サーゼクス暗殺計画 作:キュウシュ
ありがとうございます!
──なんだろう、あたたかい。
ライは後頭部に柔らかくそれでいて温かいモノを感じた。ずっとこのままでいたくなる謎の安心感がそこにはあった。
もう一眠りしようと、寝返りをしようとしたところで、背中に硬いモノを感じ段々と意識が覚醒していった。
「グレイフィア、様?」
ライが目を開けて最初に見たのは、グレイフィアの顔だった。
「おはよう、体は平気かしら?」
ライは視界にはいるグレイフィアの顔……より少し下にある大きい胸に目を一瞬奪われた。だが、グレイフィアに気づかれない程はやく、視線を横にした。そこで、ようやく自分がグレイフィアに膝枕をされていることに気づいた。
名残欲しいという気持ちもあったが、慌ててグレイフィアの膝から跳ね起きる。
「す、すみません。お膝をお借りしてしまい」
「そんな事気にしないで平気よ。それで、体調はどう?」
やけに心がこもっていないグレイフィアの話し方にライは首を傾げながら、自らの体の調子を確かめてみる。かすり傷からの出血で見た目は凄いことになっていたが、実際のところ動く分には特に問題がなかった。むしろ、なんだか今までより体が軽くなったような気さえした。
「問題ありませんが、勝負はどうなりましたか? なんだか記憶が曖昧で……」
ライは頭痛が酷く頭を抑えながら、グレイフィアに尋ねた。
「覚えてないの⁈」
「たしか、グレイフィア様に向かって走っていこうと決めた所までは覚えているんですが、そこから記憶が……」
ライは自らの記憶を辿ろうとするが、ある地点でぷつりと途切れてしまっていて微塵も思い出せそうになかった。
──この頭痛が原因なのか?
「……貴方は軽い脳震盪を起こしていたのでその影響でしょうね。……本当に何も覚えてない?」
何度も確認してきていることにライは疑問を抱いた。おそらく、何か忘れてしまった間に大事なことがあったのだろうことは推測できるのだが、忘れてしまっているので推測の域を出る事はなかった。
「はい、残念ながら」
「なら良いわ! 私だけが覚えてる、のね……」
グレイフィアは誰に言うのでもなく、そう呟いた。
「それで、グレイフィア様はどうしてこんな事を?」
突然、襲いかかってくるという意味のわからない事をしてきた理由をライは問いただした。結果的に生きているからいいものの、普通に死んでいた可能性もなきにしもあらずなのでちゃんとした理由が欲しかった。
「一先ず、貴方の実力が試したかったからかしら。魔力量や身体能力だけでその悪魔の強さは分からないもの。総合的に判断するなら実際に手合わせするのが手っ取り早い」
まぁ確かにそうなので、ライは反論のしようがない。というか手合わせしたくない理由が体に爆弾があるからというライの事情が特殊すぎるのが悪いといえば悪いだろう。
「戦い方、魔力量、身体能力から見て……甘く見積もって中級上位ってとこかしらね。ただ……」
──
「貴方って何か不思議な技というか奥の手みたいなものって持ってる?」
奥の手というものは、誰も知り得ないから奥の手足り得るのである。だから、グレイフィアもライがその事を隠していた場合、答えづらいと考えてこのような遠い言い回しをした。
「奥の手ですか? そんなものないですよ。あったらもっと早い段階でグレイフィア様に使ってます」
ライの顔に変化はない。グレイフィアから見てライが嘘をついているようには見えなかった。
──ならば、あれは?
潜在能力の覚醒、力の真の解放、土壇場での思いつき。この辺りがグレイフィアの考えられる理由だが、どれにしても常軌を逸していた。
魔王クラスの実力を持つグレイフィアに通用する技というだけでも珍しいが、どういう技かすらグレイフィアには解析出来なかった。
──彼は強くなる。
最上級、はたまた魔王クラスまで昇ってくるかもしれない。初めはライの心意気に感化されただけの修行だったが、本当に強くなるというならグレイフィアにも利がある。サーゼクスの持つ力が増えすぎて困るということは無いのだから。
──サーゼクスにライの事を報告。いや、彼の生まれをもう一度調べさせるべきですかね。
「また来月も修行をするので、覚悟しといてくださいね」
ライの顔が引きつったのはしょうがない事だろう。
◆
「ライくん、すごい疲れてるけど何かあったの?」
どこからかライが休みだということを入手していた、セラフォルーが修行から帰ってきて休んでいたライにメッセージを飛ばしてきた。セラフォルーからということもあり、ライは断ることをしなかったのだが滲み出る疲労をセラフォルーに見抜かれてしまった。
「いえ、まぁ少しやる事がありまして。あまり寝ていないんです」
「なら、紅茶でも入れて休憩にしよっか☆」
魔法少女の撮影をするよりも嬉しそうに茶会の準備をセラフォルーは始めた。ライはセラフォルーに準備をさせるのは申し訳ないと思い代わろうとしたのだが、楽しそうに準備しているセラフォルーを見て任せることにした。
「ライくんはさ、『悪魔の駒』って聞いたことある?」
セラフォルーが淹れてくれた紅茶──ライの予想とは反してとても美味しかった──を飲んでいる時に唐突にそんな言葉を投げかけられた。
「たしか……何百年か前に作られた、モノでしたよね。駒には不思議な力が宿っていて使われたものには力が与えられる。そして一番の特徴は他種族を悪魔に転生できるモノだと記憶していますが。なんらかの欠陥で一時生産が中止されていませんでした?」
魔王の一人であるアジュカ・ベルゼブブが開発したその駒は冥界の危機ともいえる子孫繁栄の打開策になりうる事で一時期とても話題になったのだが、欠陥があるという事が本人から説明されて悪魔の駒の配布がなくなった。
しかもかなり早い段階でその欠陥に気づいたために、初期の悪魔の駒はある特定層──貴族やそれ以上の者たち──にしか手に渡らなかった。
「欠陥という欠陥ではなかったんだけどね」
「セラ様は知ってるんですか?」
「そりゃ魔王様だから知ってるよ☆ そうだなぁ、例えばライくんは自分の力が何百倍にも強くなれるアイテムがあるとしたらどうしたい?」
「強くなれるですか?」
──めっちゃ欲しいです。
おそらくその欠陥というのは力の増幅。いや増幅しすぎる事だ、とライはセラフォルーから読み取り、それでいてセラフォルーにとって好ましい回答を行う。
「なんだか少し怖いというのが本当のところですかね。努力して得たものや元々生まれ持つ力ならともかく、誰かの手によって得られた力というものを自分はあまり使いたくはありません」
「それで、なんでも手に入るとしても?」
「力で手に入るものは所詮そこまで大したものじゃありませんよ。力というものは持っているだけでは凄いわけではないと思います。それをどう使うのかが大事なわけであって……すみません、大した力もない自分なんかがこんな偉そうな事を言ってしまって……」
「でもこれだけは、はっきり断言できます。サーゼクス様やセラ様のように誰かの為に使える者が本当の意味で強く、そして優しいんだと」
自分が考える優しい悪魔が言いそうなことを考えて話したライは、話しすぎて疲れた喉を潤すために紅茶を飲んだ。
一方でセラフォルーは涙を目に浮かべていた。
「ライくーん!」
セラフォルーは叫びながらライに抱きついた。
「私、感動した! 私なんかが魔王になって良かったのかいつも考えてた。けど、今日初めて魔王で良かったって思えた。もうもうホント好き☆」
セラフォルーは直ぐに失言に気付き、ライに対して撤回した。
「いや、好きってあれだからね。悪魔として好きみたいな、ね」
ワタワタしているセラフォルーを見てライはセラフォルーの前で心から笑った。
◆
「なんか話が脱線しちゃったんだけど、本題に入るね☆ 最近生産された分で私も悪魔の駒を持ったんだけど眷属はまだ、誰もいなくてね……。それで、良かったらなんだけど……ライくん私の眷属にならない?」
「自分がですか?」
思っても見なかった提案にライは目を大きく見開いた。
「信頼できる悪魔なんてあんまり私いないんだけど、ライくんの事がぱっと頭の中に思い浮かんだんだ。それで、さっきの話を聞いたらもっとその想いは強くなったの。だからもし良かったらなんだけど……私の眷属にならない?」
何のしがらみもない状態だったのならライは即答していた。魔王の下僕というのはそれだけ価値のある事だ。だがライには任務がある。
「……自分は魔王様の下僕に相応しくないと思います。力も知恵も足りていない悪魔が魔王の下僕だと知れ渡ったのならセラ様の名声が落ちてしまいます。なので……」
「そんなの私は気にしない! 力は私が持っているし、知恵もこれからつけていけばいいじゃない。心から信じられる悪魔が私には欲しいの」
本当の自分を見てもらっているわけではないと、ライには分かっていた。それでも、誰かに認められるというのが嬉しかった。
「サーゼクス様には恩があります。少し考えさせてください」
◆
「という、話があったんです。グレイフィア様は誰かの眷属になったりしているんですか?」
他人にはあまり話したくない事だったが、グレイフィアにだったら良いかと思い、珍しくライの方から呼び出して相談を行った。
「私はサーゼクスの女王に、と昔から誘われてるわ。正式に配布された悪魔の駒が上級悪魔全てに行き渡ったら使わせてもらうつもり」
それを聞いていてライは突然湧いた質問をグレイフィアに行った。
「グレイフィア様は主になる資格はおありなんですよね? 最上級悪魔ですし」
上級悪魔なら誰もが眷属の主になる資格がある。それはグレイフィアも例外ではないはずだ。
「私はサーゼクスの側にいないといけないから眷属を作ってもあまり主らしい事は出来ないわ。それに信頼できる悪魔も貴方ぐらいしかいないし、そもそも眷属が集まらない」
──という事は作れないわけではないのか。
任務の都合上、グレイフィアの近くにいるのが達成への一番の近道であるのは間違いない。だから、なれるのならグレイフィアの眷属になるのが最高の選択肢である。
そして、グレイフィアも眷属をまったく作らないと思っているわけでもない。ライが口八丁で上手く誘導すれば、眷属を作ろうと思い直すかもしれない。そうなったのなら、十中八九ライに声が掛かる。
──だが。
セラフォルーの勧誘を断りたくないという気持ちも、ライにはあった。
──任務を選ぶか、私情を選ぶか。
ライは