サーゼクス暗殺計画   作:キュウシュ

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ファンタジア文庫主催のハイスクールD×Dのトークショー面白かったですね。


イベント3

 ──今までの修行は修行じゃなかった。

 今まで一度も手を抜いて修行をしていたわけではない、とライは断言できる。

 生き抜くためには力が必要だったが、ライは魔力も少なく身体能力にも優れているわけでもなかった。

 だが、死にたくはなかった。

 そんなライが己を鍛えるのは当然の帰結だろう。死なないために修行を行っているのに、修行で死にそうになる程の事をしていたのだが、努力の甲斐虚しく微々たる成長しかしなかった。

 己の才能のなさに軽く絶望しながらもここまで生き残る事が出来たので運だけは良いと思っていたのだが……。

 

「マジで、はぁはぁはぁ、マジで死ぬ」

 

 ライは産まれてから一番の命の危機に瀕していた。

 

 何故、こんなことになったのかを知るためには数時間前に戻る必要がある。

 

 ◆

 

「九百、九十、九! 千!」

 目標を達成してライは地べたにうつ伏せになるように倒れこんだ。長時間腕立て伏せをしていたせいで、腕どころか体を動かすのすら億劫になっていたので体を起こす事はせず、床に寝そべった。

 ──ああ、気持ちぃ。

 地面から伝わる冷たさが、運動で熱を持った体を冷やしているのがとても気持ちが良かった。良い感じの疲労にライは意識が落ちそうになるが、汗がベトベトのまま眠るのは流石に気持ちが悪いので風呂にでも入ろうかと考えていた時、部屋の地面が光った。

 この光を見てもライは別段驚く事もない。既に何十回と見てきた光景だったからだ。

 光が収まるとそこには銀髪の女悪魔──グレイフィアが立っていた。

 

「ど、どうしたの?」

 上半身裸で汗でびっしょりなライを見て、グレイフィアは驚いた顔になった。裸の事と汗をかいている事のどちらの事を聞かれているのかライには分からなかったが、とりあえず無難な返事をした。

 

「すみません、少しトレーニングしていて……」

 寝そべっていた態勢からすぐに起き上がり、汗をタオルでさっと拭いて服を着た。

 

「今月は早いですね。どうかしましたか?」

 二人が合う日時は月の終わりの週の休日と決めていたので、まだ月半ばなのにも関わらず、転移してきたグレイフィアをライは不思議に思っていた。

 何かを考えていたグレイフィアはライの言葉に我を取り戻し、本題に入った。

「貴方、セラフォルーに何をしたの?」

「魔法少女談義と撮影ですけど、セラフォルー様に何かあったんですか?」

「いや、そう言うわけじゃないのだけど。……まぁいいか。サーゼクスから離れるようになったからお礼を言いに来たの」

「お礼を言われる程の事はしてませんよ。それにセラフォルー様とも友達になったので寧ろこちらの方がお礼を言いたい程です」

「セラフォルーと友、達になったの?」

 グレイフィアは頭を金槌で叩かれたような気がした。

 

 唯一の友達であるライが新しい友達を作ってしまった。喜ぶべきことであるはずが、グレイフィアはあまり喜ぶ事はできなかった。ライがいつか自分など放っていってしまうかもしれないという不安から。

「そ、その。セラフォルーと私とどっちが一緒にいて楽しい?」

 

「それは、もちろん……」

 ──セラフォルー様です。

 魔法少女という意味不明なモノの話しか二人はしなかったが、それでもライは一緒にいて楽しかった。それこそ、任務のため一緒にいなければいけないグレイフィアよりも。

 だが、グレイフィアが求めている答えがそれではないのをライは分かっていた。

「グレイフィア様ですよ」

「そう!」

 嬉しそうなグレイフィアを見て、正解を引いた事が分かりライは胸を撫で下ろした。

 ニコニコ顔のグレイフィアは上機嫌でサーゼクスの惚気話を何十分か話していたのだが、ライの腕がピクピクと震えていることに気づいた。

 ──トレーニングしてたって言ってたからかしら。

 そこで、グレイフィアはふと気になった事を尋ねた。

 

「ライはどうしてトレーニングなんてしてたの?」

 いつか起こるであろう旧魔王派と新魔王派との戦争のため、とライは答えたいところだがそんな事を言ったら爆弾が起爆しそうなので、偽のストーリーをでっち上げて語り始める。

「そうですね……。自分は自らの力の無さを知ってます。グレイフィア様の足もとにも及ばない、戦場に幾らでもいるような雑兵です。でも、そんな自分でも守りたいものや悪魔が出来た。守りたい悪魔の方が今は強いですし自分なんかが守るなんて烏滸がましいのも分かってる。でも彼女(あなた)を守りたい。だからもう失わないために、ずっと側に居て欲しいから自分は強くなりたい」

 

 我ながらそう悪くない話が出来た事に内心ガッツポーズをした。

 

「そう、そんなに彼女(セラフォルー)が好きなのね」

 グレイフィアは側にいるライにも聞こえない程小さな声でそう言った。

 ライとしてはグレイフィアに言ったつもりだったのたが、グレイフィアには一ミリも伝わっていなかった。そして残念な事に両名ともすれ違っている事に気づくことはなかった。

 

「修行をつけてあげるわ」

 なんだか心なしか気合いが入っているように見えるグレイフィアはそんな事を言い出した。

「グレイフィア様が、ですか?」

「ええ。貴方には色々助けられてきたし、その恩返しみたいなものよ」

 グレイフィアに修行をつけてもらう。先の言葉がグレイフィアに効きすぎたようだ、とすぐに悟ったライはなんとか回避しようと思い言葉を発する。

「いえ、流石に申し訳ないです」

 体に爆弾を埋め込まれてからは激しい鍛錬は行なっていなかった。どの程度の負荷で爆発するのか分からないからである。だがそんな事とはつゆ知らないグレイフィアと修行するというのは危険すぎる。

 ──下手したら……下手しなくとも死ぬ。

 

「そんな遠慮しなくても良いのよ。私と貴方は一番仲の良い友達、でしょ?」

「そう、ですけど」

「なら、決まりね!」

 ライとしては仲の良いというところに対して頷いたのだが、グレイフィアには修行を行う事を了承したと勘違いしてしまった。

 

 してしまったのだ。

 

「善は急げ、ね」

 グレイフィアはライの腕を掴み、無理やり転移した。

 

 ◆

 

「ここは?」

 突然見える景色が変わった事に焦り、ライは辺りを見渡した。

 木どころか草すら生えていないただただ広いだけの荒野、それがここだった。

「冥界の端の端。ここには誰も住んでいないから思う存分、修行が出来るわ」

 ──今何時だと思ってんだ、この女。

「明日の仕事にも差し支えますので、やるとしてもまた今度という事で……というかやりたくないんですけど」

「あら? 明日は休暇になるって知らなかったの?」

 ──業務連絡ちゃんとしろよ!

 ライは先輩執事を後で一発殴る事を決意した。

 

「それじゃ、始めるわね!」

 その瞬間、ライの真横を魔力弾が通過した。

 ただの魔力弾ということからもグレイフィアが様子見ということがわかるが、それでさえライは反応する事さえ出来なかった。

 視界の端には若干掠っていたらしく、髪の毛がチリチリになっているのが見える。

 

 もう、こうなったら止める事など不可能だった。だからライは意識を戦闘用に切り替える。

 

 この至近距離であの魔力弾が体に当たったら命の危機だと判断したライはすぐさま距離をとった。グレイフィアを視界に入れるため後ろを向きながら距離を取っていたのだが、その間は先の魔力弾が来ることはなかった。

 しかも手加減のつもりなのか、グレイフィアはその場から動くということはなかった。

 距離にして五〇メートル。

 離れ終わったところで、グレイフィアからの攻撃が再開される。

 

 ──至近距離ではムリでもこの距離なら、まだ避けられる。

 油断したわけではなかった。現状を確認して、一つ息を吐いただけだった。

 瞬間、直ぐ目の前に魔力弾迫ってきていた。

 一発目に隠れるように二発目を撃っていたらしいその魔力弾を回避する間はない。

 だが、体には当たると死ぬかもしれない。

 その思いから左腕を着弾地点に持っていった。

「────っ」

 ライの体には声にならない程の激痛が走った。

 痛いなんてものじゃなかった。左腕が消し飛んだかと錯覚するほどの痛み。

 蹲ってしまいたくなる体を無理やりその場から移動させる。

 直後、先程までいた場所に三発目が着弾した。

 ──止まっていたら、マズい。

 

 足を動かしながら現状を打開するために頭を働かせようとするも、痛みで上手く考えがまとまらない。

 ライの行く先を読んでいるらしく、一方向ばかりに移動していては捕捉されるのでライは縦横無尽に回避し続けた。

 

 ◆

 

 ──どれだけ避け続けたのだろうか。

 時間感覚など、遥か昔に消え去り一日以上動きっぱなしのような気がライはしていた。それでも動き続けられるのは日頃の鍛錬のおかげだった。

 グレイフィアは魔法使いや魔術使いではない。一般的な悪魔と同じで手のひらから魔力弾を撃つ。だから、手を向けている方向を見て予測しながら回避するという技術をライは習得しつつあった。

 

 痛み──痛覚が半分死んでいるのでもう痛いのかすら分からない──がおさまり、働くようになった頭で現状をどうにかする策は実はもう分かっていた。

 グレイフィアは何もライを殺そうとしているわけではない。これはあくまでも修行──ライにとっては死行──なのだ。

 

 ライが半べそかきながら降参するのならグレイフィアも攻撃をやめてくれるだろう。

 ──だけど。

 そんな無様な姿をグレイフィアに見せるわけにはいかなかった。グレイフィアの事であるから、ライを慰めてはくれるのだろう──まるで母親のように。

 そうなってしまったら任務遂行は絶望的だ。

 最も安全な方法もとれない、となると残された手段は一つしかなかった。

 

 ──グレイフィアを倒す。

 

 不可能に近い事はライも分かっていた。だが、これしかない。

 そう決意したライははじめて、グレイフィアに向かって走り始めた。

 行く手を阻むように魔力弾がライを襲うが、既に何十、何百という数を避け続けてきた。この距離なら恐るには値しない攻撃に成り果てていた。

 

 近づくにつれ次の魔力弾への時間は早くなり、回避行動が難しくなる。体にはいくつも魔力弾が掠り始めてきて、服などもはや布切れになってしまっている。足にも相当な疲労が溜まっているはずだ。だが……。

 

 ──あと、少し。

 

 走り続ける事はやめなかった。

 

 十メートル。この距離まで近づいてしまうと、もはや手の動きで攻撃を予測など意味をなさない、一瞬で攻撃がくる。

 

 それでもライには当たらない。

 百年と少し、グレイフィアの事を見続け考え続けてきたことにより、なんとなくだがライは攻撃が来そうなところを直感的に把握した。今のライなら目を瞑っていても攻撃を回避出来ると確信できる程には。

 

 残り五メートル。ここで初めてライは魔力を使うのを決心した。

 ──爆発するイメージ。

 

 遠距離からの攻撃をライは出来ないわけがない。だがグレイフィアに通じるとはとても思えなかった。だからこそ、ここまで魔力を温存してきた。

 ──この距離なら!

 

 魔力弾を放った瞬間、グレイフィアが防御壁を作ったのがライには見えた。

 放った魔力弾が防御壁とぶつかり爆発した。

 

 ライは砂埃が舞ったせいでグレイフィアを見失ったが、それは相手も同じ事。

 魔力もつき、体力も残り少ないライに撤退という選択肢はなかった。

 グレイフィアがはった防御壁は一方向のみ。防御壁がない場所に回り込みグレイフィアに接近戦を挑もうと近づいた。

 

「気づかないと思った?」

 背後を振り向くことすらせずに一撃を加えようとしたライにグレイフィアは魔力弾を放った。

 

 確実に鳩尾辺りに当たる攻撃だった。他の四肢で庇うことも出来ないタイミングで。

 そして事実、体には当たった。

 

 ──幻のライに。

 

 ここで初めてグレイフィアは表情を変えた。見たことの無い技。今のは何か、特別な力だった。

 ──ただの幻覚ではない。

 確実にそこにライは存在していた。だが、幻だった。

 聡明な彼女だからこそ、今のがどれだけ異質だったかを理解出来、そしてそれに意識を割かれてしまった。

 

 空から落ちてきているライに気付くことなく。

 

 

 

 ライ自身、何が起こったのか理解はできていなかった。当たると思った瞬間気づいたら上空にいたから。

 それに加えて謎の現象に体力も魔力も全て持っていかれて受け身を取ることすら出来そうにない。

 ──グレイフィア! 気づけ!

 グレイフィアに受け止めてもらいたくて、声を出そうとしたが疲れすぎていて声すら出せそうになかった。

 

 どんどん二人の距離は近くなりグレイフィアがライの存在に気づいたのは、不幸なことに二人が衝突する直前だった。

 ライの額がグレイフィアの額にぶつかる。

 

 疲れ切っていたライはぶつかった反動で意識を失ってしまった。

 一方、グレイフィアはかろうじて意識があったのだが、思いがけない男性の重さに耐えられず立っている事は叶わずライに押し倒されてしまう。

 

 グレイフィアは目と鼻の先にいるライと──していた。

 

 

 

 

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