響が可愛いと思ったから勢いだけで思わず書いちゃったような艦これ二次 作:水代
因みに、何故か今朝徹夜してたらふと天啓が降りてきて十話までのタイトルとプロットが完成したので、多分、これまでより早いペースで投稿できるような気がしないでもない。
まあ今日は作者風邪引いて、頭痛と喉の痛みと咳とくしゃみと吐き気でやばいので、もう書かないけど。
To be or not to be, that is the question
「全砲門開け…………ってえ!」
ドォン、ドォン、と砲撃の音が鳴り響く。
飛来し、着水する砲火。そして被弾し、沈んでいく敵の姿。
最前線の中でも最も激戦区とされる南方海域。現在までに開拓された海域の最先端は中部海域ではあるが、それもタカ派…………つまり強硬派の一部の提督たちが南方海域を強引に突破した結果であり、その提督たちも中部海域半ばで撤退をしている。結果的に、まだ優勢のまま推し進めていた南方海域制圧から、いきなり中部海域への勢力が抜け、一進一退の攻防が繰り広げられている。
その均衡が崩れたのは、先のタカ派の連合の敗北。正確には、連合が踏み込んだ、サーモン海域北方。
そこは、作戦名東京急行によって鼠輸送を成功させ、補給を受け士気の上がった連合艦隊が敵中枢を一息に撃破し、一度は敵勢力圏の後退に成功させたサーモン海域で最後に残った敵の勢力圏。
正確に言えば、この南方海域を開拓したのは先のタカ派の連合。そしてその一部が勢いに乗じて制圧にかかったのが中部海域。そして連合の敗退により中部海域より撤退が行われ、中部海域は完全に敵の勢力下に、南方海域は一時的に空白地帯と化していたのだが。
サーモン海域北方より再度海域を奪おうと進出する敵部隊と、一度は制圧した海域を奪われてなるものか、と南方海域へと進出する味方艦隊との衝突により、現在南方海域では決戦が行われていた。
「厄介、だな」
「ああ、厄介だ」
遠方にまで続く海、そして水平線を見つめながら自身と、そして長門が呟く。
「状況はこちらの優勢、すでに幾度と無く勝利は掴んだ…………けれど」
広げる海域の地図。並べる青い三角形と赤い三角形。数だけ見れば青…………つまり味方のほうが多い。
だが。
「敵の主力艦隊が後方から動かない。タカ派の連合を一方的に敗北させたと言うあの主力艦隊が」
ちらり、と長門に視線を向ける。何を隠そう、長門はあの時、連合艦隊の一員としてあの場所にいた。
連合艦隊、そのまとめ役、そして中立派からの監視の役割も兼ねて、長門はあの戦場へと出向していた。
そして、だからこそ、分かっているはずだ、連合艦隊を敗北させた敵の強さ、と言うものが。
「これまでに見たこともない敵…………大本営は戦艦レ級と名づけたあれは、これまでの敵とは一線を隔す敵だった」
深海棲艦は、戦艦や空母と言った重量級艦種ほど人に近い形を取る傾向にある。中でも姫、と呼ばれる存在は深海棲艦の中でも一線を隔する強さを持つ。
今回現れた新種の敵、当初付けられた名前は姫と言う文字が入っていた、だがそれはすぐに取り消された。
理由は簡単だ…………上位艦の存在があったから。
深海棲艦には現状で三種類のタイプがある。
通常級、
一番分かりやすい違いは目の色だろう。エリートは目が赤、フラグシップは黄色と分かりやすい違いがある。
姫と呼ばれる存在にはこれが無い、故に姫と呼ばれるのは敵の指揮官のような存在であり、他の深海棲艦たちはそれらに纏められる兵隊的位置づけなのではないか、と言う推察が立つ。
そして話を戻すが、現在戦艦レ級と呼ばれる存在は上位級の存在が確認されている。故にこれらは姫ではなく、兵隊なのだと考えられるが…………。
「馬鹿げた話だ」
長門が呟く。その表情は苦悶に満ちている。
「火力でビッグセブンたるこの私と張り合い、航空戦力で一航戦たる赤城たちと張り合い、さらには雷撃戦で重雷装巡洋艦である北上たちと張り合う、たった一隻でそれだけのことができる存在がただの兵隊、だと?」
あれはまさしくバランスブレイカーだ。たった一隻で戦場の趨勢を変えることすらできるほどの怪物。
いずれあれが随伴艦としてずらずらと並び、あれよりもさらに凶悪な姫がそれを率いてやってくる日が来るのだろうか?
「…………真面目な話をするが提督。建造は早い内に解禁したほうが良い。今後あれらが増えて来たとき、現状ではそれを止めることのできる艦が少なすぎる」
「大和は死んだ…………武蔵は本土防衛の役目がある、大鳳もだ。だからこそ連合艦隊旗艦はキミの役目となっている…………
久しく呼ばれていなかった懐かしい呼び方に、長門は胸中で懐かしさを覚える。
「赤城も加賀も前回の連合の敗北によって沈んだ、飛龍や蒼龍はまだ健在だが西南諸島沖の抑えや北方海域の防衛に手がいっぱいだ。金剛たちは西方海域で苦戦してるし、陸奥はもう居ない」
この国の主力と呼ばれる存在たちの半分はすでに戦没し、半分は現状の維持に必死だ。
建造を禁止したことにより、この国は一時の平穏を得た、だがそれにより戦線の拡大を行うための戦力が足りないと言う現状がある。いや、減る一方で増えることが無い以上、どんどん戦線は下がっていると言っても良い。
「例のドイツ艦はどうなっているんだ、提督」
「あれらはまだ練度が足りていない、この海域の敵を相手取るには圧倒的に力不足だよ」
ドイツよりやってきた艦娘、駆逐艦Z1、そして同じく駆逐艦Z3、そして戦艦ビスマルクの三隻は現在、北方海域キス島で練度を磨いている。前線に投入できるようになるまでにまだ半年は必要だろう。
「安心して良い、今、南方海域で前線を維持していた提督たちから援軍を募った。航戦たちを含めた艦隊が応援に来てくれるはずだ」
と言っても前回の連合の愚を真似るようなことをしてはならないので、同時出撃は無いだろうが、それでも交代要員がいると言うのが精神的な安定をもたらしてくれる、重要なことである。
「練度は?」
「全員六十以上、一番高い扶桑が八十だそうだ」
自身の言葉に、長門が少しだけ驚いた様子だった。まあそうだろう、扶桑型と言うのは欠陥戦艦などと呼ばれ、性能も他の戦艦たちに比べると一段劣る。そんな扶桑型を練度八十まで育てようと思ったら、かなりの根気が必要になることは間違いないだろう。
それだけに、そこまで育て上げられたと言うのはある意味それだけでも実績だ。
「なかなか頼りになりそうだな」
「そうだな、前回の連合と違って、今回は約二ヶ月の長期戦を予想してやっているからな…………補給と交代要員による戦線の維持が何よりも大事になってくる、が…………だ」
一度言葉を区切る。そして視線を長門にやると長門も分かっていると言った風に頷く。
「結局、あいつら…………戦艦レ級エリート率いる敵主力艦隊を叩かないことには南方海域の制圧はあり得ない」
「分かっている」
「…………正直な話、勝算は?」
自身のその言葉に長門が沈黙する。咄嗟に言葉が返せない。それだけ長門が慎重に戦力計算をしている、と言うことであるし、何よりも、あの強気な長門が勝てる、と即断できないほどに敵が強いことでもある。
「はっきり言えば…………三割、と言ったところだな」
それは七割の確率で敗北するし、勝ててもかなりの損害が出る…………最悪轟沈がまたあるかもしれない、と言うこと。
「これ以上、私の前で死者は出したくない…………戦力が減ればそれだけ守ることが難しくなる」
心情的にも、実情的にも、轟沈者を出すのは望ましくない。それは長門も分かっているからこそ、頷く。
「だが正面からまともに戦えばそうなる、それだけは分かってくれ」
「…………何か作戦を考えないとな」
思案する自身を他所、ふと長門が思い出したように呟く。
「そう言えば、電はどうしている?」
呟いたその言葉に、自身の思考が止まった。
数秒沈黙し、そして告げる。
「彼に預けた」
「……………………そうか」
彼のことは長門自身よく知っている。
何せ、彼女の妹、陸奥は、元は狭火神大将の配下だったのだから。
そして長門は狭火神大将の部下だった自身の二番目に建造された艦であり、妹陸奥と共に、狭火神大将の死後、陸奥が沈むまでずっと戦ってきたのだから。
大将の息子だった彼のことは知っている。実際に会ったこともあるのだが、幼い頃だったから、恐らく彼は覚えていないだろう。彼にとって記憶に残っているのは瑞鶴だけだろうし。
「電について、前から不思議に思っていたことがある」
ふと、長門がそう呟いた。
過去、戦艦長門は妹を失っている。
それは戦う者としてはいつか辿る結果であるし、長門自身、自身もいつかはそうなると分かっていた。
悲しみが無いわけではない、当たりまえだが、まだ死んで欲しくなかった。生きていて欲しかった。
だが、陸奥は戦い、沈んだ。その時、長門が思ったことは…………。
ああ、今度は戦いの中で沈むことが出来たのか、陸奥。
かつての戦艦陸奥は、戦場で無く、停泊中の事故で沈むと言う最後を遂げた。
だからいつも陸奥は、死ぬなら戦場で死にたい、そう口にしていた。
どれほど人の形を取り繕おうと、艦娘の本質は艦船、つまり戦うことだ。
だから、長門は妹が沈んだ時も悲しみはしたが、嘆きはしなかった。
戦う者として本懐を遂げた妹を誇りはしても、その生き方を否定しなかった。
艦娘の中には、戦いたくない、と言う者もいる。電などその例だろう。
だが、戦わない、と言う者はいない。
明石や間宮など、そもそも戦闘向けの艦ではない艦娘はその例に無いが、少なくとも戦うために作られた艦娘の中で、戦うこと自体を拒否した艦娘などいない。
だからこそ、疑問なのだ。
「何故電があそこまで壊れてしまったのか」
姉妹艦が沈んだ、ああ、確かに悲しいだろう。長門と違って嘆きもするかもしれない。
だがそれでも戦うことは止めない。それは艦娘にとって本能のようなものだから。
「そもそも、電は過去にも暁と雷を先立って失っている、その記憶は確かにあるはずだろう」
それは電がまだ駆逐艦電と言う艦船だった頃の記憶。
暁が沈み、雷が沈み、電が沈み、そして響だけが残った。それが第六駆逐隊の結末。
「慣れるものではない、だが初めての経験でもない、だと言うのに、何故電はあそこまで深刻な状態に至った?」
それが、長門の疑問。
事実に対して、起きた症状が深刻過ぎる。簡単に言えば、それだけの話なのだが。
「だからこそ、何かが理由があるのではないかと勘繰る、そして提督、提督はそれを知っているのか?」
そんな長門の問いに対して、自身は…………。
* * *
「こっちよ、こっち、電ならきっとこっちのほうが良いって言うわ!」
「いや、電の性格からすればきっとこっちのほうが似合うと思うよ」
二人が互いに指を指しながら叫ぶ。ここ数日の二人はずっとこんな感じで、いい加減にしてくれ、と言いたい。
暁もヴェールヌイも普段は仲が良い。姉妹艦なのだから当たり前なのかもしれないが。
そして、だからこそ、喧嘩する理由も姉妹艦にあった。
始まりは電も荷物を運ぶためにこちらにやってきたヴェールヌイが、こちらの鎮守府に作った電の部屋を見た時の一言である。
「あまり電の好きそうな雰囲気じゃないね」
その一言に、デザイナー暁がむっと来て、それから毎日、ヴェールヌイが電の荷物を運びにこちらにやってくる度にこんな言い争いをしている。
だが、止めはしない。部屋の雰囲気一つとっても、心に与える影響と言うのはけっこう馬鹿にできない。
電にとって一番良い部屋と言うのがどんなものなのか、俺自身には分からないが、それでも、二人が一生懸命意見を出し合って決めた部屋ならきっと電は喜ぶだろうし、そのほうが精神的にも安定する…………かもしれない。
正直なところ、俺は電に何をしてやればいいのか分からない。
ああ言った、精神的な問題は、明確な解決方法が無い。それを探すためにも電のことを知っていなければならないのだが、俺が知る電と言う少女はこの間出会った時に話したこと以外、ヴェルからの又聞きでしかない。
だからまず最初にしなければならないのは、この鎮守府で電を問題なく暮らさせること、そしてその次に電のことを少しずつ知ることだろう。
「電…………か…………」
駆逐艦電。暁型四番艦。性格は大人しい。かつての来歴からか、敵すらも助けたい、と言う願いを抱いている。
これが俺の知る電の大雑把な情報。
そして。
同じ暁型三番艦の雷とは特に仲が良く。
その雷が目の前で沈んでいくのを見た。
それが、心が壊れた原因。
本当に、そうなのか?
疑問。
たった一度だけ出会った電。
あの日見た彼女の目に浮かんでいた感情は。
雷の名前を出した時に浮かんだ、淀んだ瞳の中に隠れたあの感情は。
自責。
「…………気のせい、なのか?」
自身の見た物にいまいち自信が持てず。
そう、呟いた。
生きていくか死ぬかそれが問題だ
To be or not to be, that is the question