的──人間界で言うところの一七〇〇年代のため──には悪魔より劣っているのでそれほど目新しいもの建物などはなかったが、人間独自の食べ物や文化に興味が尽きる事はなかった。

 だが良い事ばかりというわけでもなかった。

 常に彼らの上空にある太陽。これによる影響だ。

 上級悪魔レベルになれば話は別だが、下級・中級悪魔にとって太陽の下で活動するのは少々疲れる事であった。太陽下で活動するのが初めてなのに加えて、人間界に来るのも初めてではしゃぎすぎた彼らはサーゼクスが人間界の拠点の一つにしている別荘に着いた頃には皆、疲労困憊という様子だった。

 別荘まで転移すればその様な疲労など味わわなくても済んだのに、せっかくの人間界なのでもったいないという意見からゆっくり移動した彼らが悪いので自業自得だったりする。

 

 別荘は海の側にあり、別荘から海を見渡す事が出来た。

 別荘には使用人が住んでいないらしく、食事や洗濯などは全て自分たちの手でやらなくてはいけないらしいが、そこは本職が使用人である彼らにとっては大した苦労にはならなかった。

 人間界でしか出来ない事を彼らは満喫した。冥界にはない海で泳いだり、人間界独自の遊戯……蹴鞠や野球というモノを四苦八苦しながらも楽しみ、子供の様に遊び倒した。

 

 人間界に来れて楽しいという者がほとんどなのだが、ライはというと実はそういうわけではなかった。たしかに人間界は楽しい。しかしライの本当の目的は自分が遊ぶことではなく、グレイフィアを恋に落とす事なのだ。だというのに、人間界に来た初日にサーゼクスと一緒にいるのを見た後は影も形もない。元々、サーゼクスの人間界への視察と、とある人物に会うためらしいのでそれに付き合っているので仕方ないのだろうが、ライにとっては面白くない展開だった。

 予想では一日に一度は顔を合わせられると思っていたのでこの現状にショックを受けていないというなら嘘になる。

 

 

 ややブルーな気持ちになりながらも一日、二日、三日と時間は無情にも流れていき本日で人間界に来て四日目となった。

 グレイフィアのグの字も見当たらない現状にとうとう、ライは今回の休暇ではグレイフィアの事を諦めた。

 ──まだ四〇〇年ある。

 そう焦る必要はないと自分に言い聞かせて、ライは釣りをしていた。

 特に釣りが好きなわけというわけではなかったが、表面上親しく接している執事やメイドからの誘いをやんわりと断るためにひとりで釣りがしたいという言い訳を思いつき実行していた。

 ライという悪魔は仕事に必要な事だからほかの悪魔と接しているが、実はひとりでいる方が好きだった。

 

 岩に腰掛け、釣り糸を垂らして早一時間未だ二匹しか釣れていないが、陸釣りなので仕方ないかと思いながら海を見ていた。

 殺伐とした生活をしていた百数年前からは想像が出来ないような暮らしをしている事に思わず口が緩んでいると背後から大きな気配が近づいているのを察知した。

 戦闘を行う者なら少なからずもっている第六感的な感覚。それが告げていた。

 ──絶対に勝てないと。

 

 おそらく本人は無自覚なのだろうが、ライにとっては存在しているだけで圧迫される様な重圧を感じる。だが、それに対して恐怖を抱いてはいなかった。なぜなら、この感覚を知っているからだ。

 ライは振り向きながら片膝をついた。

 

「おはようございます、サーゼクス様。何かご用でございますか?」

 サーゼクス・ルシファー。ライにとっての最終的な暗殺目標であり、恋敵のような存在でもある。

「おはよう、楽にしてくれ。今はプライベートなのだからね」

 サーゼクスは優しく諭すように言うが、魔王の前で気をぬくなど出来るわけもなかった。そんなライの態度にやや苦笑いしながら、釣った魚を入れているバケツの中を覗いた。

 

「ほう、生きの良いのが釣れてるね。ライは魚を捌けたりするのかな?」

「はっ、一通り料理技術は習得済みなので可能です。この後宜しかったらお召し上がりになって下さい」

「それは楽しみだ」

 端正な顔に優しい笑みを浮かべたサーゼクスを、もし女性が見たのならたちまち虜になる事間違いなしだろう。

 

「君と出会ってもう百年か。時間が流れるのは早いものだ」

「その節は誠にありがとうございます。これからも誠心誠意仕えさせてもらいます」

 サーゼクスは先程までライが座っていた場所に腰掛けた。

 

「記憶はどうだい?」

「残念ながら……」

「そうか……。実はね、君の事について私の方でもいろいろ調べて見た」

 調べたと聞いて、反応しそうになる体を無理やり押さえつけながら黙って話を聞いた。

「……だが、経歴はおろか生まれすら分からなかった」

 

 旧魔王派に属していた時は顔を隠せるフードを常に着用していたり、名前や顔を魔法で変えたりしていた事が幸いしたのだろう。一番知られたくない事は隠し通す事が出来ていると知ってライは一安心した。と、同時に魔王ですら自分の出生が分からないのかと驚愕した。

 

 ライは物心ついたときから旧魔王派──当人たちは旧とは思っていないが──に従属していたのだが、実は両親の顔を知らない。「いつのまにかいた」というのは元同僚の言だ。生きる事に必死でそんな些細な事など考える余裕もなかったのに加えて、自分を捨てたのであろう両親について興味もなかった。

 だが、サーゼクスは違った。

 

「下級悪魔ですら身分証明書の発行が義務となっているのにも関わらず、その痕跡すらない。君は既に私の大切な使用人だ。経歴が分からないという理由だけでどうこうするつもりはないが……少し気になる事があってね」

「それは一体?」

 ライ自身調べれば両親の事くらいすぐにわかると思っていたので、それでも分からない生まれについて少し気になり始めていた。

 

「君はどこかチグハグなんだ。弱いのかと思うと強かったり、逆に強いと思うと弱かったり」

「は、はぁ?」

 まったく思い当たる事がないので気の抜けた返事になってしまう。

 

「一番気になっていたのは君の顔だ。悪魔は魔力に余裕があるものなら容姿の変更も容易いが君はそういうわけではない。なのにその端正な顔立ちというのは必然的に生まれつきという事になる。悪魔という種族は初代ルシファーの実験により作られた者たちが所謂純血の上級悪魔と言われ、皆容姿に優れている。……その事から君も何処かの上級悪魔の血を継いでいるのかもしれない」

 

「そ、そうですかね? 自分には特に優れた能力などありません。サーゼクス様のような消滅の魔力やフェニックス卿のような不死の力もありません。そんな自分が血を継いでいるとはとても……」

 

 これはライにとって本心から出た言葉だ。魔力量も平均と比べると少し良いくらいで身体能力もそこそこである。これは修練してようやくこのレベルに達する事が出来た実力だった。元々のライは下級の中でも更に下級の実力程しか持っていなかった。だがそれではいつ死んでもおかしくないという事にすぐに気づき、毎日血の滲むような努力を行いようやく中級悪魔レベルの実力を手に入れられていた。

 そんな自分が偉いところの血を継いでいるとはとても思えなかった。

 

「……というのは私の想像だ。こうであったら胸が踊る展開とは思わないかな?」

 一転、ライをからかうような顔をした。

「……脅かさないでください。サーゼクス様の冗談は冗談に聞こえません」

 ライは騙されていたということに気付き、怒るというよりは寧ろ安心していた。

 

「さて、長い事話してしまっていたね。もうすぐお昼時になるからそろそろ帰らない……ライ、釣り竿が何か軋んでいないか?」

 サーゼクスの言う通り、釣り竿が今にも海に落ちそうなくらい引っ張られていた。慌てて竿を抑えるが中々の大物らしい。力づくで引っ張ると糸が切れてしまいそうになる。

 ライは慎重に慎重に魚の体力を削っていき、五分ほど戦いようやく釣り上げる事に成功した。

 

「これは何という魚なのかね?」

 ライはこういう時のために買っておいた魚図鑑を開き、見た目が一致する魚を調べていった。

「おそらく、鮪という魚ですね。本来こんな浅瀬にはいない魚の筈ですが……」

「実際に釣れたんだから細かい事はいいじゃないか。身が引き締まっていて美味しそうだ。さぁ早く屋敷に戻ろうじゃないか」

「畏まりました」

 

 意気揚々と帰っていくサーゼクスの後を数歩離れながらもライはついていった。

 

 ◆

 

「サーゼクス様、この後のご予定は?」

「今日はもう仕事はないよ、屋敷でゆっくりしようと考えていたけれど?」

「人間界には食欲を増進させるために事前に飲むお酒──食前酒なる物があると今回の休暇で知りました。なので、良かったら如何でしょうか?」

「ふむ、そうか……では頂こうか」

「畏まりました」

 

 ライはサーゼクスに見えない所で口角を上げた。食前酒の特徴についてライは嘘を言っていないが本当の目的は食欲増進などではなかった。酒を飲む事で口は普段よりは軽くなる。そこでサーゼクスからグレイフィアの話を聞き出そうという魂胆だった。

 そこで、ふと気付く。

「そういえば、グレイフィア様は何処にいらっしゃるのでしょうか?」

 いつも必ずといっていいほどサーゼクスの近くにいるグレイフィアがいない。

「グレイフィアなら先に屋敷に戻っている。あまり使われていなかった別荘だからね。もう一度清掃したいといって、先に帰ったよ」

 

「そうですか、ではグレイフィア様の分もお食事を用意させていただきます」

「頼んだよ」

 

 屋敷内には執事もメイドも誰もいない。皆人間界を散策しに外に出かけているからだ。だから屋敷にはグレイフィア、そして今から帰るサーゼクスとライのみになる。

 サーゼクスをどうにかしたらグレイフィアと二人きりになる最大のチャンスといえよう。半分諦めていたライにとっては先の鮪などより余程幸運な出来事だった。

 

「では料理の準備のため、お先に帰らせていただいてもよろしいでしょうか?」

「そこまで急がなくても構わないよ。今日は君も休暇なのだからね、私に気を使わなくてもいい」

「畏まりました」

 ──な、なんだと。

 グレイフィアと二人きりになるために先手を打ったライだが、阻止されてしまった。サーゼクスの優しさが裏目に出た瞬間だった。

 悪態をつきたくなるライだったが、表面上には決して出すことはしない。

 

 サーゼクスを排除する方法をひたすら考えるが、良い案は思いつかない内に別荘へと到着してしまった。

 

 別荘の前には当たり前のようにグレイフィアがサーゼクスを迎えるために玄関の前で待っていた。

「おかえりなさいませ、サーゼクス様」

「ただいま。グレイフィア、今日は君も休日にしてあるだろ? メイドとして振る舞わなくても構わないよ」

 グレイフィアは一瞬迷ったような顔をしたが、それもそうかと納得したようで何時もの一切表情を変えない顔から少しだけ表情がわかる顔になったような気がした。

 

「では自分は料理をお作りに行きます。準備が出来ましたらお呼びいたしますので、それまでごゆっくりしてお待ち下さい」

 

 

 ◆

 

「では、まずは食前酒でございます。あまり度数が強くないものをご用意致しましたので、酔うことはないと思います」

 

 ライは当初、かなり度数が高い酒を飲ませようとしていた。実際、高い度数のお酒を飲む方が一般的らしい。だが、サーゼクスとグレイフィア両名のお酒に対する耐性をライは知らなかった。もし酒に弱いのに強い酒を出して酔わせてしまったら無礼な行為に当たるため執事をやめさせられかもしれない。

 そんな理由からこんな所でリスクを負うのは危険だと判断して度数が低いモノを用意した。

 

「それでは今日の昼食をご説明させていただきます。先程、幸運にも生きの良い鮪を釣ることができたのでお刺身という日本食を用意させていただきました。生の魚の身を醤油というものにつけて食べるという奇異な料理ですが、味は絶品なのでぜひ、お召し上がりください」

 

 ライは綺麗に盛り付けられた刺身を二人の前に出し、そして日本の主食であるお米そして味噌汁というものも一緒に出した。

 二人はやや食べるのを躊躇しているようだった。

 冥界にはそもそも海がない。湖はあるが数はそこまで多くはないので魚は冥界では貴重な食材だ。なので魚料理を食べるのはなかなかない。魔王ともなれば調理されたものは食べたことはあるが、生は初めてだった。

 なので総合的に見ればお刺身というものはリスキーな料理と言えるだろう。だが敢えてライは刺身を出した。

 いくつか理由はあった。

 まず、単純に美味しいという点。

 ライは道中にこの料理を食べて体に電気が流れるような気がした。それほどまでに美味かったのだ。

 だから調理手順を見て覚えた(・・・・・)

 

 そして最大の理由は不思議な物を食べさせられたという事で顔を覚えてもらうという点だ。

 サーゼクスは何やらライの事をしっかり覚えていたらしかったがグレイフィアはどうなのか分からない。

 だから先ずは下地を作ろうと画策し、この様な戦法をとった。

 

「うむ、美味しい」

「わぁ、本当。サーゼクス、食べさせて!」

 好評なようでライは一安心……する前にグレイフィアの様子が少しおかしいのに気付いた。

 普段では絶対にありえないサーゼクスに甘えるという行動。プライベートだからという理由も考えられるが、先程まではかけらもそんな気配はなかった。

 何かおかしいと思いライがサーゼクスに訊ねようと思った時にサーゼクスが手を耳に当てて、空に向かって話し始めた。

 

「それは、本当ですか? ええ、……分かりました。今から向かいます。ええ、はい、では」

 

 ライはサーゼクスの行動に首を傾げていると当の本人から説明がきた。

「急用が入ってしまった。私は今すぐ移動する。料理、美味しかったよ。グレイフィアは……すまないが、グレイフィアの面倒をよろしく頼む」

 そう言ってサーゼクスは転移して何処かに行ってしまった。

 残されたのはライと少しおかしなグレイフィアのみ。

 意図しない形でグレイフィアと二人きりになれたが、グレイフィアを頼むという謎のセリフをサーゼクスが言ったのが気になる。

 

「あれ? サーゼクスは? サーゼクス……」

 サーゼクスがいない事に気付いたらしいグレイフィアは小さい声でサーゼクス、サーゼクスと言い、目尻には涙が溜まってきていた。

 

「……サーゼクスに捨てられた」

 

 ──面倒な事になった気がする。

 ライはグレイフィアがいるにも関わらず大きなため息を吐いた。

 

 




豆知識
食前酒……欧米では本当にかなり高い度数で飲まれます。しかし日本ではそのような飲まれ方はされず、低い度数で飲むのが殆どです。

補足 酔っちゃってるのでグレイフィアさんはちょっと混乱してます。


追記
裏設定を。

魔法を使う魔女や魔術師の勢力は相当古い時代からありました。なのでその古い時代から魔女も存在していたという事です。そこに歳若い段階で才覚を見せた少女、いわゆる魔法少女が存在していた。
というような伝承が書き連ねられていた書物をセラフォルーが見つけ、魔法少女の事を知った。というような設定を考えていたんですが結局長ったらしかったので省いていたのですが、不思議に思わせてしまったようで申し訳ありません。

つまりこの小説では人間界の漫画のようなもので登場するよりはやく魔法少女という言葉は作られていました。
それをセラフォルーがこんなのなら良いなと妄想した結果、ああなりました。

追記二
悪魔が使う魔力はとても便利なモノなので、空間を切りとって紙に描く事ーー写真ーーが出来る道具は発明されていたのではないか、と作者は考えていました。

「カメラ」や「写真」という名前が同じなのはご都合主義です。

どちらも感想欄で不思議に思われた方がいたので、後書きに載せました。
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