響が可愛いと思ったから勢いだけで思わず書いちゃったような艦これ二次 作:水代
海より現れた化物。人類最大の敵。海上の覇者。海底の亡霊。
呼び方は色々あるが、軍が定めた正式な名前はたった一つ。
深海棲艦。
本来なら陸軍の人間である彼が銃を持って化物に立ち向かうのは、ひとえに海軍が突破されたからに他ならず、それはつまり化物たちの本土上陸を意味していた。
陸軍十二中隊、自身の配属されたその部隊が戦うのは海岸沿いに立てられた防衛線。張り巡らせたバリケードの手前から遅々と歩みを進める化物ども相手にけれど撃ち込む鉛弾はなんの効力も見せない。
死ね、化け物が。そう叫んだ誰かは化物の放つ砲撃に貫かれ死んだ。
助けて、そう叫び逃げ出した誰かもまた同じように死んだ。
死んで、死んで、死んで、死んで、死んで、死んで、死んで、死んで、死んで。
世界に死が溢れていく、視界が死に
地獄のようなその場所で、最終的に戦車隊まで引っ張り出し、そしてようやく追い返した敵。
そう、追い返しただけ。倒せなかった、たったの一体さえも。
全く通じない、と言うわけでもない。衝撃で損傷した敵もいた。
だが、倒せない。どうやっても致命傷へと至らない。
後に残ったのは海岸に打ち捨てられた人の死骸の山。
そして、僅かに生き残った兵士たち。
今でも鮮明に思い出せる。
まだ艦娘と言う存在が生み出される一年前のことだ。
あれから一体何年経ったのか。
陸軍から海軍へと転属を果たし、仕官となり、提督となった。
艦娘と言う化け物たちへの絶対の牙を手に入れ、ただ殺して殺して殺し続けた。
それは復讐だった。かつて殺された仲間たちの復讐。
生き残ってしまった自身の最後の役目だと思っていた。
死んでしまった仲間たちへの最後の
そんな私情に巻き込んでしまった彼女たちのことを、今更になって気づいたなんて。
なんて滑稽な話だろうか――――――――
* * *
新垣提督との面会は電話の翌日に行われた。
場所は中将殿の鎮守府。道中は島風に送迎してもらい、たどり着いた鎮守府の応接室。
つい四日ほど前に中将殿へ遺言を渡したその部屋で。
「急な面会に応じてもらったこと感謝するよ」
「いえ、こちらも色々と聞きたいことがあったので、お答えいただければ幸いです」
その男、新垣望提督と出会った。
新垣望海軍大佐。
過去、三隻の艦娘を率い、北方海域にて多くの深海棲艦を葬ったことにより、一度は勲章すら与えられた男。
元は陸軍所属であり、転属、そして現在へと至った少し変わった提督だ。
齢四十となるその外見には、停職中と言う事実を知る自身でさえ思わず唸るような一種風格のようなものすらあった。
一番印象的なのはその目だろう。
一昔前の海賊の船長のような眼帯で右目を隠しているため、視界に映るのはその左目だけではあったが、ただ視線を向けられているだけで射抜かれるような強い眼光は、一度見ればけっして忘れられないだろうだけのインパクトがあった。
っと、ふと自身のその右目への視線に気づいたのか、新垣提督がすっと眼帯へと手を当てた。
「この右目が気になるかな? 不恰好なのは重々承知している、すまないが許してくれ」
「あ、いえ、そう言うわけでは…………失礼ですが、その右目は」
見えないのだろうか、そう暗に問うた自身の言葉に新垣提督が苦笑する。
「っふ…………見えない、のではなく、無いのだよ」
「…………は?」
告げられた言葉に理解が追いつかず、呆けたような声が漏れる。
「私はかつて陸軍にいてな、その最後の戦いでやつらにやられたんだ」
陸軍、最後の戦い、その言葉で思い出すのは深海棲艦からの本土防衛作戦。
まだ自身が生まれたばかりのころに起こったと記憶する、現在の陸軍が行った最後の作戦だ。
「キミの父親にも世話になったよ、狭火神提督」
次いで告げられた言葉に、目を丸くする。そしてそんな自身の反応に、意外だとばかりな反応を示す。
「おや、知らなかったのかな? まあ二十年以上前の話だ、知らなくても仕方ないのかもしれない。海軍の敗北と共に本土へと攻め寄せてきた
初めて聞いた自身の父親の話、そして自身と目の前の提督との間接的な繋がりに驚かされる。
「怠慢と無能ばかりが揃う海軍の中でも、キミの父親の艦隊だけは違った。戦略、戦術、練度、どれを取っても図抜けていた。まあそのせいで上官に嫌われ、当時の海戦ではまともに作戦に関わらせてもらえなかったようだがね」
苦笑するその姿は、先ほどまでの威圧感は薄れており、どこか愛嬌のある、どこにでもいるような中年の男のような笑みだった。暁が慕っていたのはこう言う部分なのだろうか、などと考える。
「それでもやつらを殺すことはできなかった」
そして、その言葉と共に、先ほどよりも強烈な威圧感が自身を襲う。否、威圧などと言う生ぬるい言葉では語りつくせない。言うなればそれは殺意。背筋がぞっとするような感覚、そして提督の残された左目に宿るのは怒気。
「何人、何十人、何百人もの仲間が殺された。私の所属していた部隊も私を残し壊滅、私を残し全員死亡したよ」
だんっ、と新垣提督が自身の膝丈ほどの高さしかない応接室の机に思い切り拳を叩きつける。
「だから私は決めた、やつらを殺しつくす。殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して…………この国から、この海から、この地球上からやつらが最後の一体が絶えるまで殺しつくすと!!!」
感情的な口調で、声を荒げ、叫ぶようにしてそう告げる。半分腰を浮いていた、それほどまでに感情が篭っていたその言葉に、けれど自身は言葉を返すことができなかった。
そして、直後、溢れんばかりに満ちていた怒気が、殺意が、途端に消え去る。
「だが」
ゆっくりと、そして深く、新垣提督が応接室のソファに座りなおす。
「失敗した。ああ、復讐に捕らわれ、目が曇っていたのだ、私は」
深く、深くため息を吐く。そこから感じられる感情は、後悔。
「艦娘、彼女たちはまさに当時の私にとっては希望だった。誰にも殺せなかった化け物を殺せる唯一の牙。それを手に入れるために私は海軍へと転属した。やつらを殺す、それが生き残った自身の果たすべき役目で、先に逝った彼らへの手向けだと思っていた。だから戦った、いや、戦った気になっていた。戦っているのは私ではなかった。目に見える戦果、撃沈したその数に、自尊心が満たされていった、その戦果を挙げたのが誰なのかも忘れて」
まるで老人のような枯れ果てたその雰囲気、それがここに至るまでの彼の歩いてきた道の険しさを示しているようであり、そんな提督に自身は口を開かない。
「私のような提督は海軍の中でも少数だろう、だがいないわけでもない。より効率的な戦果を上げるために連合艦隊を組む、その発想に至るのは当然の成り行きだっただろうな。さらなる戦果、そんな目先のものに捕らわれた結果がこれだ」
連合艦隊の敗北。国内の艦娘の三割近くを失う大敗。その責を目の前の提督だけに押し付けるのは酷と言うものだろう。だが責が無いとは言えないのもまた事実だ。新垣提督が連合の中でどれだけの力を持っていたかは知らないが、それでも戦略の不透明さ、情報の拙さ、補給路の不備など連合の欠点をちゃんと認識していれば、生存する艦娘はもっと多かったはずだから。
「私にとって艦娘とは兵器だった。感情を持つことは知っているし、相応の扱いもしたが、根本的に彼女らを
いなかった、と言う過去形。つまり、今は…………。
「だが、連合の敗北、そして私の艦隊も三名中暁を残して撃沈してしまった。その時、初めて気づいた。彼女たちが生きていること、そして人であること、何より――――――
僅かに言葉を止め、
――――――何よりも、この復讐は私のもの、だがそこに彼女たちを巻き込んでいたことに、気づいてしまった」
艦娘とは深海棲艦を倒すための兵器。それは一つの事実として間違いは無い。
だが艦娘は生きている、そして生きている以上、死もある。
その事実を認識し、恐怖する提督と言うのは、意外と少なくない。
自身の言葉一つで、自身の手の届かない場所で、少女たちを死に追いやる。
仕官学院では習わない、否、意図的に伏せられている事実。
理由は簡単だ。海軍にとって、艦娘とはただの兵器。決して
新垣提督は気づいてしまったのだ。
艦娘が人であることに。
「私は」
復讐したいのは誰だ?
それは新垣提督自身だ。
「自身の復讐のために」
提督の復讐のために戦っているのは誰だ?
それは新垣提督に従う艦娘たちだ。
「彼女たちを戦わせ」
挙げられた戦果は誰だのものだ?
艦隊提督の新垣提督のもの、だがそれを挙げているのは艦娘たちだ。
「無謀な作戦で」
その復讐に付き合わされて死んだのは誰だ?
新垣提督の命で、連合艦隊に参加した艦娘たちだ。
「彼女たちを殺したんだ」
気づいてしまった。
「私が、彼女たちを殺したんだ」
気づいてしまったのだ。
「そしてたった一人、暁を残してしまった、あの子になんて詫びればいい、こんな私の都合に付き合って、彼女の仲間は死んだ」
一体私は、なんて詫びれば良い。
そう呟き深くうな垂れる新垣提督、そんな彼の姿を見下ろし、そうして自身はようやく口を開く。
「だ、そうだが、何か言うことはあるか? 暁」
* * *
話は前日まで遡る。
電話を終えた後、しばし執務室で考え込む。
明日、暁の元提督と会う。そのことを暁に言うか否か。
と言っても、言わなければ恐らく、完全に信頼を失うことになるだろう。
言えばまた揺れることになるだろう、昨日今日と少しずつ歩み寄ってくる姿勢を見せているものがまた以前に戻ることになる。
「なんて…………考える必要も無いな」
メリットとデメリットを考えれば、どちかが良いかなど明白過ぎる。それに俺はこれはチャンスでもあると思っている。
良くも悪くも暁の抱える問題に、一石を投じることになるだろう。それが良い方向に転がれば、一気に問題が解決するかもしれない、なんてのは夢の見すぎだろうが、多少の改善は見せることは確かだろう。
考えをまとめ、部屋を出る。扉を開き、そして気づく。
「…………これ、カタログの栞か」
自身が暁に渡したカタログに入れていた栞。それが何故ここにある?
出て行く時に落とした、それならまあ良い。
だがそうでないとしたら…………。
掃除を終えた暁がここに戻ってきていたとしたら。
だとすればどうして入ってこない?
そんなの一つしかない。
「……………………手間が省けた、なんて、言えないよなあ」
むしろ前置きが無い分、余計に混乱しているかもしれない。
「で…………どこ行ったんだ?」
考え、とりあえずと言うことで、暁の部屋へと向かう。
だが居ない。部屋に鍵がかかっており、中から人の気配はしない。
「ここじゃない、とすればどこだ?」
自室には居ない…………と、すれば。
そうして向かった先、将来的に電の部屋となるその場所に暁はいた。
「暁」
声を掛けるが何の反応も無い。
一人には少し広い部屋の窓辺に立ち尽くしたまま、呆けたように窓の外を見ている。
一歩、一歩と近寄り、その後ろに立つ。
「暁」
再度その名を呼ぶ。
「なんで」
そうして返ってきた言葉は疑念だった。
「なんで司令官以外が暁を呼ぶの」
くるり、と暁が振り返る、キッとこちらを見るその目から涙が溢れていた。
「なんで、どうして、司令官じゃないの」
慟哭するように暁が叫ぶ。
「分からないの、もう何もわからないのよ!」
わんわん、と泣きながら、あまりにも突然、自身の司令官と引き離された幼い少女が叫ぶ。
「会いたいよぉ、司令官に、会いたいよぉ」
立って居られないと暁が床に座り込み、泣き出す。
ずっと我慢していたものが決壊してしまったと言わんばかりに。
そしてその原因は確実に先ほどの電話であり。
「会いたいか?」
尋ねた言葉に、暁が泣きながら頷く。
数秒、口を閉ざす。すすり泣く声だけが部屋の中を満たす。
そうして、再度口を開く。
「なら、会わせてやる」
その言葉に、泣き声がぴたりと止む。
「明日その司令官殿と会うことになっているから、その時会わせてやるよ」
ただし、と言葉の最後の付け足す。
「こっちの言うことを良く聞くこと。お前が先走れば、俺も、相手の提督も厄介なことになるからな」
そうして、答えの分かりきった問いをする。
「さて、どうする?」
そろそろ感想が恋しい今日この頃。
暁ちゃんが可愛い。ndndしたい。