響が可愛いと思ったから勢いだけで思わず書いちゃったような艦これ二次 作:水代
その問いに答える者は居ない。
だから私は求めている。
私が一体何者なのか、それを決定してくれる誰かを。
* one day B *
これを何と表現すべきだろうか。
目の前に並べられたスープ皿に並々と盛られた料理に、思わず生唾を飲み込み…………無論、悪い意味で。
赤い、それを表現するとしたら最早それ以外の言葉では語ることなどできないだろう。
「えっと、これ…………何? トマトの溶岩煮、とか?」
シチューの中に、赤い絵の具をチューブ一本丸ごと溶かしたような、そんな赤さにスプーンを持った手が思わず震える。
そんな私とは対象的に、これを作った本人はさも不思議そうな表情でこちらを見て首を傾げている。
「何って…………ボルシチさ、私のは美味い」
何とも自身満々に呟き、スプーンを手に取ると、いただきます、と告げて赤いスープを一掬いし…………口に運ぶ。
その様子をマジマジと見ながら、けれど何事も無いようにスープに口をつける少女…………響を見ていると、どうやら食べれる…………らしい?
「美味しいの?」
思わずそんな質問をしてしまう、すると響がまた首を傾げて、それから頷く。
「だったら、もっと美味しそうな表情しなさいよ」
そんな無表情に咀嚼されては、区別が付かないではないか。と内心で呟きつつ、自身もまた勇んでスプーンでスープを一掬い。
目の前まで持ってきたスプーンに溜まる赤い液体に少しだけ鼻白むが、意を決して口へと運ぶ。
「……………………あら、美味しい」
目をぱちくり、とさせて呟くと、響がでしょ? と言った感じのことを目で訴えかけてくる。
見た目のインパクトが凄すぎて気後れしてしまうが、味は意外とまとも…………いや、むしろ美味しいと言っても良い。
「案外甘いのね」
「甜菜を使ってるから甘いんだよ」
甘い、甘くはあるが、決して不快な甘さではない。トマトの風味と合っていて、むしろ良い。
「でもちょっと甘すぎるわね、もうちょっと塩気を足してみたら?」
そんな自身の提案に、響が考慮してみる、とだけ答える
スプーンでさらに一口、少しだけ不満を漏らしたが、けれど実際のところこれはこれで十分美味しい。
「これ、あとどれくらいあるの?」
そう尋ねると、響が自身の傍らに置いた鍋の蓋を開けてみせる。
中にはまだまだたくさんのスープが入っているようだ。
あと五人分くらいじゃないかな、そう呟く響の言葉に、頭の中で数を数える。
司令官の分を入れてちょうどだ。何とも用意が良いと言うか、計算が速いと言うか、
「じゃあ私、これ後で司令官に持っていくわね」
トントン、と指先でスープ皿を軽く叩くと、響が頷く。
スプーンでもう一口、掬って口へと運ぶ。
「…………うん、美味しいわね」
悪くない、素直にそう思った。
そんな、ある日の夢。
* today *
「みんなでお料理しましょ?」
突然の暁の提案に、その場にいた全員が一瞬呆け、雷の手からぽろり、と棒付きキャンディーが落ちた。
時刻は午前十一時ぐらい。あの気まずい執務室から場所を移して食堂。
「あなた…………誰ですか」
そんな電の言葉、そして明らかに様子のおかしい雷。
そんな緊迫した空気をいとも容易く裂いたのは、やはり暁だった。
パンパン、と手を叩く。それだけ両者の気勢が一瞬殺がれる。
その瞬間を逃さず暁が続ける。
「こんなとこで顔付き合わせてても仕方ないわよ、ほら、食堂でも行きましょう? 今ならまだ朝ごはん何かあるかもしれないし、雷はお腹減ってない?」
そんな暁の言葉で、私たち四人は食堂へと移動する。移動中に電がチラチラと雷のほうを見ていたが、雷はそんな電に一度も視線を向けず、ただどこを見ているのか分からないような視線で廊下を歩いていた。
食堂に着くと、すでに片付けが始まっていたら、暁が職員の一人に駆け寄って少しばかり会話すると、職員が苦笑して一人分の朝食と、それからいくつかのお菓子の詰め合わせを盛り付けた皿を持ってきてくれる。
「わあ…………これ食べていいの?」
そう尋ねる暁が一番嬉しそうであったのは、何とも微笑ましい。
そんな暁の様子に幾分落ち着きを取り戻したのか、電も微笑して…………雷の表情は変わらなかった。
それでも空腹には耐えられないのか、雷が小声でいただきます、と呟き箸を手に取ってトレイに載せられた皿に盛られた料理に手を付けていく。
「………………………………美味しい」
ぽつり、と雷がそう零す。
それは誰かに聞かせるためのものではなく、ただ不意に出た言葉。
けれど、その言葉にはこれまでの冷たさは無く、ただただ安堵の感情が多分に含まれていた。
それがどういう意味を持つのか、今の自身には分からない。
ただ、それがとても重要なことなのだと、なんとなく理解する。
今はまだ分からなくても、いつか分かるかもしれない、そんな予感を携えながら。
そうこうしているうちに、雷が食事を終える。
一通り綺麗に食べ終えると、ごちそうさま、と呟きトレイを食堂の奥へと持っていく。
そうして雷が戻ってくると、暁が立ち上がる。
「それじゃ、雷に鎮守府内の案内をしましょ…………雷も施設の場所くらいは覚えるべきだし」
「あ…………うん…………まあ、よろしく」
会った時から変わらない冷めた目で、お皿に山盛りにされたお菓子をそっとポケットに移す暁を見る。もしやあれで気づかれないと思っているのだろうか、別に私としては堂々とやってしまっても構わないと思うのだが。
気のせいだろうか、心なしか雷の視線の温度が下がっているような…………まあ気のせいだろう。
そうして一箇所ずつ、雷へと鎮守府内を案内して回る。そう規模の大きい鎮守府ではないとは言え、行く先々で職員の人たちと話していては遅くなるのも当然で、結局全て回り終えて食堂に戻ってきたのが十一時近く。すっかり長くなってしまったと思う。そしてその原因の大部分は暁にあると思う。
「あはは…………いっぱいねえ」
「暁、どれだけ可愛がられてるんだい…………」
行く先々で職員の皆様が暁にお菓子を渡して来るのだ。何だかんだで司令官と同様、彼ら彼女らとも長い付き合いではあるが、何とも意外な一面を見せられた気分であり、そんな一面をあっさりと引き出せるのは、やはり暁の魅力なのだと思う。
鼻歌すら歌いながら戦利品の菓子類を机の上に置かれた、お菓子の盛られた皿に上に追加していき、早速とばかりにその中から一つ取って、袋を剥く。
「まだ食べるのかい?」
案内中にもポケットに忍ばせていた菓子を食べていたと思うんだが、あれでも足りないらしい。
けれど昼食前に少しだけ何か食べたい気分でもあるので、一つ欲しいと言うと、ケーキ生地でマシュマロを挟みチョココーティングした某お菓子会社の有名なお菓子をもらったので、早速袋を剥いて一口。
電もいつの間にか海苔の巻かれた煎餅を齧っているし、雷すらも頬杖を付きながら棒付きキャンディーを片手で弄びながら食べていた。
なんとなく穏やかな雰囲気。つい二時間前までと比べると天と地ほどの差だ。それもこれも暁のお陰と言えるだろう。
いつもはなんと言うか、妹の間違いなんじゃないかと思う姉だが、こういう時は頼りになるものである。
「幸せ~♪」
……………………頼りになるのだ。
それはさておき、雷である。
はっきり言って、今自分が冷静でいると言う自信が無い。
何せ目の前に雷がいるのである。
例え“彼女”とは違うのだとしても、それでも平常心でいられるはずが無い。
そんな自身の視線を感じたのか、雷が顔を上げて…………じっとこちらを見る。
「……………………何?」
「いや………………何でもないさ」
何か言おうと思っても、けれど何を言えばいいのか、それが分からず結局言葉を濁す。
はっきり言って、目の前の雷に大して、自身がどんな感情を抱いているのか自分でも良く分からない。
好いているのか、それとも嫌っているのか、関心が無いのか、それとも興味津々なのか。
どんな言葉で例えても合っているようでもあるし、けれどピタリとは嵌まらない。
そんな自身の内心に、同じテーブルについている他の面々も薄々察したのか、電が食べる手を止めてどこか居心地悪そうにしているし、暁は……………………。
「そうだ――――――――」
パン、と手を叩く。自然と注目がそちらへと向いて…………。
「みんなでお料理しましょ?」
突然の暁の提案に、その場にいた全員が一瞬呆け、雷の手からぽろり、と棒付きキャンディーが落ちた。
* * *
美味しいものを作るのは難しい。
人の好みとは千差万別であり、万人に受け入れられる味、と言うのは中々無いからだ。
だが食べれるものを作るのは意外と簡単だ。
多少好みの問題はあっても、基本的にどんな料理でも、余計なことをしなければ大抵のものは食べることは出来る。
食べれないほど不味い、と言うのは素人が勝手な判断で余計な物を付け加えるからこそ起こることであり、本当に料理の上手な人間ならば作る前から味の予想が出来ている。後は味見をしながら味を調整するだけであり、その過程で創作的な工夫を凝らすことはあっても、その結果がある程度以上予想できていて初めて料理が上手だと言える。
まあつまり、何が言いたいかと言うと。
「暁、それはいけない、それだけは止めるんだ」
「大丈夫よ、響。私に任せなさい」
「それは暁の台詞じゃないから、それだけは止めるんだ」
甘いほうが良いと言って鍋に
「…………えっと、こう、なのですか?」
「…………………………違う、それだと手を切るわ」
電と雷が包丁を使って野菜の皮むきをしている。
慣れない作業に苦戦する電だが、意外にも慣れた手付きで野菜の皮を剥いてく雷が時折注意しているお陰か、何とか怪我はせずに済んでいるようだった。
雷も雷で、目の前で作業する電の危なっかしさに、ついつい口が出てしまうらしく、冷めた目では見ているが、けれどその雰囲気は先刻までよりも幾分かさらに和らいでいるようにも感じられた。
切った材料は玉ねぎ、人参、ジャガイモ、そして牛肉。それを炒めて醤油と味醂で味をつけ、料理酒を入れて煮込むだけ。
「ねえ、これ何を作ってるんだい?」
ふと感じた疑問。よく考えたら、暁は料理を作る、と言ったが何を作るとは具体的には言っていない。
そんな私の疑問に、三人が一瞬考え込み。
「肉じゃが?」
「シチュー?」
「…………カレー?」
見事に意見がバラバラなことが発覚した。
まあそんなこんなと色々あったが、最終的に完成したのが。
「私のボルシチは美味い」
「え? なんであそこからその結論になったの? え? え?」
戸惑う暁を置いておいて、鍋の中には赤々としたスープがたっぷりと入っている。
時間も中々良いこともあって、四人で机を囲む。
だが、暁と電は目の前に置かれた皿の中に入ったボルシチを前に目をぱちくりと瞬かせるだけで手をつけようとはしない。
「食べないのかい?」
ずっと目の前の皿を注視する二人にそう声をかけると、二人がびくり、と反応する。
そんな二人を見る自身に、雷がぼそりと呟く。
「見た目のインパクトに引いてるんでしょ…………トマトの溶岩煮じゃないこんなの」
どこかで聞いたような台詞を呟く雷は、平気そうな…………いや達観したような冷めたような表情をしているせいでいまいち感情が読み取り辛いが、特に表情を表に出さずに、平気そうな顔で食べている。
そんな雷の様子に背を押されてか、二人もおずおずと目の前の皿にスプーンを伸ばし。
「あら?」
「美味しいのです」
恐る恐ると言った様子でスプーンを口に運んだ二人だったが、すぐに目を丸くする。
それからすぐに二口、三口と食べていき、大丈夫そうだと判断したのか普通に食べ始める。
それから早々に自分の分を食べ終わると、食器を流し台へともって行き、さらに別の皿に半人分ほど注ぎ終えると、トレイにペットボトルに入れたお茶を載せる。
「あらどこか行くの?」
そんな自身を見止めて、暁が声をかけてくる。
すでに皿の中身も少なくなってきているので、自身が戻ってくるころには皆食べ終わっているころだろうと予想する。
「司令官のところに持っていくのさ」
「ああ、風邪引いたらしいわね、後で私も様子を身に行くわ」
そんな言葉を交わして、食堂を出ようと思った、そんな時。
「響」
ふと、名前を呼ばれた。
振り返る、その声にどこか懐かしさを覚える。
「雷…………どうかしたかい?」
問う。自身の言葉にけれど雷はそっぽを向いて。
「……………………。なんでも無い、料理美味しかったわ」
「ん…………そうかい、ありがとう。でも作ったのはみんなさ」
そう返すと雷は、そう、とだけ呟き。
「
そう言い残して、食堂を出て行く。
後ろで暁が、雷どこ行くのよ、と言って慌てて皿に残ったスープをかきこみ、むせて電に背を摩られているが、そんなこともう自身の頭には入っていなかった。
「……………………………………どういうことだい」
呟いた言葉、過ぎった疑念はけれど、晴れそうに無かった。
日常回。難産だった。
個人的に、日常的な会話って言うのが一番ハードル高いのは作者がコミュ障だからだろうか(
因みに作者はボルシチ食べたこと無いです。なので味はだいたい適当な想像で書いてます。
まあ実際、材料とか調べた限りの評価とか考える限り、だいたいの予想は付きますけど。
ダウナー系毒舌雷ちゃんと言う新ジャンルに、いいなあ、とか思ってる自分。
あと書けば書くほど暁が一番可愛く思えてくる。と言うわけでそのうちまた一本ネタで暁メインを書くかも(設定カキコ中