響が可愛いと思ったから勢いだけで思わず書いちゃったような艦これ二次   作:水代

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風邪辛い、もう一週間経つのにまだ治らない(

ところで、最近、タイトルの名前負け感がひどい。


One sorrow never comes but brings an heir. That may succeed as his inheritor

『第二艦隊、守れ、守れ! 敵の侵攻を遅らせろ!』

『第一艦隊、下がれ、正面から敵とぶつかるな!』

『来るぞ、第二波、砲撃用意、てぇ!』

『第三陣壊走、今のうちにこちらも下がる、全軍後退』

『来た、やつらだ! 全員に通達、あの化け物を止めろ!』

『ぐ……あ…………化け物……め……』

 

 カチ、と音を立て、レコーダーが止まる。

 時が止まったかのように静まり返る執務室、そして顔を青くしたヴェルを気にかけつつ、目の前の女性に尋ねる。

「これが…………これが、今日来た理由、ですか?」

 目の前の女性…………瑞樹葉歩が頷き、机の上に置いたレコーダーを懐にしまう。

 鎮守府にやってきた二人、歩と柚葉に対して今日の用件を問うた自身、そんな自身にレコーダーを取り出し再生する。その内容が先ほどの誰かの声。否、誰かなどでは無い。

 

 あれは………………。

 

「今より十五時間ほど前のフタヒトマルマル時、集結した深海棲艦の大群と火野江中将率いる連合艦隊が交戦、連合艦隊が敗北した」

 

 あれは…………。

 

「敗走した艦隊は散り散りに追いやられ」

 

 あれは、

 

「総司令官である火野江中将も行方不明となった」

 

 中将殿の声だ。

 

 

 * * *

 

 

 逃げて行く相手を前にして、ソレはあえて追えと言わなかった。

 それは絶好の機会だった。毎日の交戦で削られ、一向に溜まり切らない戦力に業を煮やしていたソレにとって、ここが勝機だと確信した。

 自らが出陣し、散々に蹴散らした相手たち、だが逃げて行くそれらを追って、また戦力を分散させるのではこれまでの二の舞である。

 だからこそ、逃げる相手はあえて無視し、今ある戦力で一気に相手の懐深くまで突き進む。

 それは例えこの攻勢が失敗しても、次にまで残る確かな傷になるだろう、と言う確信がソレにはあった。

 

 ニィ、と笑う。

 

 突き進んでいく自身たちが味方の姿を見送りながら、自身たちもまた進む。

 すでに他の区域でも連動して味方が動いている。

 例年にない規模の大攻勢に、勝っても負けても今回の戦いで出るこちらの被害は、きっと相当なことになるだろう。

 だがそれでいい、だって相手の被害も相当なものになるだろうから。

 殺して、殺して、殺して、殺して、殺す。ただそれだけが自分たちの全ての共通する意識。

 そうして海上の悪意が動き出す。うねり、轟き、覆う波のような怒涛の勢いで。

 

 嗤うソレに、味方からの応援要請が届いたのは、そのしばらく後だった。

 

 

 * * *

 

 

 シグナルレッド。

 要警戒緊急事態を知らせる、軍内秘匿コード。

 それが発令されたと言うことは、この件が海軍の危機のみならず国家存続にすら関わりかねない件だと判断されたと言うことだ。

 要警戒事態(シグナルオレンジ)や、要注意自体(シグナルイエロー)とは格が違う。

 本当の本当に数十年に一度レベルの緊急事態だ。

 少なくとも、俺が生きている間に発令されるのは初めての事態。

 

 深海棲艦の大侵攻。

 

 言葉にすれば簡単で、言ってみればいつものことだ。

 だが今回は能動的だった。その違いは非常に大きい。

 

 深海棲艦は基本的に、自身が縄張りとする海域があり、そこから出てくることは無いと言われている。

 深海棲艦の侵攻は、数を増やし、生息海域から溢れ、溢れた先を縄張りとする、と言う非常に受動的で自発的な要素があまり無い。

 だが極々稀に、こうして深海棲艦が自発的に動くことがある。

 

 そこには、強力なリーダーの存在がある。

 

 敵の中心となる存在。それが下位の深海棲艦に命令を下し、初めて自発的な侵攻を開始する。

 恐らく中将殿が最後に言った化け物、とはこのリーダーを指すのだろう。

 歩からもたらされた情報から推察するに、間違っていないとは思う。

「じゃあ、ここにも来るんだな?」

 そんな自身の問いに、歩が頷く。その顔は先ほどまでのふざけた表情は抜け落ち、真剣な表情へと入れ替わっている。

「ええ、間違いないわ、敵の侵攻予想ルートがばっちりここに被っている…………どうやら向こうは一直線に本土目指してきているみたいね」

 一直線に攻め入り本陣を叩く、と言うこれまでとは違う、明らかに戦術を感じさせられる動きに、表情が険しくなるのが分かる。

「こちらとしては鎮守府からの撤退も見ているけれど…………どうする気?」

 そう尋ねる歩に、沈黙する。敵の数は不明だが、大侵攻と言っている以上、恐らく以前の時以上と考えていいだろう。五十…………いや、下手をすれば百を超まあえるかもしれない。

 それに対抗するこちらの戦力は駆逐艦が三隻…………いや、電は出撃できないのでたった二隻。

 しかも今回は前回と違って援軍の当ても無い。

「防衛ラインは?」

「まだ作られていないわ…………予定としては……………………この辺りに作るつもりね」

 言葉の途中で地図を取り出すと海の上を指でなぞる歩。予定とされる防衛ラインはこの鎮守府よりも大分後方であり、それはつまりこの防衛ラインより前の鎮守府を全て破棄するつもりなのだと理解する。

「かなり後退してるな…………本気か? それとも、ここまでしなければならないほどの規模なのか?」

 このラインではもし侵攻に勝ったとしても、再び元の海域まで押し上げるのに、さらに二十年はかかるのではないかと予測できるほどに後退した防衛ラインに、思わずそう問う。

「ええ、もう上のほうでも決定されたラインよ…………今回予測できる敵の総数は千を越すわ」

「千っ!?」

 告げられた言葉にさすがに驚く。本当にこれまでで最大規模の侵攻である。否、侵攻自体が元々大規模なものであるが、これほどのものは歴史上初めてだろう。

「大よその侵攻ルートは三つ。それぞれ三百ずつほどに分かれて侵攻中よ。これでも火野江中将のお陰で侵攻自体は遅くなったから、道中の鎮守府に撤退命令を出せて人的被害はこれまでのところゼロよ」

 だが襲われた鎮守府はもう使えないだろう。立て直すしかなくなるし、奪われた海域は再び取り戻すのに時間がかかる。

 だが、だからと言って、ここに留まるのは絶対に無理、不可能だ。

 

 援軍も無い、支援も無い、力も無い。そんな状況でこの場所を守り抜くことなど出来ない。

 

「……………………………………」

「まあどうする気、なんて聞いたけれど、それでももう選択肢なんて無いわよね」

 そう、選択肢は無い。すぐにでもこの鎮守府から引き払うべきだ。

「一応言っておくけれど、この鎮守府から撤退した場合、うちの指揮下に入って防衛ラインの死守に参加してもらうわよ」

「了解…………そう、だな。とりあえず撤退の方向で動く」

 そう告げると、歩が頷く。まあ分かっていた答えだろうから、驚きは全く無い。

「そう…………良かったわ、灯夜くんの直接の上司である火野江中将が居ない以上、私に命令は出来ないから、残るって言われたら説得が大変だったところだわ」

 良かった良かった、そう呟きながら広げた地図を片付ける歩。

 そうして立ち上がり、こちらを向いて。

「それじゃ私たちは次に鎮守府へ行かないといけないから、もう出るわ…………行くわよ、柚葉、雪ちゃん」

「うん、分かったよ、おねぇ」

「了解です、司令(しれぇ)

 次々と立ち上がり部屋を出て行く、そうして最後尾の柚葉が部屋を出ようとして。

「じゃあね、灯夜くん、向こうで待ってるよ」

 笑ってそう告げ、部屋を閉める。

 そうして後には俺たち三人だけが残された。

 

 ……………………。

 

 ………………………………。

 

 …………………………………………。

 

 沈黙が部屋の中を支配する。

 あまりに気楽に。

 あまりに気軽に。

 あまりにあっさりと。

 そうして告げられた情報の重さに、正直俺たち全員が理解が追いついていなかった。

 

「とりあえず、準備だけはしよう…………撤退の準備を」

 

 そう告げると、半ば呆然としながら二人が頷き、部屋を出て行く。

 まだ俺自身頭が混乱している部分がある。

 

 けれど現実はどこまで残酷であり、個人の事情なんてものは置き去りにして時間は流れる。

 

 抗い続けねば奪われる、弱肉強食こそが真理たるこの世界で、そんな当たり前のことを思い出さされたのは。

 

 そう…………翌日のことだった。

 

 

 * * *

 

 

「…………………………………………」

 あまりにも非現実的な光景に、絶句するしかなかった。

 それは隣にいるヴェルもそうだし、暁だってそうだろう。

 いつもは何かにつけて動じないヴェルが目を見開き、ぴくりとも動かないのだから相当である。

 

 海が黒かった。

 

 何を言っているのかと言われるかもしれないが、見たままを言ってそれである。

 敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、どこを見てもいる敵の姿。

 海が深海棲艦で埋め尽くされたその光景に、さすがに絶句するしかない。

 だが呆けていた頭がようやく現実を認める。ようやく思考が回りだす。

 

「……………………敵だ!!!」

 

 叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。声を張り上げて、叫ぶ。

 それに応えるように、ヴェルが、暁が、目をぱちくり、と一度(まばた)かせ…………そうして遥か遠く水平線の彼方を埋め尽くす敵を見据える。

 

「全艦出撃準備! つめれるだけの燃料と持てるだけの弾薬を持って、今すぐ出撃だ!!!」

Да(ダー)!」

「了解!」

 

 一度動き始めれば歴戦の(つわもの)たちだ。体が無意識に戦いへと動き出す。

 艤装を装着するため駆け出す二人を見ながら、ようやく動き始めた頭を全力で回す。

 

 あれを一体どうする?

 

 昨日聞いた話から察するに、数は三百以上。。当然、戦力比としては話にならない。

 だったら撤退するしかないのか? すぐに撤退できる程度の準備はしてある。

 あの雲霞の群れのごとき集団がここに到着するまでどれほどの時間がかかるだろうか?

 一時間? 二時間? それとももっとか?

 なんにせよ、時間との勝負。急がなければならない。

「そうと決まればさっさと撤退の…………」

 そう呟いた、その時。

 

「……………………ちょっと待て」

 

 ふと、視界にソレが入った。

 海上を波に揺られながらこちらへとやってくるボート。

 

「………………嘘だろ」

 

 先ほどはそのずっと奥のほうの敵の群れのせいで気づかなかったが。

 

「…………………………………………中将、殿」

 

 やってきたボートに乗っていたのは、中将殿だった。

 

 

 * * *

 

 

「中将殿?!」

「……………………やあ…………少佐」

 ボートが波止場に到着する。すぐ様駆けつけると、小さな人一人が乗るのが精一杯なゴムボートの上に血塗れの中将殿が乗っていた。

「中将殿、怪我を…………すぐ治療します」

 呟き、救命胴衣を着けた中将殿をボートから引きずりだす。そうして波止場の上に寝転がせ、すぐさま救命胴衣を脱がせると、出血場所を探す。

「…………不味いな」

 服の下からあふれ出る血が染みになっていてすぐに場所は分かった。脇腹、それと右足だ。

「…………失礼します」

 女性の服を捲ることに一瞬抵抗があったが、けれど人命優先と考え、すぐに邪な考えを捨てる。

 そうして露出した白い肌、その一部が痛々しく赤く染まってはいるが、出血は止まっているようだった。

「脇腹の傷は浅かったみたいだな…………それでも真水で洗わないと不味いな」

 そうして次は足の出血を確認しようとして…………。

「…………こいつは」

 思わず顔を顰める。酷い出血だ。よりによって大動脈を切っている、下手すれば失血死だ。

「不味い、不味いぞこいつは」

 よく見れば右足を脱いだ上着で縛ってある。簡易止血はしてあるが、それでも溢れ出る量が多い。

「すぐに医務室へ…………病院に連れて行きたいところだが」

 こんな孤島に病院なんて無い。本来なら集中治療室にでも担ぎこまれるような大怪我だが、仕方ない。

「ちょっと失礼します、よっと」

 中将殿を背中に乗せ、そのまま立ち上がり背負う。

 出来るだけ揺らさないよう、けれど急いで医務室へと急ぐ。

 

「少佐」

 

 そしてその道中に。

 

「命令……だ」

 

 中将殿が呟く。

 

「ここを…………五日間、守り抜け」

 

 そう言ったきり、背に負った中将殿の力が抜ける。

 

「……………………中将、殿?」

 

 どうやら気絶したらしい。そう気づいて…………。

 

 先ほど言われた言葉を反芻する。

 

 五日、この鎮守府を守り抜け?

 

 ……………………。

 

 ………………………………。

 

 …………………………………………。

 

「相変わらず無茶ばっか言ってくるな、アンタは!!!」

 

 その意味に気づいた瞬間、思わずそう叫んだ。

 

 




悲しみは独りではこない、必ず連れを伴ってくる。その悲しみの跡継ぎとなるような連れを。

One sorrow never comes but brings an heir. That may succeed as his inheritor

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