響が可愛いと思ったから勢いだけで思わず書いちゃったような艦これ二次   作:水代

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と言うわけで、今回から第二章です。
始めたころは、章分けするとか全く思ってなかったので、タイトル考えてませんでしたが、二章始まったので、章ごとにタイトルつけました。


背伸びしてるロリっ子が愛らしくて鼻から愛が流れそうな第二章
暁の出番ね


 ぷかぷかと波間に漂う浮きを見ながら、一つ欠伸をかみ殺す。

 波間に揺れるだけで一向に食いつきを見せない浮きを、けれど暢気な様子で呆けているのは、まさに釣りを楽しんでいると言えるのではないか、などとバカらしいことを考えてみる。

 釣り、と言うのは案外提督たちの間でも流行っている娯楽である。海と言うのは現在深海棲艦の蔓延る危険地帯であり、その海に面する鎮守府でまともに遊べる海での娯楽と言われれば釣りくらいしかないからだ。

 常に鎮守府に居続ける提督にとって、娯楽の数が少ない。そもそも仕事があるのだから、娯楽の時間も少ない。だから偶の休日に海に糸を垂らすだけでも十分な休養であり、娯楽なのだが…………。

「………………飽きたな」

 通常の鎮守府の十分の一も仕事の無い、我が鎮守府では時間に余裕がありすぎるせいで、だいたい普通の提督が一週間に一度程度の頻度で竿を握っているのに対し、自身はほぼ毎日ここで糸を垂らしている。

 それでもほとんど釣れた試しが無いのは、自身が下手すぎるだけなのか、それとも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のか。

 くわあ、と欠伸を噛み殺し、そのまま背を倒す。日に焼かれたコンクリートが程よい温かさを背に伝えてくる。

「………………あー、これはやばいな」

 日差しが、風が、気持ちよ過ぎて、釣りどころでは無い。

 このまま寝てしまおう、そんなことを考え、竿を持ち上げようとして…………。

 

「あー、またこんなところにいた!」

 

 聞こえた声に、動きを止める。首だけ動かし声にしたほうを見ると、鎮守府のほうからこちらへとやってくる一人の少女の姿。

 少し前までこの鎮守府にいた彼女と同じような服装をした少女の名前を暁と言う。

 暁が小走りにこちらへとやってきて、ふうふうと僅かに荒げた息を整えてから告げてくる。

「あなた宛に手紙が着てるわよ」

 ここに来る途中散々振り回し、よれてしまった手紙がこちらに渡してくると。

「それじゃ、暁は仕事に戻るわ」

 そう告げて鎮守府へとまた走っていく…………別にもう走る必要はないだろうに、などと思いながら、封の閉じられた手紙を視線を落とす。

 

 差出人は、ヴェールヌイ。

 

「……………………どれどれ」

 封を開けて、中に入った一枚の紙を開く。

 目を落とし、そこに書かれた内容に笑みを浮かべる。

 手紙には、現在の鎮守府…………中将殿のところで、どんな生活を送っているか、と言う簡単な報告と、こちらの安否を気遣うもの。

 そして、最後の一文に目を通した瞬間、笑みが苦笑に変わる。

 

 こちらは大丈夫。それから、司令官も暁…………姉さんと仲良くやってくれていると嬉しい。

 

 そう書かれた一文に、それはどうだろう、と思う。

 別に喧嘩をしているわけでもない。

 何か険悪なわけでもない。

 自身が何かしたわけでもなければ、暁が何かしたわけでもない。

 命令には従うし、出撃もすでに何度かあったが、一切の問題は無かった。

 極普通の提督と艦娘の関係、傍から見れば誰だってそう言うだろう。

 だが、けれど、それでも。

 

 暁は、この鎮守府にやってきてから、一度も自身を司令官と呼んだことはない。

 

 彼女(あかつき)が自身を呼ぶ時、いつも必ず『あなた』と呼ぶことに違和感を覚えていた。

 過去に響と言う問題のある艦娘と接してきた経験からか、その理由も薄々分かっている。

 

 つまり、それは――――――

 

 

 

 パタン、自室の扉を閉め………………そのままずるずると扉に背を預け崩れ落ちる。

「……………………………………なにやってるのよ、暁は」

 本当に、一体何をやっているのだろうか。

「……………………気づかれなかったかな、しれ…………あの人に」

 司令官、と口に出そうとして、けれど言葉にならず、結局あの人などと呼ぶ。

 本当に自分が一体何をやっているのか分からなくなる。

 あの人は妹の響が最も辛い時を共に過ごし、励まし、助けてくれた人だ。

 響から何度も話を聞かせてもらった、その度に優しい人なのだと、良い人なのだと、そう思わされた。

 さらに言うなら、あの人は深海棲艦に追われ、沈むだけだったはずの暁や仲間たちを助けてくれた。実際に助けてくれたのは響や島風でも、そういう風に作戦を立てたのはあの人だ。

 例えそれが、後から戦力として期待されたからのものであろうと助けてもらったのは事実だ。そもそもあの人は強制しなかった。命令できるだけの権限がありながら、その立場にありながら、それでも暁に言ったのだ、響のために力を貸してくれ、と。

 良い司令官だと思う。人柄も良く、能力も申し分無い。十分過ぎるほどに信頼に値する人物だ。

 

 だと言うのに。

 

 どうして自分は言えないのだろう…………どうして自分は呼べないのだろう。

 

 ただ一言、司令官、と…………彼のことを呼べないのだろう。

 

 わけが分からない、なんてそんなはずがない。

 

 本当は分かっていた。

 

「………………違うのよ、司令官は…………暁の司令官は…………」

 

 ―――――出撃だ、暁

 

 初めてそう言われた時、違和感があった。

 

 ―――――よくやったな、暁

 

 そう褒められた時、()()()()()、と思った。

 

 ―――――暁

 

 違う、そうじゃない。

 

 ―――――暁

 

 誰だ、お前。

 

 ―――――暁

 

 なんで(あかつき)の名前を司令官以外が呼ぶ?

 

「………………………………司令……官…………」

 

 つまり、結局のところ。

 

 駆逐艦暁にとって、自身の司令官とは、今は停職している彼に他ならない。

 

 それだけの話なのだ。

 

 なんて不様。

 

 自分からこの鎮守府を希望して転属しておきながら、もし司令官の代わりに自身を指揮してもらうなら彼が良いと決めたのは自分自身なのに。

 

 なのにどうして…………自分はあの人を認めることができない。

 

 ()()()()()()()()()

 

 だから代わりの司令官を一時的に司令官と呼ぶ、それだけの話なのに。

 

「…………………嫌…………だなあ」

 

 彼以外をそう呼ぶことを、けれど認めることはできそうに無かった。

 

 

 * * *

 

 

 自室にぽつんと置かれた椅子に腰掛け、ハードカバーの本を膝の上で開く。

 一ページ、一ページとめくっていきながら、その内容に目を通す。

 今日の本はとあるスポーツ選手の自伝だが、基本的に読むジャンルと言うものは雑多だ。軍学など自身にも関係のあることもあれば、経済学、小説、歴史本から雑誌や写真集のようなものまで、特にえり好みせずに読む。

 それは()に言われて始めた習慣のようなものだった。

「……………………それで、何か用かい? 司令官」

 本から視線を外さず、自室の入り口にいる女性に向かってそう問う。

 白い軍服を着た長い黒髪の女性。陸軍のカーキ色とはまた違ったその白い軍服は、海軍のものである証であり、この鎮守府でそんなものを着ている人物はただ一人、すなわちそれは提督であることの証左であった。

 この鎮守府に戻ってから二週間、初日に挨拶をしたきり一度も自身と顔を合わせなかった彼女。ヴェールヌイも積極的に顔を合わせようとはしなかった。自身も彼女も、まだ完全に振り切れてはいない、否…………きっと一生振り切ることはできないだろうから。顔を合わせれば辛いだけなのは、分かっていたから。

 けれどそんな彼女が会いに来た、きっとそれは…………。

 

「…………………………そうだな、聞きたいことがある」

 苦々しい声で絞りだすようにそう呟き、そしてその先の言葉を口にする。

「…………電のことを、聞かせて欲しい」

 その言葉に、ページをめくる手を止める。やはりそうだったか、そんな感想が心中に沸く。

 駆逐艦電。自身の妹である艦であり…………。

 現在の自身の最大の悩みの種でもある少女。

 最後に会ったのは昨日。だが何よりも衝撃的だったのは、二週間前の…………初日のことだった。

 

 

「おかえりなさいです、響」

 満面の笑み。こちらの鎮守府に戻ってきて最初に見たその笑みに、猛烈な違和感を感じた。

「突然他所の鎮守府に転属なんて言うから驚いたのですよ?」

 続けて告げた言葉に、何か嫌な汗が流れる。

「そう言えば…………」

 そして。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 その言葉に、自身の予感が間違っていなかったことを確信した。

 

 

「電…………は…………」

 言って良いのだろうか? 分からない、自分には分からない。

 何よりも大切な半身を失った電と、何よりも大切な相棒を失った司令官。

 そんな彼女たちの気持ちを、()()()()()()()()が伝える資格など、あるのだろうか?

 分からない、分からない、分からない。

 

 どうすればいいのかな、司令官。

 

 心中で呟いたその言葉に、はっとなる。今自身が自然と司令官と呼んだのは、目の前の彼女のことでは無かった。そのことに気づいてしまったからこそ、目を大きく広げる。

 と、同時に思い出す。そうだ、何を逃げようとしている…………全部自分のせいなのに、何を一人だけ楽なほうへと逃げようとしている。

 一体自分は何のためにここに戻ってきたのだ、一体自分は何のために彼の元から去ったのだ。

 

 全部全部、このためではないか…………。

 

 もう遅すぎるのかもしれない。もうダメなのかもしれない。

 それでも、今諦めれば取りこぼしてしまうものがある。

 それでも、今諦めなければ掬えるものがある。

 ヴェールヌイの名に賭かけて、今度こそ守らなければならないものがある。

 

 だから告げなければならない、だから言わなければならない、だから逃げてはならない、だから言い訳してはならない。

 

「…………電は」

 

 そうして、自身、ヴェールヌイは。

 

「雷のことを…………雷がもういないことを」

 

 その、最悪の事実を。

 

「忘れてしまっている」

 

 告げた。

 

 

 * * *

 

 

「…………………………ふーむ」

 机の上に広げた地図と睨めっこすることすでに十数分。

 地図の上に赤いマーカーで書き足された文字で地図の半分以上が埋まっている。

「…………えっと、これは何かしら?」

 不思議そうに小首を傾げながら地図を見る暁に、次の出撃の地図だ、と答える。

「出撃?」

「ああ、ちと厄介なことに、この前の戦いの討ち漏らしがいるらしい」

 この前の…………暁がこの鎮守府へとやってくる切っ掛けとなった戦い。

 駆逐艦、軽巡洋艦、重巡洋艦の高速艦たちは島風が引きつれ、殲滅した。

 戦艦、そして空母はヴェールヌイが引きつれ、殲滅した。

 そして道中の岩礁地帯に残してきた潜水艦を、負傷しながら戻ってきた暁を使って追い払ったのだが、今回の討ち漏らしと言うのはその潜水艦のことだった。

「…………この辺り、とこの辺り。特に南西の島の密集地帯。この辺りに潜んでいると思ってる」

 ただ広い海のど真ん中に潜るだけでは、爆雷の良い的でしかない。適当に爆雷を撒くだけで終わる。

 敵だってそんなこと分かっているからこそ、そう簡単にやられるような場所には逃げ込まない。

「敵を逃がさないように、探信儀(ソナー)を使って敵を探しながら北へと迂回。逃げ道を封鎖するように少しずつ探索範囲を広げていってくれ」

「了解よ」

「敵の魚雷にだけは気をつけてくれ、深追いする必要はない。敵の総数は少ないとは思うが、それでもどれだけいるのかも不明なんだからな」

 分かってるわ、と暁が不敵に笑い(微笑ましく)、呟く。

 

「暁の出番ね」

 




今日も鎮守府はあっちもこっちも問題だらけです(

暁ちゃんを二章に据えた時点で、実は三章が電ちゃんメイン、四章が雷ちゃんメインと言う構想が出来上がってしまったので、もう完全にタイトルからかけ離れてますけど、第六駆逐隊の面々を中心に書いていきます。

3-4&4-4クリアしました。羅針盤が最凶だった。

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