響が可愛いと思ったから勢いだけで思わず書いちゃったような艦これ二次   作:水代

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まだ大丈夫、平気さ

 

「先日は途中で終わってしまったからね…………改めて話をしようか」

 昨日とは打って変わった様子の中将殿の執務室で、豪奢な机を挟んで二人向かい合って座る。

 昨日までの動揺は一切見せず、まるで何事も無かったかのような表情で、中将殿が話を切り出す。

「あまり余計な話は端折って言う、今回キミをこの鎮守府に呼び出した件についてだ」

 あの招待状と言うのはやはり(てい)の良い召集令状だったらしい。

「まず前提として、今の海軍の現状、と言うのは知っているか?」

 中将殿の言葉に、自身は首を振る。と言うか、知っているはずも無い。

 何せ提督となって最初の鎮守府があの孤島で、本土との接触もほぼ皆無だ。

 さらに言えば、自身は未だ少佐。提督となってから昇進もしていないので、鎮守府を放り出してまで本土へと行く用事も無い。精々こうして、近隣の海域にある中将殿の鎮守府にやってくるくらいだろう。

 そんな自身の状況を察してか、中将殿が苦笑する。と言うか、自身の現状の原因の半分以上は目の前の人物なのだから、そのくらい分かっているはずだ。つまり分かってて聞いているのだから、性質が悪い。

 

「まず現状、海軍には三つの派閥がある」

 そう言って中将殿が人差し指を立てた。

「一つ、深海棲艦の脅威に対し、積極的に攻勢に出、これを撃破。この海より深海棲艦を根絶やしにしようとするタカ派」

 続けて中将殿が中指を立てる。

「一つ、深海棲艦を排除よりも、本土の防衛、海域の確保を優先し、専守防衛に徹しようとするハト派」

 さらに中将殿が薬指を立てる。

「最後に、両方の意見を取り入れ、本土の防衛と敵深海棲艦の撃破、海域の制圧を並行して行おうとする中立派」

 そこまで言って、中将殿が言葉を止める。そして机の上のソーサーに置いたカップにポッドから珈琲を注ぎ、こちらの目の前に置いて来る。それから一度立ち上がり、部屋の壁際に置かれた棚からもう一組のカップとソーサーを取り出すと、同じように珈琲を注ぎ、また座る。

「ここから少し面倒な話になる。珈琲でも飲んで落ち着きながら聞いてくれ…………ああ、ブラックで大丈夫だったかな?」

 そんな中将殿の問いにこくりと頷きつつ、言われた通りにカップに口をつけると、珈琲特有の苦味が口の中に広がる。だが決して悪くは無い、否、むしろなんとも形容し難い、癖になりそうな美味しさがあった。

 提督になる以前は良くインスタントコーヒーを飲んでいたが、うろ覚えに覚えているその安物の珈琲とは全く違う味わいに、少しだけ値段を聞くのが怖くなった。

 そんなこちらの心情を知らず、中将殿が慣れた仕草でカップに口をつける。女性だと知った今、こうしてその仕草を見ていると、確かに何となくだが女性らしい気品のようなものがある。まあそもそも今までこうして中将殿と二人で飲食を共にする場面など無かったので気づかなくて当然なのかもしれないが。

 ふう、と中将殿が一つ息を吐き、こちらを見つめる。どうやら話の続きをするらしいことを察した自身も身を正す。

 

「一つ尋ねるけれど、少佐はこの中で最大派閥と言うのがどれだと思う?」

 

 そう言って中将殿が尋ねてくるが、こちらとしては正直分からない、と言ったところだ。

 だが海軍の現状、と言うよりも、現在のやり方を考えれば…………。

「中立派、ですか?」

 その答えに、中将殿が頷く。どうやら合っていたらしい。

「今の海軍の体制を考えれば分かるとは思うが、全体の半数以上が中立派で占めている。特に三人の元帥の内の二人、十人の大将のうちの七人が中立派と言われている」

 上層部までもが中立派で圧倒しているとなると、タカ派もハト派も相当に厳しいのだろうことは分かる。まあそんな派閥消えてしまったほうが自分的には助かるので同情も無いが。

「タカ派は藤枝宗一郎元帥を筆頭に、副島雄大大将、二之島遼平大将などが代表的だよ。名前くらいは聞いたことは?」

「確か三年前の空軍第三の解体に反対していた人でしたか」

 深海棲艦が現れて以来、陸軍も空軍も非常に立場が低くなった。と言うか、海軍の立場が急上昇した結果、相対的に低くなったと言うべきか。

 いや、陸軍は本土防衛の最後の砦と言う名目があるが、空軍はそれより酷い。

 何せまともに飛べることができるのは、本土の上空だけと言う有様である。

 どんな航空機を使っても、海上に出た途端、機械類が異常な係数を示し、通信やレーダーと言った電波を使う機材類は一切使えなくなる、深海棲艦の出現が理由とされているが、具体的な原因は不明。さらに深海棲艦の艦載機と戦闘しても、艦娘の砲撃でも無ければ艦娘の放った艦載機でもない、普通の航空機ではその機体の十分の一どころか五十分の一にも満たない敵の小さな艦載機に勝てない。

 理由は分からないが、深海棲艦の艦載機は海上以外には飛んでこない。だが海上に出ればいとも容易く撃墜される。何せレーダーが使えない以上、肉眼で捉えるしかないが、その大きさは五十センチにも満たないのだ。広い海、広い空、そこから点のような小さな艦載機を見つけることなど、ほぼ不可能と言っても良い。

 この狭い島国は、海と空を奪われている。そして僅かながらではあるが、海を取り戻した海軍と未だに空を取り戻す目処の立たない空軍。どちらが重要視されたかなど言うまでもない。

 そして三年前の夏。航空自衛隊首都防衛第三航空隊とかそんな名前の空軍の部隊の解散が政府への議案として出題された。

 その際、最も強く反対をしていたのは勿論空軍のトップであるが、意外なことにその次に反対を強めていたのが先ほど名前の挙がった海軍元帥藤枝宗一郎。いや、意外と言うほどでもないのかもしれない。何せ空軍の元帥と彼は仕官学院時代の級友だったらしい。

 そんな風に自身の思い出す限りの情報を口に出すと、中将殿が頷く。

「大よその認識はそれで構わない。そして次にハト派、これが現在の最大の問題でな」

 挙げられた名前は、けれど自身には聞き覚えの無い名前ばかり。

「ではこの名前は? 斑鳩正輝大将」

「え?」

 不覚にも、聞き覚えのある名前に、声が口をついて漏れた。

 と言っても、直接面識のある人物ではない。

 ただ斑鳩正輝と言う名前は…………自身の父親の盟友と呼ばれた人間の名前である。

 目の前にいる自身の父の右腕だった女性を思わず見ると、中将殿が頷く。

「気づいたか…………そう、キミの父親、狭火神大将の友人と言われていた男だよ」

 目を丸くする、と言うよりも、目を見開く、と言ったほうが正しい自身の様子を無視し、中将殿が話を進める。

「ハト派と言うのは基本的理念として専守防衛を掲げている。だがその中でも真面目に国のことを考えているやつらは本当に一握りでね、大半は政治家の息のかかった人間が首都防衛を声高に主張するだけのやつらだ」

 つまり、外敵に恐怖した政治家たちが軍に干渉してきた結果生まれた派閥なのだと言う。

「正直言えば、害悪だよ…………これまでの彼らの主張で一番凄かったのは、国有戦力の一極化、だったかな?」

 国有の戦力の一極化、つまり全ての軍を一極に集中させる。そしてその戦力の手綱を自分たちに握らせろ、と言う話らしい。

「そしてその集中させた戦力を在中させる場所が首都東京。何がやりたいか分かり易すぎて最後まで主張するより早く却下されたけどね」

 あまりに、と言えばあまりになその様相に、さしもの中将殿も疲れた表情で珈琲を口に含んだ。

「冷めてる…………淹れ直そうか」

 小休止、と言ったところか、中将殿が席を立ち、ポッドを片手に執務室の隣の部屋へと向かう。

 自身のところの鎮守府と同じ作りなら、恐らく給湯室があるはずの部屋、先ほどの言葉から察するに珈琲を淹れ直しに行ったらしい。

 独り部屋に残された状況。少しばかり頭の整理が必要だったので、好都合と言える。

 まず前提として、現在の海軍は三つの派閥がある。タカ派、ハト派、中立派。

 そして最大派閥は中立派。恐らく現在最もまともな派閥と言える。

 そして最もまともじゃない、あの中将殿が害悪とさえ言い切った派閥がハト派。

 ハト派は政治家との癒着が激しく、政治が軍事に干渉してきている現状を中将殿は良く思っていない…………まあそれを良く思う人間なんて早々いないとは思うが。

 それと何故か父親の盟友と呼ばれた人間がハト派に属している。

 そして自身は中将殿によって何らかの目的があって呼び出された。そしてそれは、中将殿が前提と言ったようにこれらの派閥のことに関係があると思われる。

 

 そこから予想するこの後の展開は…………。

 

「どう考えても、ろくなことじゃねえな」

 

 そんな予想が簡単に出来てしまい、思わずため息を吐いた。

 

 

 * * *

 

 

 駆逐艦暁は一人、鎮守府内に用意された客室で佇んでいた。

 一緒にこの鎮守府にやってきた青年はこの鎮守府の提督と面会中であり、現在時間は無い…………まああっても仲良く肩をつき合わせて話すような仲でも無いが。

 昨日は何週間かぶりに出会った妹の響と話している内に眠ってしまっており、まだ少し話し足りないのだが、響は響でこの鎮守府の艦娘としてやらなければならないことがあるはずだ、つまり時間は無い。

 少し背の高い椅子に座って足をぶらぶらとさせながら考え込む。

 

 その時、ふと思い出されるのは昨夜の響との会話だ。

 

「ねえ、響は――――――――」

 

 

 * * *

 

 

「響は確か最初は今の司令官のところにいたのよね?」

 姉妹二人で一つのベッド、と言うのは中々良いかもしれない…………そんなこと思考の端で考えながら暁は尋ねる。元来、人の温もりが恋しい性質だからか、同じ布団に包まって眠る包まれるような暖かさに、どこか心地よいものを感じていた。

 と、まあそれは置いておき、そんな暁の答えに、ヴェールヌイ……響が頷く。

Да (ダー)(そうだよ)…………私はこの鎮守府で建造されたんだ」

 響の肯定に暁が、じゃあ、と前置きして再度尋ねる。

「司令官が変わった時、違和感とか感じなかった?」

 そんな暁の問いに、響が少しだけ考え込み、あっけからんと答える。

「無かった、かな………………いや、それどこじゃなかった、って言うのが正しいのかもしれない」

「それどころじゃ、無かった?」

 暁が不思議そうな顔をしているのを見て、響が苦笑する。その笑みに、暁がバカにされたように感じ、頬を膨らませる。

 けれどすぐに内心の怒りも収まる。そのアイスブルーの瞳の中に響の…………妹の悲しそうな感情が見て取れたから。

 ああ、何かあったんだ、そんな察しはすぐに付いた。仮にも姉妹だ、仮にも姉を自称しているのだ、そのくらいは分かる。

 この話題は不味い、そう考えた暁はすぐに話題を移すことにする。

「えっと、じゃあ今の鎮守府に戻ってきてからは? 何か感じたかしら?」

 その暁の問いに、響が少しだけ言葉に詰まった。先ほどと同じように考え込んでいるようにも見えるが、暁にはそれが躊躇しているのだと何となく分かった。

「言い辛い?」

「いや…………そんなこと無いけど」

 その言葉に、その様子に、何となく分かってしまった。

 響もまた自身と同じような感覚を覚えているのだろう、と。

 だからこそ、素直になれた。

 

「あのね、響…………私ね――――――――」

 

 

 * * *

 

 

「暁が来てるのですか?」

 ふとした会話の中で電がこぼした一言に、ヴェールヌイが僅かに目を見開く。

 そんなヴェールヌイの様子を気にした風も無く、電が笑う。

「私たちの姉妹の中で、暁だけいなかったから、これで四人揃ったのです」

 嬉しそうに、嬉しそうに、電が笑う。

「どこで聞いたんだい? 暁のこと」

 ヴェールヌイがそう尋ねると、電があっけからんと答える。

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「……………………気のせいじゃないかな?」

「そうなのですか?」

 首を傾げる。だが動こうとはしない。例えそんな気がしていた、としても。

 彼女はこの部屋から出ようとはしない。

 恐らくほぼ無意識的に、彼女はこの場所に閉じこもっている。

 

 この場所を出て、現実を知るのを恐れている。

 

 そうして彼女はずっと繰り返している。

 

 雷が沈んだ、あの日を。

 

 きゅっと歯を食い縛る。

 分かってはいる、早急な対処法は無い。少しずつ、少しずつ、時間が癒してくれるのを、彼女が事実を受け入れるのを待つしかないのだと。

 けれどこうして、目の前で姉妹の無残な姿を見せ付けられれば、そしてその原因が自身にあると自覚しているからこそ、辛い。

 何とかしてやりたい、けれどどうすればいいのか分からない。否、どうすることも出来ない。

 助けて、司令官。そう言ってしまいたくなる、けれどそれを口には出来ない。

 自分の責任から逃げることはできない。いや、もう逃げたく無い。

 

 もう一緒に沈んでやるなんてこと、できやしない。

 

 今の自分の、信頼の名を裏切るわけにはいかないから。

 

 だから、今度こそ、守り抜くんだ。

 

 そう決めたから。

 

 Успокойся(ウスパコーィスィヤ), всё хорошо(フスィヨー ハラショー)(落ち着け、問題ないさ)

 

「まだ大丈夫、平気さ」

 

 

 




いい加減話進めようと思う。

今回人の名前いっぱい出ましたけど、覚えなくてもいいです。
どうせもう出ませんし(
まあ出すとしても、ちゃんともっかい詳細書きますから(

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