響が可愛いと思ったから勢いだけで思わず書いちゃったような艦これ二次   作:水代

13 / 53
ホントどうすればいいのかな

 

 

 驚愕と言うのは予想を超えた事態が起こった時に沸く感情だ。

 そう言う意味では、この心に走った衝撃を驚愕と言うのだろう。

 勤めて表情を崩さないようにしてはいるが、それでもこの衝撃を隠しきれている自信は無かった。

「こうして会うのは久々だな? ようこそ、私の鎮守府へ」

 そう言って、目の前の女性…………火之江(かのえ)中将は不敵に笑った。

 

 女性の軍人と言うのは、過去から見ればあり得ないようなことだったらしい。

 と言うか、今でも陸軍と空軍では滅多に見ないと言っていいほど珍しい存在である。

 だがこれが海軍となると意外と少なくない。彼女たちは全員が提督になるか、ないし、提督を目指している。と言うかそれ以外に道はほぼ無いと言っても良い。正確には、提督と言う立場に女性を増やそうと海軍が積極的に動いているのだ。その理由としては分かりきったことではあるが、艦娘の存在がある。

 当たり前だが、艦娘と言う名の彼女たちは女性しかいない。そして提督と言うのは艦娘にとって非常に密接に関わっており、艦娘にとって最も近い距離にいる存在と言っても良い。

 つまりあれだ…………艦娘とそういう関係になる提督と言うのが過去続出したのである。中には艦娘と致してしまった提督までいる。

 艦娘と言うのは個々の見解はともかく、海軍全体からすると兵器である。つまり所有者が存在する。それは提督ではなく、国家と言うもっと規模の大きいものによって管理されている。つまり、国家から貸与されている形なのだ。

 その艦娘に手をつける、と言うことは即ち貸与物の私物化、横領に値する…………らしい。一応法に照らし合わせるとそうなるらしい。そんな感じに処分された提督が過去続出したらしい。さらに、艦娘は先ほども言ったが女性人格しかいない。その精神性もまた女性のソレであり、男性提督とは反りの合わない潔癖症のような艦娘と言うのも中にはいて、まあそんなもろもろの事情を一まとめに解決するために海軍が推奨したのが女性提督だ。

 そもそも同姓ならそんな関係にもならないだろうし、同じ女性ならば艦娘の気持ちも理解してやることができるだろう、と言うある意味艦娘の気持ちを汲んだように見えてその実、艦娘相手のカウンセリングを整備、などと称する辺り上層部の艦娘の扱いと言うのが伺える。

 まあそんなこんなで海軍には女性提督が増えている。だが基本的に女性提督と言うのは昇進しにくい。中佐以上の女性提督なんて今まで数えるほどしかいない、と言っても過言でないほどだ。

 理由など簡単である。女が自分と同じ地位に、あるいわそれ以上に立つことを認められないやつらが上に居座っているからだ。こればかりは陸海空どの軍でも共通だ。

 そんな中で女性でありながら中将と言う地位に上り詰めた目の前の人物は、つまりそれほどの傑物である、と言う証左でもあった。

 

 そう…………女性である。当たり前だがこれでも上官である、何度も会ったことはある。

 だが、いつも帽子で髪は隠れていたし、いつも同じ軍服姿でしか会わない故に気づかなかった。

 目の前の上官殿が、自分とは違う性別の持ち主であると言うことを。

 いや、だからどうした、と言う話ではある、あるのだが…………それでも驚愕するしかない。

 男だと思っていた人間が女だった、言葉にすればそれだけなのだが、実際に衝撃で思考が止まった。

「あ、の…………中将……殿……?」

 ぱくぱくと、驚きのあまり開いては閉じるを繰り返す口からやっとのことで漏れた言葉がソレだった。

「どうかしたか?」

「あ、いえ…………その…………その、髪…………いえ、なんでもありません」

 今日の中将殿は珍しく帽子を被っていない。そのせいか、肩ほどまで伸びた黒い艶やかな髪がはっきりと見えていて。そこでようやく気づく、自身のこれまでの勘違いに、そして目の前の人物の性別に。

 会うたびに無愛想な…………機嫌の悪そうな表情をしていたから、こうして笑みを浮かべているのを見るのも初めてだが、こうして見ると相当な美人であった。それこそ、艦娘と呼ばれる彼女たちと比べても遜色無いほどに。

「ふむ、そうか…………まあいい。とにかく今日はよく来た。存分に歓迎させてもらおう」

 そう言って、目を細める中将殿。その目は表情とは裏腹にどこか真剣な色があり、一体何故自分がここにいるのか、思わず考えてしまうくらいには自身を困惑させた。

 

 そう、そもそもの始まりは昨日唐突にやってきた島風だ。

 

「………………これは?」

「読んだそのままよ?」

「招待状と書いてあるが?」

「だから、そのまま」

 事前の連絡も一切無く唐突に現れた島風に、自身もそして暁も慌てて島風の元へと向かった。

 事前連絡も無いということは、何か緊急性の高い…………そう、この間の大海戦以上の出来事でも起こったのかと危惧したからだ。

 暁を伴い、島風と面会する。そうして挨拶も抜きに、差し出されたのは一通の手紙。

 一体何なのか、そんな戸惑いはあったが、島風に焦った様子が見られないことから、火急の事態と言うわけでも無さそうだと判断すると、手紙の封を切る。

 そこに書かれていたのは、招待状と表紙に銘打たれた折りたたまれた紙。

 招待している相手は…………中将殿。

「…………………………これは何かの手の込んだ悪戯か何かか?」

 あの中将殿が、自身を、招待?

「それとも、ついに自分をクビにでもするつもりか?」

 この間の海戦の時、中将殿に歯向かったのが今頃問題になったか?

「…………はぁ、本心言わないから、こうやって曲解されてるのよ、あのバカ」

 そうやってあれこれ考えていたせいか、机を挟んだ向かいに座る島風の呟きを聞き逃した。

 だが、形はどうあれ、上官からの直接名指しによる召集だ。行かない、と言う選択肢は無いだろう。

 

 と、まあそんなことがあり、翌日、暁を伴い中将殿の鎮守府へと移動してきたわけだ。

 到着して早々、自身は応接室へ。暁は艤装のメンテナンスのために工廠へと案内役の艦娘に連れて行かれた。

 応接室で手持ち無沙汰にすること十五分ほど。ノックと共に扉が開かれる。

 来たか…………そう、心中で呟き、そちらへと向いて…………。

 

 入ってきた女性の姿に、驚愕した。

 

 

 * * *

 

 

 カツ、カツ、と革靴で石畳を叩きながら一人の男が薄暗い廊下を歩く。

 天井に吊るされた電球に、けれど電気は通っておらず窓から差し込む僅かな陽光だけが廊下に明かりをもたらしていた。

「………………………………………………」

 黙したまま、目を伏せて一歩ずつ、まるで死刑台に上る囚人のような足取りで男は進む。

 進んで、進んだ先には一つの扉。ドアノブに手をかけ、回す。

 がちゃり、と音を立てる…………カギはかかっていない。

 けれど男は扉を開かない、よく見ればドアノブを握るその腕は僅かに震えていた。

 やがて意を決したように男がそっと扉を開く。

 

『あら、司令官、おかえりなさい』

 

 そこにあったのは誰もいない部屋にぽつんと置かれた大きな机と椅子。

 締め切られたカーテンに遮られ、室内は暗い。

 片隅にぽつんと置かれていたのは、最近買ったばかりの本棚。

 

『難しい本がいっぱいね…………へ? よ、読めるに決まってるじゃない、私はもう大人なんだから」

 

 ふと机に置かれた洒落た電気スタンドに視線が止まる。

 

『可愛くない? そんなことないわよ、とっても可愛いじゃない。もう、司令官ってば紳士じゃないわよ?』

 

 脳裏に蘇る記憶に体が震える。

 どさり…………と、体が崩れ落ち、膝を付く。

 そして独り、震える声で呟く。

 

 すまない、と。

 

 すまない………………暁。

 

 

 * * *

 

 

 気まずい。中将殿の二人きり、応接室で机を挟んで向い合うと言うこの状況に冷や汗が流れる。

 胃がキリキリと痛み、唾液を何度も飲み込んだ口内はカラカラに乾いている。

 すでにこうして向い合ってゆうに三分は過ぎている。

 秒に直せば百八十秒…………いやもう二百秒は過ぎたはず。

 なのに会話は一度も無い。中将殿も入ってきた時に声をかけてきたものの、ソファに座ってからは黙りこくり、口を噤んでいる。

 こちらから話かけたほうがいいのだろうか? とも思ったが、けれど何を話せばいいのか分からず黙りこくる。

 そうしてさらに一分、二分と経過して、自身がこの部屋に入ってきて五分は経とうと言うその頃。

 

「…………………………キミは、私を恨んでいるのだろうね」

 

 ふいに、中将殿が口を開いた。

 その唐突な始まりに、そしてそのあまりにぶしつけな内容に、数秒思考が止まった。

 そんな自身に畳み掛けるように中将殿が続ける。

 

「まあ正直言えば、恨まれるようなことを言っている自覚はある。だからそのせいでキミが私を恨むと言うのなら、それは完全無欠に正しいことだろう」

 

 いきなりそんなことを言って来る中将殿の意図が掴めずに黙り込む、だがすぐに考えを改める。

 少なくとも、このまま決め付けられたままでいるのは、我慢は出来ない。

 

「自分は、あなたが嫌いです」

 

 はっきりと、言葉と言葉に合間に差し込むようにそう言うと、中将殿が面くらったように目を見開き、そうしてやはり、と言う表情を浮かべた。

 

「けれど………………別に恨んじゃいません」

 

 そんな自身の言葉に、はっきりと中将殿が驚きの表情を浮かべる。

 正直言えば、自身はこの人が嫌いだ。あんな状態の響を自身の鎮守府を送り込んだことは許せそうに無い。

 どうして自分たちで響を助けようとしないのか、生きることが辛い、そんな表情を浮かべる彼女を見るたびに、自身はそう思い、彼女を自身の下へと送ってきた中将殿を嫌った。

 だが同時に信頼している。中将殿がどれほどこの国の平和を願っているか、それを知っているだけに。どれほど艦娘と言う存在を大事にしているか、それを知っているだけに。

 まあだからこそ、どうして響だけあんな捨てるような真似をしたのか、そう思ってしまう部分もあるのだが。

 中将殿が声にもならない声で口を開く…………どうして、と。

 

 懐から一通の封筒を取り出す。紙がくたびれ、すっかりよれてしまったそれは、その古さを思わせる。

 すでに口を切られた封筒の中から一枚の便箋を取り出すと、それを机の上に置く。

 

「…………これは?」

()()()()()()()

 

 その言葉に、驚愕と言う言葉すら生温いほどに衝撃に打たれる中将殿。

 

 翔鶴型航空母艦2番艦、瑞鶴。

 

 自身が生まれた初めて出会った艦娘の名であり。

 

 自身の父の秘書艦を勤めていた…………第一艦隊旗艦を長らく勤めていた少女の名であり。

 

 

 

 中将殿が撃沈させた艦の名でもある。

 

 

 

 * * *

 

 

 窓の外を見ればすでに夕暮れ時。

 夕日が眩しいと感じる、だがそれでも窓の外を…………そこに広がる海を見続ける。

「提督? どうしかしたの?」

 秘書艦である島風が不思議そうに尋ねてくるが、ちょっとね、とだけ答え、そのまま黙する。

 自身の雑な答えに島風が不満そうにこちらをジト目で見てくるが、それを気にする余裕すら自身には無かった。

 

 瑞鶴。

 

 その名をまさか今頃になって聞くことになるとは、あまりにも予想外過ぎた。

 そしてその遺言をまさか彼が持っているとは、想像も付かないことだらけで、頭の中は混乱しきっていた。

 結局、彼と碌な話もできないままに最初に会合は終わってしまっていた。

 渡された一通の手紙、彼曰く、()()()()()()()()()()()

 

 どうして今頃、そう尋ねる自身に、彼は笑ってこう答える。

 

 だって、自分はあなたが嫌いですから。

 

 全く持って自業自得だ。彼に嫌われるようなことをしたのも自分なのだから。

 例え、()()()()()()()()()()()があったとしても、だ。しかもその理由が自分()がりな一方的な理由なら尚のこと。

 手の中で封筒を弄ぶ。夕焼けの空へと掲げ、それを眺めていると、横から封筒がすっと抜き取られる。

 視線をやると、島風がこちらを不満そうに見つめながら頬を膨らせていた。

「てーとく! いい加減、返事してください」

「島風、返してくれる?」

 そう言って封筒へと手を伸ばすが、島風がずいっと封筒を持った手を下げて遠ざける。

「……………………島風?」

 じと、とした目を彼女を睨む。だがそれに怯まないどころか、それ以上に気迫でこちらに詰め寄ってくる。

「さっきからおかしいですよぉ! これが原因ですか?」

 ついっと、手元の封筒に視線をやる。ギッ、と視線を光らせると、おもむろに口の閉じた封筒の封を破り…………。

「止めろ島風!!」

 とっさに呼び止めたせいか、自身が思っていたよりも大きな声が出た。そんな自身の声にびくり、と驚き目を丸くする島風。

「あ、いや…………その、本当に大丈夫だから。それを渡して」

 極力刺激しないように、そっと手を差し出す。だが島風はふるふると震え黙るだけで…………。

 あ、不味い。そう思った時にはもう遅かった。

 

「提督の馬鹿! もう知りません!」

 

 机の上に封筒を叩きつけ、風のようにあっという間に部屋を飛び出していく。

 後に取り残されるのは、ぽつんとそれを眺める自身だけであり…………。

 

「ああ…………もう…………ホント、私の馬鹿」

 

 どうしてこうなった、と思わず帽子を手で抑えながら、ずるずると椅子の上で崩れ落ちた。

 彼を呼び出しておきながら碌に話も出来ず。

 もう過ぎ去ったはずの過去が思わぬところから蘇り。

 挙句の果てには、最も信頼している秘書艦に逃げられる。

 本当にどうしてこうなった…………。

 

「…………………………ホントどうすればいいのかな」

 

 




珍しく中将殿のターン。
そしてここにきてまさかの新キャラ瑞鶴。

自分の勝手なイメージですけど、中将は中将の鎮守府周辺の海域の鎮守府に着任している佐官たちのまとめ役みたいな感じです。というか、中将の子飼いの佐官を自分の鎮守府の周辺に着任させている、と言うべきか。ただまとめ役にしては島風色々動かし過ぎですけどね。

この間投稿した時感想来なくてさびしかったので、感想お待ちしてます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。