サーゼクス暗殺計画 作:キュウシュ
人間界での休暇の日々から時間はたち、ライはまた普段通りの執事業へと戻っていた。
前とほとんど変わらない風景に見えるが、変わったことが一つあった。
それは……。
「サーゼクスがセラフォルーにベタベタ接してるんだけど、どうしたら良いと思う?」
「サーゼクス様とセラフォルー様は昔からの馴染み、いわゆる幼馴染というやつなんですよね? 少しのスキンシップは仕方ないのでは?」
「サーゼクスにそういう気はないのは分かっているけど、やっぱり妻としては嫌なの」
月に一度、夜遅くにグレイフィアがライの部屋へと訪れるようになったことだ。
ライが住んでいるのは離れにある使用人専用の館である。サーゼクスお抱えの使用人は皆それぞれ一つの部屋が与えられている。そこに住むかどうかは個人の自由なのだが、ほとんど全ての悪魔はここに住んでいる。
なので、グレイフィアは堂々とライの部屋に来ているわけではない。ライとグレイフィアが友達──周りには秘密にしている──という関係だとしても男と女である事には違いない。
グレイフィアはライの事を男として好きだと思っていないし、ライの方もまだ時期ではないと判断して単純に友好関係を深めようとしているだけなので、間違いなど起こるはずがないのだが。
度々グレイフィアがライの所へ訪れていては風聞が悪い。という事で、ライの部屋へ来る時はグレイフィアは転移の魔法でひっそりと移動してきていた。
「ねぇ、聞いてる?」
「はい、聞いてますよグレイフィア様。そうですね……サーゼクス様はおそらくですが、グレイフィア様との恋が初だったのではないでしょうか。だから経験値が欠けているために、そのへんの女性の気持ちが分からない、と。言葉は少し悪いですが、心が少し子供なのだと思います」
「じゃあ、どうすればいいのよ」
「そうですね。解決案としては……セラフォルー様が結婚なさるとかですかね」
結婚している女性にはどんな男性でも少しは距離をとるものだ。
「ふふ、セラフォルーにそれは無理よ」
セラフォルーを軽く小馬鹿にしたようにクスッと笑みを浮かべた。
その顔を見て大分自分の前で表情を出すようになったなと、ライは思っていた。
こうして夜遅くに会い始めた頃は表情を一切変えずに淡々と愚痴を吐いていた。無表情で毒を吐くグレイフィアはいつもの数倍怖かった。
しかし、十、二十と回数を重ねていくにつれて慣れてきたのか何なのかは分からないが休暇の時のような親しみを持たれていると分かる雰囲気に変化した。
その頃からグレイフィアは自然と敬語を使わなくなっていった。
「では、このまま放置ということに?」
「それはダメよ。あんなにベタベタして……」
「サーゼクス様に直接仰ればいいのでは?」
「それはもう試したわ」
ご愁傷様ですとつい口に出そうになる。
改めてグレイフィアと話していて思う。
仲は良くはなったと。だが仲良くなるにつれて、グレイフィアのサーゼクスへの愛の強さも分かるようになってきてしまった。
サーゼクス命と言えるほど愛が深いという事が……。
サーゼクスとの惚気話を何十回も聞かされて、これ無理じゃね、と何度も思ってきた。
だが、やらなければいけない。
爆弾──心臓の近くに埋め込まれていて、起爆条件は爆弾の事を誰かに伝える、自ら外そうとする、任務を放棄する
そのような理由から、必死こいて考えた結果いくつかの案をライは考えついていた。
一、グレイフィアとこのまま仲良くなる。
今行なっているのはこれになる。王道──人妻を口説くことが王道とは言えないが──である親密になるという事は当たり前のように見えて意外と難しい。どんなに仲が良くても秘密の一つや二つはあるものだ。ライはグレイフィアと秘密の共有ができる程仲良くなろうとしているのが今である。
二、サーゼクスとグレイフィアの仲を悪くさせる。
逆転の発想で思いついたのがこの案である。グレイフィアと仲良くはなれるが、それ以上になれるかどうかは未知数、いやかなり低い確率であろうとライは考えている。だから、サーゼクスへの愛が弱くなればなるほどグレイフィアには隙ができ、そこにライが入るチャンスがあるかもしれない。
しかしそもそも仲を悪くさせる方法を思いつかないので現段階では保留になっている作戦だ。
三、サーゼクスに浮気をさせる。
二の作戦を応用させたのがこの作戦である。サーゼクスが浮気をしている所をグレイフィアに目撃させ、落ち込んでいる所をライが慰めるというのが本作戦の概要である。出来るのなら体の関係にまで持っていくのが理想だ。サーゼクスが浮気をしているなら、私も。となってくれないかなぁとライは都合の良い想像を働き、これを思いついた。
しかしサーゼクスはグレイフィア一筋であり女の影すら見えないので、これも現段階では保留になっている。
四、グレイフィアを襲う。
快楽で虜にさせる作戦だ。エロ漫画のヒロイン並みにチョロかったのならこれでもいけるかもしれないが、そんなわけはない。そもそも襲おうとしても実力差がかけ離れすぎている事もあり、返り討ちになる危険性がある。
これは最後の手段である。
この他にもいくつか作戦はあったが、現実的に不可能なものばかりだったのでライの脳内で却下された。
まだ、時間はあるが攻略の糸口さえ見えない現状に段々と焦り始めてきていた。
──せめて、何かイベントがあればなぁ。
「そうよ。この手があったわ!」
急に大きな声を出したグレイフィアに考え込んでいたライはビックリした。ちなみに防音対策はしっかりしているので声が外に漏れる事はない。
「貴方がセラフォルーを誘惑しなさい!」
「へ?」
「ライ、貴方は自分では気づいてないかもしれないけど、とても魅力的な外見をしているわ」
──知ってます。
「それに気が利くし、優しいし」
──そりゃ命かかってますから。
「貴方ならセラフォルーと結婚できるわ!」
──そんなわけねーだろ!
「自分はセラフォルー様に一度もお会いした事はありません。そんな者とは突然恋愛に発展したりしません。そういうのは絵本の中だけの話ですよ、グレイフィア様」
何故、口説こうとしている相手にお願いされた相手を口説かなければいけないのか。頭がおかしくなりそうになる。
「貴方って特定の相手とかいないのでしょ?」
「それは……そうですけど」
「一回だけ、一緒に遊びに行ったりしてみてくれない? セラフォルーの予定とか諸々は私がなんとかするから!」
「そんな事言われましても……」
「お願い、一回だけ何でも言うこと聞くから」
──何でも、だと⁈
ライの体に激震が走った。
「それは、サ」
──ーゼクス様暗殺も含まれますか?
とつい本音を言いそうになってしまった。
そんな事ない、というのはライもわかっている。グレイフィアが言う何でもというのは子供の言う「大きくなったらお嫁さんになる」と同レベルの意味しか持たないことも。
しかし思わぬ幸運から口がひとりでに話してしまうところだった。
額からよく分からない汗が吹き出したライはグレイフィア用にたくさん持ち歩いているハンカチで汗を拭った。
「……なんと言ってセラフォルー様を呼び出すおつもりですか?」
「そうね、魔法少女に興味を持っている悪魔がいるっていう理由かしら」
「魔法少女?」
「魔法を使う女の子の事らしいんだけど、セラフォルーはそのコスプレにとても強い興味を抱いているの。恥ずかしいらしいから、まだ周囲には秘密にしているらしいんだけど」
魔法少女と聞いてもいまいちライにはピンときていなかった。魔法を使う女の子というのは、魔力を扱う女悪魔もカウントされるのだろうか。
そしたら見た目は若いグレイフィアも魔法少女であると言えよう。
──それに憧れる、とは一体?
「どうして、グレイフィア様はその事をお知りになられたのですか?」
「材料の売場が分からないから私に聞いてきたの。その時に少しね」
ライは少し冷静になって考えてみる。魔王と知り合いになれるチャンスと考えれば、今回の話は悪くない。サーゼクスを最終的に暗殺出来れば良いのだしセラフォルーにやってもらうという手も取れる。
グレイフィアも本気でセラフォルーが恋するとは思ってないだろうしとライは考えていた。せいぜい男性と接する機会を作り、女性の気持ちを思い知ってほしい程度、だろうと。
デメリットとしては、グレイフィアの前──前であるかどうかはわからないが──で女性を口説かなければいけないという事だけだ。
それにしてもグレイフィアのお願いでやる訳なのでないに等しい。
「ダメ、かしら?」
「……仕方ないですね、分かりました。はぁ、友達の頼みだから引き受けるんですからね」
暗に貴女じゃなければ絶対にやらないという意味を込めた言葉を発し、加えてやれやれという手の動きもわざとして見せた。
「ありがとう」
顔を明るくさせたグレイフィアはなんとも言い難い可愛らしさだった。
グレイフィアさんの対等な友達との会話が原作にはないので、口調はこんな感じかなと予想して書きました。