響が可愛いと思ったから勢いだけで思わず書いちゃったような艦これ二次   作:水代

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ぐわああああああ、あと三話で収まりきらないいいいいいいい。
エピローグ本来の半分にカット、四章の伏線もカット、それでようやくギリギリツメツメにして収まり切るはず(震え声

くそ、さっさと雷殺すだけだったはずの過去編が無駄に長くなりやがって…………。

お陰で本来これ6話で終わってなきゃいけない話だったのに、一話分丸まるプロットよりずれてるよ(


Thou art more lovely and more temperate

 

 生きていることが辛いと思ったのは…………さて、いつからの話だっただろうか。

 かと言って、死にたいとも思わなかった。

 雷が沈んだ日から、自身の胸に到来したのは虚無感。

 ただどうしようも無く、全てがどうでも良かった。

 生きていようが、死んでいようが。それでも淡々と仕事はやっていたらしい辺り、それはもう習慣と言うか、自身の癖のようなものになっているらしい。

 電がいなくなった、部屋の様子を見に生かせていた長門からそれを聞いた時、ああ困ったな、と思う程度の認識しかなかった。

 いなくなった、と言っても艦娘である以上、自殺などするとも思えないし、あの電が無謀な行動に走るとも思えない。

 だから、楽観していた、と言うより深く考えていなかった。

 ただ、予想の付いた事態の一つだったが故に、予め細工はしていた。

 一番厄介なのは、海に出られること、だから艤装には発信機のようなものを取り付けておいた。

 同時に盗聴器のような機能もあり、現状の向こうの様子が音として聞ける。

 慌てることもせず、イヤホンを耳にはめ、盗聴機能のスイッチを入れて…………。

 

『久しぶり、電』

 

 聞こえた声に、心臓が止まるかと思った。

 

 

 * * *

 

 

 目の前で徐々に人の形へと変わっていくソレを、電はただ呆然としながら見ていた。

 自身と同じ服装、そして艤装、容姿も良く似ていると言われる。

 けれど自身と違って活発そうな印象を受けるその姿は。

 

 紛れも無く、自身の姉、雷だった。

 

 こんな時だと言うのに、こんな状況だと言うのに、こんな場合だと言うのに、どうしてそんな嬉しそうな表情が出来るのか、どうしてそんな楽しそうな表情が出来るのか、どうしてそんな明るい笑みが浮かべれるのか。

 電には理解できない、目の前の姉の姿をしたナニカを、電には理解できない。

 それでも分かる、直感でわかる、感覚でわかる、目の前のソレを自分は繋がっている。つまり紛れも無く、目の前の彼女は姉だ。それだけは分かる、偽者なんかじゃない、新手の深海棲艦なんかじゃない、紛れも無く駆逐艦雷その人だ。

 だからこそ、余計に理解できない。

 

「どうして…………雷は沈んだはずなのです」

 

 確かに沈んだ、絶対に沈んだ、目の前の伸ばした手はけれど雷の手を掴めなかった。

 だとすれば、目の前のこいつはなんなのだ? どうして雷だと分かってしまうのだ。

 そんな、自身の疑問も含んだ言葉に、けれどソレは…………雷はあっさりと頷く。

 

「そうね…………確かに私は一度沈んだわ、でもこうして復活したのよ」

 

 深海棲艦として。

 

 呟かれた声に、頭が真っ白になった。

 

「でも…………そうね、もう私が私でいられる時間は長くないわ」

 

 だから、そう…………だから、と続け。

 

「ねえ電…………私を、殺して?」

 

 そう言った。

 

 

 * * *

 

 

 聞こえてくる会話に、すぐさま鎮守府を飛び出す。

 長門の静止も聞かず、即座に備え付けられた船に飛び乗り、発進させる。

 先ほどまでの遅さは一切無く、ただただ無心に発信機が示す座標へ向けて船を走らせた。

 

 深海棲艦の支配する海域には、電波障害が起こる。

 だがこうしてきちんと電波を受信している、と言うことは、この鎮守府からそれほど離れた場所ではないと言うことだ。

 ゆったりとした速度で向かっても。いつもなら気にならない程度の時間で着くだろう。

 だが、今は…………今だけは、たったの一分、否、僅か一秒すらも惜しかった。

 

「…………………………」

 

 遅々としか縮まらない距離にイラつきながら、急げ、急げ、と心の中で念じ。

 そうして再び、盗聴機へと耳を傾けた。

 

 

 * * *

 

 

「嫌…………です、無理、です…………できないですよ」

 

 声が震える。当たり前だ、最愛の姉が、自分を殺せと言ってくるのだ、受け入れれるわけがない。

 だが雷はそんな自身の答えに、一つため息を漏らし…………。

 

「なら、代わりのお願いがあるんだけど」

 

 そう言ってくる。代わりのお願いと言うのが何なのか分からない、だが少なくとも雷を殺せと言うお願いよりはマシだと思い、それが何か尋ねる。

 自身の問いに、雷の形をしたソレがニィと口元を吊り上げて。

 

「私の代わりに、死んでちょうだい?」

 

 砲をこちらへ向け…………何の躊躇いも無く、撃った。

 

「っ雷!?」

 向けられた砲に驚き、咄嗟に飛び跳ねていた。そのお陰か、直後に放たれた弾丸は自身へと当たることなく、彼方へと飛んでいく。

 だが電の頭の中は、混乱でいっぱいだった。

 

 撃った? 雷が? 撃たれた? 雷に? どうして? 死んで欲しいから? なんで? なんで? なんで?

 

 そんな自身の混乱を見て、雷が嗤う。

 

「何を驚いているの、電…………私、今は深海棲艦よ? だったら艦娘(あなた)を撃っても何の不思議も無いじゃない」

 

 嗤う、嗤う、嗤う。醜悪なまでに引き攣った笑みで、残酷なまでに楽しそうな表情で。

 電にはそれが雷だとは思えなかった。少なくとも電の知る雷はそんな笑みをしない。

 これはきっと偽物なのだ、そう理解する。

 だから、何の躊躇いも無く、雷へと砲を向けて…………。

 

「っ!!!」

 

 その顔が雷であることに、引き金を躊躇った。

 そうして代わりに、雷の砲が放たれ、直後、自身の肩に衝撃と激痛が走る。

 

「ぐ…………あ…………あぁ!」

「痛い? 辛い? そうね、私も痛かったわ、辛かったわ、だからそう…………ねーえ、電、私と一緒に行きましょうよ」

 

 痛みでかき乱される思考の中、けれどどうしてか、一緒に、その言葉だけが、やけに耳に残る。

 

「…………一緒?」

「そうよ、電も沈んでしまえば…………深海棲艦になれば、ずっと一緒よ?」

 

 普段ならば一蹴するような言葉、だってそれは鎮守府の皆と決別すると言うこと。本来なら聞き耳を持つことすらないだろう言葉。

 けれど、今はどうしてかそれが酷く魅惑的だった。

 

「…………一緒…………雷と…………お姉ちゃんと…………」

 

 ああ、それもいいかもしれない。

 そう思った自分は、すでに彼女の言葉に取り入られてしまっていた。

 

「そう…………だから、ねえ、電…………お願い、死んで?」

「……………………うん」

 

 気づけば、頷いていた。そしてその答えに安心したのか、嬉しそうに笑う雷が…………ほんの数日前まで見ていた笑顔で、近づいてくる。

 そうして目と鼻の先まで近づいてきた雷が、ゆっくりと主砲を自身の腹部に当てて…………。

 

 

 ああ、自分はここで死ぬんだ。

 駆逐艦電は焦るでも無く、憤るでも無く、ただ淡々とした様子でその光景を受け止めた。

 まるで他人事。意識と体が分離してしまったような錯覚すら覚える。

 そうして夢を見る、生まれてきてからの夢、記憶。

 走馬灯と言うやつだろうか。

 

『特Ⅲ型駆逐艦の四番艦、電なのです』

 

 建造された直後の記憶や。

 

『第一艦隊、第一水雷戦隊。出撃です!」

 

 初めての出撃時。

 

『なるべくなら、戦いたくはないですね』

 

 一時秘書艦として、司令官の仕事を手伝ったこともあった。

 

『響! 久しぶりなのですよ』

 

 そして…………彼女と出会った。

 

「…………ひ……び…………き…………」

 

 ああ、そうだ。

 

 ()()()()()()()()()

 

「一緒に行きましょ…………海の底へ」

 

 そう、雷が呟くと同時に。

 バァン、と砲が鳴った。

 ぽたり、ぽたりと、血が流れる。

 

「…………どうして?」

 

 ()()()()()()、だが。

 

「…………どうして撃ったの? 一緒に死んでくれるんじゃないの? ねえ、電」

 雷が尋ねる。その表情は、怒っているようにも、悲しんでいるようにも見えなかった。

 寧ろ逆に――――――

 

「嘘吐き」

 

 ――――――嬉しそうに見えたのは、電の気のせいだろうか。

 

「ごめんなさい」

 

 声が震えた。手も足も、ガタガタと震える。自身が姉を撃ったと言う事実を、体が理解することを拒否していた。

 

「ごめんなさい」

 

 再度呟く、けれど雷からの答えは無い。代わりに…………。

 

「いいのよ」

 

 抱きしめられた。優しく、抱きとめられ、電の体から力が抜ける。

 

「いいのよ…………これで。だって電は、まだ生きているんだもの」

 

 優しく髪を梳くその手が懐かしかった。強く背を抱きとめるその手が大好きだった。

 

「わた……し…………わだ……じは…………」

 

 気づけば、涙が溢れていた。呂律が回らないくらいに声が溢れそうで、けれどそれを押し殺そうとして、結局、失敗して。

 

「わだじ…………ああああ、うわあああああああああああああああああああああ」

 

 結局、声が溢れた。けれど雷は優しく笑って、自身の背を撫でた。

 

 自身が泣き止むまで、ずっと、ずっと。

 

 

 背中を摩ってくれる手が、あまりにも優しくて。

 髪を撫でてくれる手が、たまらなく嬉しくて。

 もし出来るのならば、このまま眠ってしまいたかった。

「ごめんなさい…………雷」

 呟いた声に、いいのよ、と返ってくる。

「…………本当は、一緒に行きたいです」

 本当に、ここで沈んで一緒に行けるのなら、行ってしまいたいと思う。

 それはダメよ、そう呟く雷の声に、やっぱり先ほどまでの言動は嘘なのかと気づく。

 

 ああ、やっぱり惜しいなあ…………そう思う。

 一緒に行きたい、彼女と共に…………そう思う。

 それでもダメなのだ、やっぱり行けない…………そう思う。

 

「響を…………残して行けないのですよ」

 

 その言葉に、雷が微笑む。雷が時々見せる優しくて温かい…………電が一番好きだった笑みだ。

 

「そっか…………ねえ電、私からもお願い。響を一人にしないであげて」

 

 了解なのです、そう呟くと、雷が安心したように頷いた。

 そうしてふと気が抜ける。言いたいことを言ってしまったのもそうだが、大好きだった姉に包まれている感覚が、雷が沈んでからずっと張り詰めていた電の緊張を解していく。

 そうして突如襲い掛かる睡魔に、抗うことが出来ず。

 

 全身から力が抜け…………最後には、意識まで暗転した。

 

 

 * * *

 

 

 たどり着いた場所で見たものは、雷の腕の中で眠る電と、電を腕の中に抱く雷の姿だった。

「…………雷ちゃん」

 咄嗟に出た呼び方は、一番昔、自身がまだ新人だった頃のものだった。

 そんな呼び方に、雷が一瞬目を丸くして…………微笑む。

「あは…………司令官、なんだか懐かしいわね、その呼び方」

「……………………戻ってきてたんだ」

 雷が微笑み…………そして苦笑する。

「うん…………どうしてこうなったのかは分からないけど、そうね…………気づいたらこうなってたわ」

「それで、どうして電を」

「鎮守府のほうへ見に行ったら、偶々この子が一人で歩いてたから、わざと見つかったの」

 話したいこともあったしね、そう告げる雷、なんて答えればいいのか分からず、言葉に詰まる。

 と、その時、彼女の足からふっと力が抜ける。

「雷ちゃん!」

 咄嗟に近づき、彼女の体へ触れ…………

 

 その冷たさにぞっとした。

 

「…………あ、気づかれちゃった…………ごめんね司令官。もうそんなに長くないんだ」

 気づけば、彼女の腹部には大きな穴が開いていた。

 先ほどまで盗聴していた音から察するに、電が撃った穴だろう。

「実はもうね、目も見えてないんだ…………司令官、ここにいるのよね」

 体を支える自身の手に触れて、その感覚を確かめるように撫で、そうして安心したように笑う。

「多分、これが最後だから…………だから、司令官、お願いがあるの」

 少しだけ辛そうな表情で、少しだけ悲しそうな表情で、雷がそう呟く。

「みんなを守って…………司令官の大切な人も、司令官を必要としてくれる人も、守ってあげて、それはきっと…………司令官があの人から受け継いだ大切なものだから」

 どくん、と心臓が跳ねる。

「それと…………その守ってくれるものの中に、響と電を入れてくれたら、嬉しいわ」

 早鐘を打つ心臓を押さえながら、待って、と呟く。

「うん…………ごめん、きっと何か言ってると思うんだけど、聞こえないの、もう」

 だから一方的になっちゃうけどごめんなさい、そう呟きながら、続けて。

「帰って来るって約束しちゃったのに、守れなかったわね」

 待って、待って、と呟く声は、けれど彼女の耳には届かない。

 

「約束…………破っちゃってごめんなさい」

 

 待って。

 

「約束…………勝手に押し付けちゃってごめんなさい」

 

 お願いだから。

 

「勝手なやつで…………面倒な女で、ごめんね、司令官」

 

 私を、置いて行かないで。

 

「大好きよ、司令官」

 

 いか……ずち…………。

 

 

 

「いかずちいいいいいいいいいいいいい!!!」

 

 

 

 叫ぶ、と同時に目が覚める。

 荒い呼吸を吐きながら、滴る汗を腕でぬぐい、寝たきりの体を起こす。

「…………ここは」

 先ほどまでの光景が夢だと気づき、目を細める。同時に周囲を見渡し、ここがどこか考える。

「確か、私は…………」

 そうだ、彼の鎮守府に辿りついて、それから…………どうなった?

「くそ、思い出せない」

 僅かばかりの記憶が脳裏にちらつくが、それが何かはっきりと思い出せないジレンマに苛つく。

 仕方ない、とばかりに体を起こそうとし。

「っつ」

 痛みに歯を食いしばる。痛みの元に目をやると、足に巻かれた包帯に目が行く。

 ああ、思い出した、敵の攻撃を受けて、足が貫かれたのだった。

 あと脇腹もそうだったと服を捲ると、包帯が巻いてあった。

「良く生きてたものだ」

 何度か死ぬかと思った、それでも雷との約束を果たす日まで死んではならないと決めている。

 だから、感謝しよう、こうして生きていることに。

 

 そうして、一度落ち着いて…………気づく。

 

「…………誰が手当てしたんだろう」

 

 一応生物学的に、自身は女に分類される。

 響や暁、多分無いと思うが電ならまだ良い。だがもし彼に手当てされたのだとしたら。

 

「…………まあいいか」

 

 軍隊などそんなものである、一々性別など気にしていられない。

 とりあえず、ここから動こう、現状を理解しないと気になってオチオチ眠ってもいられない。

 辺りは真っ暗で、まだ夜中なのだろうが、誰か起きているだろうから、探しに行くことにしよう。

 決定し、医務室のベッドから抜け出して、そうして部屋を出た。

 

 




君はさらに美しく、さらに優しい

Thou art more lovely and more temperate

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