響が可愛いと思ったから勢いだけで思わず書いちゃったような艦これ二次   作:水代

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八時くらいには書き終わってたのに、回線の不調で今まで投稿できなかった不具合(


There is nothing either good or bad, but thinking makes it so

 

「彼女は…………私を恨んでいないんだろうね」

 少し、肌寒くなってきた夜の海辺。波止場に立ったヴェルは、悲しそうに、寂しそうに、そう呟く。

「勿論、全く私のせいだと思っていない、なんてことはないだろうけれど…………それでも、心底恨んではいない」

 だって、彼女は――――――――

 

「優しいから、彼女は」

 

 だからこそ、それが。

 

「辛いんだ」

 

 泣きそうな表情で。

 

「苦しいんだ」

 

 寂しそうな表情で。

 

「痛いんだ」

 

 苦しそうな表情で。

 

 そう呟くヴェルが、あまりにも儚げで、今にも消えてしまいそうで。

 

 だから、そう。

 

 放さないように、どこにも消えてしまわないように。

 

 この場所に引き止めるかのように、抱きとめた。

 

 

 * * *

 

 

「完成ね!」

 どこか誇らしげに胸を張る暁。目前に広がるのは少女趣味に改装された電の部屋(予定)。

「まあいいんじゃないかな?」

 姉妹で妥協点を見つけ出したらしく、ヴェルも納得したように頷いている。

「…………はあ、まあいいがな」

 支給されてこれまでに溜め込んでいた家具コインのほぼ全てを消費したことに、少しだけ(おのの)くが、まあこんなことでもなければ使わないだろうし、別に良い…………良しとしておく。

「わあ、素敵な部屋なのです」

 そして今日ようやく正式にこちらへとやってきた電が部屋の中を見て、目を輝かせる。

 

 中将殿との会談から約二週間。

 すでに中将殿の語った“あ号作戦”は一部で始まっており、中将殿も戦艦長門を率い、一週間前には南方海域へと向かって行った。そして今日、電の移転準備が完了し、電がこちらの鎮守府へと移動するのにあわせ、島風率いる残りの第一艦隊も中将殿と合流するらしい。

 

「さて、遅くなったが駆逐艦電、貴殿の着任を歓迎する」

 場所を移して執務室。ここにいるのは提督である自身と電も二人だけ。

 ヴェルと暁は部屋に置かれた電の荷物の紐解きを先にやってもらっている。

「はい、駆逐艦電、着任したのです」

 そう言って笑う少女の姿は、至って普通に見える。

 だがこの少女に異常は、先の件で知っているので、油断は出来ない。

 だからこそ、慎重に言葉を選びながら話を続ける。

「さて、電の仕事だが、基本的には中将殿の預かりという扱いなので、ここにいる間は気にしなくても良い。まあ場合によっては出撃してもらうこともあるかもしれないが」

「了解なのです」

 ヴェルや中将殿かた聞いた話では。

 電はここ数年一度も出撃をしていない。戦闘を行っていない。練度自体は当時すでに四十を越えていたそうなので、力不足と言うわけではないのだろうが。

 つまり、精神的な問題なのだろう。だから、迂闊に出撃させるわけにもいかない。電にはああ言ったが、実際のところ中将殿が帰ってきても電が向こうの鎮守府に戻る確率は低いと思っている。

 

『キミの鎮守府で電を預かって欲しい』

 

 あの時の中将殿の台詞が頭の中で繰り返される。

 多分、もっと前から、それこそ、ヴェルをこちらに寄越した時から、決めていたのだろう。

 

『無理なんだよ、私には、どうやったって…………』

 

 自分には、無理だって、そう理解(わか)ってしまっていて。

 

『だからせめて、響も電も救われて欲しい。せめてもの、贖罪だから』

 

 それでもせめて、二人をなんとかしてあげたくて。

 

『ああ…………私はもうこの道しか選べない』

 

 けれど自分で自分が変えられないことが分かっているから。

 

 それは…………あまりにも無責任、でしょう

 

 そんな自身の言葉は、きっと彼女の胸を抉っただろう。

 自分でそんなこと分かっているからこそ、俺の言葉が突き刺さっただろう。

 それでも、もうどうしようもないと分かっているから。

 もう俺しか頼れないから。

 

『………………分かっているさ、でもね、頼むよ』

 

 彼女は選んだのだ。

 他の全てを切り捨ててでも、遺志を受け取ることを。

 けれど、それでも、捨て切れなくて。

 だから、俺を頼った。

「不器用な人…………だな」

「なにか仰いましたか? 司令官」

 自身の零した言葉に、電が首を傾げるので、何でも無い、と返す。

 

 ああ、でも俺がそれを非難する資格も無いだろう。

 

 受け取ることも、受け継ぐことも、拒否することも出来なかった俺が。

 

 彼女の…………瑞鶴の、姉と慕った女性の最後に立ち会うことすら出来なかった俺が。

 

 残された遺言をただ渡しただけの俺が。

 

 何一つ、自分じゃ選らんじゃいない(ガキ)が。

 

 向けられた遺志を受け取り、選んだ彼女を、否定する資格など、無い。

 

「…………戯言だな」

「考え事ですか? 司令官さん」

「いや…………大したことじゃないさ」

 再度誤魔化し、電に戻って良いと告げると、電が部屋を出て行く。

 

 そうして、一人ぽつんと部屋に残され。

 

「……………………くだらねえ」

 

 そう呟いた。

 

 

 * * *

 

 

「少し、肌寒くなってきたね」

「そりゃ、風がきついしな、ここは」

 夜の海辺と言うのは案外恐ろしい。特に今夜のような月が無い日は、本当に黒一色に染まってしまっているから。

 波打ち際、波止場に波が押し寄せては帰っていく音と、風が唸る音だけが辺りに響く。

 海辺と言うのはとにかく風が良く吹くものだが、だからこそ、僅かな温度の変化が良く分かる。

 先日雨が降っていたせいだろうか、今日の風はどこか冷たい。

 今日は降っていなかったが、一日中曇っており、月が雲に隠れて見えはしない。

 

 夜、ヴェルを探し部屋へと行くと、誰も居らず電のところへ行けば暁と電が二人で話し込んでいた。二人の話によれば夜風に当たってくると言って出て行ったらしいので、多分ここだろうと当たりをつけてきてみれば、波止場の端にヴェルが一人座り込んでいた。

 そして、こんなとこにいたのか、そう告げ近づいた自身への第一声が先ほどのそれだった。

「やあ司令官、こんばんは」

「ああ…………こんなところで何やってるんだ?」

「少し夜風に当たりに、ね」

 後は考え事とかさ、そう告げるヴェルに、考え事? と尋ね返す。

「多分、司令官と同じだよ…………電のことさ」

 どうやら自身がここに来た用件まで察せられているらしい。さすがに付き合いが長いだけはある。

「恐らくだが、中将殿が今回の件を終えて戻っても、電はこの鎮守府に残ることになると思う」

 余計な前置きを省いた自身の言葉に、ヴェルがそっか、と漏らす。こちらに背を向けているので、その表情は伺い知れないが、恐らくいつも通りの無表情なのだろう。

「電はそのことを知っているのかな?」

「いや、中将殿が戻るまでだと説明してある…………正直、どう説明したものか考えあぐねている部分もある」

 そんな自身の弱音にも似た言葉に、ヴェルがなるほど、と頷く。

「当面の方針としては、待機だ。これは電にも言ってある。中将殿から預かりってのは間違いでも無いし、しばらくはこれで問題ないだろう」

 そしてだからこそ、今のうちに聞いておかないといけないことがある。

「電はお前がこっちに来る前後辺りから一度も出撃をしていない、だから、もし出撃した場合どうなる?」

 正直、あの精神状態でもし海に出れば、下手すればフラッシュバックでも起こして発狂するんじゃないだろうかと心配している部分もある、だからこそ今のうちヴェルに聞いておきたかった。

 そしてそれに対するヴェルの答えは…………。

 

「分からない」

 

 それだった。

 

 

「分からない…………つまり、本当に一度も出撃させてないってことか」

Да(ダー)…………少なくとも、私の知る限り、一度も出撃したことは…………」

 と、そこで、ふとヴェルが黙り込む。二秒、三秒と時間が過ぎていき、十秒も沈黙が続いたところで。

「っ!!! 司令官!」

 ヴェルにしては珍しく声を荒げた様子でハッとなって、こちらを向く。いつもよりも大きく見開かれたアイスブルーの(まなこ)が、ヴェルの心情を、焦りをそのまま示していた。

「違う、あった、一度だけだけど、電が出撃したことが!」

 その言葉に、こちらも大きく目を見開く。

「そうだ、思い出したよ…………あの頃は私もいっぱいいっぱいでうろ覚えだけど、夜に電が一人で勝手に出撃したことがあるんだ」

「一人で、勝手に?!」

 基本的に出撃とは提督の命令によって行われる。しかも、艤装の装着、整備に燃料弾薬の補給など事前準備が必要なので、一人でやるには少々骨が折れる。

 だとすればどうして電は一人で出撃などしたのか。

「それに…………思い出したよ、電が、電がああなったのは」

 

 

 あの出撃の後からだ。

 

 

 ヴェルの言葉に、今度こそ驚愕する。

「元々、雷の死で病んでしまっていた部分があったから、分かりにくいけど、それでも一度だけ電に謝りに行ったことがある、まだああなる状態の前の電に」

 その当時のヴェルも自責の念で押しつぶされそうになっていたのではっきりとは覚えていなかったが、今ほど危ういものは電には感じなかったらしい。

「あくまで気のせいかもしれない。もしかしたら私が居ない間に少しずつ悪化したのかもしれない、出撃だって何事も無かったのかもしれない」

 はっきりしたことは言えない。そう悔しそうに呟くヴェルだが、こちらとしてはとんでもない情報だった。

「一つ聞くが、その出撃って一体どこへ行ったんだ」

 現在の出撃先と言えば、鎮守府近海、南西諸島沖、北方海域、西方海域、南方海域のどれか辺りに限定される。

 だが一人で飛び出し、無事に戻ってきたと言うなら北方海域、西方海域、南方海域あたりは無いだろう。

 一番ありそうなのは、鎮守府近海だろうが、そう疑問に思い、ヴェルに尋ねるが、ヴェルは分からない、と返す。

「出撃したって話を聞いただけで、電にはしばらく会えなかったから」

「なるほど…………いや、これは後で中将殿に確かめておく」

 そう言うと、いや正確には中将殿の名を出すと、ヴェルの表情に影が差す。

「中将…………火野江司令官」

「中将殿がどうかしたか?」

 尋ねるが、ヴェルが戸惑った様子で話を切り出さない。

 

 そう言えば、とふと思い出す。

 

 ヴェルから中将殿の話を聞いたこと、余り無いな。

 妹の電のことは良く聞かされていた、鎮守府の他の艦娘についても時々聞くこともある。

 だが、司令官だった中将殿の話を聞いたことはほとんど無い。

 それも、電や自身のことのついでに出ただけで、中将殿自身を主題に置いた話と言うのは一度も聞いてないかもしれない。

 

「彼女は…………私を恨んでいないんだろうね」

 搾り出すように、悲しみように、寂しそうに、ヴェルがそう呟く。

「勿論、全く私のせいだと思っていない、なんてことはないだろうけれど…………それでも、心底恨んではいない」

 今まで触れなかった言葉が、溜め込んでいた内心が、堰を切ったかのように溢れるかのように。

 

「優しいから、彼女は」

 

 だからこそ、それが。

 

「辛いんだ」

 

 泣きそうな表情で。

 

「苦しいんだ」

 

 寂しそうな表情で。

 

「痛いんだ」

 

 苦しそうな表情で。

 

「責めて欲しかった、私のせいだって。なじって欲しかった、お前のせいでこうなったって。泣いて欲しかった、悲しいんだって」

 

 そう呟くヴェルが、あまりにも儚げで、今にも消えてしまいそうで。

 

「でも、私が弱いから、私が頼りにならないから、彼女は全て背負ってしまった。悲しいなら泣けばいい、嘆いてるなら叫べばいい」

 

 だから、そう。

 

「救ってあげたいんだ、助けてあげたいんだ、彼女のことを好きだったのは雷だけじゃない、私たちだって彼女が苦しんでいるのを、それを必死になって隠しているのを見続けるのなんて嫌だった」

 

 放さないように、どこにも消えてしまわないように。

 

「もう良い、もう良いから、ヴェル」

 

 この場所に引き止めるかのように、抱きとめる。

 

「でも、そんな資格私には無いんだ、彼女は私を守る対象としか見ていない。そんな私が彼女に何を言ってもきっと届かないから」

 

 抱きしめて、受け止めて、それから…………。

 

「ヴェルは…………中将殿のこと、どう思っているんだ?」

 

 それを問うたのはある意味必然だったのかもしれない。先ほどの疑問が浮かんだ時点で、連鎖的に出てくるであろう程度の問い…………だからこそ、ヴェルの反応は予想外としか言うべき他なかった。

 

「それは…………その…………」

 

 戸惑っていた、口篭り、言葉を濁し、表情にすら迷いを滲ませて。

 

「好き…………だったよ」

 

 だった、と。過去形にしたヴェルの内心は俺には分からないが、それでも。

 

「そうか…………」

 

 ここに着たばかりの響なら顔を青褪めさせて、まず答えられすらしなかっただろう。それを思えば、確かにヴェルは過去から進んだのだと、そう思えて。

 

「そうか」

 

 頑張ったな、そう言いたくて、でも言えなくて、だからそっとその頭に手を乗せた。

 

 

 * * *

 

 

「ねえ司令官」

 自身の腕の中にすっぽりと納まった小さな体が僅かに身じろぐ。

「なんだ」

 腕の中に感じる暖かさに、確かにそこに生きた感覚があって、少しだけ安堵する。

 先ほどまでの彼女は、今にも消えてしまいそうだったから、なんて恥ずかしすぎて口が裂けても言えないが。

 

「私は、司令官がいてくれて良かったよ」

 

 そうして、ヴェルの漏らした言葉に目をぱちくりとさせる。

「なんだそりゃ…………」

「司令官がいてくれたから、私は今こうしてここに居られるんだと思うから、だから」

 ありがとう司令官。そう呟く彼女の言葉が、まるで――――――――

 

「まるで結婚でもするかのような台詞だな」

 

 どこかに嫁ぐ前に親に言うかのような台詞に、思わず苦笑してしまう。

 そして、だからこそ、ヴェルの一言に度肝を抜かれる。

 

「私には愛とか恋とか、よく分からないや…………それとも」

 

 司令官が教えてくれるのかい?

 

「…………………………………………………………」

 何の邪気も無くそう尋ねてくるアイスブルーの瞳に飲み込まれ、一瞬世界が止まったかのような錯覚すら覚えた。

「司令官?」

 思考は完全に止まっていて、けれど腕の中で身じろぎする彼女の存在にハッと我に返る。

「あ、うん、そうだなあ…………」

 

 愛とか、恋とか。

 

 まあ前者はともかく、後者は…………。

 

「俺にも分かんねえや」

 




物事によいも悪いもない。考え方によって良くも悪くもなる。

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