組織の捕喰者 作:(◯|v|)<Howdy!)
瀬長がコードネームを貰ったのち、他の主なコードネーム持ちとも顔を合わせた。ただし、ラムの命令で全身余さず隠した状態で。
黒のスーツに黒のトレンチコートを羽織り、黒のブーツに黒の手袋。フルフェイスの黒塗りの仮面を付け、内蔵された変声機で声を機械音声に変換。トドメにフードを被れば、頭の先から足の先まで黒一色の不審者の完成である。素肌など全く見えない、完全黒一色。
こんな格好で外に出れば事案認定待ったなしだが、ラスティネイルの主任務は敵対組織の殲滅や対象の暗殺である。人目に触れる必要がないか、そもそも人目に触れてはならないかの二択なので、実のところ格好そのものに問題はない。それに、素顔で一般人に紛れても極一部の人間以外はラスティネイルだと分からない、という利点もある。
ラスティネイルが初めに顔を合わせたのは、コードネーム持ちの男二人・女一人の狙撃手だった。左目の目元に蝶の刺青をした勝気な性格の女性がキャンティ、帽子とサングラスを身につけた寡黙な男性がコルン。二枚目風のサングラスをかけた男がカルバドス。
三人が一様に口を揃えたのは、ある意味当然の事についてだった。
「なあ、何でそんなに隠してるんだい?」
「…何か、後ろめたい?」
「流石にガチガチすぎやしねえかなあ…」
ですよね、とラスティネイルも同意した。そこからは三人に対して愚痴の嵐。
幹部とはいえ新入りだし、古株中の古株たるラムに逆らうわけにもいかない。だからといって仲間にすら顔を見せないのはどうかと思うし、そもそも暑くてかなわない。口調だって無理矢理中性的なものに変えているし、プライベートなことを聞かれても答えられないばかりか、プライベートで会っても話しかけることも許されない。
ぐちぐちぐちぐち。止まらない恨み節に根を上げたのは狙撃手組、特に堪え性のないキャンティだった。
「あぁぁあ、もう!さっきから延々とぐちぐちと!聞いてるこっちの方が鬱になっちまうよ!」
えぇ…と呆れるラスティネイルの手をキャンティがおもむろに掴み、コルンとカルバドスに目配せをしてずるずると引きずっていく。
「え、ちょ、え、どこに連れてく気ですかねぇ!?」
「ええいうるさい!気分転換にちょいと任務で敵の脳漿ぶちまけるよ!」
「気分転換が物騒すぎる!?ちょ、コルン、カルバドス、助けてぇ!」
「…頑張れ…」
「あー、まぁ、おつかれ?俺達も付き合ってやるからよ、ほら、元気出せ、な?」
「やめろぉ!その哀れむ視線をやめろぉ!」
結局。
「はぁ…来ちゃったよ…」
「おうおう、そんなに嫌だったか?」
「いや、別に嫌ではないんですけどね?何というか、気疲れしてしまって…」
「ほらほら、うだうだ言ってないで準備するよ!さぁ早く!」
「…オレ、頭撃ちたい…」
「的は沢山あるんだ、んな事気にしてんじゃないよコルン!」
今回の仕事は、敵対組織の殲滅。ラスティネイルとしては想定された通りの仕事だから構わないが、五十弱の相手の拠点に、いくらコードネーム持ちのみとはいえ狙撃手主体、しかも四人のみで襲撃を掛けるとは何事か。狙撃を得手とする人間は、意図的に訓練を積まない限りは接近戦に弱い。ラスティネイルから見てカルバドスはまだしも、キャンティとコルンは典型的と言えそうだった。とは言っても組織の幹部は例外なく食えない連中ばかり。隠し玉の一つや二つあったとしても驚きはしない。
ラスティネイルは各方面に散開して狩りの準備を進める狙撃手達を何となしに眺めながら、今回の任務でやれそうな事を模索し、考えに耽っていった。
「あーもう!亀みたいに篭りやがって!」
「いや、狙撃手に対する対処としてはこの上なく適切だろ」
『頭…撃ちたい…』
『こっちの連中も、完全に引きこもっちまいやがった』
まあ当然の事ながら、狙撃されれば姿を隠すのが当たり前。建物があるのなら、内部に陣取って立て籠もるのは当然と言えた。隣で騒ぐキャンティは兎も角として、通信機越しに聞こえるコルンとカルバドスの声もどこか不満げだ。とはいえ、見張りの為に外に出ていた人員のほとんどを手早く片付けたのには流石と言わざるを得まい。狙撃一本で幹部にまでのし上がってきた狙撃手達の腕は確かである。
しかし籠られては手も足も出ない。仕方ないか、とラスティネイルは腰を上げた。
「は?アンタ、どこに行くんだい?」
「え?いや、ちょっと突撃してこようかと」
「へ?」
『おい、待て、早まるな』
『…流石に、無謀…』
「適当に
『聞けぇ!』
カルバドスの制止をさらりと聞き流し、ラスティネイルは身を翻して籠城先へ向かう。パルクール染みた動きで屋根を伝い、籠城先の建物の屋根を踵落としで破壊し侵入する。それを見たキャンティの驚愕の叫びを通信機越しに聞きながら、手早く敵の手足をへし折って無力化していく。銃声をBGM代わりに、鼻歌交じりにぱぱっと
「おーい、準備済んだから始めるよ?」
『…え、あ、お、おう…』
ラスティネイルの声に反応したのはカルバドスだけで、その声も辛うじて絞り出したような声だった。キャンティとコルンは恐らく絶句しているのだろうな、なんて考えながら、適当に選んだ数人を掴み上げる。
「さて、クレー射撃もどきの開始かな」
その言葉と共に、ラスティネイルは掴んでいた男達を穴から
ラスティネイルのあまりにも強引すぎる制圧手段に絶句していた狙撃手達だったが、宙に舞ったのが人間であることに即座に反応し、ほぼ条件反射的に照準を合わせ発砲。投げ飛ばされた三人の男達を阿吽の呼吸で分担し、各々が頭部に一発を叩き込んだ。
「おぉ、やっぱり流石に上手いな」
三人の成人男性をほぼ同時に高々と投げ飛ばすという強烈な事をしておきながら、ラスティネイルの声はあくまで平常。
キャンティとコルンは一瞬固まったものの、楽しそうという事も相まって早々に切り替えたらしい。調子を戻した────むしろよりハイになったキャンティの催促に応じ、ラスティネイルは
「いやあ楽しかったよ!やるじゃないかアンタ!」
「…また、やりたい…」
「正直、いきなり突撃した時は肝を冷やしたけどな」
ばしばしとキャンティに肩を叩かれ、コルンからの好評を貰い、カルバドスから言外に心配させんなと言われたラスティネイルは、割と仲良くなった三人と連絡先を交換し、また一緒に任務に行く事を約束して別れた。
裏社会の者はほぼ例外なく弁えている。事情に嘴を突っ込むべきではないと知っているし、現に三人もラスティネイルに深入りはしなかった。ラムに口止めされていることも理由の一つだろうが、それ以上にラスティネイルが語りたがっていない事を察したからだろう。その心遣いが嬉しくもあり、心苦しくもある。
表には行けず、さりとて裏には染まり切れず。ほんと俺面倒な性格してんな、と自嘲して、ラスティネイルは帰路についた。