響が可愛いと思ったから勢いだけで思わず書いちゃったような艦これ二次   作:水代

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得た答えの意味など、まだ知らなくても良い。

それが分かる頃には、すでに何もかも遅いのだから。

だからと言って、それが無意味なわけではない。

意味など分からなくても、確かにそれは、自身の心にあるのだから。


家族

 

 何度と無く海へと足を運ぶが、その度に暁は不安を感じる。

 過去ずっとその不安は付き纏っていたが、それを明確に感じたのは仲間が沈んでしまったあの時からだ。

 つまり、この鎮守府にやってくる少し前のこと。

 それからずっと感じてきた不安は、そして過日、現実となった。

 響の…………妹の轟沈と言う形で。

 幸いそれは司令官の采配により回避されたが、それ以来ずっと思っていた。

 

 これが終わりだなんて、そんなはずが無い。

 

 と。

 

 司令官だって言ってた、戦う以上いつかは死ぬ、その覚悟だけは持たなければいけない。

 

 自分たちもだし…………司令官自身も、だ。

 最も、司令官は鎮守府にいるのだから、その危険性は極めて少ない。

 代わりに、無力感も感じるのだろう、と最近になって気づいた。

 

 自分たちが戦っている時、そんな時に何もしてやれない、ただ鎮守府の執務室で報告を待つだけ、それはどんな気持ちだろうか。

 昔の暁には分からないだろう、なまじ自分で戦う力があるだけに、ここに来た直後でも分からなかったかもしれない。

 けれど、今なら分かる気がする。

 

 妹一人残して、戦場を退避する無力さを今でも覚えている。

 

 あの時、自分に力があれば、何か変わったのだろうか?

 

 そう考えてみて、けれど何も変わらないだろうと思う。

 あの状況なら仕方ない、そう仕方なかった。

 

「そんな風に割り切れたら、楽なんでしょうけれどね」

 

 そんな後悔はもう二度目だ。

 言わずもがな、一度目は那智と鳳翔が沈んだあの時。そして二度目は先も言った通り、響を置き去りにしたあの時。

 仕方なかった、そんな言葉で割り切れたら楽なのだろう、ああ本当に、楽なのだろう。

 けれど、そんなの。

 

 ふざけるな!!!

 

 考えた途端に湧き出てくる思い、つまりは怒り。

 仕方なかった、だと。ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!!!

 だったら…………だったら…………。

 

 那智さんや鳳翔さんが沈んだのも仕方ないで済ませるのか?!

 

 出来るはずが無い、そんなこと、出来るはずが無い。

 もう嫌なのだ、あんな風に、今日居た誰かが昨日に取り残されるのも、明日には居なくなっているのも。

 そんなもの、もう嫌なのだ。

 

 だから願ったのだ。

 

 “強くなりたい”

 

 

 * * *

 

 

「ひーびーきーいるー?」

 部屋がノックされ、こちらが返事をするより先に扉を開いて、暁がやってくる。

「暁、ノックしたなら返事くらい待ったらどうだい?」

 少しだけ呆れながらそう言うが、暁はどこ吹く風、と言った様子で笑う。

 

 そんな姉の姿に、少しだけ心が癒されるのを感じる。

 ここ最近はずっと部屋で考え事ばかりしているので、こうして家族とのコミュニケーションは一時の清涼剤となっている。

 未だ司令官の言葉に対する答えは見つからない。

 そのことに焦る気持ちはあるが、それでもこうして姉妹が着てくれた時くらい、考え事を止めて話に興じたいと思う。

 

「今日はね、出撃してきたのよ」

 

 それは暁の話すここ最近の鎮守府での日常の一コマの一つだった。

 ただそれが自身にとっては聞き逃すことが出来ない言葉だった、と言うだけで。

 そんな自身の内心に気づかないまま、暁が続ける。

 

「電と二人で、相手は駆逐艦が二隻だったわね」

 

 自身たちが逃した敵だ、すぐに気づく。

 そうして目を見開き、暁へと視線を向け、口を開こうとして。

 

「それがね、思ったより簡単に倒せたの、私も電も。一撃も反撃されずに倒したのよ?」

 

 止まる。どうやら無事だったようだ、と少しだけ安堵。

 

「最近演習ばっかりで分かりにくかったけど、前より強くなれたわ」

 

 どこか自慢げな暁の表情。

 

 そして。

 

「ねえ、響」

 

 気づけば、暁が自身を覗き込んでいた。

 そのことに驚くよりも早く、暁が二の句を告げる。

 

「今度は…………ううん、今度こそ絶対に一緒よ」

 

 一瞬、何のことか分からず目をぱちくりとさせる。

 そんな自身の思考を読み取ったのか、暁がだから、と続け。

 

「今度こそ、響一人置いていったりしないわ」

 

 思考が止まる。表情が凍る。

 

「一ヶ月前の戦い、あの時、響をあの場所に残して離脱した時からずっと思ってたわ」

 

 そんな自身の内心を、恐らく無視して暁が続ける。

 

「強くなりたい、響を…………ううん」

 

 そうして。

 

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 その口から出た言葉は。

 

 かつで自身が誓った言葉にとてもよく似ていて。

 

 そして今も自身が抱いている言葉に良く似ている。

 

 なのにどうしてだろう。

 

 同じような言葉なのに、違和感があった。

 

 

 * * *

 

 

 誰もが何度と無く思うことだが…………この鎮守府は狭い。

 別に貶しているわけではない、この鎮守府の用途とそしてそこに必要な人数を考えれば適性とも言える程度の規模はある。

 ただ普通の鎮守府よりは狭い。必要な施設を除けば、だいたい十人前後の人間が住むのがやっとと言うところだろうか。艦娘用の寮と言ったものも無いので、鎮守府内の空き部屋を改装して個々の自室に割り当てているくらいだ。

 

 まあつまり、何が言いたいのかと言うと。

 

「こんにちわ、雷」

「そうね…………こんにちわ」

 

 こうして、同じ艦娘同士、出会うことも多々ある、と言うことだ。

 駆逐艦雷に対しての駆逐艦電の心境は複雑と言うより他無い。

 

 かつて自身たちの旗艦だった少女と同じ姿、同じ顔、同じ声をしていながら、けれど全く別の性格をした別人。

 

 そんな雷を初めて見た時に漏らした言葉はさすがに失礼だったと思っている。

 だからだろうか。

 

「あ、あの、雷」

 

 すれ違い様、ふと電が雷を呼び止めたのは。

 

「…………何?」

 

 きょとん、とした表情で首を傾げる、そんな仕草が彼女と被って見えて。

 だからこそ、納得できてしまった。電には、納得できてしまったのだ。

 そして、だからこそ。

 

「あの、少しお話しないですか?」

 

 雷に対して、そう尋ねた。

 

 

 * * *

 

 

「出撃から帰ってきたところかしら?」

「あ、はい…………駆逐艦二体が相手だったのですよ」

「なら私たちの討ち漏らしね、ありがとう、って言うべきかしら?」

 

 さすがに廊下で話すのも何なので、場所を移して雷の部屋。

 電の部屋は、暁と共同で使っているので、勝手に入れるのも気が引けたのだが、まさか雷の部屋に入れてくれるとは思わず、さすがに驚く。

 

 と言うよりも、初めて会った時より随分と態度が軟化している気がするのは、気のせいだろうか?

 以前の雷ならば、先ほどの電の問いに対して、あっさりと首を横に振っていたと思うのだが。

 けれども、こうして話す機会を与えてもらったのだ、その機会は生かすべきだろう。

 

 だから。

 

「あの、雷」

「何?」

 

 真っ先に。

 

「ごめんなさい、なのです」

 

 頭を下げた。

 

「…………………………えっと、いきなり何?」

 さすがに面食らったのか、険の取れた声でそう呟く雷に、電が言葉を続ける。

「最初に会った時、失礼なこと言ってしまったこと、謝るのですよ」

 そう告げると、雷がああ、とようやく思い当たったのか納得したように頷き。

「別に良いわよ、気にしてないから、いいから頭上げなさい」

 雷に言われるままに頭を上げると、少しだけ苦笑した様子の雷。

 それがまた、彼女と重なって見えて――――――――

 

 やっぱりそうなのだと、電はもう一度納得する。

 結局、昔も今も変わらないのだ。

 

「やっぱり雷は、雷なのですよ」

 

 自身の中で結論出た言葉を呟くと、雷の動きが止まる。

 

 

 * * *

 

 

「やっぱり雷は、雷なのですよ」

 

 それは、彼女…………電にとって何気無い一言だったのかもしれない。

 それでも、私…………雷にとっては聞き逃すことの出来ない一言で。

 

「私は、以前の雷を知ってます…………今の雷も知ってます。けど、やっぱりどっちも雷なのですよ」

 

 優しくて、強くて、大切で、大好きで、最愛な――――

 

「――――私のお姉ちゃんなのですよ」

 

 そんな、記憶の中の(じぶん)ならば一笑してしまうような一言。

 けれど、過去と現在の自身の定義に揺れる今の雷には。

 

 そんなたった一言が、何よりも大切だった。

 

「……………………あはっ」

 

 建造さ(うま)れて早一週間近く経つが、ずっと悩んでいた。

 そのせいで姉妹たちに嫌な思いをさせたことも多々あっただろう。

 それなのに、だと言うのに。

 

 妹の一言で、自身の悩みはあまりも呆気なく、終わってしまった。

 

「ねえ電…………もう一度だけ聞いてもいい?」

 

 そんな自身の言葉に電が首を傾げ。

 

「私は…………誰なのかな?」

 

 そうしてさらに不思議そうに首を捻って。

 

「雷は、雷なのですよ。例え昔の雷と今の雷が別人だとしても、やっぱり雷は雷なのです。電の大好きなお姉ちゃんなのですよ」

 

 そうして告げられた言葉に。

 

「あは…………あはは…………あははははははははは!!!」

 

 笑う、笑う、笑う。

 目から涙すら零しながら、叫ぶように、謳うように、笑って、笑って、笑った。

 

「あはははははははははははははははは!!!」

 

 電が目を見開き、びっくりしたようにこちらを見る。

 けれど、そんなことすら気にならないくらいに、自身の心が歓喜で溢れていた。

 そうして、ようやく気づく。

 

 (じぶん)と言う存在は、今日初めて生まれたのだと。

 

 

 * * *

 

 

「やっほー、響。元気ー?」

 

 突然開かれた扉に、また暁か、と一瞬思ったがけれど先ほど来た時と声が違うことに気づき、手元の本から扉のほうへと視線を移し…………そうして、硬直する。

 それはあまりにも予想外な人物だったから…………と言うのもあるし、何より彼女の顔が、あまりにも似すぎていたから。

 

「い…………雷?」

 

 ようやく搾り出した声で呟く彼女の名前。

 けれどそんな自身の困惑を置き去りにして、雷が部屋へと入ってくる。

 

「へー、意外と物が多いのね、昔はそんなに私物なんて無かったのに」

 

 そんな呟きに、え? と思考が止まる。

 

「あ、でもまだこの本持ってるのね、昔一緒に買いに行ったやつじゃない」

 

 壁際の本棚を見て、そんなことを呟きつつ、一冊の本を取り出して手に取った。

 その本は確かに以前に雷と買いに行ったものだ。

 

 ただし、この鎮守府に来る前に、だが。

 

「……………………雷…………キミは…………」

「昔のこと…………覚えてるか、って聞いたわよね」

 

 戸惑う自身の口から漏れた言葉を遮るように、雷が口を開く。

 手に取った本を本棚に戻し、くるりと身を翻してこちらを向き。

 

()()()()()()()

 

 そう告げた。

 

「……………………………………え?」

 半ば、予想の一つとしてあったはずの考えだったが、余りにも非現実的で、あり得ないと内心思っていたその答えを、けれど肯定されたことに、数秒理解が追いつかなかった。

 そんな自身を置いて、雷が言葉を続ける。

 

「記憶はある、人格もある、意思もあるし、思いもある…………でもね、過去の私と今の私が同じだと言う実感は無いのよ」

 

 だから。

 

「覚えているか、と言われれば覚えているわ。けど昔の私なのか、と言われれば分からないとしか言い様が無いわ」

 

 そんな雷の答えに、一体自身はどんな感情を覚えたのだろう。

 安堵したような気もするし、そうでも無いような気もする。

 落胆したような気もするし、そうでも無いような気もする。

 自分でも色々な感情が渦巻いていて、一体自分がどんな感情を抱いているのか、はっきりと答えられない。

 ただ口から出た言葉は。

 

「そう…………かい」

 

 それだけだった。

 少なくとも、自分の言葉はそれだけだった。

 けれど、雷の言葉はそれだけでは無かった。

 

「けどね」

 

 ゆっくりと、雷がこちらへと歩いてくる。

 

「さっき電に言われたわ」

 

 そうして自身も座るベッドへとやってきて、そのまま自身の隣に腰を下ろす。

 

「昔の私も今の私は違っていても同じだって」

 

 その表情は笑みだった。とてもとても嬉しそうな笑み。

 

「どっちの私も同じ雷で、電の姉妹なんだって」

 

 だから。

 

「だからね、私も響に同じことを言うわ…………今の私が響の知っている昔の私と同じとは言えない、けどね、それでも(わたし)は響の妹で、響は私の姉さんよ」

 

 そっと、雷が両手で自身の手を包みこむように握る。

 

「だから同じ雷として、姉さんの妹として言うわよ? 昔の私は、姉さんのことを恨んじゃいないわ。ただ姉さんを、家族を守れたって安心して沈んでいったわ」

 

 その言葉に、大きく目を見開く。

 それはあの日から、ずっと聞きたくて、けれどもう聞けないと思っていた問いの答え。

 恨まれているのではないかと思っていた。

 だって雷が沈んだのは、(じぶん)のせいなのだ。

 

「そして、今の私が昔の私の代わりに言うわ。姉さんのこと、もう許したから、だから、もう自分を責めないでいいのよ」

「……………………恨んでないのかい? 許せるのかい? だって、雷が沈んだのは」

 

 私のせいなのに、そんな言葉を続けようとして、雷の指が自身の唇を押さえる。

 

「恨むわけ無いじゃない。許さないわけ無いじゃない、だって」

 

 だって、響は――――――――

 

「――――――――家族じゃない」

 

 そんな言葉に、不覚にも、体が震えた。

 溢れ出る涙をこらえようとして、けれど止まることを知らない雫がぼろぼろと瞳から溢れる。

 漏れ出る嗚咽を止めようとして、口を閉じるけれど、それでも溢れ出る感情が口から漏れた。

 

「……………………ねえ、響」

 

 そっと、雷の両手が自身の背に回される。

 

「何度だって言うわ」

 

 そのまま、ぎゅっと自身を抱きしめて。

 

「私はもう許したから、だから、もう自分を責めなくていいのよ」

 

 そこが我慢の限界だった。

 

 




二日連続更新が無いなどと誰が言ったのか(
次の更新は二月かなあ、とか思ったら大間違いだ。気分が乗ったら書ける、乗らなきゃ書けない。そう言うものである。


ところで水代は家族愛と言うのが大好きです。ええ、とっても好きです。
だからこの小説で少しでも家族の絆と言うものを感じてもらえることができれば嬉しい。
ところで暁ちゃんって、本当は十六人くらい妹がいるんだっけ? どっかでそんな話聞いたような(
まあこの小説の中では暁型四人だけ、と言う単位で行きます。

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