組織の捕喰者 作:(◯|v|)<Howdy!)
「……初めまして、ラスティネイルだ」
「……初めまして、シェリーよ」
「……………」
「……………」
誰か助けて。
十分程前。
付いて来い、と一言告げたジンによって半ば引きずるようにして連行されたラスティネイルは、入り組んだ道の先にぽつんと佇む施設へと連れてこられていた。警備兵であろう人員がジンの姿を見ては頭を深々と下げているので組織の施設であることは理解できたが、基本的に
ラスティネイルの本質を知るジンにはお見通しだったらしい。若干呆れたような目をしながら、ここに来て漸く説明を始めた。
「この先に科学者の幹部がいる。コードネームは“シェリー”。有能だが、組織への忠誠はほぼ無え。逃げる可能性もあるからな、
猟犬代わりだろうか。鼻は確かに利くが、だからといって犬扱いは遺憾である。察したらしく鼻で笑ったジンについていくと、セキュリティの一際堅い扉に辿り着いた。それは既に取り繕う事さえ辞めた牢獄で、侵入よりも脱出を阻む事に主眼を置いた造りだった。
厳重なロックを解除され開いた扉を潜り、絵に描いたような研究施設を抜けていく。白いリノリウムの床、マウスの入ったケージ、大小様々な機器、雑然と積み上げられた資料、綺麗に区分けされた薬品群。衣擦れと小さな議論の声以外は静かなもので、だからこそラスティネイルの感覚に引っかかる、
ここで待ってろ、という言葉に従って、先行したジンを見送ったラスティネイルは何となしに周りを見渡した。清潔な部屋に似つかわしくない血の匂いを嗅ぎ取る。数多くの動物のそれと、小規模ながら人間のそれを。アオギリの樹に属していた頃に見たものとは
やがてジンは一人の少女を伴って戻ってきた。歳はいいとこ中学生、下手したら小学生だろうか。赤みがかったウェーブ状の茶髪を揺らしながら、長身のジンの歩幅に早足で付いていっている。そんな少女が芯まで真っ黒なこの組織の研究施設に白衣を着込んで存在している事は、少なからずラスティネイルを驚かせた。
「雑談でもしていろ。適当な時間に迎えに来る」
そう言い残し、ジンはさっさと歩き去っていった。少女とラスティネイルは呆然とそれを見送り、次いで顔を見合わせた。少女の顔は困惑一色で、仮面の下では自分も同じような顔なんだろうな、と何処か他人事のようにラスティネイルはぼんやりと思った。
そして冒頭に戻る。
「…………」
「…………」
何を話せというのだろうか。共通の話題を持たないラスティネイルとシェリーの会話は、残念ながら長続きしない。話のネタが多い分野は互いに畑違いだ。シェリーだって効率的な人体の壊し方など教わったって困るだろうし、ラスティネイルも新薬の構造なんて聞いたって一割も理解できない。
いや、どうしろと?
「…………ねえ」
「…………うん?」
シェリーの声に、首を傾げて聞き返す。ラスティネイルとしては大歓迎だ。今は取り敢えず、この耳の痛い沈黙をなんとかしたい。
「貴方が、最近噂になってる“組織最凶の暴力装置”?」
「え、そんな呼ばれ方してるの?」
知らなかったなあ、なんて呑気な声を零すラスティネイルに、シェリーは半目を向けた。
「自分がどう思われてるか位、知っときなさいよ」
「いやあ、自分に対する評価にとんと興味がないものでね」
常識でしょ、と副音声が聞こえそうな声音のシェリーの言葉を流し、ラスティネイルは戯けた調子で返した。実際、他人の評価に然程興味はない。究極的には一人で生きていける自信があるからこその態度でもある。
「……まあいいわ。それで、銃で武装した敵の中に突っ込んだ挙句素手で人体を引きちぎったって聞いたんだけど、本当?」
「ん?ああ、事実だよ」
別段隠すような事でもない。赫子や食性、再生能力辺りは隠せと言われているが、筋力や反射神経は構わないと指示を受けている。規格外レベルの近接戦闘能力を持つ幹部として周囲には認知させるつもりらしい。それにしたって限度があると思うのだが。
うへぇ、と言わんばかりに顔を顰めるシェリーの頬を摘み、戯れに引き伸ばす。ふひょ!?とようやく年相応の反応を見せたシェリーに、ラスティネイルの肩が震えた。駄目だ、堪えられない。
「………っ、ふっ……!」
「
じたばたと暴れるが、残念ながら非戦闘員の抵抗でどうこうなる程ラスティネイルは
ぐにぐにとしばらく弄り回し、シェリーの目が潤み始めた辺りで手を離す。ほんのり赤く染まった頬をすりすりとさすりながら、シェリーが眼光を鋭くした。しかし目が潤んでいるせいで全く怖くない。むしろ微笑ましい気持ちすら沸き起こる。
「………私、貴方の事苦手だわ」
「子供扱いは嫌かな?これは失礼」
ラスティネイルの言葉の端々に笑いが滲むのを聞き咎め、シェリーの視線が更に鋭くなる。しかし拗ねているようにしか見えない。頭を少し乱雑に撫でてやれば、意外にも払われはしなかった。
「おい、迎えに────何やってる」
タイミングよく、あるいは悪く、迎えにきたジンがラスティネイルに頭を掻き回されるシェリーを視界に収めた。呆れ半分、嘲笑半分の溜息がジンの口から漏れる。熟れきった林檎よろしく顔を真っ赤に染めたシェリーが勢いよく後ろに下がり、手持ち無沙汰になったラスティネイルは残念そうに手を下げた。
「ラスティネイル、帰るぞ。ついでに仕事だ、存分に暴れろ」
「了解。“組織最凶の暴力装置”らしく派手に暴れてきますよ、っと」
「いい返事だ」
愉快そうにくつくつ笑うジンがコートを翻し、歩き去る。まだ顔が赤いシェリーに手を振って、ラスティネイルも踵を返した。