サーゼクス暗殺計画   作:キュウシュ

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休暇2

 涙をボロボロと流すグレイフィア、そしてそれを見守るライ。

 今の現状を説明するならそのような事になっている。

 ライとしては何故、グレイフィアが泣いているのかよく分からないが取り敢えず慰めなくてはならないという事だけは分かった。

 グレイフィアと仲良くなるためという理由もあったが、何よりグレイフィアに泣いていて欲しくないという気持ちが不思議とライにあった。

 グレイフィア用に用意していたハンカチをポケットから取り出して彼女の手に渡した。

「グレイフィア様、落ち着いて下さい。サーゼクス様は少し用事があるとの事で一時的に席を離れただけです。決して貴女を一人にしないお方です、安心して下さい」

 

 ミッション遂行のためには一番やってはいけない、サーゼクスの事をヨイショするという行為だったが、今のグレイフィアをどうにかするにはサーゼクスの名前を出すしかライには案がなかった。

「え、ええ分かってる、分かってるのよ……でも、それでも……」

 

 ──グレイフィアが泣いているのはサーゼクスがいなくなったからだとばかり考えていたが、そうではない?

 では何故、グレイフィアは泣き止まないのか。全く分からないライは必死に考えた。

 ──そもそもおかしくなったのは食前酒を飲んでから。ということは酔っているからなのか? でも明らかに酔っているという理由だけじゃない気がする。

 考えても考えてもグレイフィアについて知らないライには答えは出なかった。そう、ライはグレイフィアについて知らなさすぎるのだ。

 百年同じ職場で働いていても合計で一時間も話したことはない。そんな悪魔について何もかもなんてことはありえない。

 

 ライには今のグレイフィアにかけてあげられる言葉は何もなかった。だからこそ、グレイフィアには思う存分泣いてもらうことにした。

 何が原因かは分からない。でも泣きたくなるような事情があるなら我慢などせず、吐き出した方が楽になる。

 そう考えたライはグレイフィアの手を握った。

 安心させられるように。

 

 ライはグレイフィアの手を握ることしか出来ることがなかった。

 

 ◆

 

「落ち着かれましたか?」

 ソファに座ったグレイフィアに水が入ったコップを手渡した。

「え、ええ。その、ありがとう」

「いえ、当然のことをしたまでです」

 目は赤く、明らかに泣いた跡だなと分かる顔になっていた。普段のグレイフィアからは想像もつかない姿だった。

「それで、何があったのですか? いえ、何を隠しているんですか?」

 

 突然泣かれて、はい終わりでは何も解決にはならない。そう思い、涙の訳をグレイフィアに問いただす。

「いえ、別に……」

「誰かに話した方が楽になる事もあります。貴女様から聞いた事は誰にも話さないと誓いますので、理由を話して下さいませんか?」

 しっかりと相手の目を見て言葉をつないだ。

 

「…………私とサーゼクスとの出会いって知ってる?」

 集中してないと聞き逃してしまいそうな小さな声でグレイフィアは話し始めた。

「ええ、勿論です。サーゼクス様が新魔王派、そしてグレイフィア様が旧魔王派に属していたにも関わらず大恋愛の末にご結婚なされたという話ですよね。冥界では知らない者などいないでしょう」

 

「……私にはサーゼクスしかいない。サーゼクスしか信頼できない。でも彼にも嫌われたくないの……」

 

 まだ混乱しているのか要領が悪く、何を伝えたいのかがイマイチ分からないライは自分なりに噛み砕きながらグレイフィアの考えをまとめた。

「えっとですね、つまりグレイフィア様が信頼できる悪魔はサーゼクス様しかいない。ですが、サーゼクス様に日頃のストレスや何やらを言ってしまったら唯一の存在が離れていってしまうかもとお考えになりそれを言えないと。そしてそれらが色々限界に達して先程のような事態になったという事で宜しいでしょうか?」

 

 グレイフィアは首を縦に振った。

 

「グレイフィア様は元々旧魔王派という事で難しい立場にあるだろう事は分かるのですが、信頼できる悪魔はサーゼクス様以外にもいるのでは? グレモリー卿やグレモリー夫人、あとセラフォルー様とも仲がよろしいと聞いた事がありますが?」

 

「ただでさえグレモリー卿達には迷惑をかけているからこれ以上面倒をかけたくなかったんです。セラフォルーとは別に仲は良くありません」

 セラフォルー・レヴィアタン様。四大魔王の内のひとりで実力はグレイフィアと拮抗しているという事で度々戦ったことがあるという事を知っていた。だからなんだかんだ、仲が良いとライは考えていたのだが、そうではないようだ。

 

「なら、メイド達に相談すればよろしいのでは? 同じ職場で働く者同士なら何かと相談しやすいと思いますが?」

 

「……そもそも主人の嫁がメイドなんて立場にいるということ自体、他のメイドからしたらとても扱いづらい存在だと思うんです。実はその事についても悩んでいて。だから当の本人達にそれを相談するのも……無理です」

 

 ──あぁ、もう面倒くさいな!

 と、言えるのなら言ってやりたい気分になってきた。だが今そんな事を言ってしまったらグレイフィアはずっと殻に閉じこもったままだ。やるなら今しかない。

 人前で泣き、自らの弱みを晒してしまった相手というのはグレイフィアにとって何の気兼ねもない存在であるはず。

 ライは自らの直感を信じて、グレイフィア攻略を始めた。

 

「では、自分に言ってください。自分はグレイフィア様の事を迷惑だなんて思いません。相談や愚痴何でも言ってくれて構いません。むしろ一緒にいられて光栄なくらいですから!」

「……でも」

「なら……自分と友達になってくれませんか?」

 急に話の展開が変わってグレイフィアはキョトンとした顔になった。ライも自分の口がこんなに回るとは今まで知らなかったので内心驚いているが、顔には絶対に出さなかった。

 

「友達?」

「はい。友達なら相談にのるのは当たり前だと聞いた事があります。使用人に話したくないという気持ちはなんとなく分かります。なら使用人という関係以上ならいいんじゃないでしょうか」

 

「それが、友達?」

「はい。グレイフィア様と自分が友達になったらグレイフィア様は自分に相談出来て、自分もグレイフィア様に相談が出来るというWin-Winな関係になれるんじゃないでしょうか?」

 

「貴方も相談したい事あるんですか?」

「それは勿論ありますよ。必死に努力しているのにグレイフィア様の足下にも及ばない自分の力のなさについてだったり、自分の生まれのことについてだったり、話そうと思ったらいつまでだって話していられるくらいにはあります」

 

「だから自分と友達になってくれませんか?」

 

 ライは頭を下げて手をグレイフィアの方に差し出した。本来中級悪魔であるライが最上級に位置するグレイフィアに友達になろうなんていう事自体無礼極まりない事である。普段のグレイフィアなら悩む余地もなく断られていただろう。

 だが、今この弱っているグレイフィアなら話は別だ。

 自分が困っている時に親身になってくれ、そして相手の方から友達になってくれと言ってきている。

 謂わば、目の前に誰もがよだれを垂らす高級料理が置いてあるような状態である。それを目の前にした者の行動は一つしかない。

 

「よろしくお願いします」

 ライの手にはしっかりとグレイフィアの手が握られていた。

 大丈夫と考えながらも絶対の確信はなかったので、手を握られた瞬間ホッとしてつい笑みが溢れてしまった。

「良かったです。友達を作るの初めてだったんで断られたらどうしようかと思いました」

 戯けたようにグレイフィアにそう言った。

 

「初めてなんですか?」

「はい、お恥ずかしい話ですが」

「ふふっ、私もです」

「え?」

「私も貴方が生まれて初めての友達です。お揃いですね」

 グレイフィアはライの前で心の底から笑った。

 その自然な笑みにライはドキッとしながら、ライもグレイフィアと一緒に笑いあった。

 

 

 




グレイフィアさんってかなり複雑な立場だと思うんですよね。旧魔王派だった悪魔なのに新魔王派に鞍替えしている。それについてよく思っていない悪魔ーー主に上の老害──に嫌味を言われていたらセクハラされていたりされていてもおかしくないと思いこのようなストーリーになりました。

ここまでの話で本当のプロローグ終わりといったところでしょうか。
ここから三人──人じゃないけど──の関係はどうなっていくのか……。お楽しみに!



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